PHOTO YODOBASHI

ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン

SORI - 新宿光學總合研究所

2群5枚目  レンズの要を忘れるべからず
ガラス作りとコーティング

せっかくだから、最後にコーティングの話もしておいてはどうですか?

原田

そうですね。今回までの話を通じて、素材であるガラス固有の屈折率を利用し、凸レンズ、凹レンズの一枚一枚のレンズの形状・組み合わせを工夫することで一本のレンズができていることがイメージできたと思います。

町田
1号

光が色、つまり波長によってばらつくことなく、きちんとセンサーに届かないと、ちゃんと写らない。

そのバラツキを極力整えることはできても、まだ問題はあります。レンズに入ってくる光の「反射」です。これが撮像に悪影響を及ぼすのです。

町田
2号

反射って、どこに反射するの?

レンズの表面です。

町田

それって、跳ね返っちゃった光だから、レンズの内部ではもう関係ないのではござらんか?

3号

チ、チ、チ。そう単純なことではないのです。

原田

反射せずに入ってきた光も、内部のレンズを通過するたびに反射を繰り返すのです。

町田

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左下から太陽光(グレー)が入ると、2枚目のレンズの表面で反射します。その反射光の軌跡が赤い部分。それがさらに一枚目のレンズ裏側に反射して、反射光が最終的にセンサーまで届くとフレアやゴーストとして現れます。

町田

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コート無しの古いレンズで撮影

1号

うわ、派手なゴースト。これはこれで写真的で好きだけどね。

出やすいアングルを探すのも楽しかったでござる。

3号

センサー面での反射も少なからず生じるので、それをレンズが反射して再びセンサーに届くことがあります。

町田

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1号

じゃぁ、レンズの表面をつるっつるに磨けば、、、

2号

つるつるになるほど反射しやすいんじゃ?

うぅぅ、悩ましいでござるな。

3号

レンズを磨き上げても反射光は減りませんし、一般的には数%程の光は反射してしまうことになります。

町田
4号

つまり90数%の光しか利用できないということか。

実際にはレンズは複数枚あるのでレンズ同士の反射が起こり、それが繰り返されるたびに光はどんどん減衰していきます。

町田
馬橋所長

レンズの構成枚数が増えるほど不利ということね。

それを解決するために登場したのがコーティングです。レンズ表面を薄い膜で覆うことで、条件次第では反射光を1%を切る程度まで減らせるようになりました。

町田

単層の膜を施した、いわゆるシングルコートですね。

原田
1号

1%切ってくれば、もう誤差の範囲では?

2号

ただ、さっきの話と同じで、構成枚数が増えると1%じゃ済まないですよね。

例えば3枚のレンズを組み合わせた場合を考えてみましょう。この場合、6つの反射面が存在することになります。それぞれの反射面で1%の光が反射されるのですから、3枚構成のレンズでは、透過する光は99%の6乗となり、約5.9%の光が失われてしまう計算です。ローンの金利をイメージして頂けると分かりやすいと思います。

町田
4号

じゃあ、5枚構成なら1−(0.99)10≒0.096で、9.6%かぁ。

もはや誤差とは言えないでござるな。

3号

そこで新たに登場したのが、シングルコート(単層膜)より反射防止効果が高いマルチコート(多層膜)です。

町田

レンズに赤いCマークが付いてましたね。懐かしい。

原田

マルチコートによって、入ってくる光の波長域ごとに対応することができるようになり、シングルコートよりさらに反射率を低く抑えることが可能になりました。

町田

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マルチコートの現代のレンズで撮影

1号

多層膜って何層あるのですか?

それこそ出始めの頃は2~3層からスタートして、6層、7層とか各社様々、独自に工夫を凝らしてきた歴史があります。

町田
2号

素材のガラス同様に、コーティング技術も進化してきたんですね。

そうですね。そして今もなお、より良い性質や性能を求めて研究開発が進められているのです。

町田
2号

あれ、今回はきれいに終わっちゃう感じ?

たまには良いでござろう。

3号