PHOTO YODOBASHI
ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン
3群7枚目 設計図と完成品のはざまで
試作のプロフェッショナルたち (前編)
暑サニモ負ケズ、寒サニモ負ケズ
もう一つ、「堅牢であること」という要件の中で、衝撃と同じぐらい重要視しているのが「温度」です。 |
ニコンのカメラは、地球上のあらゆるところで使われますからね。 |
例えばニコンZ 9が動作保証しているのは「-10~40度」という範囲。もちろんレンズもそれに準拠するように開発を行います。でも実際には、上も下も、もっと幅広い温度域で問題なく動くようにマージンを取って設計しています。 |
ホントにその範囲でしか動かなかったら、もはや日本では使えなくなっちゃいますもんね。 |
温度に関しては、求められる要求が低くなることはなく、逆にどんどん厳しくなっていきますね。あるレンズでは、「それって、標高の高いところだと水が沸騰しかねないよね?」なんていう温度を求められたこともあります。 |
そのテストってどうやるんですか? |
低温/高温を人工的に作り出す装置の中に試作品を入れて、そこに手だけ差し入れて問題なく動くかどうかを確かめるんです。 |
もちろん手袋をして。 |
いや、手袋をしてしまうと微妙な感触の違いが分からないので、素手です。 |
素手! |
そのテストをしている期間は、私の両手はいつも真っ赤ですよ(笑)。 |
金属にしても、プラスチックにしても、熱が加わると膨張して変形しますよね。エアコンを切って炎天下に停めた車の中なんて、簡単にそういう状況になります。温度に対する対処で難しいのは、それでも正常に動かないといけないのはもちろんですが、冷えた時に「ちゃんと元に戻るか」ということ。 |
車の中に置きっぱなしにして、もしそれが理由で壊れてしまったら、「何もしていないのに壊れた」と言われてしまいますね。 |
そうなんです。昔のレンズは金属とガラスだけで作られていましたが、今はいろんな素材を組み合わせて、それをミクロン単位の精度で組み立てています。素材が違えば膨張率も違ってくるのに、「それでも性能が変わらないように」と、より厳しい組み立て精度を求められるのです。 |
膨張率がそれぞれ違うパーツを組み合わせる・・・それは確かに大変だ。 |
最初の頃は手探りでしたが、今ではその勘どころが分かっています。これまでの試作や検証によって、「壊れないようにするためには、このくらいマージンを取っておけば大丈夫」というのが分かるようになっています。部材の膨張の影響で、「ピントが合わない!」なんてことが無いように、シミュレーションを用いた検証なども行います。 |
実際に使って壊れたものをご覧になったりもしますか? |
お客様からお預かりした修理品も、開発にとっては大事な分析対象です。特に重要なのは、われわれが想定していなかった箇所で起きた故障。そういうものは故障を再現して検証し、原因を探って対策を見つけるようにしています。それが以後の製品開発の新たな基準に加えられることもあります。 |
- 1群1枚目 設立趣意書
- 2群1枚目 凸に始まり、凸に終わるのであります。- レンズとは、なんじゃらほい
- 2群2枚目 だから「収差」というのです。- とっても収まらない話
- コラム:原田研究員からのメール - 「例のレンズタイプの件」
- 2群3枚目 焦点距離のナゾ- それはいったいどこからどこまでじゃ
- 2群4枚目 エフチの「チ」 - あの数字の並びはいったいどこから来たのか
- 2群5枚目 ガラス作りとコーティング - レンズの要を忘れるべからず
- 2群6枚目 謎の写真用語・説をめぐるアレコレ - あなたは「でっこまひっこま」を知っているか
- 2群7枚目 続・エフチの「チ」 - レンズの開放F値ってどうやって決まるの?
- 3群1枚目 レンズ設計ことはじめ - 設計者の描く理想とは
- 3群2枚目 シミュレータと設計者 - 完成レンズを見通す、見極める
- 3群3枚目 ズーム再考(最高) - そもそもは航空用語だったらしいです
- 3群4枚目 やっぱり単焦点が好き - 「単」とは言え複雑で奥深い
- 3群5枚目 続・やっぱり単焦点が好き - レンズに込められた設計者の想い
- 3群6枚目 「商品企画」というお仕事 - 商品が生まれいづるところ
- 3群7枚目 試作のプロフェッショナルたち (前編) - 設計図と完成品のはざまで
- コラム:原田研究員からのメール - 「交換レンズは3本まで」という法律について
- 3群8枚目 試作のプロフェッショナルたち (後編) - ものづくりの最終工程で行われる試作とは
- 4群1枚目 Zマウントはこうして生まれた - 100年間変えられないことを、考えて、決める
- 4群2枚目 フード首脳会談 - レンズ設計のその果てに
- コラム:原田研究員からのメール - レンズの楽しみ方案内