PHOTO YODOBASHI

ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン

「露出計」と小さく呟いてみる。
ロシュツケイ。
嗚呼、なんて甘美な響きなのでしょう!
そして、ちょっと発音しづらい。
ロシツケイ?ロスツケイ?
そんなお茶目なところも含めて、この小さな機械には魅力がいっぱい詰まっています。
露出計を被写体に向けてボタンを押す。
すると、そこには何らかの値が、こっそりと人目を憚るように表示される。
それは、露出計とアナタだけの、小さな秘密。

( Photography & Text by NB )


確かに、単体露出計はかつてほど必要とされていないかもしれません。しかしそれはカメラの中に組み込まれただけで、露出計自体は今でも使われています。むしろ、デジタルカメラにこそ無くてはならない機能となった今、カメラを持つ人全員が、露出計の恩恵を受けながら無事に(少なくとも露出に関しては失敗せずに)写真を撮っているわけです。

とは言え、現代においても単体露出計を持つことにはそれなりに意味があります。「光」に対する感覚を研ぎ澄まし、撮影と光の関係を理解することは、写真に対する造詣を深めることにも繋がる・・・ここまでご覧いただいたように、それがPYとしてこの特集で伝えたかったメッセージです。

しかし、すでにエピローグ。この期に及んでそんな能書きはもう、どうでもよろしい。露出計はれっきとした道具で、しかも正確に動くことで初めて役に立つ道具です。「正確であること」が露出計の絶対条件であり、存在理由なのです。しかしですね、「露出計道」を極めると、正確かどうかなんて、もはや取るに足らぬ小さな問題なんですよ。なんなら、動かなくたって構わない。露出計と呼ばれる(あるいは、かつてそう呼ばれた)小さな測定機器。もう、それだけでじゅうぶんなのです。それにこの露出計、カメラのボディやレンズと同じく、いや、それ以上に時代背景やお国柄、設計者の思想がデザインや仕組みに表れていて、調べていくとなかなか奥が深い。

これからご紹介する露出計は、どれもすでに骨董品。最初のユーザーが手にしてからというもの、いったいどれだけの露出を撮影する人に耳打ちしてきたのでしょうか。楽しい写真もあれば、悲しい写真だってあったでしょう。写真が下手なお父さんにだって、時には傑作が生まれたに違いありません。そんなことに思いを馳せながら、この小さな機械をそっと手に取る。感触を楽しみ、重さを確かめ、造形を鑑賞し、匂いを嗅ぐ。つまり、愛でる。ただ愛でる。そんな楽しみ方も、写真という趣味の枝葉末節にはあるんです。


PR-35 Mascot / General Electric(米)

か、か、かわええ。。とても小さな露出計です。これを見つけた時は小躍りしました。それにしてもこの絶妙なニュアンスのピンク色!作られてからすでに60年以上経過していますからだいぶ退色しているのでしょうが、そういう時間の流れまで含めての、この色合い。そして、そこに組み合わされたゴールドの円盤やクリムゾンの提げ紐。まことに上品でお洒落。本当にセンスがよろしゅうございます。当時の広告を見ると、やはり女性がターゲットだったみたい。

Pilot / Gossen(西独)

超小型の、超クールな露出計。サルにも使えるシンプルな操作系は、まさにドイツ製の真骨頂。余計なことを一切していない潔さ。古い露出計を買うと、多くの場合ぼろぼろの革ケースがついてきたりするのですが(それはそれで味があります)、これは二枚貝のような構造の樹脂性ケースで、コイツがまたカッコイイ。裏に青い布が貼ってあるのもクール。入射光式で使う場合は本体の横に見える小さな白いレバーをぐぐっとスライドさせると、受光部にジャバラ状の乳白版がせり出てくるという凝った作り。"Sixtino"という名前でまったく同じデザインのモデルがあるのですが、違いは分かりません。仕向地によって名前を変えたりしてたのかもしれない。

BEWI Automat A / Bertram(西独)

なんとも優雅で、貴族的なデザインが素敵です。このモデルも提げ紐がおしゃれですねー。てっぺんの受光部には乳白板が嵌っていて、反射光式として使う場合はそれを外すのですが、失くさないよう、これも細い金色の鎖で本体と繋がっています(写真では本体に隠れて見えません)。そういう細かいところがいちいちニクイ。しかし!見た目に騙されてはいけません。コイツはとても革新的な露出計なのです。使い方は、被写体に向けて横のボタンを1回押す。すると、小さな窓に適正露出の「目」の組み合わせが出てきます・・・と、さらっと書きましたが、このすごさ分かります?普通は測光した後に二つの針を重ねたり、あるいはEV値を読み替えたりという、面倒な(というほどでもないんだけど)操作が必要ですが、この露出計の場合、ここまでにしたことと言えばボタンを1回押しただけ。つまり、ドンズバの露出の目の、しかもそのすべての組み合わせが、「ボタンを押す」という何も考えなくていい一発操作で出てくる。これはすごいことですよ。私は「針式」こそが露出計のもっとも美しいカタチだと思っていますが、この露出計には針がありません。いや、本当はあるのですが中に隠れていて見えません。その見えない針の位置で内部の機構を機械的に制御して、上のことを実現しています。当然、めっちゃ複雑な仕組みです。単なるデザインではなく、これをやりたくて針を中に隠したんですね。

Leicameter-MR / Metrawatt(西独)

ライカ好きはみんな知ってるライカメーターです。これはその3代目にあたる「MR」の後期型。M型ライカのアクセサリーシューに取り付けるとシャッタースピードダイヤルとピンで連動し、露出の目を知ると同時に設定を(当然、絞り優先的な使い方で)してしまうというスグレモノ。M型ライカを使い始めた頃、シャッタースピードダイヤルにあるこの「切り欠き」は何だろう?と不思議に思っていましたが、このためだと知った時には感動したものです(もちろん露出計内蔵のM5、およびM6以降のモデルにはこれはありません)。1954年に最初のM3が出た時、すでにこの切り欠きはありましたが、このライカメーターの初代が出たのは1955年。つまりM型ライカが生まれる前からこの露出計のアイディアがあったということ。かの木村伊兵衛さんもこのライカメーターを愛用していたそうですが、敢えてボディにはつけず、ポケットに忍ばせて単体露出計として使っていたとか。つけた姿がカッコ悪かったからかなあ。次のLeica M-DはAモードすら無くして、代わりにこれが付くようにしてもらいたい、どうせなら。

PR-1 / Genaral Electric(米)

サイズはタバコの箱より一回り小さいぐらい。その割にはずっしりと重みがあります。1940年代の製品ですが、針は今でもびんびん振れます(ただし正確さとは無関係)。反射光式として使う場合は、銀色のカバー部分をごっそり外します。セレン式というと、昆虫の複眼のような小さなレンズがいっぱい並んだ受光部を思い浮かべますが、これはまだ普通の一枚レンズのような作りで、そのぶん大型。まだ集光技術が確立していない時代だったんでしょうか。個人的には「無骨な米国製の道具」の雰囲気がぷんぷんしているところが好きです。

Master II (Model 735) / Weston Electrical Instrument(米)

古い露出計の中では特に有名なモデル。ウェストンは手持ち式の電気露出計を最初に商品化したメーカーでもあります(1932年)。持った時のずっしり感がたまりません。外装は金属(おそらく真鍮)にハケ塗りの黒いエナメルで、初期のバルナックライカのような質感。本体の裏側に大きな円形の受光部があり、小さな穴がたくさん開いた蓋がついていますが、光の強さによってその蓋を開閉し、2ステージでの測光が可能。ボディの裏側に受光部があるのはウェストン製露出計の特徴(うっかり指で塞いじゃったりして、別に使いやすくはない)。円盤に小さく見える絞り値とシャッタースピードはすべて金属へのエンボスと象嵌。当時の米国の加工技術の高さたるや。

Sixon Color Finder / Gossen(西独)

ゴッセンには、名前が"Six"で始まる露出計がたくさんあります。しかも同じデザインで名前と細部が微妙に違うバリエーションも多くて、体系的に整理しようとするとかなり大変そうです。これもそんなモデルの一つ。これと同じ筐体でも"Sixtry" "Sixtar" "Sixtomat" "Sixton" そしてこの "Sixon" があり(他にもあるかも)、かなり魑魅魍魎な感じではあります。このSixon、"Color Finder" というサブネームの通り、色温度計を兼ねています。最大のマーケットであった米国では、本格的なカラーフィルム時代がすでに到来していたのですね。どんな仕組みかというと、本体脇の小さな扉を開けると、光に反応するテストパターンのようなものが貼り付けてあり、その見え方によって色を補正するフィルターの番手(当然タングステン or デイライトで)が分かるというもの。残念ながらこのテストパターンが古くてもう反応しなくなっているのですが、これも人類の叡智ということでひとつ。

L-228 Zoom Meter / Sekonic(日)

名前の通り、測光範囲をズーム式に無段階で可変できる露出計。接眼部を覗きながら円盤の上にある銀色のリングを回すと、見ている像が大きくなったり小さくなったりして、その範囲を測光した場合のEV値が視野内に表示されます。それを握り部分にある円盤で読み替えて絞り値とシャッタースピードを算出する仕組み。リングに書かれている数字が測光範囲に相当する焦点距離で、85mm〜300mmに対応しています。これからも分かるように望遠レンズを使うときに威力を発揮しますが、スポットメーター的にも(にしてはいささか大雑把ですが)使えます。

OPTEK / Leningrad Opto-Mechanical Plant(ソ連)

今回ご紹介した中では唯一の光学式露出計。「光学式」なんて書くと、もしかしてコレは凄いのでは?油断ならない切れ者なんでは?と思わず身構えてしまいますが、要するに機械は一切入ってないってこと。入っているのは一枚の鏡だけです。大きさは大きめのマッチ箱ぐらい。で、これの使い方ですが・・・うーん、上手く説明できるかなあ。本体の上のところに曇りガラスが嵌っており、被写体にその部分を向けます。次に、本体の下にある小さな扉を開きます。すると、そこに2〜16までの7つの数字が並んでいるのが見えます(つまりこれが絞り値です)。この数字、曇りガラスを通ってきた光が内部の鏡に反射し、裏から照らされる具合になって光って見えます。しかし、よく見ると「2」が一番明るく、数字が大きくなるに従って暗くなって行きます。要するに光の透過率を少しずつ変えてあるわけです。この時に、「はっきり見える数字のうち(←ここがポイント)、一番大きい数字」と呼応する円盤上の絞り値(一番外側の目盛り)に、使用しているフィルムの感度(円盤の一番中心近くの黒いところ)を合わせます。すると、特定の絞り値に対して3つの異なるシャッタースピードの組み合わせができます。これが、室内/屋外(曇天)/屋外(晴天)の各撮影環境における露出の目です。・・・分かりませんよね。。でも、このことだけはご理解いただけたと思います。「これはかなりアバウトである」。そうです。めっちゃアバウトです。でもね、これでいいんですよ。こうあるべきなんです。あんな広い国土に生きる人たちは、考え方も大きくなるのです。彼の国では、細かいことをチマチマ考えても何も進まないし、何も変わらないのです。「そんなちっせえことで悩んで、お前バカじゃねえの?」と、この露出計に教えられるのです(実際にはこの露出計、意外に当たります)。ソ連崩壊(1991)まで作られてたというのも驚き。

Luna-Pro sbc / Gossen(西独)

ゴッセンのLuna-Proという露出計にはいくつかのバリエーションが存在しますが、個人的に一番好きなのはこのsbcというモデル。写真では分からないかもしれませんが、かなり大型。なにしろ四角い9V電池を内蔵しています。すでに40年前の製品ですが、ここまでご紹介した中では唯一実用、かつもっとも信頼している露出計であります。その大きさゆえの部分もありますが、視認性、操作性、反応の速さ、バッテリーの持ちは最高。でも本当にすごいのは正確さと測光レンジの広さ。これはもう、驚異的ですらあります。円盤の目盛りを見ると、絞り値はf0.7〜f128、シャッタースピードは1/4000sec〜8h(笑)、ASA=ISO感度は0.8〜100000(笑笑)とあります。さすがに試したくても不可能な領域ですが、長いこといろんな場面でコイツを使ってくると、これらが決してハッタリではないことが分かるのです。ドイツ人はテキトーなことは言わんのです。未確認ですが「月明かりでも測れちゃう」という意味で "Luna" なのかも。だとしたら、そのぐらいぜんぜん余裕ですわ。欠点は服のポケットに入らないことぐらい。

※すべて生産国名は発売当時


エピローグのエピローグ

「測る」という行為は、日常の中にいっぱいあります。体重計に乗るとか、お湯を入れて3分待つのような数値的な計測はもちろんですが、コタツに入ったままミカンの皮を屑かごへ放り投げるとか、雑踏の中を人とぶつからずに歩くなどの感覚的、無意識的な計測もあります。「妻の顔色を窺う」という計測もこっちの部類ですね。まぁとにかく、私たちは日々いろんなものを測りながら生活しているわけです。

その中でも、「光を測る」というのはかなり特殊な計測と言えるでしょう。光の量を数値的に知る必要など、普段の生活の中にはまずありません。写真を撮る人、それに照明に関する仕事をしている人ぐらいでしょうか。「写真を撮る人」と書きましたが、それも今ではカメラが全部やってくれるので、もはや当て嵌まらないかもしれませんね。露出補正という操作がありますが、アレは写真の出来栄えが自分のイメージに合うように結果を見ているだけで、「今、そこにある光」を意識した上での操作とはちょっと違うように感じます。

そう、意識すること。「測る」を言い換えるとしたら、これになると思います。

例えば、
・屋外と室内ではどのぐらい光の量は違うのか?
・晴れの日と雨の日ではどうか?
・室内でも部屋の片隅と窓際ではどのぐらい違うのか?
・同じ窓際でも時間帯によってどう変化するのか?
・北向きの窓際と南向きの窓際ではどうなのか?

そういう「光の在り方とその違い」をカメラに判断させる前に、自分で意識する。そうすることによって、写真の撮り方がだいぶ変わってくるように思うのです。それは「写真が上達する」というよりも(もちろんそれも大いにありますが)、もっと大きな意味での「撮影という行為を自分の手中に収める」感覚。その領域へ、このちっぽけな機械が導いてくれるのです。

どうですか?ここまでご覧になって、もう露出計が欲しくて欲しくてたまらなくなっていることでしょう。光を意識する。ただそれだけで、目の前に広がる世界が、今までとは違って見えるのです。これはとても素敵なことだと思いますよ。


もくじ


光の量はどのぐらい?

カメラが写しているのは光。被写体にあたる光の量こそが適正露出を導く鍵なのです。


露出感覚を磨く

単体露出計の使いかたと測光の基本を紹介いたします。目指すは勘で露出を決めること。


光をコントロールする

ストロボがあれば「光」をコントロールできます。どうセッティングすればいいのでしょう。


露出に意図を!

眼の前に広がる光景を、どんな風に写したいのか。ゾーンシステムを手がかりにチャレンジしてみます。

( 2018.08.02 )

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