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しかし、まだぜんぜん本題には入らないのです。

どんな時に私はジャケ買いをするのでしょう。それはジャケットの出来ばえに心奪われ、仮に中身の音楽が私にとって価値ゼロだった場合でも、損はしないと判断した時です。うむ。では、どんなジャケットに私は心奪われるのでしょうか。こればっかりは上手く説明できませんね。千差万別です。「しびれるジャケット」としか言いようがありません。

この「しびれる」という日本語表現については、長嶋茂雄・現読売ジャイアンツ終身名誉監督が完璧な使い方をしているので紹介します。

1994年(平成6年)10月8日、中日ナゴヤ球場。この日、名古屋ではプロ野球史上初のとんでもないことが起きていました。これが「10.8決戦」という名前で今なお語り継がれる有名な試合です。当時はシーズン130試合でしたが、上位2チーム(つまり中日と巨人)が、それぞれ129試合を消化した時点で、なんと完全に同じ勝率(ともに69勝60敗0分け)。よって優勝のゆくえは最終戦である130試合目までもつれ込んでしまったのですが、あろうことか、その試合がこの2チームの直接対決。この前代未聞の事態に、名古屋は朝から異様な雰囲気に包まれたと聞きます。当時、巨人の先発ピッチャー三本柱は槙原、斎藤、桑田。温存とか、中何日とか、もう関係ありません。当然3人とも投入されます。先発に指名されたのは槙原。そこで桑田が長嶋監督(当時)に訊きます。「私を試合のどこで使うとお考えですか?」桑田としては自分は中継ぎなのか、それとも抑えなのかを知りたかったのでしょう。それによって準備が変わってきますからね。結果的に視聴率48.8%(プロ野球中継史上最高)を叩き出し、また16年後の2010年に日本野球機構がおこなったプロ野球関係者858人に対するアンケートでは「最高の試合部門・第1位」に選出されることになる世紀の大勝負。さすがの桑田も必死です。ところが、それに対する長嶋監督の返事はこうでした。

「それはなあ〜、桑田〜、しびれる場面だよ」

そんなわけで、第1回のジャケ買いはこちらです!

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ジャズがお好きな方だったら、この第1回で取り上げるのがECMレーベルであることに対して「あー、はいはい」という感じかもしれません。つまり「まぁ確かにそうなんだけどさ、もうちょっとヒネリがあっても良かったかもね」みたいな、微妙なニュアンス。しかし3月のある晴れた日の昼下がり、東京・お茶の水の中古レコード屋でビリビリ来たのがコレだったのですから仕方ありません。まぁ、すんごいのはこれから出てきますよきっと。わかりませんが。

いや、ちょっと違うんです。正直に言います。最初からECMは頭の中にイメージとしてありました。音楽の種類を問わず、レコードジャケットのモチーフとして圧倒的に多いのは、俗に言う「アー写」です。しかしECMに関して言えばその手のジャケットはとても少なく、どこかまったく別のところで撮られた超かっこいい写真作品をジャケットのデザインとして上手く使ってしまうのがこのレーベルの必勝パターン。なのでECMのジャケットってどれも超クール。ECMのジャケットだけで編まれた作品集まであるぐらいです。ま、そういうジャケットだとこっちも語りやすいですしね。なんたって最初ですし。

あ、ECM(ECM Records)というのは1969年に設立された、ドイツのミュンヘンを本拠とするレコードレーベルです。いちおうジャズのレーベルですが、ここでいう「ジャズ」というのはかなり拡大解釈した言い方で、実際にはだいぶ偏ってます。ひとことで言えば前衛的。ジャズはアメリカ発祥の音楽ですが、それをヨーロッパの空気に翻訳したジャズ、とでも言えばいいでしょうか。敢えて王道を避けるという意味では、極めてヨーロッパ的ではあります。主宰者であるマンフレート・アイヒャーさんのご趣味、という言い方もできそうです。全体的な傾向としては静かめの音楽が多い。雨の日とか、夜に似合いそうな。そもそもコンセプトが "The most beautiful sound next to silence"(沈黙の次に美しい音)ですし。この言い回しがまたヨーロピアンな感じでおしゃれですなあ。

アルバムについて少し解説すると、この「WAVES」というアルバムは1978年リリース。名義はTerje Rypdalという人。テリエ・リピダルと読むらしい。ノルウェーの人ですって。ウィキペディアを見ると、デビューからECMひと筋の現在74歳。「ラルフ・タウナー、ジョン・アバークロンビーと共にECMレコードの3大ギタリストと称されることもある」とありますが、ワタクシ、この2人は存じ上げておりましたものの、テリエさんは知りませんでした。このテリエさんを含めた4人編成による録音。A面に針を落とした時から、ギターの音がめっちゃロックしてるとは感じていましたが、B面の2曲目を聴いてははーんと思いました。これはあれですね、マイルス・デイヴィスの「Jack Johnson」ですね。曲の雰囲気も似ているし、リピダルさんのプレイはあのアルバムでギターを弾いてるジョン・マクラフリンにそっくり。トランペットもブロウ多めでマイルスしてます。あそこまでキレッキレではないものの、これはかなり影響を受けているとお見受けしました。

で、ジャケットです。