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Leica M10, Noctilux-M f1.2/50mm ASPH., Photo by K

LEICA Noctilux-M f1.2/50mm ASPH.

ライカが"復刻版"と謳うシリーズには、Thambar 9cm、Summaron 28mmとありますが、極めつけの1本がこの「Noctilux-M f1.2/50mm ASPH. 」でしょう。オリジナルは1966年から1975年まで製造され、シルバーのプロトタイプ数本を含め1762本が世に送り出されています。そのうち何本が現存しているか不明ですが、いずれにせよコレクターズアイテム化するのは必然の本数でした。今から15年ほど前、その当時の中古価格で50万円前後でしたでしょうか、一度手に入れようと真剣に思い悩んだことがあります。当時銀座あたりの中古カメラ店で何本も見比べることができた時代でした。結局のところ財布と相談してF1.0の方をチョイスしましたが(10万円台でした)、あの時買っておけばよかった!といった昨今の高騰ぶりで、クラシックカー同様、日本の中古品は品質が高く、相当数が海外に流れたと聞きます。そんなレンズを、当時の構成で、できる限り再現してリリースしようという話ですから文句なくありがたい話です。世界で初めて非球面が採用されたレンズであり、当時は大半が手磨きだったそうです。少なくとも4〜5本は短い時間で試したことがありますが、経年変化やコンディションも含めてオリジナルはかなり個体差があります。硝材、設計技術、製造技術も当時とは異なりますが、ライカは相応に複数のレンズをサンプル取りした上で今回の復刻版をリリースしていると想像されます。そんな意味では、オリジナル以上にオリジナルな仕上がりなのではないかとテストが楽しみでした。全弾絞り開放、早速作例をご覧いただきたいと思います。

( Photography & Text : K )

Leica M10, Noctilux-M f1.2/50mm ASPH., Photo by K

まず開放で(常に?)、最短での撮影を試してみましょう。ピント位置はフロントのスクリーンを止めているビスです(ミラーの付け根あたり)。なんとも妖艶でクラシカルな写りです。ピント位置からヴェールのような滲みを伴って濡れるようなボケに繋がっていきます。好きな人には、たまらない描写でしょう。また、現代のレンズではあまり見られなくなった描写だろうと思います。

Leica M10, Noctilux-M f1.2/50mm ASPH., Photo by K

ピントを置いたポイントはそれなりにシャープに写ります。そこからジワっと滲んでいく特徴を活かすと面白い画になると思います。こんな鉄モノのを写す場合、ディテールが立ち上がって見えるようにシャープでスッキリとした描写傾向のレンズが向く場合が多いのですが、佇まいを写すようなアプローチにはよいでしょう。カットの中で、金色の丸が二つあります。これは前のサスペンションで、手前側はまるで寝起きで見るような、、霞んだように写ります。その右上にある黒い丸はブレーキのフルードを入れるタンクなのですが、こちらも同様です。このあたりの癖を使いこなすと、印象的な画が撮れるのではないかと思います。

Leica M10, Noctilux-M f1.2/50mm ASPH., Photo by K

上のようなカットよりも、アンダー気味に切り詰めて被写体が浮き上がるように写す方が面白いと思います。最短付近のボケの特徴がよくわかります。しかしなんと色気のある写りだろう。目で見たとおりに写るなら自分の目で見るわ!といった熱い皆様には、響くレンズかもしれませんね。

Leica M10, Noctilux-M f1.2/50mm ASPH., Photo by K

最短から少し距離を取った作例です。オリジナルと違いを感じた一枚で、本来であればもっと背景のボケはザワつきます。つまり2線ボケ傾向なのです。復刻版は少し角が丸まった印象です。ピント位置まで1.3m程度でしょうか、髪の毛にピントを置いています。ボケの前も後ろもザワついて、特にピントを置いた髪の毛は細い線の集合体のため、ここがザワつくとまるで手ブレしたかのように目に映ります。クラシックなレンズは、現代のレンズのように全域キチッとコントロールされたものではないため、個々の癖を把握しておく必要があります。このあたりを面倒だと思うか、面白いと思うかですが、いずれにせよ道具ですから完璧なものなどありえません。だとすれば、このレンズのようにある意味振り切っている方が付き合いやすいかも。価格はもう少しお近づきになっていただきたいのですが。


Leica M10, Noctilux-M f1.2/50mm ASPH., Photo by K

暑くもなく寒くもなく、よい季節です。ちょっと撮らせて貰ってよいですか?と聞けば、みなさん大抵「どうぞー」と言ってくれます。液晶モニターをお見せすると気に入っていただけたので、その場でスマホ越しにデータを渡しました。便利な時代です。考えてみればこうしてすぐ見せることができるので、フィルム時代よりもお願いしやすいかも。シャワーの水が当たらないぐらいの距離での撮影ですが、いわゆる「ぐるぐるボケ」の片鱗が。水滴には各種の収差が見受けられます。光の棲家と言うべきか、堪えられない描写です。

Leica M10, Noctilux-M f1.2/50mm ASPH., Photo by K

生後半年というワンちゃん。嬉しそうに波打ち際を走り回っていました。嬉しすぎてお顔が泥まみれ(笑)外房の海は、その向こうが外洋であることを知らしめるかのように、いつもそれなりに波の高さがあります。波打ち際は潮煙り、特に反対方向へ沈む夕暮れ近くは光が拡散して実に美しい。柔らかな滲みが、その包み込むような光の雰囲気をよく再現してくれました。

Leica M10, Noctilux-M f1.2/50mm ASPH., Photo by K

オリジナルはもっとボケに輪郭があってザワつく感じですが、F1.2のNOCTILUXといえばこんな印象です。使いこなし甲斐があるでしょう? ちなみに被写体となっているのは、編集部員の傾斜地に鎮座する森に還りそうな自宅です。

Leica M10, Noctilux-M f1.2/50mm ASPH., Photo by K

蝋燭の火で撮ることができると言われたノクチらしく、夜の景色いってみましょう。手すりが滲むと少しイメージとは変わってくるため、実際に見た光量よりも少しアンダー目に切り詰めています。ハイライトの滲みを抑え込むと、ピント部分のキレがよく分かると思います。いいですねえ、歪曲も殆ど感じられません。これがF1のNOCTILUXだとなかなかな樽型なのですが。

Leica M10, Noctilux-M f1.2/50mm ASPH., Photo by Kえーっと、ISO 5000ですから蝋燭の火を下回る光量だと思われます。ノイズが載るせいもありますが、ボケの特性もあわせて、すこし念がこもるような写りです。

Leica M10, Noctilux-M f1.2/50mm ASPH., Photo by Kピント位置とバックとの距離が変わるとご覧の通り。とろけるようなボケ味。それも油分多めの、量感のあるボケ味です。不思議と嫌味がない。

Leica M10, Noctilux-M f1.2/50mm ASPH., Photo by K

閉店後の居酒屋さんの厨房。明るいレンズでなければ夜の撮り歩きは厳しいですが、たまにやると本当に楽しいものです。

Leica M10, Noctilux-M f1.2/50mm ASPH., Photo by K


Leica M10, Noctilux-M f1.2/50mm ASPH., Photo by K

さて、撮り比べてみましょう

左から「復刻版F1.2」「オリジナルF1.2」「F1(E58)」「F0.95」となります。一体幾らするんだ・・・。昔はライカで家一軒建つと言われてましたが、現代ではこのラインアップ合計でも建ちません。みなさま、ぜひ胸に希望を。カメラは三脚に固定(多少動いたりします)、ピント位置はPCのコーナーで、露出は分かりやすさから全レンズ固定としました。※全て画像のクリックで拡大します。

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いかがでしたか?あえてキャプションは添えませんが、撮り比べてみるとよく分かるもので面白いですね。なお、オリジナルのF1.2は、私が試した中でもダントツに「当たり」だと感じました。オールドレンズは、それぞれの使い方と接し方で時を経て手元に辿り着くわけで、本当にマチマチなのです。そもそも製造の詰めの厳しさも現代とは雲泥の差ということもありますが。気に入ったレンズを何本も買って試す人たちがいますが、つまりそういうことなのです。業の深い話で、財布に穴が開くどころか井戸が掘れそうな遊びです。そのうち温泉やら石油でも当たればよいのですが、自己満足という名の無駄掘りですからねえ。これまた、満足なんてするわけありませんが(笑)


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新品で買えるF1.2に評価を

どんな人も物も、時代を超えていくことはできません。その時代にしか生きられないわけです。従って、オリジナルに忠実に再現した復刻版といえども、当たり前のようにオリジナルではないわけです。中古を手に入れても時は巻き戻せないわけで、新品時の描写はその時手にした人たちにしか分かりません。オリジナルが入手できないからと、復刻版に手を出す。OKでしょう。オリジナルでないことに引け目を感じる、OKでしょう。万事、OKです。大事なことは、今手にできるこのF1.2をどう評価するかということです。あくまで私の話ですが、オリジナルF1.2に興味はありましたが、F1の方を所有したこともあって熱はさほどありませんでした。しかし復刻版を今回テストして正直欲しくなりました。もちろん、復刻版の方です。オリジナルと描写はそっくりといえばそっくり、違うといえば違います。F0.95まで含めて同じベクトル上にあるレンズたちで、そこが面白いなあと。この復刻版を企画したり設計や製造をしたみなさんも創業時から居るわけではありません。言うなればマーケットでのわたしたちと同様にフォロワーの1人なのです。ライカとは、NOCTILUXとはと、"看板"の下で、ライカが遺してきたムーブメントの真ん中で皆さんが送り出してきたレンズの1本、それがこの復刻版レンズだろうと試してみて感じます。写りはもとより、手の内でしっとりと馴染む良い物感に溢れていました。どうやら世界中でオーダーが殺到している模様で、手に入れるにはオーダーの列に並ばなければなりません。これが、このレンズの様々な意味での評価なのかな、そう感じるテストであり、楽しいひとときでした。

( 2021.11.10 )

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ヘリテージ・リミテッド・エディション第三弾は弩級の本レンズとなりました。とんでもなく高価になってしまったオリジナルに比べれば、こちらは冷静を保てる価格…だと思われます。

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保護フィルター代わりとしてもお使いいただけるUVフィルター。

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