PHOTO YODOBASHI
ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン
2群6枚目 あなたは「でっこまひっこま」を知っているか
謎の写真用語・説をめぐるアレコレ
「回折ボケは絞ると起きる説」
レンズって、絞り込むに従って像がシャープになるけど、さらに絞り込むと反対に不鮮明になってしまうことがある・・・っていうアレですよね。 |
そう、そういうふうに「絞り込むと発生する」と理解されていますよね? でもそれは間違いで、実は回折ボケって、開放からあるんです。 |
えー、そうなんですか? |
それを細かく説明するのは骨が折れるので、写真用ではありませんがステッパーレンズの話をします。ステッパーというのは半導体露光装置とも言って、半導体の超精密な電子回路のパターンを転写する装置のこと。そこで使われているのがステッパーレンズです。 |
ニコンミュージアムに実物が展示されているでござるな。 |
半導体露光装置は、「史上もっとも精密な機械」とも呼ばれているんですよね。 |
よく知ってますね。このステッパーレンズ、F値でいうと0.5ぐらいの物理限界の明るさを持っている上、収差はほとんどと言ってよいほどありません。言ってみれば超ド級の高性能レンズです。そんな明るいレンズでも、実は回折ボケだけは発生するのです。 |
へええ。つまり「絞り込むから回折現象が起きる」のではないんですね。 |
そういう説明をよく見かけますが、絞り込むことで顕著に現れるだけで、それが原因で発生するわけではないのです。 |
まぁ、レンズなんてものは開放で使ってナンボですけどね! |
イエス!ワイドオペーン!(Yes! Wide open!) |
イエー!オンリーオペーンアパチャー!(Yeah! Only open aperture!) |
あの二人、絞り開放の話になるとなんだか楽しそうね。 |
写真の世界には独特の言葉や言い回しも多いよね。なんとなく分かるんだけど、よく考えると何のことやら、みたいな。 |
意味を取り違えたまま使ってたり、似た言葉を混同しちゃうことも多い。 |
わたしは「マクロ」と「マイクロ」の違いがよく分かってないかも。 |
「マクロ」と「マイクロ」
調べてみると、ニコンは一般的に言われる「マクロレンズ」ではなく「マイクロニッコール」でござるな。 |
厳密な言葉の意味から言うと、「マクロ」はいわゆる「等倍」よりも高い倍率で撮影できるもののことで、顕微鏡のような拡大光学系を指します。一方、「マイクロ」は等倍以下のもののことですね。 |
カメラって「距離や長さ」に密接な関係がある機械じゃない? にもかかわらず、未だにそのあたりを正しく理解できていなかったりもする。 |
長さ(距離)にまつわる疑問・間違い
以前やった焦点距離の話もそうだった。 |
「フランジバック」と「バックフォーカス」って、時々「どっちがどっちだっけ?」ってならない? |
フランジバックは、レンズとボディの結合部であるマウント面から撮像面までの距離。バックフォーカスは、レンズの最後端から撮像面までの距離。どっちも「撮像面まで」というところが同じなので混同しがちですよね。 |
同じマウントであれば、違うボディを使ってもフランジバックは常に一定ですが、バックフォーカスはレンズによって違います。 |
「撮像面」と聞いて思い出したのでござるが、カメラの上に「Φ」を横にした印があるでござるな。あれが撮像面の位置を示しているのは知っていたでござるが、いったい何のためにあるでござるか。 |
「距離基準マーク」のことですね。「カメラから被写体までの距離」と言う時、カメラ側の起点となるのは撮像面なので、その位置をきちんと正確に入れているんです。ここがスタート地点ですよって。 |
それがもっともシビアになるのは最短撮影距離で撮る時ですが、まぁ今はみんなオートフォーカスですし、ピントが合わなければそれを教えてくれる機能が当たり前に入っているので、このマークの存在を意識する場面はほとんどなくなりましたね。 |
あら、わたし、最短撮影距離って「レンズの先端と被写体の間」のことだとずーっと思ってたわ。 |
ああ、それも距離に関する誤解あるある、ですね。でもよく分かりますよ。感覚的には絶対ソコですもん。 |
それは「ワーキングディスタンス」と呼ばれています。「最短撮影距離」は、「距離基準マーク」から「被写体までの距離」で表されています。 |
レンズについて書かれたものを読んでいると、「解像力」という言葉がよく出てきますが、これ、すごく違和感を感じるんですよ。 |
レンズの「解像力」
違和感? |
実写からよくレンズの解像力が分かるなあ、って。「解像感がある」なら、個人の感覚の話なので理解できなくもないですが。 |
あー、確かに使っちゃいます。「このレンズは解像力が高い」とか。自分で言っておきながら「ホントか?わたし」っていつも思うのだけど。 |
定められた条件下で専用のテストチャートを使えばもちろん解像力は分かりますが、普通に撮った風景や人物の写真からレンズの解像力を測るのは、ピント位置の差だったり被写体の細かさだったりその配置だったりと、なかなか難しい。ぱっと見の見栄えの良さで、そう言われているんだと思います。つまり「解像感」の方。 |
よく言われる「カリカリ」がまさにそうですね。あれって確かに「解像感」は強く感じます。でも実際に解像力が高いから「カリカリに」写るのではなく、本当のところは収差補正のバランス次第だったりするんです。もちろんワザとそうしている場合もあると思いますが。 |
なるほど。 |
「色のりがいい」っていうのも実に便利な言葉でつい多用してしまうのだけど、正しくはどういう状態を指すのか・・・ |
「色のりがいい」
これ、どういう時に使います? |
私はこってりとした色あいの時に使いますね。 |
そうそう。コクがあるというか、濃厚な色再現だなあって時。 |
それらに共通しているのって、画面全体に赤い色が強く出ている時だったりしませんか? |
あー、言われてみればそうかも。青い海や、緑の森の写真に「色のりがいい」とは言わないもんなあ、確かに。 |
赤、つまり暖色系が強く出ていると、例えば人を撮った際には発色に厚みがあるように感じやすいかもしれません。でも赤が強く出るってことは、逆を言えばレンズの青色の光の透過性が悪いってことでもあるんですよ。 |
じゃあ、「色のりがいい」って、決して褒め言葉ではないってこと? |
そもそも写真の写りを言葉にするのは難しいです。写真を見て感じることは個人によって違いますし、それを表現するための言葉の選び方も個人の感覚に拠ります。なので一概には言えませんが、そういう状態を指して言っている可能性も大いにある、ってことです。 |
「線が太い、細い」っていうのはどうだろう。これもよく聞くし、よく使う。 |
「線が太い、細い」
実際に線が太い、細いというよりは、これも多分に「ぱっと見の印象でそう感じるだけ」のような気もするんだけど。 |
でも、そう感じるってことは、そうさせる何かがあるってことですよね。ある条件下で特定の太さの線が強調されて見えたり、逆に細く見えたりっていうことは、レンズによる特性としてあり得るんですよ。 |
そういうのがみんな、「レンズの個性」なんですね。 |
「シャドウが浮き足立つ」
言います? これ。 |
とあるオールドレンズについて書かれた本の中に出てきたのですが。 |
うーん、分かるような、分からないような。でも独特の表現であることは間違いないですね。面白い。 |
「健康優良児的な悩みのない色ではない」
これはどこで?(笑) |
えー、そのー、フォトヨドバシです。 |
しかも「ではない」なんだ(笑) |
ニッコールレンズの色再現について書いたものなんですが・・・ |
(笑) |
さらには、「『おかえり』と言ってくれているようで、こたつのように居心地が良い」とか、「自分の思いが全てのピクセルに伝わったような色で、官能的でもあるような」という表現が並びます。 |
(笑) |
次に行った方が良さそうですね。 |
「マグニファイヤーでジャスピン」
はい、しゅーりょー。ちょっと! だんだん悪ノリがひどくなってきましたね。何ですか、「マグニファイヤーでジャスピン」って。いまどきマグニファイヤーなんて言っても知ってる人は少ないですし、ジャスピンに至っては昭和の香りしかしないじゃないですか。 |
じゃあ、最後にもうひとつだけ。これはどういう意味でござるか。 |
- 1群1枚目 設立趣意書
- 2群1枚目 凸に始まり、凸に終わるのであります。- レンズとは、なんじゃらほい
- 2群2枚目 だから「収差」というのです。- とっても収まらない話
- コラム:原田研究員からのメール - 「例のレンズタイプの件」
- 2群3枚目 焦点距離のナゾ- それはいったいどこからどこまでじゃ
- 2群4枚目 エフチの「チ」 - あの数字の並びはいったいどこから来たのか
- 2群5枚目 ガラス作りとコーティング - レンズの要を忘れるべからず
- 2群6枚目 謎の写真用語・説をめぐるアレコレ - あなたは「でっこまひっこま」を知っているか
- 2群7枚目 続・エフチの「チ」 - レンズの開放F値ってどうやって決まるの?
- 3群1枚目 レンズ設計ことはじめ - 設計者の描く理想とは
- 3群2枚目 シミュレータと設計者 - 完成レンズを見通す、見極める
- 3群3枚目 ズーム再考(最高) - そもそもは航空用語だったらしいです
- 3群4枚目 やっぱり単焦点が好き - 「単」とは言え複雑で奥深い
- 3群5枚目 続・やっぱり単焦点が好き - レンズに込められた設計者の想い
- 3群6枚目 「商品企画」というお仕事 - 商品が生まれいづるところ
- 3群7枚目 試作のプロフェッショナルたち (前編) - 設計図と完成品のはざまで
- コラム:原田研究員からのメール - 「交換レンズは3本まで」という法律について
- 3群8枚目 試作のプロフェッショナルたち (後編) - ものづくりの最終工程で行われる試作とは
- 4群1枚目 Zマウントはこうして生まれた - 100年間変えられないことを、考えて、決める
- 4群2枚目 フード首脳会談 - レンズ設計のその果てに
- コラム:原田研究員からのメール - レンズの楽しみ方案内