PHOTO YODOBASHI

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ソニーEマウント完全レビューブック
巻頭口絵 プロダクションノート

この特集のトップページにも書いた通り、「ソニーEマウントレンズ 完全レビューブック」が5月17日、玄光社より刊行されます。この原稿を書いているのは4月25日の夜ですが、本日、無事に校了いたしました。パチパチ。ほんのちょっとだけ、その制作過程を振り返ってみます。

PHOTO YODOBASHI これは「台割」と呼ばれる、本全体のページ割りを示したもの。言うなれば「本の設計図」ですね。まずはこれを構築するところから全てが始まります。実際にやってみると(実際の本に仕立てるためのいろいろな制約があるので)、これがまるでパズル。気がつくと「アチラを立てればコチラが立たず」状態に陥っています。しかも頻繁に変更や組み替えが発生する。なかなか大変です。

PHOTO YODOBASHI 印刷原稿はInDesignというアプリケーションを使って作られます。表紙や誌面のデザイン含め、ここは編集部TTが担当いたしました。

PHOTO YODOBASHI 印刷所から「色校」と呼ばれるゲラが上がってきました。この本は写真の美しさがどれだけ紙の上で表現出来ているかがすべて。これを見て、本番の印刷に対する指示を細かく書き込んでいきます。紙の種類による特性のこと、印刷方法のこと、専門用語・・・いろんな知識がないと出来ない作業です。ここは編集者としての経験が豊富なRicaにぜんぶオマカセ。

もちろん内容は是非お手に取ってじっくりご覧いただきたいのですが、今回は4人の編集部スタッフが撮影した巻頭口絵を、堂々の34ページにわたって展開しています。「寒いとこ苦手なんだよなあ・・」とボヤきつつ厳寒のロシアへ旅立った者。ひたすら琵琶湖の白鳥を追いかけた者。自分の生まれ故郷の島で、あらためてそこに暮らす人を撮った者。被写体と真正面から対峙した、シンプルだけど力のあるポートレートに挑戦した者。4者それぞれが、それぞれの思いを込めて、ソニー製レンズの魅力を余すところなく発揮した写真を撮ってまいりました。当然ながら実際に誌面に載るのは、撮ったカットのほんの一部。一点のカットを、セレクトから漏れた膨大なカットが下支えしています。そして撮ったカット数は、撮影者がかけた時間ともほぼ比例します。そんな撮影の苦労話、こぼれ話を、撮影者自身に語ってもらいました。


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Vol.1 琵琶湖コハクチョウ物語 SWAN SONG(by TAK)

Call of nature

巻頭口絵で「自然風景」をテーマとした撮影を拝命し、コハクチョウ撮影を含むロケ全体の計画を立てました。が、あまりにも壮大であったため(爆発中の火山を撮るとか)、もっと絞るように言われました。どう絞るか悩んでいたところ、「いっそのことコハクチョウだけでいったら?」という編集長のひと声が。これで自分のスイッチが入りました。撮影日は割と突然決まったのですが、まあいつものことです。ただし期間は12月中旬の1週間。野鳥を見るのは好きですが、まともに撮ったことがない自分に本当に出来るのか、一抹の不安もありました。まあそれもいつものことですけど。

選んだロケ地は、湖北(琵琶湖北部)長浜市の湖北野鳥センター付近と、湖西の高島市周辺です。成功率を上げるために数が多いところに行くという単純な作戦です。探鳥地は他にもありますが、ひとつこだわったのは人が餌付けをしていないことです。野鳥への給餌に関しては賛成でも反対でもありませんが、餌付けをしているところでは恐らく人が多く、被写体の野性味を感じにくいのではという憶測がありました。

まずは現場へ。この時期のコハクチョウは朝8時前に湖を離水し餌場に向かいますので、それに合わせて自宅を5時台に出ます。早起きは辛くはありません。気になってその時間には起きているからです。登山用のウェアに身を包み、あんパンと牛乳という張り込み班のような食料を買い込み、琵琶湖へと車を出す日々。車窓から見える琵琶湖の朝焼けの美しいこと。撮っていたら離水に間に合わないので、見るだけにして一路目的地へ。いましたいました。プカプカと優雅に浮いています。何だかおしゃべりもしてますね。可愛いなあ。離水にはちょっと早いようですので、ひとまず車内でモグモグタイムです。とそこに吹雪が!これは絵になると勇んで車を出てカメラをセットしていると、お腹に痛みが。。。どうやら牛乳が猛威を振るいはじめたようです。吹雪なんていつ収まってしまうかわかりませんが、お腹は急激に危険水域へ。「自然」はレンズの向こうだけではなく、我が体内にも存在しているのです。断腸の思いで最寄りのコンビニへと(4km先)車を走らせ、「北近江、牛乳の乱」を無事平定。すぐさま現場に戻りましたが、結果は「too late」。我ながら見事なオチです。

写真をやっていると、撮れた瞬間よりも撮れなかった瞬間の方がはるかに多いものです。しかしこの時ほど悔しい経験はなく、そこから更にスイッチが入ったように思います。まずは離水シーンを狙いましたが、コハクチョウとの距離が遠い。そりゃそうだ。野生ですから人を警戒するのは当然です。彼らは航空機と同じように風上に向かって離水すると聞いていたので、風上で待ち受けます。すると彼らは見事に私を避けていく。では横からならとポジションを変えると、またまた一定の距離を保たれて中々迫れません。こういう時のポジションチェンジのハラハラ感はたまりませんね。自分がさっきまでいたところに向かって飛んできたらどうしようと気が気じゃない。なんとか何枚かはそこそこのサイズで撮れましたが、やはりもっと迫りたかったのが本音です。

離水後、彼らが向かうのは最寄りの休耕田です。彼らだって無駄に距離を飛びたくないわけですね。そこでひたすら稲の地下茎などを食べます。本当にずっと食べているのですが、こういう時は警戒心が薄れるのか、かなり間近で撮ることができました。少しホッとしまして、思わず「ありがとう」と声をかけました。ただあまりにもシーンや色に変化がないので、一旦撮影をストップ。お腹が空いてきたので、道の駅にて湖北名物「うなぎのじゅんじゅん」(お肉の代わりにうなぎの入ったすき焼き)に舌鼓を打ちます。するとアドレナリンが切れたのか、疲れがどっと押し寄せます。こりゃ夕方の着水まで持たないと判断し、10キロほど離れた温泉に向かい陶板浴でリフレッシュしました。日本は本当に良い国ですね。

コハクチョウたちは夕方4時半頃から次々と湖に戻り始めます。静まり返った集落。彼らの羽音のみが聞こえてきます。「ギュイギュイギュイ」という意外な音がするのですが、頼もしく心安らぐ音です。飛行の姿もどこまでも美しく、カッコ良い。自力で飛べるってずるいです。これでシベリアから渡って来るんですからね。偉大にもほどがありますよ。

一週間こんな日々を過ごしたのですが、撮影カット数は合計で8,000カットは超えていたと思います。面白いのは、ダメな日は一枚もうまく撮れないのに、上手くいく日は短時間で次々とナイスショットが撮れたことです。ここにほんの一部、250カットほどを並べてみましたが、同じ日の同じ時間帯に採用カットが多く撮れているのですよね。光が良かったこともあります。ただ通常のロケでもそうですが、物事には波というか、集中する時とそうでない時があるのだと改めて思いました。野鳥撮影は本当に難しいのですが、季節や気象条件や鳥以外の生き物など、自然を直に感じることができる、実に奥深い世界だと感じました。

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撮影したカットのごく一部。撮影は全部で8,000カット以上。それに対して最終的な掲載カットは13カット。そのうち4カットがここで見える範囲にある(黄色い枠で囲ったもの)。ということは、この日の撮影は奇跡的とも言える歩留まりだったということ。

しかし、これだけ撮るとセレクトも大変。当然ですが全カットをしっかり見て吟味する必要があります。全データをパソコンに入れたらパソコンが悲鳴をあげるので、まず一次選考としてはカメラ内でまともに撮れてないものを毎晩削除。選ぶこと自体は難しくありませんでしたが、指がつりました。二次選考はパソコン上にて、コハクチョウが懸命に生きている様が出ているものをポイントにして選びました。三次選考では光、色、ポーズ、表情をポイントに。自分自身によるセレクトはここまで。この時点では80カットぐらいでした。ここから先は編集部でのセレクトに入りますが、自分が特に気に入っていたカットもあれば意外なものもあり、他人に選んでもらうのは面白いし勉強になります。

今こうしてアガリを見ていると、嬉しくもあり恥ずかしくもあり後悔もあり複雑な気分です。しかしそんな私でもなんとか形にできたのは、α9の比肩無きAF性能とブラックアウトフリーの高速連写、そして3本の高性能ソニーレンズのおかげです。特にFE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSSにはベタ惚れですよ。こんなに美しくエモーティブに写る望遠ズームを私は知りませんし、今回の(マイルドな)成功体験がきっかけで、野鳥撮影の世界に足を踏み入れることになったのでした(勢い余って日本野鳥の会にまで入ってしまいました)。良い機材というのは、自分の世界を拡げてくれますね。(TAK)

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これが日本野鳥の会の会員証。この撮影以来、寝ても覚めても鳥のことばかり考えている毎日です。いっそ鳥になりたい。

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( 2018.04.27 )

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5月17日いよいよ発売。フォトヨドバシ・レビューブックの第三弾はソニーEマウントレンズを徹底レビューします。今なら電子書籍版が無料でセット!

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こちらは電子書籍リーダー「Doly」でお楽しみいただける電子書籍版です。

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