PHOTO YODOBASHI

ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン

SORI - 新宿光學總合研究所

4群1枚目  100年間変えられないことを、考えて、決める
Zマウントはこうして生まれた

ニコン1で得た知見

4号

ところで、ここにニコン1があるのはどうしてですか?

よくぞ聞いてくれました。実は私、かつてニコン1の設計に携わっていたんですよ。

小濱
4号

おお、そうだったんですか! もしかしてマウントを考えられたとか?

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ニコン1。あらためて言うまでもなく、革新的なカメラです。お持ちの方はぜひ大事にしてください。

マウントを設計したのは私ではありませんが、ニコン1で得た知見が、Zマウントにも大いに生かされています。というか、ニコン1での経験がなかったら、今のZマウントはできなかったかもしれない。そのぐらい得難い経験をニコン1でしました。

小濱
4号

そうだったんですね・・・ん? ニコン1って、マウントの電子接点が下にあるんですね。Zは上で、Fも確か上でしたよね。接点を上にしたり下にしたりって何か意味があるのですか?

力学的な観点からです。どんなマウントでもそうですが、重いレンズをつけた場合に、レンズが前にお辞儀してしまうことがあります。もちろん光学的に影響がない程度の、ごく僅かなものですが、それでも接点がしっかり機能するようにと、ニコン1では下にしました。ところがその点、Zマウントは非常に頑丈なマウントです。これはあとで詳しく説明します。

小濱
2号

頼もしい。

もう一つ。明るい光源、つまり太陽や照明ってだいたい上の方にありますよね。その光はカメラ内では下側に飛び込んできますが、接点が下にあると、その光の内面反射に影響を及ぼす可能性があります。そんなこともあって、Zでは接点を上にしたんです。

小濱
1号

接点の数は・・・あれ? ニコン1が一番多いんじゃないですか?

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大きさも形もまるで違いますが、ニコン1での経験がZマウントに生かされています。

よく気づきましたね。そうなんです。実はニコン1の時にレンズとボディ間の通信の仕組みをそれまでよりアップデートしているんですが、Zではさらに進めて、接点の数を減らすことができました。

小濱
3号

増やすんじゃなくて、減らすでござるか。

通信が高度になるほど、接点の数も増えると思うでしょう? でも違うんです。パソコンで言ったらパラレル通信とシリアル通信。昔はプリンターを使う時、ピンがいっぱいあるケーブルをパソコンにガチャン! と繋いで出力していましたよね。

小濱
1号

懐かしい。

今はUSBですから接点の数はとても少なくなりました。カメラも同じ。ピンがいっぱいあるパラレル通信は同期を取らなきゃいけないという問題があるんですが、シリアル通信はその必要がないのでスピードの点でも有利です。その中でどのぐらい必要かということで決まりました。

小濱
2号

バヨネットのツメの数も増えてますね。Fマウントのツメが3枚で、ニコン1も3枚。ところがZは4枚。これって、単純にマウントが大きくなって、そのぶん強度を稼がないといけないからですか?

はい、Zマウントのメカ的な特長としては、とにかく強度が高いということが挙げられます。強度をアップさせるために多くの配慮がなされていますが、Fマウントで3枚だったツメを4枚に増やして、レンズとカメラが接触する面積を増やしたのもその一つです。

小濱

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1948年から2018年まで、70年の間に登場したニコンのマウント4種類、揃い踏み! こうして見ると、Zマウントがボディを最大限に生かして、上手く収められているのがよく分かります。

3号

そんなに強いでござるか。

はい、強度に対しては絶対の自信があります。

小濱
3号

フォントの大きさで伝わってきたでござる。

Zマウントの4枚のツメは、どの方向から衝撃を受けてもがっちりと受け止めることができます。さらにツメと、マウントを固定しているビスの位置関係にもご注目ください。

小濱
2号

ツメとビスの位置関係?

下の図を見てください。Fマウントではツメの位置とマウント固定ビスの位置に規則性はありませんが、Zマウントではすべてツメの位置にマウント固定ビスがあります。これによって、衝撃を受けた際にマウントがたわみにくくなっているんです。

小濱
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ツメの数の見直し、ビス配置の最適化により、高い信頼性と堅牢性を実現しました。

1号

おお、ホントだ。

またツメを4枚に増やすことにより、強度アップと同時にレンズ着脱時の回転角も小さくすることができました。

小濱
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各ツメの両端を対角線で結んだ図。360度の円周をより多く分割できるZマウントの方がレンズ着脱時の回転角は小さくなり、強度を高めると同時に利便性を向上できる。ちなみに対角線の交点が一点に集まらないのは、各ツメの長さがすべて同じではないため。これによってマウントの一箇所でしかレンズが嵌まらないようになっています。

1号

なるほど。ツメの数を増やして、そのぶんそれぞれの長さを短くすれば、レンズ交換の効率が上がりますね。

少しでも交換の手間を減らしたいってことで、ツメの数をさらに増やして着脱の回転角をもっと小さくする案もあったんですが、小さ過ぎてもボロッと落ちちゃう可能性が高くなる。やっぱりここでもバランスなんですね。結局4枚がいちばんいいという結論に落ち着きました。 強くて使いやすい、そして見た目も美しいマウントに仕上がったと思います。

小濱

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こういうお話を聞いて、あらためてこのコピーを見ると、実にいいコピーだなあと思います。

2号

新しいマウントというと、その口径の大きさだとか、フランジバックだとか、そういうところばかりにスポットが当たりがちですけど、あまり着目されない細かいところまですべて、「100年対応」で考えられているのがよく分かりました。

3号

長きにわたって蓄積された、ものづくりの経験が生かされているんでござるな。

手前味噌ですが、Zマウントが出てもう6年になります。求められるものが刻々と変わっていく現代においても、今のところ設計者としては変える必要性を感じておらず、正直やりきった感があります。あと100年なのか、150年なのか分かりませんが、このマウントでやっていけるだろうという気がしています。

小濱
4号

最後に力強い言葉で締めていただきました。ありがとうございました!

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