PHOTO YODOBASHI
ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン
- 本稿は、写真用レンズについてより深い理解が得られるよう、その原理や構造を出来る限り易しい言葉で解説することを目的としています。
- 本稿の内容は、株式会社ニコン、および株式会社ニコンイメージングジャパンによる取材協力・監修のもと、すべてフォトヨドバシ編集部が考案したフィクションです。実在の人物が実名で登場しますが、ここでの言動は創作であり、実際の本人と酷似する点があったとしても、偶然の一致に過ぎません。
- 「新宿光学綜合研究所」は、実在しない架空の団体です。
2群4枚目 あの数字の並びはいったいどこから来たのか
エフチの「チ」
グムム・・・ |
3号、早くトイレに行っておいでよ。 |
拙者はもよおしておるのではござらん。F1.4、F2、F2.8、F4、F5.6・・・と、F値というのは何故ゆえにこのような中途半端な数字の並びなのであろうかと、考えておったのでござる。 |
考えている時の効果音が特殊過ぎ。F値の数字? まぁ、言われてみれば確かにそうだね。考えたこともなかったけど。 |
おはようございます。皆さんお早いですねえ。 |
おはようござりまする、お館様。麗しきご尊顔を拝し奉り恐悦至極に存じ奉ります。 |
文字ヅラを見ただけで舌を噛みそうね。麗しき・・は間違いではないとしても、お館様はやめてください。どうされたのですか? |
3号がF値の並びが不思議だとか言い始めまして。 |
おはようございます。おや、みなさんお揃いで。 |
あ、町田さん。いいところに。F値がどうしてあの数字の並びになっているのか? という話をしていたところなんですって。 |
ああ、なるほど。まずF値が何を表しているのかは、ご存知ですよね? |
もちろんです。レンズの中にある、光が通る穴の大きさのことですよね。F値を小さくすれば穴は大きくなって、光がたくさん入る。反対にF値を大きくすれば穴は小さくなって、光は少ししか入らなくなる。 |
よくできました。その穴のことを「絞り」と呼びますね。「開ける」とか「絞る」という使い方をします。絞りを最も開けた状態、つまりいちばん小さなF値にすることを「開放」なんて言ったりもします。 |
でも私、最初にそのことを知った時、すごくモヤっとしたんですよ。 |
いつもあっけらかんとしている所長でも、モヤっとすることがあるんですか。 |
どうして数字が小さいほど明るいの? それって逆じゃない? って。数字が「大きい」ほど、光の量も「多く」なるのが感覚的にはしっくり来ますよね。だって、テレビの音量だって、体重計だってそうでしょう? みんな「数字が大きくなるほど、何かが増えていく」のに。 |
おはようございます。確かにF値って不思議な並びですよね。ちなみに皆さん、絞りを調整する理由は何ですか? |
露出、つまりどのぐらいの明るさで撮りたいか、というのがまずある。 |
あとはボケ量のコントロールとか、もっとシャープに写したいとか。 |
自分は基本絞りませんけどね。絞って撮るなんて、愛情持って開発されたレンズに対して失礼ですよ。開放の画がいちばん美味しいのに。まぁ、いちばんアラも出るんですが。でも、そこを愛でるんですよ。ともかく絞るなんて行為が全然わかりません。 |
いいこと言いますねえ〜4号さん。いや〜、まったくそのとおりです! |
原田さん、あなた開発者なんですから自分の趣味嗜好をあからさまに言わない。4号さんも、インプレッション記事を書く立場なのに絞った作例がまったく無いって、いったいどういう了見? |
・・・。 |
はいはい、話を元に戻しますよ。先ほど所長が言ったとおり、レンズに入ってくる光の量をコントロールする機構が「絞り」です。 |
絞りの図
もうちょっと正確な言い方をすると、絞りを開いたり絞ったりすることで、レンズに入る光の「面積」をコントロールしているんです。 |
面積、ですか・・・ |
写真というものがまだ生まれたばかりの頃。現在のような制御や連動など一切ない原始的な「写真機」の時代、絞りはどんなものだったと思いますか? |
つまり、今のように何枚もの羽が組み合わさって、絞り穴の大きさを自由に変えられるようになる前・・・ってことよね。 |
もしや、異なる大きさの穴を開けた板を何枚も用意して、必要に応じて取り替えながら使っていたのではござらぬか。 |
ご名答。そうです、いわゆる差込型の絞りですね。では、その穴の形は? |
それはまあ、普通に考えて「円」でござりましょうな。 |
ですよね。ではさらに質問します。円形によって光が入る面積をコントロールしようとする時、どのように円の大きさを変えるのが都合がよいと思いますか。 |
面積がちょうど倍、とか、ちょうど半分、ですかね。 |
はい、恐らく、当時の人々も、そう考えたのではないかと・・・思われます。 |
なんか急に歯切れが悪くなりましたね(笑) |
光学の研究は長い歴史があるので、誰が決め、誰が始めたのかよくわからないことも結構あるんです。これもその一つ。とにかく、決め打ちの絞り穴を作る時に、穴を小さくするには光が半分になるように、大きくするには光が倍になるように、そう考えるのが単純で分かりやすかったのだろうと思います。 |
なるほど。ところで、そのことと、あの変なF値の並びはどのような関係があるのですか? |
- 1群1枚目 設立趣意書
- 2群1枚目 凸に始まり、凸に終わるのであります。- レンズとは、なんじゃらほい
- 2群2枚目 だから「収差」というのです。- とっても収まらない話
- コラム:原田研究員からのメール - 「例のレンズタイプの件」
- 2群3枚目 焦点距離のナゾ- それはいったいどこからどこまでじゃ
- 2群4枚目 エフチの「チ」 - あの数字の並びはいったいどこから来たのか
- 2群5枚目 ガラス作りとコーティング - レンズの要を忘れるべからず
- 2群6枚目 謎の写真用語・説をめぐるアレコレ - あなたは「でっこまひっこま」を知っているか
- 2群7枚目 続・エフチの「チ」 - レンズの開放F値ってどうやって決まるの?
- 3群1枚目 レンズ設計ことはじめ - 設計者の描く理想とは
- 3群2枚目 シミュレータと設計者 - 完成レンズを見通す、見極める
- 3群3枚目 ズーム再考(最高) - そもそもは航空用語だったらしいです
- 3群4枚目 やっぱり単焦点が好き - 「単」とは言え複雑で奥深い
- 3群5枚目 続・やっぱり単焦点が好き - レンズに込められた設計者の想い
- 3群6枚目 「商品企画」というお仕事 - 商品が生まれいづるところ
- 3群7枚目 試作のプロフェッショナルたち (前編) - 設計図と完成品のはざまで
- コラム:原田研究員からのメール - 「交換レンズは3本まで」という法律について
- 3群8枚目 試作のプロフェッショナルたち (後編) - ものづくりの最終工程で行われる試作とは
- 4群1枚目 Zマウントはこうして生まれた - 100年間変えられないことを、考えて、決める
- 4群2枚目 フード首脳会談 - レンズ設計のその果てに
- コラム:原田研究員からのメール - レンズの楽しみ方案内