PHOTO YODOBASHI
ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン
3群5枚目 レンズに込められた設計者の想い
続・やっぱり単焦点が好き
NIKKOR Z 50mm f/1.2 S開発秘話
えっとですねえ、Z 50mm f/1.2を設計中のある時期、私はひたすら同じものを撮り続けていたんですが、それは何だかわかります? |
わからないです(笑) |
じゃーん! それはコレです! |
え? フィギュア? |
ああ、コレですね。 |
そうです。2,000円でお釣りが来るぐらいの、初音ミクのフィギュアです。ヨドバシ・ドット・コムで買いました。 |
お、お買い上げいただきありがとうございます。でも、どうしてフィギュアを? |
このフィギュアの「肌」がどう写るかを、来る日も来る日も検証してたんですよ。 |
フィギュアの「肌」・・・でござるか? |
このフィギュアの素材はプラスチックです。確かによくできていますけど、よく見ればやっぱりプラスチックだし、触った感じもプラスチックそのもの。 |
でしょうね。 |
でもね、この肌が本物のヒトの肌に見えるようにしたかったんです。 |
それを聞くと、画像を加工するフィルターのようなものを想像してしまうのだけど。 |
ぜんぜん違います。そういうことじゃないんです。被写体はプラスチックなんですから、あくまでもプラスチックとして写ってくれないと困ります。ただ、それが本物のヒトの肌に「見えてしまう」、そんな写りを目指したんですよ。 |
ヒトの肌に・・・見えてしまう・・・はて? |
写真の面白さって、見た人の経験、つまり学習と結びついて、見え方、感じ取り方が変わるところにあると思うんです。写真が「被写体を忠実に再現する」だけで、それ以上でも以下でもなかったら、すごくつまらないと思いませんか? このへんのことはニコン100周年の時のインタビューでもお話ししましたが。 |
ああ、覚えてます。「土間」の話でしたね。 |
人はみな、人間の肌がどういうものか知っています。それが私のようなオジサンと、生後3ヶ月の赤ちゃんではどう違うかも知っている。今までの人生で学習しているから。 |
ええ、わかります。 |
その学習と、写真の写りが結びついた結果、「本物の肌」が連想されて、ついそう見えてしまう・・・そんなレンズにしたかった。具体的に言えば「近距離収差をどうするか?」ってことなんですけどね。 |
確かに写真って、見た瞬間に過去のできごとが蘇ることがありますよね。写っているものとは直接関係なくても、脳内連鎖的に。 |
写真は過去の記録ですから、元々そういう性質を持っているものですけど、それをレンズの力で、写真の写り方で、もっと能動的に引き出せないものかと。それができたら、写真はもっともっと沢山のことを我々にもたらしてくれるようになると、ずっと考えていました。 |
なるほど哲学やわー。 |
ひとことで言えば、「測定器にとっての光学的なリアル」ではなく、「人間にとってのリアリティ」。撮影者のイメージに対してのリアリティを追求したんですよ。 |
で、それは上手くいったのでござるか? |
商品として世に出してたくさんの方に買ってもらえる、という制約の中では、「これ以上はもう無理!」というところまでやり切ったと思います。 |
実に面白い。 |
町田さん? |
うわ、びっくりした! |
ニヤニヤしながら聞いている場合じゃないですよ。 |
Z 85mm f/1.2にもいっぱいありそうですね、秘話が。 |
あったかなあ。 |
あるはずです! |
では、こんな話はどうでしょう。 |
- 1群1枚目 設立趣意書
- 2群1枚目 凸に始まり、凸に終わるのであります。- レンズとは、なんじゃらほい
- 2群2枚目 だから「収差」というのです。- とっても収まらない話
- コラム:原田研究員からのメール - 「例のレンズタイプの件」
- 2群3枚目 焦点距離のナゾ- それはいったいどこからどこまでじゃ
- 2群4枚目 エフチの「チ」 - あの数字の並びはいったいどこから来たのか
- 2群5枚目 ガラス作りとコーティング - レンズの要を忘れるべからず
- 2群6枚目 謎の写真用語・説をめぐるアレコレ - あなたは「でっこまひっこま」を知っているか
- 2群7枚目 続・エフチの「チ」 - レンズの開放F値ってどうやって決まるの?
- 3群1枚目 レンズ設計ことはじめ - 設計者の描く理想とは
- 3群2枚目 シミュレータと設計者 - 完成レンズを見通す、見極める
- 3群3枚目 ズーム再考(最高) - そもそもは航空用語だったらしいです
- 3群4枚目 やっぱり単焦点が好き - 「単」とは言え複雑で奥深い
- 3群5枚目 続・やっぱり単焦点が好き - レンズに込められた設計者の想い
- 3群6枚目 「商品企画」というお仕事 - 商品が生まれいづるところ
- 3群7枚目 試作のプロフェッショナルたち (前編) - 設計図と完成品のはざまで
- コラム:原田研究員からのメール - 「交換レンズは3本まで」という法律について
- 3群8枚目 試作のプロフェッショナルたち (後編) - ものづくりの最終工程で行われる試作とは
- 4群1枚目 Zマウントはこうして生まれた - 100年間変えられないことを、考えて、決める
- 4群2枚目 フード首脳会談 - レンズ設計のその果てに
- コラム:原田研究員からのメール - レンズの楽しみ方案内