PHOTO YODOBASHI

ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン

LEICA M Monochrom, SUMMARON-M F5.6/28mm, Photo by A.Inden

LEICA SUMMARON-M F5.6/28mm

焦点距離28mm、開放値F5.6、最短撮影距離1m、数値だけで見ると、半世紀前のスペックですね。このスペックで新製品だというのが驚きです。ライカが1955年に発売したSummaron 2.8cm F5.6を4群6枚というレンズ構成を変えずに復活させました。「赤ズマロン」と呼ばれ親しまれたこのレンズ、ライカ最初の広角レンズとして1935年に発売されたHektor 2.8cm F6.3の後を受け、半段明るく、絞りがクリック式と使いやすくなって登場しました。その描写は開放からシャープでコントラストが高く、派手な色ではないのですが深い色合いが特徴かなと、発表された作品を見て感じていました。中途半端な言い方で申し訳ありません。実は筆者は「赤ズマロン」を実際に使ったことがありません。(※レンズの詳細についてはレンジファインダーサイトをご覧ください)「28mmは赤ズマロンに限るよ」と言う評判を聞くにつれ、どうしても使ってみたい(所有してみたい)レンズの1本だった「赤ズマロン」ですが、何しろ60年前のレンズ、なかなか程度の良いものに出会えず「いつかは」と思っていました。そう思い続けていたところに新しくSUMMARON-M F5.6/28mmとして復刻の朗報。迷わず手に入れました。

レンズコーティング、ガラスの種類は変わっているので厳密には同じものではないと思いますが(レンズ沼の住人はそう思うのです)、レンズ構成が同じということは同じ癖(味)を持っているということです。写りには定評がある赤ズマロンと呼ばれたSummaron 2.8cm F5.6、当然写りに対する興味もありましたが、少し現代風にアレンジされたデザインと小ささに惚れたのも事実。ボディーを変えた佇まいも楽しみながら、その描写を味わってみたいと思います。

( Photography & Text : A.Inden )

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LEICA M MONOCHROM × SUMMARON-M F5.6/28mm

レンズの鏡胴は、オリジナルのツヤのあるシルバーからツヤ消しのシルバーになりシックな印象に。真鍮から削り出されたフードはマットなブラック仕上げ。一番似合いそうなボディーは、つや消しの黒に包まれたLEICA M MONOCHROMでしょうか。キラッと光るシルバーのレンズが美しいですね。フードに刻まれた文字も現行のMレンズと同じフォントで違和感がないです。

最初の犬の写真、とても60年前の設計とは思えない立体感のある細やかな描写にゾクッときました。全体から受ける印象が軽やかでライカらしい写りですね。デジタルが苦手とするハイキーな描写ですが、ハイライトの白飛びはうまく抑えられています。

LEICA M Monochrom, SUMMARON-M F5.6/28mm, Photo by A.Inden

絞り開放、真ん中のロープにピントを送りほぼ最短距離での撮影。F5.6では大きなボケは得られませんね。ピントピークの被写体に目を行かせるため、大きなボケを使うのは常識ですが、この画のロープが浮き出ている感じを見ていると、立体感の作り方でも同じ効果があると教えられました。

LEICA M Monochrom, SUMMARON-M F5.6/28mm, Photo by A.Inden

全長が2cmにも満たない小さなレンズですが、180度回転するヘリコイド、大きなフォントで書かれた被写界深度目盛りで、ピントを事前に決めてのノーファインダー撮影の操作性はスムーズです。


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LEICA M × SUMMARON-M F5.6/28mm

LEICA Mにフードなしで付けると小ささが目立ちます。厚みはボディーも入れて60mm(ボディー42mmレンズ18mm)と、コンパクトデジカメのLEICA Xより約25%薄いです。古い設計のレンズにフードなしではハレーションが心配ですが、レンズが小さく奥まったところにあることと、コーティングが新しくなったことでハレーションは思ったほど現れないようです。この佇まいが一番実戦的ではないでしょうか。

LEICA M (Typ240), SUMMARON-M F5.6/28mm, Photo by A.Inden

カラーの描写はコントラストが高くこってりとした色乗りです。トンネル効果という素敵な言葉もありますが、周辺光量はかなり低下します。この落ち具合を味方につければ素晴らしい味として使えます。

LEICA M (Typ240), SUMMARON-M F5.6/28mm, Photo by A.Inden

ライブビューでハレーションを確認しながら撮影しました。ここまで派手にハレーションを入れると画面全体が眠くなりがちなのですが、色も立体感もしっかり残っています。「最新の光学技術で高水準の仕上げ」と謳っているだけのことはあります。

LEICA M (Typ240), SUMMARON-M F5.6/28mm, Photo by A.Inden

最短撮影距離で撮影。中心部はシャープで立体感がありますが、周辺にいくにつれて解像度が落ち像が流れていきます。古い設計と思えばそれまでなのですが、中心と周辺との画質の差が、周辺光量の落ちと相まって、真ん中の被写体を際立たせていることがわかります。


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Leica M3 × SUMMARON-M F5.6/28mm

いいですねー。街の食堂のテーブルがこれほど似合う組み合わせはないと思いませんか。マウントはM専用で6bitコード付きですが、Mマウントへの変換アダプターをデザインとして残しているため古いライカとも違和感なくマッチします。こんな些細なこだわりがライカらしいです。今更フィルムライカと思われるでしょうが、心地よいシャッター音を聞くと、不便だとわかっていても手放せないんですよね。

Leica M3, SUMMARON-M F5.6/28mm, Kodak Professional TRI-X400/400TX, Photo by A.Inden

Leica M3, SUMMARON-M F5.6/28mm, Kodak Professional TRI-X400/400TX, Photo by A.Inden

Leica M3, SUMMARON-M F5.6/28mm, Kodak Professional TRI-X400/400TX, Photo by A.Inden


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FUJIFILM X-Pro2 × SUMMARON-M F5.6/28mm

X-Pro2のツヤありの黒は使い込んでいくとシルバーの下地が見えてきます。筆者のものはまだまだその域には達していませんが、そうなっていくのが楽しみです。APS-Cサイズのセンサーにより、35mmフルサイズ換算で42mm相当の画角となります(約1.5倍)、レンズの周辺を使わないため画質は開放から落ち着いています。ただ周辺光量の低下は少し残ります。X-Pro2はEVF、エレクトロニックレンジファインダー(OVF時にEVF小窓を表示)とMFを使うためのシステムを装備しているのですが、開放値F5.6だとシビアにピントを合わせるのは厳しいです。そこはデメリットと割り切り、被写界深度を利用してOVFでタイムラグの少ない撮影を楽しんでみました。※被写界深度:F5.6で距離を5mに設定すると2.3m〜無限遠までピントをカバーできます。

FUJIFILM X-Pro2, SUMMARON-M F5.6/28mm, Photo by A.Inden

FUJIFILM X-Pro2, SUMMARON-M F5.6/28mm, Photo by A.Inden

FUJIFILM X-Pro2, SUMMARON-M F5.6/28mm, Photo by A.Inden


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LEICA T × SUMMARON-M F5.6/28mm

現在風にアレンジされたデザインと変更されたシルバーの質感が、一番生かされているのがLEICA Tではないでしょうか。全ての無駄を削ぎ落としたボディーに小さなSUMMARON-M 28mmが収まると、工芸品のような美しさです。APS-Cサイズのセンサーを採用したLEICA Tにつけると、35mmフルサイズ換算で42mm相当の画角となります。最短撮影距離は1mなので最後のランチプレートの撮影は椅子から立ち上がらないと不可能でした。不審な行動にカフェの方と目が合ってしまったのですが、「素敵なカメラですね」なんて声をかけられ、ちょっと嬉しくなってしまいました。

LEICA T, SUMMARON-M F5.6/28mm, Photo by A.Inden

LEICA T, SUMMARON-M F5.6/28mm, Photo by A.Inden

LEICA T, SUMMARON-M F5.6/28mm, Photo by A.Inden

M型ライカを使う本当の楽しみとは

M型ライカの最大の特長は、1930年に初めてレンズ交換式ボディーLeica C用として、Elmar 5cm、Elmar 3.5cm、Elmar 13.5cm、Hektor 5cm の4本のレンズが誕生してから現在に至るまでの、全てのレンズがMマウントへの変換アダプターを介して使用できること。その約80年を超える歴史の中には、味のある描写を持つ銘玉と言われるレンズが何本か存在しています。Summaron 2.8cm F5.6はその代表的な1本ではないでしょうか。筆者はいい出会いがなく古いタイプのレンズを手にすることはできていませんが、ライカ社の英断で作られたSUMMARON-M F5.6/28mmを手にすることで、今まで味わったことのない写りを堪能することができました。モノクロは、開放からシャープでコントラストが高く、抜けのいい軽やかに感じる描写。カラーはシックな色合いですが色乗りが良く色に深みがあります。そして一番特徴的なのが周辺光量のいい塩梅な落ち方。諸収差を少なくすることを考え設計されているデジタル時代のレンズと違い、癖を味として生かし全体としての見え方で勝負していく、そんなオールドレンズの良さを新しいSUMMARON-M F5.6/28mmでも味わうことができました。

小さなレンズを現在風にアレンジしたデザインを楽しむためにボディーを変えてみたのですが、古い設計がもたらしたものかはわかりませんが、センサーの癖のようなものが感じられて面白い経験になりました。オールドレンズの楽しみは、個性ある描写との出会いにあったのですが、そんな機会も少なくなってきたこともあり残念に思っていました。そんな中での復活は新たな楽しみを広げてくれそうです。2017年に発売されたThambar 90mm F2.2も安心して独特の描写を楽しむことができました。ライカのオールドレンズにはSummilux 35mm F1.4(初代)、Summicron 35mm F2(8枚玉)、NOCTILUX 50mm F1.2……と、まだまだ銘玉はたくさんあります。2年に1本ぐらい復活させていただけると、懐にも優しくていいのですが。

( 2020.02.03 )

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新品で手に入るライカレンズで一番コンパクト。M10シリーズに付けると厚さ56.5mmとジャケットのポケットにもスルッと入ってしまいます。

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レンズは手に入っても純正フードがなかなか手に入らないのがライカ。100年先を見据えて予備を買っておくことをお勧めします。(レンズ本体にこちらのフードが1個付属しています)

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