PHOTO YODOBASHI

ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン

露出に意図を持ってみよう

露出を決めることは、被写体をどう表現したいかという意思表示。それは、露出の決め方で写真から受ける印象が大きく変わってくるからです。カメラ内蔵の露出計で撮影した場合、カメラの測光方式で若干の違いはあるとはいえ、概ね平均的な仕上がりが得られるように露出が決定されます。そのためカメラには、露出をコントロールする機能として、露出補正、マニュアルモードがありますが、画面全体のバランスを考えた露出から、意図的な露出の数値を導き出すにはかなり経験を積まなければなりません。では、露出を意図的に決めるのはベテランでないと難しいのでしょうか・・・。

意図的に露出を決める一番のお勧め方法は、「写真のポイント」にしたい部分をスポット測光し、その値をベースに、ポイントをどの明るさにするかを考え露出を決定することです。なんか難しそうだなと感じられると思いますが、簡単な基本を理解すれば、カメラ任せの露出を補正するより容易に露出を決定することができます。

Vol.3では、意図を持った露出で撮影することにチャレンジしましょう。手がかりはスポットメーターです。

( Photography & Text by A.Inden )


ピンポイントで露出を測る

カメラにもスポット測光がついたものはありますが、レンズの焦点距離により測光範囲は変化するため、正確に測れない場合も出てきます。そこでスポットメーターの登場です。

今回使用したのはセコニックの「スピードマスター L-858D」。ボディを横切るように備えられた単眼鏡のような部分を使って、測光範囲1°のスポット測光ができます。測光のしくみは反射光式ですからカメラ内臓の露出計と同じですが、その特徴は名前の通り、狙った場所をピンポイントで測光できることです。

さあ、実際にやってみましょう。


意図を持った露出の決め方

この作例の狙いは、ずっと奥まで続いていく白波を際立たせることです。カメラ任せで撮影しようとすると、当然露出補正が必要になってきます。ただこの光線状態を読むのはかなり難しく、露出補正を悩んでしまう条件でした。心の声は「逆光だからプラス補正?」「砂浜をアンダーにして波の白さを際立たせるにはマイナス補正?」「えっ相反してる。それなら間をとって補正しなくていいのかな」といった具合。更に、空と砂浜の割合、雲の量なんて考えだすと「カメラはどこでバランスをとって露出を決めているのだろう」などと考えすぎて「とりあえず露出を変えて撮っておけばいいや」となってしまう。写真を意図して撮っているとは言い難いですね。

ではスポットメーターを使ってどう露出を決めるか。まず波の白さを強調したいので、一番明るい波の白いところを測ります。測光値は、ISO 320で、1/3000、F11。スポットメーターは反射式露出計なので、測ったところを18%のグレーに写す露出値が出ます。ですから露出計の示した値を手がかりに、自分で補正して、撮影する露出を決めましょう。この場面では、波の白さだけでなく飛沫も感じたいので、細部がわかる白さに持っていくために2段開けた値(ISO320、1/720、F11)で撮影しました。波の白さのなかに質感が感じられる露出になっていますね。

この作例は影になっている道路を黒く落とし、道路のあまり綺麗でない質感を整理することで、堤防と高速道路の形を強調し、奥に向かって進んで行く躍動感を狙っています。道路の矢印のところを測るとISO320で、1/125、F11。道路の細部がギリギリ感じられる暗さにするために3段締めて1/1000、F11で撮影。道路の消失点の上に集まった雲が、成りゆきで立体感が感じられる露光になっていいアクセントになっています。

ここまでで疑問に思っている方もいるかと思います。「どうしてスポットメーターの測光値から露出補正を簡単に+2や−3と決めて、被写体の描写を想像通りにコントロールできるの?」と。それは写真家アンセル・アダムスが考え出した、ゾーンシステムという方法を利用しているからです。


ゾーンシステムとは何か

「ゾーンシステム」を一言でいってしまうと、撮影者のイメージ通りに被写体の明るさを表現するためのシステム。それを突き詰めていくと、画面全体の白から黒までを、撮影、現像、プリントをコントロールすることで、階調豊かに表現したプリントを作ることができるのです。

このシステムはモノクロネガフイルムでの撮影を前提に作られています。そのため、果たしてデジタル撮影で意味があるかと考え、もう一度勉強し直してみました。その結果、今まで経験という感覚で露出を決め、レベル補正、コントラストを変えて現像していたことが理論的に理解でき、これまで以上に追い込んだ露出、現像ができるようになりました。この辺りの詳しい話は機会があればPY撮影ノートで紹介したいと思います。今回はゾーンシステムにおけるゾーンの定義を、露出決定のために活用してみましょう。

これがゾーンシステムの表です。完全な黒から完全な白までを11のゾーンに分けて、それぞれの描写の様子が表されています(英語は原文)。スポットメーターで測ったポイントの露出値(18%グレー)はゾーンⅤに位置し、1ゾーンの差は1EVになりますから、ゾーンⅤからゾーンⅣにするには1段絞る(-1EV)、ゾーンⅤからゾーンⅦにするのは2段開ける(+2EV)ということになります。

ですからこの表を使えば、スポットメーターで測ったポイントをどの明るさに持っていきたいか確認し、ゾーンⅤとの差を補正値として、撮影するデータを決めていくことができます。波の作例だと、測光した白い波がゾーンⅤ、波の細部がはっきりとわかる明るい部分にするため、そこをゾーンⅦに持っていくために2EV露出を開けました。道路の作例は、測ったポイントゾーンⅤを、道路の細部が感じられる最も暗い部分にするため、3EV露出をアンダーにし、そこをゾーンⅡにしました。この表とスポットメータさえ持ち歩けば、意図的な露出を簡単に決められますね。

さて、こうして本記事のはじめに置いたカットに戻ります。全てのゾーンが一枚の写真の中にバランスよく収まった作例。アンセルアダムスの有名な作品には及びませんが、全てがゾーンの中に収まっていると、それっぽく見えるような気がするのですが。


測りたい場所を測る。それが原点。

初めて所有し長年使い込んだカメラがCanon 旧F-1、その測光方式は部分測光でした。測光範囲の正確さはスポット測光には当然及びませんが、自分の意図した場所の露出を計りその値をベースに露出を決めるいい訓練になりました。趣味が講じて木製の4x5を手に入れたとき、露出計の必要に迫られ、手に入れたのはスポットメーター。それは、これまでの経験を活かすことを考えれば当然の流れだったと思います。ピストルのようなスタイルのスポットメーターを手に入れたとき、なんだかいい写真が撮れそうな予感がしたことを昨日のように覚えています。これも必然だと思いますが、しばらくしてアンセルアダムスの「The Negative」「The Print」が本棚に。ゾーンシステムを知ることで、現像、プリントまでは細かくコントロール出来なかったですが、測光値からの補正の仕方は正確になり、スポットメーターを生かしきれるようになりました。

フィルム時代、どこを測るかを最重要項目に入れいたはずなのに、デジタルになってとりあえず露出を変えて撮るというゴムズボンを履いているかのようなルーズな撮影をしていました。この露出計の企画で、久しぶりにスポットで露出を計り、その数値をベースに現像まで考えて(デジタルの現像はフィルムよりかなり身近です)撮影することができました。撮影時に最終段階の表現まで考えて露出を決める面白さ、デジタルになってやっと現像まで含めたゾーンシステムの大切さがわかったような気がします。


もくじ


光の量はどのぐらい?

カメラが写しているのは光。被写体にあたる光の量こそが適正露出を導く鍵なのです。


露出感覚を磨く

単体露出計の使いかたと測光の基本を紹介いたします。目指すは勘で露出を決めること。


光をコントロールする

ストロボがあれば「光」をコントロールできます。どうセッティングすればいいのでしょう。


露出計愛がとまらない

カメラという道具がそれだけで魅力的であるように、露出計にも道具としての魅力があります。

( 2018.07.26 )

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今の露出計はすごいですね。一台で入射、反射はもちろん、1度のスポットもストロボもOK、フィルターの露出補正もメモリーでき至れり尽くせり。

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こちらはスポットメーターはついていない露出計ですが、オプションでスポット測光も可能になります。最初からハイスペックモデルはちょっと・・・という方にバランスのよい選択肢です。

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L-478Dの受光部に装着することで、5度のスポット測光が可能になります。とはいえ5度。L-858Dは1度。この違いをどう見るかですが・・・。

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ゾーンシステムを学びたい方が、読んでおくべき原典。日本語に翻訳されていますので、どうぞご安心を。

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モノクロ写真に真剣に取り組むならこの一台。カラーを潔く捨て去っただけあって、溜息の出る描写です。しかし、高くなった・・・。

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フイルム売っているうちにやらないと、大判カメラの世界は本当に終わってしまうかもしれませんよ。

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