PHOTO YODOBASHI

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じぶん史上最高の写真集
#3 PERSONA 最終章 / 鬼海弘雄

Text by Rica

私の「じぶん史上最高の写真集」は写真家・鬼海弘雄さんの『PERSONA』です。

鬼海さんが1973年から浅草寺で人々を撮り続けているという記事を読んだとき、それが自分の生まれた年だったこともあり、6×6のスクエアフォーマット、人物を中心に置いたシンプルでまっすぐな写真に心を撃ち抜かれました。この写真集で鬼海さんは土門拳賞を受賞しています。

とかく写真は光が、レンズが、構図が……とさまざまなことに囚われがちですが、そういったことの一切は私自身がこの写真集を見るときには必要なく(もちろんしっかりと計算された上での浅草寺の壁面での撮影ですが)、ページをめくりながら、ただまっすぐにこちらを見つめる人々に向かい合っていると、鬼海さんの『PERSONA』に登場する被写体の放つ力、そして鬼海さんの心持ちを写すには、ハッセルブラッドが必要だったのだ、いや、むしろそれ以外必要なかったのだと納得できます。

鬼海さんは1973年から続けてきたこの撮影について、45年を迎えた2018年に区切りをつけました。そして出版されたのが、ここで紹介する『PERSONA最終章 2005-2018』です。

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『PERSONA』の初版は2003年9月に発行されています。既に絶版となっていますので、程度のよいものと出会ったらぜひ購入していただきたいです。

国内だけでなく、海外でも高く評価された『PERSONA』から15年が経ち、2019年に出版された『PERSONA最終章 2005-2018』には、205人の肖像が収録されています。掲載されている写真はもちろん、私がほんとうに大好きなのは、写真に添えられている短いキャプションです。カバーに掲載されている女性には「銀ヤンマのような娘」という言葉が添えられています。無機質過ぎず、ほんのりと被写体の体温が感じられる言葉に、鬼海さんの人となりを少し垣間見ることができます。以前読んだ鬼海さんのインタビュー記事で「浅草の人を撮りたいわけでもないし、ただ変わった人を撮りたいわけでもない。変わった人だけを撮り集めていたらそれはただのコレクションになってしまう」というようなことを話していたのを目にしました。「ポートレートにはその人の過ごしてきた時間の蓄積が写っていなければならない」という鬼海さんに45年間、一切ブレはありません。

1973年から2018年までに45年という時が流れていますが、何度見ても飽きることがなく、何度見ても新しい発見があります。『PERSONA』のときから何ら変わらず、でも、何かが違っています。でもそこにノスタルジーは伴わず、普遍性があるということが鬼海さんの作品のすごいところだと思います。

45年という月日、ひたすら浅草で待ち続けた鬼海さんの作品は、この先、長い時を経てもなお多くの人たちを魅了すると思います。それは、これらの作品が「ただのコレクション」ではなく、写真家・鬼海弘雄が持つ「時代を超える力」を写しているからに他なりません。

そして、私はこの写真集を見るたびに「自分の過ごしてきた時間の蓄積」が写るような生き方をしているだろうか?と襟を正すのです。

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この写真集に出会って、それまでハッセルブラッド1000Fしか持っていなかった私が、500C/M + Planar 80mm F2.8を購入したことは言うまでもありません。

( 2020.05.14 )

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今や伝説の写真集とも言うべき『PERSONA』から15年の時を経て出版された“浅草ポートレート”の完結編。ダブルトーンの美しい印刷にもご注目ください。

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