PHOTO YODOBASHI

ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン

SORI - 新宿光學總合研究所

  • 本稿は、写真用レンズについてより深い理解が得られるよう、その原理や構造を出来る限り易しい言葉で解説することを目的としています。
  • 本稿の内容は、株式会社ニコン、および株式会社ニコンイメージングジャパンによる取材協力・監修のもと、すべてフォトヨドバシ編集部が考案したフィクションです。実在の人物が実名で登場しますが、ここでの言動は創作であり、実際の本人と酷似する点があったとしても、偶然の一致に過ぎません。
  • 「新宿光学綜合研究所」は、実在しない架空の団体です。

新宿光学総合研究所 設立趣意書

カメラという機械は、じつに摩訶不思議であります。

もしカメラが純然たる記録装置であったならば、ただ一対のレンズとボディがあれば事足りる筈であります。しかし現実はどうでありましょう。ひとりの写真愛好家が複数のレンズとボディを所有することはもはや当然の如くであり、特にレンズにはその傾向が強くあるように見受けられます。いったいぜんたい、今までに作られたレンズの数は如何程になるのでありましょうか。まさにレンズ累々の日本列島。よくもまあ陸地から海にこぼれ落ちないものだと感心するばかりであります。

焦点距離、すなわち「一葉の写真に写せる範囲が異なる」というあからさまな事由によって、所有するレンズに多少のヴァリエイションが生まれることは、理解出来ないでもありません。

しかし同じ焦点距離にも関わらず、それF2だの、やれF1.8だの、その数値の些細な違いを理由に新たな出費をする必要性を、家計を監督する同居人に説明するのは甚だ骨の折れる作業でありましょう。ましてや同じ「50mm F1.4」をマウント違いで何本も揃えたり、果ては同じメーカーの同じレンズで、違いは製造された時期のみというような事態に至っては、説明など却って逆効果なのは火を見るよりも明らか。いっそのこと、ただ口をへの字に曲げ、必要ならば目薬など差し、ひたすら己の額を畳に擦り付ける方が得策と言えるのであります。

このように、写真撮影にさして興味が無い者にとって理解し難いだけでなく、写真撮影を行う我々自身でさえ、己の探求の行き着く先について一切の論理的説明を成し得ないのが、レンズという装置の「摩訶不思議」の正体なのであります。この摩訶不思議の構造を解き明かし、世間につまびらかにすることが、新宿光学綜合研究所設立の目的であります。

とは申すものの、当研究所が目指すのは、罪なき人々をレンズ沼に誘なうことではありません。反対に沼から救い出して更生の道を歩ませることでもありません。いずれに進んでも、姿かたちは違えど、その先には幸せが待っているのであります。

新宿光学総合研究所 研究理念

  • 「レンズを付け替える」という行為に潜む愉しみの一切合切について、徒らに結論を急がず、謙虚な姿勢と長期的な視座をもって研究する
  • 頭でっかちな知識を一旦全て廃し、自然界における光の性質、およびレンズの基本的な働きを研究の出発点とする
  • すでに語られ尽くしたレンズ論を安易になぞることなく、常に独自の視点によって、レンズ界の自由な探検を試みる
  • 誰もが興味を持つ事柄(例えば有名・高額なレンズ)のみならず、忘れがちなこと(例えば無名・安価なレンズ)をも積極的に研究対象とする
  • 写真愛好家のさらなる幸福実現と、写真愛好家を有する、全国津々浦々のご家庭の円満に寄与することを、研究の最終目標とする

なお当研究所は、株式会社ニコン、株式会社ニコンイメージングジャパン、フォトヨドバシ編集部、以上三者の協力体制のもと運営される。

令和4年12月
新宿光学総合研究所所長 馬橋朝美

研究所員紹介

所長 馬橋 朝美
Tomomi Mabashi, The chief of SORI

当研究所の初代所長。所長ともなれば、カメラやレンズについては誰よりも詳しいと思われがちだが、実はあまり詳しくない。しかし本人はそれをまったく意に介しておらず、むしろ強みであると自認している。「知らないこと、分からないことをフラットな目線で観察できる人間こそがリーダーに相応しい」が持論。常に確固たる信念を持ち、どんな困難にもひるむことなく突き進むバイタリティーは周囲からの信望が厚い。そして持ち前の明るさで場の雰囲気を和ませるムードメーカーでもある。某カメラメーカーで広報の仕事を兼任している。

名誉研究員 原田 壮基
Hiroki Harada, Honorary Researcher

某カメラメーカーでレンズの開発設計を担当している。数々の大口径レンズを世に出してきた実績を買われ、名誉研究委員として当研究所に招聘された。現代科学の粋を集めた最先端のレンズを日々考える一方、ビンテージレンズにも造詣が深く、自身のレンズ設計の着想を100年前のレンズから得ることもある。そんな嗜好が関係しているのか、判断に迷った時、最後は自分の直感を大切にする「感覚派」のレンズ設計者である。

名誉研究員 町田 幸介
Kosuke Machida, Honorary Researcher

原田と同じくレンズの開発設計をしており、原田の後輩にあたる。実際のレンズ設計のイロハを原田から学んだが、考え方は原田とは正反対。常に理論と計算結果に基づいて客観的に判断を下す「理論派」のレンズ設計者である。数字に裏打ちされた考え方には説得力があり、周囲からも一目置かれている。先輩の原田でさえ、意見を戦わせるとたびたび論破されてしまう。口癖は「すべては公式に当てはめれば分かる」

研究員1〜4号
Researcher No.1 to 4, (Unnamed yet)

レンズについての見識を深めるため、フォトヨドバシ編集部から当研究所に送り込まれた4人組。まったくもって名前を名乗るほどのものではないので番号で呼ばれる。写真を撮ることについては多少の心得はあるものの、光の性質やレンズの仕組みについては断片的な、聞き齧った知識があるのみで、理解しているとは到底言い難い。レンズを体系的に理解して編集部に持ち帰ることをミッションとするが、合言葉は「研究の邪魔をしない。足を引っ張らない。でしゃばらない」であり、先行きの不安は否めない。

新宿光学総合研究所の今後の活動に、どうぞご期待ください。