PHOTO YODOBASHI
ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン
2群6枚目 あなたは「でっこまひっこま」を知っているか
謎の写真用語・説をめぐるアレコレ
「でっこまひっこま」
おっ、最後にすごいのがきましたね。これは誰の言葉か、知ってます? |
えーと、昭和を代表する有名な写真家の、木村・・・木村・・・ |
木村庄之助! |
それは相撲の行司でござるよ。 |
じゃあ、式守伊之助? |
それも行司。なぜそっちへ寄せるでござるか。 |
正解は、木村伊兵衛さんです。 |
ああー、そうでござった! |
惜しい。で、どういう意味なんですか? |
はい、「でっこまひっこま」の意味を知ってる人? |
知ってます。 |
知ってますよ、もちろん。 |
聞いたことない。 |
私も知らないです。 |
やっぱり若い人たちは知らないのかあ・・・ |
やだもう、そんな、若い人だなんて・・・ |
まあ昭和30年代とかの話ですからね、わたしも後から文献で知っただけですが。で、「でっこまひっこま」というのは、像面湾曲のことを言っているんですよ。 |
像面湾曲? 確か収差の回で出てきましたね。本来は平面であるべきピント面がお椀のように湾曲している状態のことで、結果的に、平面物体を撮影すると中心にピントを合わせても周辺がボケるという・・・ |
でもこれは像面湾曲を悪く言ったのではなく、むしろ好意的に言ったのですね、木村伊兵衛さんは。 |
収差なのに好意的とはこれ如何に? |
実は像面湾曲と非点収差には密接な関係があって、レンズタイプが固まった上で非点収差を補正すると像面湾曲が発生しがちになります。この非点収差を補正したレンズは、立体物を撮る場合には向いています。立体物を撮るのにピント面が平らである必要はあまりないですし、像面湾曲があっても非点収差が少ないほうが、被写体が飛び出てくるような、迫力ある写りをすることがある。 |
なるほど。だから「でっこまひっこま」ね。それにしても、これも昭和の香りがぷんぷんする響きではあるわね。 |
どんなレンズにも多少なりとも像面湾曲はあって、写すのはたいてい立体物なんだから、平面特性の数値だけでレンズの善し悪しは分からないよ、というスペック偏重のレンズ評価に対する戒めの言葉でもあります。これは現代にも通じる、重い言葉ですね。 |
重い言葉・・・なのに「でっこまひっこま」 |
実は現代のレンズ設計でも、この像面湾曲を微妙に残しても非点収差の補正を優先することがあります。設計手法が発達して、収差の全体量が減ったこと、また出し引きを細かくコントロールできるようになったので。 |
前に「レンズ設計では収差をどう残すかも大事」と言われていたでござるが、まさにそういうことなんでござるな。 |
いや、違うわね。 |
違うって・・・何が? |
でっこまひっこまというのはね・・・ |
というのは? |
それぞれが好き勝手なことをやって、まったく足並みが揃っていない、どこかの研究所の研究員みたいなことを言うんですよ。 |
ギャフン! |
昭和の正しいエンディング。 |
- 1群1枚目 設立趣意書
- 2群1枚目 凸に始まり、凸に終わるのであります。- レンズとは、なんじゃらほい
- 2群2枚目 だから「収差」というのです。- とっても収まらない話
- コラム:原田研究員からのメール - 「例のレンズタイプの件」
- 2群3枚目 焦点距離のナゾ- それはいったいどこからどこまでじゃ
- 2群4枚目 エフチの「チ」 - あの数字の並びはいったいどこから来たのか
- 2群5枚目 ガラス作りとコーティング - レンズの要を忘れるべからず
- 2群6枚目 謎の写真用語・説をめぐるアレコレ - あなたは「でっこまひっこま」を知っているか
- 2群7枚目 続・エフチの「チ」 - レンズの開放F値ってどうやって決まるの?
- 3群1枚目 レンズ設計ことはじめ - 設計者の描く理想とは
- 3群2枚目 シミュレータと設計者 - 完成レンズを見通す、見極める
- 3群3枚目 ズーム再考(最高) - そもそもは航空用語だったらしいです
- 3群4枚目 やっぱり単焦点が好き - 「単」とは言え複雑で奥深い
- 3群5枚目 続・やっぱり単焦点が好き - レンズに込められた設計者の想い
- 3群6枚目 「商品企画」というお仕事 - 商品が生まれいづるところ
- 3群7枚目 試作のプロフェッショナルたち (前編) - 設計図と完成品のはざまで
- コラム:原田研究員からのメール - 「交換レンズは3本まで」という法律について
- 3群8枚目 試作のプロフェッショナルたち (後編) - ものづくりの最終工程で行われる試作とは
- 4群1枚目 Zマウントはこうして生まれた - 100年間変えられないことを、考えて、決める
- 4群2枚目 フード首脳会談 - レンズ設計のその果てに
- コラム:原田研究員からのメール - レンズの楽しみ方案内