PHOTO YODOBASHI

ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン

SORI - 新宿光學總合研究所

  • 本稿は、写真用レンズについてより深い理解が得られるよう、その原理や構造を出来る限り易しい言葉で解説することを目的としています。
  • 本稿の内容は、株式会社ニコン、および株式会社ニコンイメージングジャパンによる取材協力・監修のもと、すべてフォトヨドバシ編集部が考案したフィクションです。実在の人物が実名で登場しますが、ここでの言動は創作であり、実際の本人と酷似する点があったとしても、偶然の一致に過ぎません。
  • 「新宿光学綜合研究所」は、実在しない架空の団体です。

3群6枚目  商品が生まれいづるところ
「商品企画」というお仕事

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2号

というか、ぶつかることなんてあるんですか?

もう、めっちゃぶつかりますよ。少なくとも私が担当する案件は、たいていぶつかりますね(笑)。

堺
3号

それは商品企画が要求するものと、設計ができることとの間に乖離があるということでござるか?

ひとことで言えば「思いのぶつかり合い」です。「できる/できない」のぶつかり合いではなくて、「こうあるべき」のぶつかり合い。でも良い商品を作るためには、そのぐらいお互いが本気じゃないとダメだと私は思っているので、ぶつかり始めると「お、これはいいモノができそうだぞ」って(笑)。

堺
4号

その時はどういうふうに対処したり、次に展開させたりするんですか。

やっぱり、話し合いを重ねることでしか前に進まないですよね。話をして、課題に対する落としどころを一緒に探って、双方が納得した形で答えを出すように心がけています。もちろんお互いが100%納得することは難しいですが、なるべく100%に近いところに持っていけるようにする。一方的に意見を押し付けるのではなく、意見を出し合ってより良いものを作っていくことが大事だと思います。

堺

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さすがにこの理由で出すのをやめてしまうような事態は、少なくとも私が知っている限りはないですね。

堺
1号

でも、競合他社から似たような製品が出てくることはありますよね?

それはもちろんあります。われわれも独自の動向分析を通して商品を企画し、発売時期を検討するわけですが、他社さんが同じようなことを考えていることだって、当然あり得ますからね。

堺
2号

先に出されてしまうと、やはり悔しいものですか?

まず、ニコンは「いちばん最初に出さなければ意味がない」という考えは持っていません。われわれがすべきなのは、マウントを軸とした「システム」を充実させるという自らのミッションを着実に進めていくことです。お客様から望まれているのもそういうことだと思います。

堺
3号

心強いでござる。「ニコン=トレンドに流されない」というイメージが拙者にはあって、それは一般的なイメージともかけ離れていないと思うのでござるが、まさにその通りのお答えでござる。

そうは言っても、他社さんにも素晴らしい製品はたくさんありますからね。学ぶべきことは学ぶ、という真摯な姿勢も大切だと思います。

堺

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実はこれ、大いにあるんです。というのは、少なくとも自分が担当する商品は、自分自身が買うんだという気持ちで、自分だったらどんな商品が欲しいかを前提に商品企画を進めていくからです。スペックとかコンセプトといった「お題」はあくまできっかけであって、それだけで商品は完成しません。そこから自分が欲しい要素を盛り込んでいくわけです。

堺
4号

そもそも自分が欲しいと思うかどうか。なるほど。原田さんもいつもそうおっしゃってますしね。

私はいつも自分が欲しいものを具現化することに全力ですよ! でも趣味に走りすぎて商品化まで持っていけなかったことも、あったような気がしなくもない・・・

原田

出来上がった商品が、自分が本気で欲しいと思うようなものではなかったとしたら、それはお客様だって同じだと思います。いちばんの仮想ユーザーが自分だということ。

堺
1号

それが自分の趣味の範疇にはないレンズでも同じですか?

私の場合、趣味が登山なので大きくて重いレンズを使う機会はあまりないんですが、そういう馴染みの薄いレンズの場合でも、企画を考える段階では同じ焦点距離のレンズを借りて実際に撮影に行きます。例えば超望遠だったら空港とか新幹線が見えるスポットへ行って撮影してみて、その現場で自分が何を感じるか、よってどういう性能や機能が欲しいかなどを確かめて、それを企画に反映させます。

堺
2号

「すべては企画者である自分がどう感じるかから始まる」・・・至極真っ当と言うか、むしろそうあるべきですよね。100%納得しました。

むしろ個人的にあまり使わないレンズだからこそ、「そんな自分でも欲しくなるようなレンズ」を必死に考えるんですよね。

堺
3号

そうやってご自身が担当したレンズは、ホントに買っているのでござるか?

中には買わなかったものもあります。

堺
4号

買わなかったのはどうしてですか? もしかして、出来栄えに満足しなかったからとか?

・・・高いから。

堺

(一同笑)

PHOTO YODOBASHI

商品化まで行かない、ポシャった企画がどのぐらいあるか?・・・ってことですね。

堺
1号

それこそ企画自体はたくさん生まれるだろうから、製品化されるのはせいぜい2割ぐらいじゃないの? なんてこちらでは話してたんですけど。

商品企画から話があったものがすべて製品化まで行き着くかというと、もちろんそうではないです。その打率ですけど、さすがに2割ということはないけど、9割は打てない・・・という感じかな。

原田
2号

あ、予想より高かった。

設計に入ってみたら想像と違ったので「取り下げ」ということもあります。企画の段階ではカタチにすることができないので、実際にやってみないとわからないことも実は多い。

堺

いやいや、何をおっしゃいますか。メカ設計者が「バランスが難しいなあ」と言ったら、堺さんが「カムをもっとこうすればできるよ」って返してきたこともあるじゃないですか。

原田

そんなことありましたっけ?・・・ありましたね(笑)

堺

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「企画の作り方のパターン」のことですね。これは人によってぜんぜん違います。商品企画の中でも担当者によって「その人のスタイル」があります。商品企画という部門の中で「こうすべし!」みたいなものはないんです。

堺
3号

そうなんでござるか。それは意外でござる。企画をカタチにするためのフォーマットみたいなものがあるのだと思っていたでござる。

商品企画にまず求められるのは、自由な発想。だから考えをどうまとめて、どう伝えるか、そこにルールはありません。人によって様々です。原田さんは今までにたくさんの商品企画の人と関わってこられたので、それをより実感されていると思いますが。

堺

ほんと十人十色ですね。企画をもらったら、まずはしっかり話し合ってポイントを理解し、意見を出し合うことが大事。だから、すべてが定型のフォーマットに沿っていたら、「今回の企画はここがポイントなんだ、こういうレンズを作りたいんだ」っていう商品企画の熱量がじゅうぶんに伝わってこないかもしれないし、それこそ「ただの作業」になってしまって、却ってやりづらい気がするなあ。

原田
4号

担当商品による得意分野、みたいなものもあるんでしょうか?

そこも個性が表れますね。堺さんは新しいものを作るのに向いている気がするし、逆にオーソドックスなものに力を発揮する人もいる。

原田

そうですね。私は割とチャレンジングな、定番ではないレンズを担当することが多いかな。

堺