PHOTO YODOBASHI

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ソニーEマウント完全レビューブック
巻頭口絵 プロダクションノート

Vol.3 絶唱 隠岐の島ブルース(by Z II)

2017年の秋も深まった頃、編集会議で巻頭の撮り下ろしページを担当することが決まった。使用機材はSonnar T* FE 55mm F1.8 ZA。「Z IIにしか撮れない写真を、オール開放で」というお題。ならばと、生まれ故郷の隠岐の島で人を撮る企画を出したら意外にもすんなり通った。

さて、誰を撮ろうか。島を出てずいぶん経ちますが、僕の中にある島の人たちのイメージは「人情に厚い」。だから人情が滲み出るような写真が「自分にしか撮れない」ものだと思うのですが、もちろん被写体に演じてもらうのではなく、完全なリアルの中から滲み出るものを撮らねばならない。それでいて写真に引き込ませるチカラのある人物像・・・というのが条件。うーむ。さんざん悩んだ挙句、最終的に二人に決めた。一人は過去の隠岐の島を語る80代の現役漁師。もう一人はこれからの隠岐を見つめる若女将。この両極のような二人のリアルな姿を写しとることで、隠岐の島という、聞いたことはあるがほとんどの人が行くことは無いと思われる島の、なんとなくの実像が浮かび上がると思ったのです。

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「ちゃんぽん」と言えば長崎だが、実は隠岐でも名物だ。歴史的に、この島はいろいろな文化の影響を受けてきたからだろうか。これは島の空港で食べたもの(空港があるのだ)。見た目はちょっとアレだが、「まぁいいけん、くわっしゃいの」(いいから、ひとくち食べてごらんなさい)。その通り、これがしみじみと、実にうまい。

漁師のおじいさんは、実は私の親戚。当然、小さい頃からよく知っている。本人には言ってませんが、子どもの頃はちょっと苦手な人でした。というのは、いつも大きな声で笑ったり、だれかれ構わず熱く説教したり、時には「そげなことじゃいけん!」と怒鳴り散らしたり、はたまたお酒の席ではハメを外し過ぎたりと、それはそれは豪快なおっつぁんで、子供にはちょっと近づき難い雰囲気があったのです。それが今やすっかり優しいおじいさん。いや、本当は昔から優しかったのかとEVFごしに熱いものがこみ上げてきて、子供の頃にもらったお年玉のお返しと思いながらシャッターを切りました。

撮影の日は朝から雪がちらつく空模様。漁師のおじいさんに舟を出しての撮影は難しいですか?とやんわりと聞くと、「今日はダメだな」とあっさり断られた。「明日も分からんぞ」というので網の補修仕事を撮らせてもらう。網を直しながらおじいさんが話してくれたのは、若い頃の話や、いろんな仕事をやって昭和を生き抜いてきた男のナマの話で、それを照れ臭そうに話す姿がとても印象的でした。この世代が話す隠岐の方言は、僕にとってはとても心地よいものですが、僕の子供の世代にはもう理解不可能だろうなと思うと、なぜ録音しておかなかったのかと後悔。

その日の夕方、風が止んできたので舟を出せそうだと連絡が入った。慣れた手つきで舟小屋から舟を出す。舳先にちょこんと座るのは叔母さん。カメラを向けると照れ臭そうに顔を隠す。隠岐の人は恥ずかしがり屋だ。

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一方、「ゲストハウス佃屋」の女将、古川咲季さんは、知ってはいましたが実はほとんど初対面。ちゃんと話をしたのは電話で今回の企画の話をした時でした。一人目のモデルがおじいさんでしたから、どうにか若い人で行きたかったので無理にとは言いませんが是非とも・・・とお願いしたところ、これまた意外にも「面白そうですね」という反応で、なるほど隠岐の島に興味を持ってしかも移り住むくらいのお人は、ちょっとやそっとじゃ気後れなどしないわな、と妙に納得。しかし実際会ってみるとなんとも華奢な身体にフワッとした雰囲気の、可愛らしい女性でした。もんぺ姿におんぶ紐、ノーメイクで現れたのにはちょっとだけ驚きましたが、「全部オッケー!」と心の中で叫びました。こういう場合、隠岐生まれの女性なら間違いなくヨソ行きの格好に厚い化粧をしてきます。まぁそれも一つのリアルなんですけどね(笑)。

周りに撮りたい人はいますか?知り合いの、それも自然な姿を撮るのは意外とハードルが高いものです。でもほんのちょっとのきっかけで、例えば今回のように「すごくいいレンズを買ったから、ちょっと撮らせてよ?」と言って撮らせてもらうのもアリですね。奇をてらわず、ただただ無心で写真を撮る。それだけで、人生はいつだって楽しいと思えてきます。

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撮影総数は418カット(ちゃんぽん含む)。ある程度はアガリのイメージを固めていたが、自然な姿を収める撮影ではまずその通りになんて行かないし、自ずとシャッターを切る回数も多くなる。黄色い枠で囲んだのが採用カット。小さ過ぎて見えませんがね。

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( 2018.05.23 )

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