TAMRON 18-300mm F/3.5-6.3 Di III-A VC VXD Model B061

[ズーム] 広角 | 標準 | 望遠 | 高倍率  
[単焦点] 広角 | 標準 | 望遠 | マクロ

タムロンより16.6倍のズーム比を持つAPS-Cサイズ対応の高倍率ズームレンズ「TAMRON 18-300mm F/3.5-6.3 Di III-A VC VXD Model B061」（富士フイルムXマウント）が発売されました。焦点距離は35mm判換算で27mmの広角域から450mmの超望遠域までカバーし、幅広いズーム域で様々なシーンをこれ一本で撮影することができます。マクロ撮影を得意とするタムロンらしく最大撮影倍率は1:2（ワイド端で0.15m）。動物、昆虫など撮影距離を取りたい場合は、撮影倍率は1:4となりますが、テレ端側で0.99mの距離を取ることができます。かなり盛り沢山なレンズですが、それを支えているのがレンズに搭載されているタムロン独自の手ブレ補正機構VC。マクロ撮影から超望遠までブレを抑え撮影をサポートしてくれます。ここまで機能が充実してくると大きさが気になりますが、質量は約620g 、全長は125.8mm とコンパクトに収まっています。高倍率ズームを手に入れるときに少し心配になるのは描写でしょうか。その辺り作例でじっくり確認していただきたいと思います。

( Photography & Text : A.Inden )

冒頭の富士山をテレ端300mmで撮影した場所で、ズームリングを90度回転し18mmにすると、こんなにも見える世界がガラッと変わります。ズーム比16.6倍、恐るべしですね。写りはテレ端からワイド端まで適度なコントラストがあり、色のりもよく厚みを感じる描写です。ふとフィルムの描写を思い起こされるような、しっとりとした解像感にも好印象を持ちました。

超望遠のズームを持つと望遠鏡を持ったような気分になり、つい引き寄せてしまい300mmでの撮影。グレーの砂浜に黒い犬、AFが迷いそうな条件が揃いましたが、スッと気持ちよく合ってくれます。開放ですが犬の毛もしっかりと分離していて解像度の高さを感じます。

同じ場所で子どもたちがいる周りの状況がわかるところまでズーミング、約100mmです。開放で撮影するとピントピークはシャープですが、背景の港の風景を見ると若干収差が感じられます。ただ周辺が流れたりする解像感の低下は見られないです。

トマト、レタス、ソースのシズル感の描写が素晴らしいですね。逆光で強い光が差し込んでくる窓際のテーブルで撮影しましたが、ハイライトからシャドーまでしっかりと階調が残っています。コントラストがある描写をするレンズなのでもう少しトーンが飛ぶかなと思いましたが、滑らかな階調のため全体が自然な感じでうまくまとまっています。

テレ端、最短撮影距離で撮影。植物を触った時のひんやりとした温度まで感じられるリアリティのある描写ですね。APS-C、F6.3と大きなボケ味が期待できない値だと思いましたが、300mで撮影するとピントピークはここまで薄くなります。後ろのボケも柔らかく自然です。

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箱根登山電車の旅

この新しいレンズを少し使ってみて、こんなにコンパクトで取り回しが良く何でも撮れるなら日帰りの旅に出るかと、箱根登山鉄道に乗って箱根を訪ねました。装備はコンパクトなショルダーバッグに水筒とカメラと本レンズ、そして箱根登山電車1日乗車券「のんびりきっぷ」。機材が変わると被写体が変わるとよく聞くのですが、確かにこのレンズは「ほら一緒に旅に出たくなるだろ」と囁きかけてきますね。

電車を撮る方はお分かりだと思いますが、電車があるシーンを写真に残すには、かなりのレンズのバリエーションが必要です。運転席の後ろから広角で窓抜けのシーン、超望遠で線路の圧縮効果を狙う、標準でさりげない鉄道周りのシーンを切り取る。そして、三脚が使えない条件も多いので手ぶれ補正のよく効くレンズ…といろいろ物入りなわけです。今回は撮影ポイントを探して山道を結構歩きましたが、バッグと機材に水筒を合わせても2kgを超えない身軽さ。軽い足取りで一日を過ごせました。

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便利なだけではなかった。独特の優しい写り

ズームリングを90度回転させるだけで、見えている世界が一変する。なかなか面白い体験でした。そして、なるほどこういう写真の楽しみ方もあるのかと再確認しました。それは、機材のことをあれこれ考えずに出会ったシーンを瞬時に自分の画角で切り取る撮影スタイル。普段は、被写体に出会うと焦点距離を考えレンズを交換する、あるいは、装着しているレンズに合わせて被写体を料理する、そんな撮影スタイルでした。これって、機材に縛られて撮っていたということだったのですね。まあそれも幸せなのですが…

もちろん、1本で全てを賄おうとすれば、いい塩梅に写るレンズでなければいけません。本レンズは、作例を見ていただくとお分かりのように、解像感が高いのはもちろんですが、写真を撮りたくなる独特の優しい写りのレンズです。そして、全てのズーム域で変わらない描写をします。最近タムロンを使う機会が増え、優しい描写をするいいレンズだなと感じていたのですが、まさか16.6倍の高倍率ズームでも何ら変わらぬアウトプットが得られてしまうのですから。タムロン凄すぎます。

広角から超望遠、そしてマクロまでと何でもござれ。よく写るレンズが何本分詰まっているのでしょうか？しかもこの価格で！ 一粒で何度も美味しくて財布にも優しいレンズですから、あれこれ考えずに買ってしまう。それ、間違いのない選択で、正しい行動だと思います。

( 2021.11.02 )