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HD PENTAX-FA 50mmF1.4 / smc PENTAX-FA 50mmF1.4 Classic vol.1 vol.2

[ズーム] 広角 | 標準 | 望遠 | 高倍率
[単焦点] 広角 | 標準 | 望遠 | マクロ

PYで「smc PENTAX-FA 50mmF1.4」をご紹介して間もない頃、なんとディスコンの知らせが。あまりのタイミングに本当に驚きました。日々様々な機材をお借りしている我々編集部ですが、諸事情で「未レビュー」となっている機材もあります。その洗い出しを定期的に行う中で、件のレンズが未レビューであることが判明し、慌ててお借りして撮影に出かけ、それがあのタイミングになった次第です。新機種「K-3 Mark III Monochrome」の仕様のファインダー倍率の項目でも「約1.05×(FA 50mmF1.4・∞)」と記されているほど、長きにわたり「偉いレンズ」でしたから間に合ってよかったとも思いますが(笑)。ともかく「FA 35mmF2」同様、こちらのHD化も予想していた方はおられると思います。しかし「Classic」も同時デビューなんて誰が想像したでしょうか。知らせを聞いて驚くと同時に、「だってペンタックスだからね。やりかねないよ。」とニコニコ顔をされたことと推察します。

さて、新発売の「HD PENTAX-FA 50mmF1.4」と「smc PENTAX-FA 50mmF1.4 Classic」。最大の違いは強い点光源下での描写で、特に「smc PENTAX-FA 50mmF1.4 Classic」は開放付近で「虹色フレア」が発生します。それ以外の状況においては、個人的にはかなり似た描写傾向だなと感じました。レンズ構成が全く同じですから当然とも言えますが、7枚玉変形ダブルガウスは標準レンズに長く採用されてきた王道的構成です。開放では柔らかく、絞れば先鋭度を増していく、いわば往年の描写です。ついでに言えば先代とも、いや、先代どころかTakumar以来の構成であることを考えると、注ぎ足しのたれを使った老舗の味のように、創業以来変わらぬ味わいです。長く続けていくには幾多の危機を乗り切ってきたことでしょう。ただただ、ありがたい。これに尽きます。

その「味」をもたらす最大の要素は収差です。この収差を打ち消す技術が、進化を続けているのです。その意味で、2023年においては本レンズは「過渡期」を代表するレンズと言えます。ルックス面では、ピントリングや背丈の違いが目に飛び込んできます。前玉の位置は同じなので鏡胴長の違いでしょうか。ClassicにはND16フィルターが付属しており、装着時にほぼ同じにする意図もあるかもしれません。今回は2本分をまとめ、順にお話しします。まずはHD PENTAX-FA 50mmF1.4からご覧ください。

( Photography & Text : TAK )

PENTAX K-1 Mark II, HD PENTAX-FA 50mmF1.4, 1/8000, F1.4, ISO 100, Photo by TAK

HD PENTAX-FA 50mmF1.4

最新のレンズでありながら、往年の味わいもちゃんと残されているのが本レンズの特長です。ピント面を境に前後がふんわりとぼけていきます。コントラストも濃厚で十分シャープなのですが、曇天下においてもどこか光が漏れているような柔らかさも伴います。被写界深度は想像以上に浅く、扉の向こうもぼけています。中距離でのピント抽出力にも中々のものがありますね。周辺の落ち方もエモーショナルで、多くの方にポカンとされるのを承知で言えば、「ああ、レンズだなあ」と思います。デジタル以前の標準レンズは大体こういう雰囲気だったので、カメラ人類にとっては実家のようなレンズなのですね。

PENTAX K-1 Mark II, HD PENTAX-FA 50mmF1.4, 1/3200, F1.4, ISO 100, Photo by TAK

ピントを合わせた寺号額の文字も、輪郭がふんわりとしています。前ボケもソフトかつ、量感がありますね。

PENTAX K-1 Mark II, HD PENTAX-FA 50mmF1.4, ISO 100, 1/8000, F1.4, Photo by TAK

こちらも開放で、遠距離にピントを合わせてみました。特殊ガラスを何枚も使った高性能レンズなどに比べればソフトになるものの、決してボケているわけではないのです。輪郭の周りがふわっと明るく描かれるので、ソフトに見えると言った方が正確でしょう。中距離前ボケもやはり厚みがあり、距離感も自然に反映してくれます。この手の味わいを持ったレンズも今や少数派です。

PENTAX K-1 Mark II, HD PENTAX-FA 50mmF1.4, 1/1000, F1.4, ISO 100, Photo by TAK

油絵の具を垂らしたような、トロトロのボケ。うっとりしてしまいます。

PENTAX K-1 Mark II, HD PENTAX-FA 50mmF1.4, 1/2000, F1.4, ISO 100, Photo by TAK

先代からの進化のひとつに、円形絞りの採用があります。確かに、F2.8でも玉ボケが整っていて、ボケ全体も柔らかく見えますね。

PENTAX K-1 Mark II, HD PENTAX-FA 50mmF1.4, 1/1600, F4, ISO 100, Photo by TAK

これが「絞ればくっきり」の描写です。この変幻自在の描写が本レンズの肝です。

PENTAX K-1 Mark II, HD PENTAX-FA 50mmF1.4, 1/320, F1.4, ISO 100, Photo by TAK

とはいえ、やはり開放で撮りたくなるレンズでしょうね。日光がなくとも柔らかさがあります。ふんわりと包み込むような描写で、ご家族を撮ってもきっと喜ばれますよ。

PENTAX K-1 Mark II, HD PENTAX-FA 50mmF1.4, 1/100, F1.4, ISO 100, Photo by TAK

金属であっても、どこか朧げな、妖しささえ漂う描き方をしてくれます。これ、超高性能レンズにはちょっと難しいかもしれません。要は、使い分けなのですよね。

PENTAX K-1 Mark II, HD PENTAX-FA 50mmF1.4, 1/8000, F1.4, ISO 100, Photo by TAK


HD PENTAX-FA 50mmF1.4、いかがでしょうか。技術は進歩するのが常であり、よりシャープにクリアに撮れるレンズを求めるのも自然なことです。しかしながら、それだけが人を感動させるのではありません。旧型のレンズを、クモリやカビがあっても愛用する方が大勢いらっしゃる理由も、そこにあります。本レンズは、往年の味わいをしっかりと残しつつもコーティングや絞り形状などをブラッシュアップさせたことで、現代の基準でも実用できるレンズに仕上がっています。高解像とすっきりボケでグイグイ押してくるタイプではないのですが、情感あふれる表現でどんなシーンでも良い雰囲気に仕立ててくれるように感じます。ボケの量だけではなく、ピントの柔らかさや周辺減光も自在にコントロールできるAFレンズは貴重です。しかも実にコンパクト。このサイズの標準レンズも今やなかなかお目にかかれませんが、常に持ち歩けることだって「高性能」なのです。初めての単焦点をお求めなら、まずはこちらの「HD」をオススメします。レンズで表現が変わることを、写真の楽しさ奥深さを実感していただけますよ。


PENTAX K-1 Mark II, smc PENTAX-FA 50mmF1.4 Classic, 1/125, F1.4, ISO 100, Photo by TAK

smc PENTAX-FA 50mmF1.4 Classic

続いて「smc PENTAX-FA 50mmF1.4 Classic」をご紹介します。開放時、強い点光源を画面の周辺に持ってくると「虹色フレア」が出る傾向があります。また、オーバー気味の露出の方が出やすいようです。高性能化にとってはフレアは「有害物」ですが、ふんわりとした雰囲気には歓迎される場合もあるわけです。しかも本レンズはこの美しい虹色の輪っかだけが出るように設計されています。オールドレンズにも似た雰囲気ですが、オールドであれば虹色は薄まりゴーストや色被りが目立ってきますし、おそらくピントもここまで先鋭にはならないでしょう。対してこちらは、新品でありながらClassicの名に恥じないレトロな雰囲気が得られます。ちなみに、このシーンでは付属のND16フィルターを使用しました。日光を入れて開放で撮るには1/8000秒でも遅いくらいで、初めからNDフィルターを付けてくれていることがありがたいですね。

PENTAX K-1 Mark II, smc PENTAX-FA 50mmF1.4 Classic, 1/8000, F1.4, ISO 1600, Photo by TAK

曇天下、点光源がない状況での開放です。ピントの解像感といい、背景のボケといい、やはり心に訴えてくるような情感があります。ちなみにHDとも撮り比べてもいるのですが、私の目ではブラインドテストで見分ける自信はありません。冒頭で点光源下以外での傾向は似ていると申し上げたのも、そのためです。

PENTAX K-1 Mark II, smc PENTAX-FA 50mmF1.4 Classic, 1/15, F1.4, ISO 100, Photo by TAK

つい先日公開されたK-1 Mark II/K-1用の新カスタムイメージ「Gold」を試してみました。「シャドー部が青味を帯び、ハイライト部に向かって黄色味を帯びていく画作り」とのことですが、このClassicレンズにマッチする仕上がりです。RAW撮影して後でカメラ現像で変えるのも良いのですが、ぜひ撮影時に選んでいただきテンションアゲアゲでよろしくお願いいたします。露出次第でこの黄色や青の出方が変わってくるので、お好みの調子になるよう露出を変えながら楽しんでみてください。実は先ほどの灯籠のカットもGoldで撮影しています。

PENTAX K-1 Mark II, smc PENTAX-FA 50mmF1.4 Classic, 1/30, F1.4, ISO 100, Photo by TAK

調子に乗ってGoldをおかわり。日本なのに、東南アジアの風が吹いてます。そもそもなぜ人はイエロー系に癒されるのか。火や日光は暖かく、本能的に安全と感じるのでしょうか。

PENTAX K-1 Mark II, smc PENTAX-FA 50mmF1.4 Classic, 1/1600, F1.4, ISO 100, Photo by TAK

PENTAX K-1 Mark II, smc PENTAX-FA 50mmF1.4 Classic, 1/2000, F1.4, ISO 100, Photo by TAK

人工光でも、強ければちゃんと出ます。「ちゃんと」という言い方もどうかと思いますが。モニタを覗いて「出た!」と言っているカメラマンがいたら、それはClassicユーザーですので温かい目で見守ってあげてください。

PENTAX K-1 Mark II, smc PENTAX-FA 50mmF1.4 Classic, 1/125, F1.4, ISO 100, Photo by TAK

周囲は当然のごとくコマフレア(周辺の点像が鳥の羽のように見える現象)が出ます。分かって使う人間からすると、「だからどうした」という程度の現象ではあります。

PENTAX K-1 Mark II, smc PENTAX-FA 50mmF1.4 Classic, 1/1000, F1.4, ISO 100, Photo by TAK

PHOTO YODOBASHIところで、冒頭写真の両レンズの印字の違いに気づきましたか?絞り値やレンズ名などの印刷色、Classicの方がグレーがかっている(18%グレー?)のでひょっとしたら?と思いK-3 Mark III Monochromeに付けてみたら、その通りでした。「Monochromeでも使ってね」。ハッキリとは言わず、ちょっと遠くから目でじーっと訴えているような伝え方で、ペンタックスならではの「熱」が伝わってきます。

PENTAX K-3 Mark III Monochrome, smc PENTAX-FA 50mmF1.4 Classic, 1/5000, F1.4, ISO 200, Photo by TAK

ということで、K-3 Mark III Monochromeでの作例も少しだけご紹介します。APS-C型センサーでは虹色フレアは出にくくなるとのことですが、このように頑張れば出せます。何を頑張っているのか分かりませんが、楽しいことは間違いありません。

PENTAX K-3 Mark III Monochrome, smc PENTAX-FA 50mmF1.4 Classic, 1/640, F1.4, ISO 200, Photo by TAK

この何とも言えぬやわらかさ。モノクロの美しい階調ともマッチするようです。HDでも同じようなカットが撮れることでしょう。

PENTAX K-3 Mark III Monochrome, smc PENTAX-FA 50mmF1.4 Classic, 1/125, F1.4, ISO 200, Photo by TAK

実は撮影前「こういうエフェクト系はすぐ飽きるのでは?」といささか懐疑的だったのですが、「虹色フレア」は決してエフェクトではなく、光学的特性をまっすぐに生かしたひとつの表現だと思うに至りました。安っぽさなど微塵もなく、単純に見ていて美しいのですね。ソフト処理ではなくレンズだけを使って物理的に作り上げた現象は飽きが来ません。不要なら絞るだけ。F4あたりから消すことができます。そして名称こそ「smc」ですが、点光源を入れなければHDによく似た写りを見せます。つまり、如何様にも料理できる懐の深さがあり、ここぞと言う時は虹色フレアの楽しみもあるのです。毒は薬と申しますが、副作用のない良い毒だけを抽出するようなアプローチが奏功した、実に愉快なレンズですね。お好きな方、躊躇は不要です。


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収差NGの時代に、古典的レンズを選べる喜び

すっかり長くなりましたが、2本同時に見てまいりました。私個人が試した限りでは「虹色フレア」以外、目立った違いはないのかなと思います。また、2本とも先代よりヌケが向上しフリンジも抑えつつも、収差を徹底的に取り除いた高性能レンズにはない味わいは確実に受け継がれています。まあある意味、どちらもクラシックではあるのです。もちろんグズグズになるのではなく、しっかりと解像しコントラストを持たせながらも、柔らかさを絶妙に調合させています。オール5の優等生というよりは個性があって友達にしたいタイプで、実はこういうキャラの立ったレンズの方が撮りやすかったりもします。とはいえ、以前はこれが標準レンズとしてベストの性能でした。そして今、この味わいをあえて表現手段として選ぶ自由があります。こんな素晴らしいレンズを2本のバリエーションで出せる源は、パッション以外の何物でもありません。そしてそれこそが、ペンタックスの動力源なのだと感じました。悩ましい選択ですが、どちらを選ぶにしても必要性で考えるというよりは、言語化される以前の心情において本能的に(^^)となれば、買いです。どちらを選んでも幸せになれますし、両方手に入れられても今時の標準レンズのご予算内に収まってしまいそうなところが、破壊力抜群であります。

PHOTO YODOBASHI実は表面の仕上げも若干異なっています(画像クリックで拡大表示できます)。HDは他のHDと同様の梨地加工のようですが、Classicは目がさらに細かくなっており、先代ほどつるつるしてはいないものの、より先代に近づけてあるように感じます。ピントリングのトルクは先代より粘りがあり、マニュアルフォーカスにも最適化されているようです。


PENTAX K-1 Mark II, smc PENTAX-FA 50mmF1.4 Classic, 1/640, F1.4, ISO 100, Photo by TAK

選べと言われても、甲乙つけ難いのですよね。

PENTAX K-1 Mark II, HD PENTAX-FA 50mmF1.4, 1/5000, F1.4, ISO 100, Photo by TAK

信じる道を歩まれるのが宜しいかと存じます。

( 2023.06.22 )

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初めての単焦点にはこちらがオススメです。

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ペンタキシアンの方ですか。両方どうぞ!

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