フォトキナとは、世界中から出展が集結し、西暦偶数年に行われる世界最大の映像関連の見本市。カメラ・写真好きなら一度は耳にしたことがあると思います。ドイツのケルンというライン川の畔にある街で開催されるのですが、既に50年以上の歴史を持ちます。今年の開催期間は9月18日〜23日の5日間。1200を越える出展と、18万人近くの入場者が見込める見本市とあって、まさに2年に一度に行われるカメラ界のオリンピックといった様相です。カメラメーカーもフォトキナに合わせて新モデルの発表や投入を行ったりすることが多いのですが、これだけの規模となればそれも頷ける話。会場で直接商談が行われますので、出展社はフォトキナ開催からの2年間の商いを占うような意味合いも出てくるわけですね。これだけ通信の世界が発達している中ですから、新モデルの情報などは瞬時に世界中に広まります。実際にフォトキナ近辺で発表されたニューモデルなどの情報はこのページをご覧の皆さんの方がよくご存じだと思います。しかし、商談までは"通信"に載るのではなく、やはりフェイス to フェイスでしょうし、展示スペースには一般のお客さんも招いての見本市ということもあり、出展社のいわゆる「世界観」を表現するにはもってこいの機会。つまり、フォトキナを見ることで、カメラや写真の世界の趨勢を垣間見ることができると思います。このあたりにスポットを当てて、2012年のフォトキナをご紹介したいと思います。

( 写真:A.INDEN & K / 文:K )

上の写真は、フォトキナにて開催前夜に行われたライカブースでの新製品発表会にて撮影。今回ライカ社が群を抜いたスペースを借り切っていましたが、製品展示スペースも贅沢な空間の使い方でドンと広いのですが、そのスペースよりも広かったのではないか!?と思える写真ギャラリースペースも併設。展示コストを考えれば、製品展示スペースももっと切り詰められるでしょうし、写真ギャラリースペースを申し訳ない程度(?)に・・・と考えてしまいますが、ライカ社を表現し、体現して貰うにはこれぐらいのスペースが必要だったのでしょう。ライカ社のスペースは特別広かったのですが、他のメーカーのブースも同様の傾向。日本の映像見本市を見慣れていると、もう圧倒的なスケールに、まさに圧倒されてしまいます。

こちらも開催前夜・ライカ社の新製品発表会にて。皆必死にカメラをカメラで撮るという、ファインダーを覗きながら不思議な気分になったシーンでした。新製品が投入されたブースでは、どこもタッチアンドトライの輪が二重三重に。

展示スペースも凝りに凝っています。ドームとなったCarl Zeiss Makro-planar 2/100 ZE。閉幕後どうするんだろう??と思ってしまったのでした。

こちらはハッセルブラッドのブースにて。デモ撮影用に鎮座するイタリアの雄・フェラーリ。一体誰のだろう?と、これまた要らぬ世話をしていると、ドアにオーナーらしきステッカーが。恐らくイベントに車屋さんが相乗りしているのでしょう。まさにカメラと写真のお祭りです。

ドラマのメイキング映像に出てくるような大型の送風機。いったい何をやってるんだろうと観察してると「ブーン!」と轟音響かせて回り始めました。どうやら入場客の皆さんを捕まえて風を興しての撮影デモのようです。屋内だけでなく、屋外でも結構奇想天外なデモが行われていました。

こちらは何だと思われます? 「クエー」と鳴くから何だと思いきや、空の遊撃手が。。。50m近く離れたところに双眼鏡のブースが。いやはや。

 

会場自体は幾つもホールが点在し、しかも複数階に分かれているホールも。一日ではとても回りきれないほどの規模で、とにかくありとあらゆるものの展示ブースが。カメラメーカーの大規模なブースから、ライティング、撮影小物、ソフトウェア、中には単一の部品だけなんてブースも。とても紹介しきれませんので、会場の雰囲気を掴んで頂けるよう、いくつかピックアップしてお届けします。

レンズの汚れ(それもかなり汚い)に気がついた、ライティング回りのブース。クリップオンストロボから、モノブロックストロボ、各種のライトバンク、車のような大物を撮影する際に使うライトなど、それはもうありとあらゆるライトが並びます。ライティングだけで1会場を占拠してるような状況です。

コンバージョンレンズだけを展示したブース。な、なぜ??と思うのですが、編集長曰く、交換レンズよりもコンバージョンレンズが売れる地域があるそうです。世界は広し。

印象深かったのが、アルバムや額装関連、紙のみならず各種の特殊プリント、フォトブック、大型ディスプレイやインスタレーション用プリント、業務用現像機やプリンターなど、各種の出力関連の展示が非常に多かったこと。日本はどちらかというとハードに注目が集まる印象がありますが、世界を見ると写真を見る・飾る楽しさに満ちあふれています。実に多種多様なサービスや商品が展示されていました。

これ何だと思われますか? 詳しいことはよくわからないのですが、写真から3Dデータを起こし、何らかの細工を施して、内部を彫刻した状態になっていると思われます。何の説明にもなってないのですが・・・。下部より白色LEDで照らすと、立体像というより立体そのものが浮き上がります。

 

開催会場を展示製品やサービスが埋め尽くすのではなく、写真ギャラリースペースが各所に割かれていたのも印象的でした。メーカーが主催するAWARD作品、写真展示だけを純粋な目的としたスペースなど、その姿はそれぞれですが、ともかく各所に展示されています。写真を撮るだけではなく、見る・飾る・そして表現するまでを一括りにしたイベントなのですね。そして多くの人達が写真の前に立って見入っていました。

日本からも震災そして復興をテーマにした写真展「生きる」が開催されていました。目を覆うような凄惨な光景から、復興に立ち向かう人々の姿を捉えた様々な写真が展示されていましたが、多くの人達が足を止め見入っていました。いろんな意味で写真が持つ力を感じさせられた展示でした。恐らく展示に際してのセレクトは、膨大なカットの中から行われたと思われますが、タイトルに結実する素晴らしい仕事だと感じた次第です。

 

各社のプレゼンテーションがこれだけ一堂に会するのは見本市ぐらいで、会場に足を運べば、各メーカーのスタンスやアプローチ、またはカメラの世界全体の状況などがうっすらと見えてきます。そこで会場を後にして感じたことをいくつか記したいと思います。まずはデジタルカメラ単体のお話しから。デジタルカメラを構成する各種のコンポーネンツやテクノロジーというのは今後も絶え間なく革新されていくものだと思いますが、カメラとして成立させるために必要な基礎的な要素の積み上げに躍起だったフェーズをいつの間にか抜けて、一つ一つの要素を磨き、そして統合していくことで、道具としての完成度を高め、なおかつ「ユーザーに如何に楽しんでもらえる物にできるか」といったことが焦点になってきている印象を受けました。これは、普及価格帯に近づいてきたエントリークラスにおける35mmフルサイズセンサー搭載の一眼レフのリリースや、ややもすると違いを見いだせないほどに同一メーカーのラインアップ内でモデルがオーバーラップしたりと、ともかく豊富な選択肢が目の前に拡がるといった状況に加え、SNSをはじめとするネットワーク上のサービスと融合することで、ユーザの日常にシンクロしたような従来のカメラという枠を越えたモデルの出現、さらには往年のフイルムカメラにインスピレーションを得た非常に趣味性の高いモデルの出現など、ともかくカメラの世界が横方向に拡がっていると感じるのです。この流れは当面続くと捉えるのが妥当だと感じますが、横方向に拡がれば拡がるほど、やがてマーケティングに過ぎ、マーケティングに飲まれ、カメラという道具が本来持つ魅力や力が、モデルの没個性化という表層をまとい失われてはいかないか若干心配になってしまいます。しかし、今回会場で実際に開発に携わる人々のお話を伺うことができましたが、そこで実感したのは、まだまだデジタルカメラの世界は始まったばかりといった印象で、これからどんどんと楽しくなりそうな予感がしました。詳しくは後日インタビュー記事でお届けする予定ですが、開発陣の皆さんは、手の内に入れた一つ一つのデバイス、そしてテクノロジーで、「昨日できなかったことを今日実現する」といった山積みのテーマを一つ一つクリアしていっているといった印象です。つまり「もっともっと実現したいことがある」ということですね。「小手先で丸めたモデル」なんて出てきそうにない、嬉しいお話を聞くことができました。

さて、もう一点。このページの上の方にも記しましたが、会場を見て最も印象的だったのが、写真を飾り写真とともに暮らしていく、そんなカメラから”先”の楽しみが、日本より世界の方が圧倒的に展開されていることです。端的に出力一つにしても、プリントそして額装、フォトブックと、ありとあらゆる製品やサービスがあるといった状況。メーカーの皆さんが一心不乱に「確実に写る」を実現していく中、誰でも気軽にシャッターを切ることができて、写真を楽しむことができるようになりました。そうなると、今度はどう表現するかとなってくるのは必然の流れですが、これも既にカメラ作りの中だけでも見受けられるようになってきました。次は「どう飾るか、どう寄り添うか」。このあたりのシーンが盛り上がっていくことを願ってやみません。会場を見ていて我々も色々なヒントをもらった気がします。PHOTO YODOBASHIでも、ぜひこのあたりの楽しさを今後追っていきたいと思います。ぜひ、ご期待ください。



時間の関係で会場全てをくまなく回れたわけではありませんが、フォトキナ開催前/開催期間中に発表された新製品を中心に撮り歩いてきました。
既に皆さん情報はお持ちだと思いますが、あわせてご覧いただければ幸いです。