PHOTO YODOBASHI

ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン

PHOTO YODOBASHI

SIRUI 50mm F1.8 Anamorphic 1.33X

[ズーム] 広角 | 標準 | 望遠 | 高倍率
[単焦点] 広角 | 標準 | 望遠 | マクロ

SIRUIは三脚や雲台などでおなじみの中国のメーカー。ついにレンズも作ってしまいました。しかもちょっと特殊な「アナモルフィックレンズ」。主に映像での使用を前提とした、APS-Cサイズのイメージサークルをカバーする、マニュアルフォーカスレンズです。35mm判で75mm相当となりますが、1.33倍のアナモルフィックレンズということで実は37.5mm相当(横方向)の「広角レンズ」という扱いになります。この特殊なレンズ、像を歪ませ横幅を縮める効果を持った円筒形のレンズを備えています。何故わざわざそんなことをするのかと申しますと、後で横方向に伸ばしてアスペクト比の高いワイドな像を得るためなのです。この仕組みの歴史は1950年代に遡ります。当時は4:3比率のテレビジョンが一気に普及した時代。危機感を抱いた映画界はよりワイドな画面で対抗したのです。通常の機材でワイドな映像を得ようとすればレンズもフィルムも大型化しますが、アナモルフィックレンズなら感材の面積を変えたりレンズも広角化しなくても済む。考えたものです。当時は上映時に特殊なレンズを使って引き伸ばしていましたが、今はソフトウェアで同等の処理が可能。ある意味、デジタルだからこそ再び脚光を浴びている技術とも言えるかもしれません。面白そうでしょ。いまいちピンとこない?まあちょっと覗いていってください。

( Photography & Videography by NB / Text by TAK )

ご覧いただいた通り、最大の特徴は楕円形の前玉。この円筒形のレンズで像を歪ませ横幅だけを縮めます。当然、撮影時もファインダー/背面液晶では横幅が縮まった状態しか見えないのですが、見えている範囲は全部写るので、構図取りで支障を感じることはありません。操作部はフォーカスと絞りだけというシンプルな作りで、他にボタンなどは一切ありません。通常の50mmレンズとして見ても、特に扱いにくいと感じることはありませんでした。バランスが良いのでしょう。フォーカスや絞りのスムーズな動作も、動画撮影中の操作を前提としていることをうかがわせます。絞りはもちろんデクリッカブル仕様。クリック/デクリックの切り替えはありませんが、スチル撮影でもクリックが必要というわけではないのでこれで十分。作りにも精密感があり、カッチリ作ってある印象です。画質も期待以上。ソフトウェア処理を介するということで多少の画質劣化を予想していましたが、なかなかどうして、良い雰囲気ですよ。

SONY α7R III, SIRUI 50mm F1.8 Anamorphic 1.33X, 12500, F1.8, ISO 400, Photo by NB

動画紹介でご覧いただいた原板スチルを、今一度ご覧ください。APS-C判でのオリジナル比率は3:2ですが、動画モードでは当然16:9比率となりますので、それを反映させています。横方向が圧縮され少し縦長になったものを、後で横にグニャ〜っと伸ばす。すると、自然でワイドな映像が得られるという仕組みですね。なお、今回のようにフルサイズセンサー搭載機でご使用の際はそのままでは周囲がケラれますので、フォーマットの切り替えをお忘れなく。

SONY α7R III, SIRUI 50mm F1.8 Anamorphic 1.33X, 12500, F1.8, ISO 400, Photo by NB

こちらが横方向を1.33倍に処理した最終アウトプットです。75mm相当であっても横方向の視野は37.5mm相当となりますが、感覚的には35mmに近いので実はフレーミングしやすいです。その一方で比率にすると約2.4:1、つまり横幅が縦幅の倍以上になりますので、16:9よりはるかにワイドなのです。絞りは開放で撮影。動画紹介でもご覧いただいたように絞り込んでもみましたが、この距離では大きな差が認められず、開放から隅々まできっちり解像しています。フィルム時代のアナログ手法では周辺が甘くなりがちですので、これは嬉しいですね。絞り値同様、シャッター速度も動画では重要になってくるので、開放から実用になるのは大いに助かります。これより先は映像を見ていただくのが一番。ポップコーンでも片手に、どうぞご覧ください。


物語に没入できる、シネマスコープの世界

2.4:1という比率は、実はいわゆる「名画」などでも多用されてきた2.35:1比率の「シネマスコープ」と、ほぼ同じなのです。もうこれを見るだけで、自ずと映画を撮りたくなります。しかもただの動画ではなく、「映画」をです。ちなみにこちらも絞り開放。遠くの点光源に若干の色滲みが確認できますが(次の動画での波の反射も同様)、目くじら立てるほどのものではありません。それどころか総合的画質は全くもって良好であり、ストーリーに集中できます。安いから手を抜いたという印象は微塵もありません。

従来のアナモルフィックレンズは高価なプロ用というイメージだったのですが、本レンズは目を疑うほどにリーズナブル。憧れのシネマスコープ撮影を一気に身近にしてくれる、ありがたい存在なのです。この比率がピタリとハマる現場を探すのも楽しいのですが、気づきました。これは実に楽しい「映画ごっこ」であると。

映画ごっこを始めると、カメラワークにもこだわりたくなるというものです。こうやってカメラを動かす場面も頻繁にあると思いますが、水平方向ならいざ知らず、上下のパンだとピント位置も露出も変わってきますので、自分の意図通りになるよう調整しなければなりません。こちらは下から上への視線移動ですが、絞り開放でスタート、上に向くに従って少しずつ絞っています(当然、カメラの設定はマニュアル)。と同時に、フォーカスリングも最短付近からインフまでぐるっと。カメラの移動、絞り調整、ピント調整という3つの同時作業を2本の手で? そういう苦労もまた楽し、ですよ。

開放でのボケはかなり大きいです。人物を撮影しても相当ドラマチックになるでしょう。

なんとなくカメラを回していたら、絶好のタイミングで絶好の被写体が!スチルでもそれなりに絵になるシチュエーションですが、一瞬を切り取るスチルに対して、時間の流れを記録する動画のなんと雄弁なこと! 犬がどのぐらいのスピードで、どんな風に歩いているのか。この背後ではどんな音が聞こえているのか。つまりどんな空気がそこに流れていたのか。これは動画にしか記録できないことです。PYの読者のみなさんはやっぱりスチルの方が多いのかな?と予想していますが、ちょっとした風景を撮り集める、「動画によるスナップ」も楽しそうだと思いませんか。

自動車のヘッドライトのような強い光源に対しては、水平に伸びるきれいなブルーの線(ストリーク)が発生します。これはアナモルフィックの構造に起因するものですが、なかなかカッコイイでしょ。これならむしろエフェクトと捉えて、積極的に活用したいものです。

というわけで、映像の部は終了です。欲望と裏切りが渦巻くサスペンスものの雰囲気(?)に仕上がりましたが、撮影から編集まで、仕事を忘れるほどに楽しんでしまいました。必要なのは、このレンズとカメラ1台、あとは脚本と出演者。もうそれだけでシネマサイズの映画が撮れてしまうのです。なんだかワクワクしてきませんか。PYとしてはこのレンズで映画ごっこを強くお勧めしたい。記念写真のノリで十分です。10分ぐらいの小品でいいんです。演技力も高等な撮影テクニックも要りません。気の置けない仲間たちと一杯やりながら脚本を書く。「主人公はイケメンだから田中ね」「じゃあヒロインは当然アタシよね?」 配役が決まり、休日に撮影。ちゃちゃっと編集して、翌週にはオンライン観賞会。なんだか楽しそうじゃないですか。


SONY α7R III, SIRUI 50mm F1.8 Anamorphic 1.33X, 30s, F16, ISO 100, Photo by NB

スチル撮影にも堪える高い描写力

映像用ではありますが、スチルも撮影してみました。フォーマットが変わっただけとはいえ、やはり理屈抜きにカッコいい。そもそも超広角レンズではないので絶対的なワイドさはないのですが、ワイド「感」はかなりのものがあります。問題は、横幅が広がることで生まれる「間」をどう使うか、あるいはこのフォーマットに合った被写体を探せるか。このあたりも使い方の肝になると思われます。

SONY α7R III, SIRUI 50mm F1.8 Anamorphic 1.33X, 1/125, F8, ISO 1600, Photo by NB

じゃあ縦位置はどうなんだとやってみましたが、思わず笑ってしまいました。少し大きめのサイズでご覧いただきましたが、やはり超広角とは違ったワイド感(というより「トール感」?)があり、予想以上に面白いですね。F8まで絞っていますが、階段の一段一段のディテールに思わず見入ってしまうほど全域にわたってシャープです。

SONY α7R III, SIRUI 50mm F1.8 Anamorphic 1.33X, 1/320, F1.8, ISO 400, Photo by NB

まるで「椿三十郎」のワンシーンですよ。三船敏郎扮する主人公が、今にも「何でぃ!」と出てきそうじゃないですか。歪曲は出ますが、気にするほどではありません。テレビ番組の映像でさえ結構歪んでいたりしますが、それで内容が入ってこないなんてことはありませんから。開放でもコントラストは十分にありますし、周辺でも破綻がないところも特筆ものです。要するに、スチルのレンズとしても期待に応えてくれる性能を持っている、ということですね。


PHOTO YODOBASHI

「まるで映画のように」は、目の前だ。

SIRUIの母国語標記についてウェブサイトで調べてみたところ、「思鋭」(「鋭」は簡体字)と書いてありました。つまり、シャープなもの、とんがったものを考える・・・そんな意味を込めた社名とお見受けします。手の届くアナモルフィックレンズのマーケットは、これまで存在すらしていなかったように思います。そこにSIRUIは目をつけ、しっかり実用できるプロダクトを投入。本格的なシネマスコープ撮影へのハードルを、一気に取り払ってしまいました。肝心の画質も、特殊な構造のレンズであるにもかかわらず写りに妥協は見受けられません。デジタルカメラでは様々なアスペクト比が選べます。実際、複数のアスペクト比をシーンによって使い分けている映画も多いのです。その比率の選択肢がまたひとつ増える。これは大きな武器となります。

スチルと映像は既にボーダレスの時代。我々は今、映像史上もっとも自由な世界に立っているのです。でも立っているだけなんてもったいない。このレンズで、映画のように渡り歩いてみませんか?

NB@PHOTO YODOBASHI

( 2020.10.12 )

Loading..
Loading..

世界初の、手が届くアナモルフィックレンズ。今回ご紹介したソニーEマウント用です。

価格:Loading..(税込) Loading..Loading..)
定価:Loading.. | 販売開始日:Loading..
Loading..
Loading..
Loading..

この価格は良い意味でキケンです。そして安全な投資です。M4/3マウント用です。

価格:Loading..(税込) Loading..Loading..)
定価:Loading.. | 販売開始日:Loading..
Loading..
Loading..
Loading..

フジフイルムXマウント用です。エテルナが、待ってます。

価格:Loading..(税込) Loading..Loading..)
定価:Loading.. | 販売開始日:Loading..
Loading..
Loading..
Loading..

シネマの傍らには、いつだってこれがあります。いい脚本が、「ポン!」と浮かんでくるかもしれませんよ。

価格:Loading..(税込) Loading..Loading..)
定価:Loading.. | 販売開始日:Loading..
Loading..
Loading..
Loading..

映画に必要とされる要素の全てが揃った、あっという間の96分です。豪華俳優陣の桁外れの名演もお楽しみください。

価格:Loading..(税込) Loading..Loading..)
定価:Loading.. | 販売開始日:Loading..
Loading..
Loading..
Loading..

「椿三十郎」はこの作品の続編であり、ここから「荒野の用心棒」が生まれました。カメラワークの参考にもどうぞ。

価格:Loading..(税込) Loading..Loading..)
定価:Loading.. | 販売開始日:Loading..
Loading..