PHOTO YODOBASHI
ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン
FUJIFILM XF50mmF2 R WR
[ズーム] 広角 | 標準 | 望遠 | 高倍率
[単焦点] 広角 | 標準 | 望遠 | マクロ
スタイリッシュなデザイン、タフネス設計で小型軽量、高速AFと高い光学性能。写真好きがニヤリとしてしまうシリーズも三本目となりました。35mm判換算で50mm相当の次は35mm相当と「順当に」展開してきたわけですから、次は中望遠、開放絞りはF2、画角は85mm相当で来るものと思っていました。そして放たれたのは「XF50mmF2 R WR」。F2は予想通りでしたが画角は76mm相当。カットボールのように手元でピッと変化して空振りした心境ですが、逆にこれは面白いぞと更に口元が緩みました。XマウントにはZEISS Touit 2.8/50Mという同焦点距離の等倍マクロレンズが存在するのですが、XF50mmF2 R WRはスナップやポートレートなどに使いたくなるタイプのレンズです。とはいえ、この辺の焦点距離で撮られた写真を見ることは少ない気がしますね。レンジファインダー用では75mmという焦点距離が長く存在しますが、他のシステムではちょっと珍しいのではないでしょうか。「広めの中望遠」「ちょっと長めの標準」等と評されているようですが、とにかく実際のところはどうなのか。京都の街を歩きながら検証してみましょう。
( Photography & Text : TAK )
XF35mmF2 R WRと同じ感覚で撮ると十中八九「近っ！」「デカっ！」となります（笑）。どうやら50mm相当の二歩先の視点ですねこれは。カメラを構える間にも被写体は歩き去っていくという、スナップには慌ただしい状況。でもレンズが「あと二歩」分の倍率で引き寄せてくれますから、足早に追いかけなくてもこの大きさで捉えることができました。描写はご覧の通り開放からシャキッとしてますね。生地表面の微妙な凹凸の描写には糸の太さ分の立体感がありますし、細かい模様もきっちり解像しています。色再現も華美かつ堅実なもので、絵に深みと品格を与えてくれています。
サギまでの距離は5mほどでしたが、周囲の余計な要素が排除されつつ近すぎることもない。意外と構図的にも収まりが良くて使いやすい画角ですね。桜の前ボケ。F2で76mm相当ですからやはり大きいですし、柔らかい感じが絵にマッチしています。直線にも気になる歪みは認められません。
京都を代表する観光スポット「三年坂」。建物の連なる様を収めるにはぴったりな画角です。絞り込んでもよかったのですが、ここは絞りを開けて柳にピントを合わせ、他がどの程度ボケるかも見ていきます。背景が認識できる程度のボケ方ですが、ボケすぎないことで建物の連なりも表現できています。柳までの距離も最短まではいかないものの、かなり近くおまけに風にも揺られていました。にもかかわらずスッとピントが合ってくれる。これが実に快適です。ピントピークは非常にシャープ。背景と完全に分離されていますから、奥行きもしっかりと感じられますね。
中望遠は縦位置も面白いと言われますが76mm相当ではどうか。丘の中腹から町並みを見下ろす構図で試してみましょう。ひっそりとした現場から市街地までの連なりを表現しています。圧縮効果も思ったより大きいですね。より遠くの被写体でも小さくなりすぎないので、全てを等しく見つめるような表現にもなってくるでしょうか。薄暮時のフラットな光線状態ですがコントラストもしっかりしていますし、建物や電線のディテールも繊細に描いています。
何となくこの画角の感覚が分かってきた気がします。面白いレンズですよこれは。
遠景を開放で。中央部は当然としても周辺のシャープネスもかなりの水準です。他の二本から予想はしていましたが、それ以上ですね。ヌケの良さも単焦点ならでは、スカッと気持ちの良い描写です。遠景だとあまり画角を意識しなくても絵になりやすいと感じます。パースも出にくい画角ですから、ちょっとぐらいカメラを上に向けても建物は垂直に写ってくれます。
こちらは近距離を開放付近で。それにしてもシャープです。被写界深度の調整という目的以外では絞る必要性を感じません。諧調もハイライトからシャドウまで豊かに再現され、ボディのプレスワークなどが手に取るように分かります。76mmというのは、被写体の一部をデザイン的に抽出しやすい画角でもありますね。
路線バスの座席に座り、停車ボタンに目が止まります。通常の中望遠ではピントが合わない距離ですが、本レンズは中望遠相当の画角にもかかわらず最短撮影距離はたったの39cm！これは表現の幅が広がります。
Xシステムを使う醍醐味はフィルムシミュレーションが使えることにもあります。その中でも「アクロス」ではハイライトとシャドウで粒状性の表現が異なり、まるでモノクロプリントのようなアウトプットが得られます。もちろんレンズ自体の底力もなければ、この生々しさ、物質感は実現できませんよね。
撮影者自身のスペックを上げてくれる通過儀礼的一本。
シャープで結構ボケる。AFは瞬足でしかもかり寄れてしまう。おまけにコンパクトでカッコいい。更にはお値段も十分納得の範囲ときました。どこから見ても優等生ですよね。でもこのレンズの真骨頂は76mm相当という画角にあります。ズームから単焦点にステップアップする時、35mmや50mm相当から始める方が多いでしょう。そして使いこなせて来た頃に、こういうレンズをチョイスしてみる。今までの感覚でいくと必ずバシッと面食らいます。でもそこがいいんです。ちょっとした通過儀礼のようなもので、一歩立ち止まり、他の焦点距離との棲み分け、物の見方、アプローチを振り返ってみる。するとどうでしょう。実に使いやすく奥が深くて、じっくり撮り込んでみたくなる。レンズを変えれば写真は変わると言われますが、この一本も間違いなくその類のレンズなのです。XF35mmF2 R WR１本でいくのが美しいよって？否定はしませんがとにかく一度覗いてみてください。XF23mmF2 R WRユーザーの方は迷わずどうぞ。これが1本目？お見逸れいたしました。名作をどんどん生み出していただきとうございます。あ、鏡胴について一言忘れていました。今時、金属で作ってくれるメーカーがいくつあるでしょうね。
( 2017.08.25 )
X-Pro2とX-T2で使ってみたのですが、X-Pro2のOVFを使わない限りは使い勝手も撮れる絵も全く同じです。表面がツルっとしているのでルックス的にはX-Proシリーズの方に統一感を感じるのですが、なかなかどうしてX-Tシリーズにもよく似合うんですよ。
馴染みの店で服を買う時、時々好みとは違ったテイストのものを提案されることはありませんか。それでいざ着てみたら「あら！案外いけるじゃん」なんてことにも。そういうレンズです、これは。どうせならシルバーにしときます？これがまた付属の黒フードと合うもんだから悩みますよね。
純正フィルターも専用サイズをご用意。もちろんSUPER EBCコーディングの一級品です。
今回のレビューで使用しましたボディ。このレンズが最も似合う1台でしょう。