PHOTO YODOBASHI

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Nikon Z特集 - Zの創造
開発者特別インタビュー 追加号

Vol. 4:レンズ開発者にも聞きました。

Z マウントシステムの開発について、ニコンの北岡直樹氏にお話を伺ったのは4ヶ月ほど前。実はその時、有り難いことに「よろしければ今度レンズ担当もお呼びしましょうか」とお誘いをいただいていた。あの見たこともないような描写のNIKKOR Zレンズを作った人にもお会いできるのだから、二つ返事でお言葉に甘えることにした。フォトヨドバシでは、ニコン100周年の時にもNIKKOR Fレンズについて内容の濃いお話を聞いているが、Zの場合ボディーもレンズも同時開発であるから、まだまだ色んな話が伺えるに違いない。興味津々の我々は前のめりで品川のニコン本社へと向かった。お話を聞いたのは山﨑聡氏(写真右)と毛利元壽氏(写真左)。ともに「光学本部」所属で、山﨑氏は合焦機構やVRなどの「メカ」を担当し、毛利氏は「光学」を担当している。

話を聞いた人(敬称略):
山﨑聡(株式会社ニコン光学本部 第二開発部長)
毛利元壽(株式会社ニコン光学本部 第三設計部 第一光学課長)
聞き手、文:TAK(PY編集部)
写真:KIMURAX、TAK(PY編集部)

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NIKKOR Z レンズが生まれるまで

山﨑:NIKKOR Zレンズはいずれもボディーの試作が出来るまでは本当に大変でした。ボディーもレンズも同時開発だったので、すぐにつけて試すことが出来なくて。最初はどこか調整が必要な点があるのですよ。今までは必ずFマウントのボディーがあるので、すぐに試すことが出来たのですが、今回はそうもいきませんでした。

PY:Fマウントというキャッチャーが座っていてくれましたからね。それが今回は誰に向かって投げるんだという話ですよね。

毛利:試行錯誤の連続でしたが、行き着く先は「この光学性能でいいのか?」という議論になるのです。

PY:予算も時間も際限なくかけるわけにもいかないし、着地点をどこにするかで悩むのでしょうね。

山﨑:考えれば考えるほど答えがあるのですが、どこかで止めなくてはいけなくて。

PY:でもその結果、相当水準の高いものが出来たのですよね。

山﨑:今はどうしてもNIKKOR Z レンズの解像度が注目されがちなのですが、色のにじみなどの収差も今までとは違った尺度で全て良くしているのです。

PY:全て良くしている?

山﨑:NIKKOR Zレンズは、一つだけの要素を良くしているわけではないのです。色んな要素が合わさって総合的にどうなるのかは、シミュレーションではわからない部分がありました。出来上がった画を見て、やっと「ああ、こうやって出てくるのか」「これは案外こっちの成分が効いているのだな」とわかるのです。なので、Zの開発過程で学んだ事も多くありました。

毛利:考えさせられたと言いますか、考えなければならないことが色々と分かりましたね。

PY:銀塩からデジタルになって、更にZも出てきて、レンズに求められるものもずいぶんと変わってきていると感じます。

毛利:銀塩からデジタルになって記録される情報量がすごく増えていますので、光学系も全然違うものが求められています。銀塩の時はもともと情報量が少ないので少々収差があっても「味」として受け入れられた部分があったと思います。今は記録される情報量が格段に増えたので、より高解像志向が強まっていると感じます。でも、細かく見たいという心理も、芸術的な表現をしたいという気持ちも両方あっていいと思います。

PY:芸術的な表現と言えば、今、千本ノックというコーナーでオールドも含めて各社のレンズをZにつけて遊んでいるんですが、これが面白くて(笑)。

山﨑:ありがとうございます。Zシリーズはファインダーなどボディーそのものの品質も高いので、レンズ遊びにも適した機材だと思います。

PY:フィルム時代は「甘い」で済んでいた部分も、デジタルになって目立つ欠点として明示されてしまった以上、直したくなるのでしょうね。

山﨑:そうですね。フィルムと撮像素子の違いは確実にありますし、やはり私から見るとトレンドは撮像素子の方だと思います。味を出すのは後処理でも出来ますが、今は目で見た以上のものが写るようになっているのですよね。NIKKOR Z 50mm f/1.8 Sの画を初めて見た時、衝撃的だったので。

PY:高画質からデチューンするのは後からでも出来ますが、その逆は不可能ですよね。

山﨑:そうですね。僕も味も情報もどちらもありだと思うのですけど、これからはやはり情報量、解像力を重視する流れなのだと思います。

NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noctについて

PY:Zの発表以来、ノクトのことが頭から離れません。あれだけの超弩級ですから、並々ならぬ思い入れがあって開発されたのだろうと感じています。CP+で初めて触って、度肝を抜かれました。被写界深度が極薄なのにピントの山が明確に判別できますし、周辺も甘くなりません。どういったコンセプトで開発されたのでしょうか。

山﨑:やはり大口径のショートフランジバックを最大限に活かせるということですね。大きく重くなるのですが、今までに無いものが作れるというところを表現したかった、というのがまずあります。そして「0.95」という数字がこのマウントで達成できますので、カミソリの刃のようなピントと深度の浅さを体験していただきたい。これに尽きると思います。

PY:CP+の時に至近でシャッターを切ってみたのですが、拡大せずに一発でピントが合いました。ピントピークが明確に背景と分離されているさまは本当に「カミソリ」でしたし、深度が薄い分ピークの見極めが非常にやりやすかったです。設計、開発してみていかがでしたか?

毛利:本当に出来るかどうかというのは、最後の最後まで不安でしたね。でも出来た時にびっくりしました。ああ、出来るんだって(笑)。

PY:北岡さんも同じようなことを仰っていました。やはりNIKKOR Z 50mm f/1.8 Sを試写した方が衝撃を受けていたと伺っています。

毛利:どんなレンズを開発していても、試作機の一発目というのは写らないことが多いのですよ。

PY:写らない?これだけ技術が進歩していてもそうなのですね。

毛利:設計者が思ったようには出来ていないことが多くて大体落胆するのですけど、あれだけは画が違ったのです。

山﨑:NIKKOR Z 50mm f/1.8 Sは理想としていた性能を最初から出せたので、驚きました。画像をパッと見ただけでわかりました。もちろん目標にしていた性能だったのですが、本当にこんなに写るものなのかと。

毛利:なんか、騙されたような感じでしたね。「何でこんなに写るの?」と(笑)。

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安くじゃない。負けるな。

PY:ノクトのようなレンズも、Zのファインダーなくしては存在出来ませんよね。

山﨑:実はファインダーの光学系も毛利さんの設計でして。

毛利:ミラーを取った分、ファインダーには本当にこだわりました。

山﨑:ミラーレスになる時に、見えに関しては相当こだわりました。特に今までボディーを作っていた方は、OVFを長年作っていたこともあり、EVFに対する信用がまだなかったようなので「あえてミラーレスを作るのだから、OVFに負けるようなものを作ったら知らないぞ!」と発破をかけられていました。

毛利:Zシリーズのファインダーにはガラスのモールド式のレンズを使っているのです。普通はプラスチックなのですが、今の見え味、性能を死守するためにガラスを使いました。

PY:だからZのファインダーは見え味が違うんですね。リアリティに溢れていて、デジタル臭さがなくて、とにかく「ニッコール」なんですよ、見えが。

毛利:ありがとうございます。最終的にEVFに表示される映像は、色乗りとか発色で誤魔化すことも出来るのですが、素の状態で「リアル」に「明確」に見せられないといけないと考えていました。

PY:合点がいきました。それにしても、やっぱり今まで培ったノウハウや確固たるバックグラウンドがないと、ファインダーをどこまで良く作れるのかも設定しようがないですよね。

毛利:はい。そういう文化があるので、EVFを作る考え方も「安く」、じゃないのです。「負けるな」と。

PY:カッコいい!それ、是非見出しで使わせてください(笑)。とにかく、ZはMFでも一発でピントが来ます。ワンショットで済むので、本当に楽になりました。

山﨑:そう言っていただけるとうちのメンバーも喜びます。

毛利:でも上の方からはまだまだ努力が足りないと言われているので、更に上を目指したいです。結局やり続けていかないと進歩しないので。

PY:創業100年超えの老舗がそう仰ると、説得力も桁が違いますね。

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新レンズ2本について

PY:NIKKOR Z 14-30mm f/4 SとNIKKOR Z 24-70mm f/2.8 Sについてお聞かせください。

毛利:NIKKOR Z 14-30mm f/4 Sに関しては、大口径マウントと高画素を活かして、画面の中心から端まで解像感が変わらないよう像面の平坦性を良くしました。

PY:MTFが凄いことになっていますよね。

毛利:はい。ズーム全域で高い性能にしつつコンパクトにして、フィルターも付けられるようにしました。NIKKOR Z 24-70mm f/4 Sと同じように、日常のシーンでも使っていただきたいですね。

山﨑:普段から撮り歩けるような14mmというのが、私どもとしての売りですね。フィルターを着ける着けないに関しては賛否両論ありますが、プロテクターを着けて大事に使いたいという方も多くいらっしゃるので、そこを達成できたのも嬉しいです。小さい話かもしれませんが、14mmという焦点距離としては世界初のフィルターが付けられるレンズになります。

PY:大きな話じゃないですか。

毛利:設計者としては、よく出来た製品だと思います。

PY:沈胴してコンパクトに持ち歩けるアドバンテージもありますよね。とにかくフルサイズ対応でここまでコンパクトな14mmはちょっと見当たりませんから、これも売れるでしょうね。NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 Sのレンズ構成は凹凸どちら先行ですか?

毛利:オーソドックスな凸先行ですね。

PY:FマウントのAF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VRのように凹にする必要がなかったのですね。

毛利:バランスですね。全体のバランスを考えると凸先行の方がZマウントシステムにマッチするのです。

山﨑: Fマウントの場合は凹先行の方が高性能を出しやすかったのです。両タイプとも設計はしているのですが、Zマウントシステムには凸先行の方が合っていると考えました。凸先行の採用は小型化にも寄与しています。Zシリーズはボディー内手ブレ補正を搭載しているので、レンズに手ブレ補正も入れる必要もないですし、実用面でもバランスが取れたと思っています。

毛利:ボケ味も自信ありますよ。これも看板レンズで、厳しく育てました(笑)。

山﨑:ラインナップが充実するまで少しお時間を頂いている中、数本ずつ出していますので、その分、しっかり設計して製品を作っています。これから毎回レンズが出てくる度に「これが看板レンズです」と言いたいくらいです(笑)。

PY:それだけ手がかかっているということですね。NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 Sは新たに「アルネオコート」を採用していますよね。どういう効果があるのですか?

毛利:ゴースト、フレアの軽減です。ナノクリスタルコートは従来のコートと比較して、垂直や斜めから入ってくる光線の反射率を抑えています。新たに採用したアルネオコートの特徴は、特にレンズに垂直に入ってくる光線に対して、ナノクリスタルコートより効率よく反射を抑えることができます。

PY:ナノクリスタルで斜めからの光を、アルネオコートでまっすぐの光をケアする。

山﨑:そうです。まっすぐ入ってくる光は、レンズが凹凸ですと、そのまま返ってしまいます。そこで新たにアルネオコートでレンズに垂直に入ってくる光もケアしながら、ナノクリスタルコートと組み合わせることによって、様々な光に対処できるようにしました。

PY:更に像がクリアになるわけですね。NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 Sはモーターも2つ入っているんですよね。

山﨑:はい。2つフォーカス部が入っていまして「マルチフォーカス」という言い方をしています。実はNIKKOR Z 35mm f/1.8 Sもマルチフォーカスが入っています。

PY:どういう仕組みなのでしょう。

山﨑:既に市場には2つモーターを採用したレンズはあるのですが、モーターの1つをピント合わせの微調整用に使っていることが多いのです。片方で大きく動かしておおよそのフォーカシングをして、もう片方で最後に微調整するという考え方ですね。ただしそれだと、光学性能上はシングルフォーカスと同じなのです。それに対してニコンの場合は2つの群を動かして、どの焦点距離でもベストな性能が出ることを目指すという考え方なのです。

毛利:例えば至近になると性能が下がってしまうことが多いのですが、マルチフォーカスを採用することでそれをなるべく抑えています。

PY:NIKKOR-N Auto 24mm F2.8でしたか。近距離補正を初めて入れましたよね。あれを発展させたようなものですか?

毛利:そうそう、それです!まさにそれですね。近距離側でも平坦性が上がっています。解像度も高いですし、全方位で格段に性能が上がっています。

山﨑:このレンズに限らず、シングルフォーカスも含めて、NIKKOR Zレンズ全体で近距離性能を上げていこうという思想があります。光学タイプにもよると思うのですけど、シングルかマルチかどちらが適しているかというのは焦点距離でも違ってくるのです。あと、マルチフォーカスの場合は2つ群があるので、それぞれのエネルギーを抑えられるというメリットがあります。

PY:2つあればハイパワーである必要がないのですね。

山﨑:その通りです。アクチュエーターを2つ搭載しているので、本当に速いですし、それぞれの動く量も少ないので、当然収差も少なくなります。

PY:本当に隙のないレンズですね。

山﨑:こちら、電源を入れていただくと、、、

PY:(NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 Sの鏡胴にある「レンズ情報パネル」を見ながら)「NIKKOR」って出た!カッコいい!やる気出ますね。

山﨑:「わかってるよ」と思いながらも嬉しいですよね(笑)。

PY:エンジン付けて「Ferrari」って出たらやっぱり嬉しいじゃないですか。持っていませんけど。

一同笑

PY:(ファインダーを覗きながら)これはいいレンズですよ。寄っても「泣き」が入らないです。「レンズFnボタン」も付きましたね。

山﨑:はい。絞りなどの機能を入れ替えることが出来ますし、距離表示を変えたりも出来ます。いずれはファームアップで機能が更に拡張できるよう、マージンを持たせながら開発しています。

PY:それにしてもF2.8で、この軽さは信じられないです。ほぼ、24-105mm F4固定あたりのサイズ感ですよね。

山﨑:そうですね。今までの24-70mm F2.8の既成概念には当てはまらないサイズだと思います。あと、基本的にこのレンズは電子フォーカスです。フォーカスリングを回していただくと、物理的に回している感覚を感じて頂けると思います。昔はメカ連動でカムが切られていたのですが、これはリングの裏にエンコーダーがあって、回転角を拾って電気的に動いているシステムです。いつでもアクチュエーターが動いています。

PY:そうなんですか!

山﨑:感触をみていただくと、非常にタッチが軽くて揃っていると思うのですが。

PY:スムーズなのにまるでメカニカルのように回転速度に対してリニアに動きますね。この表示クオリティーならパンフォーカス撮影も出来ますね。フォーカスリングへの入力に対する応答性というのは、設定で変えられたりするのでしょうか。もっと敏感に反応するとか、大きく反応するとか。

山﨑:技術的には可能です。というのも、動画でそういう操作感を求めている方も多いだろうと考えています。「回転した角度=何パルス」という風に信号に変換して、そのパルスに対して像面を何ミクロン動かそうかとか、そういう調整はやろうと思えば出来ます。

PY:そういう調整はアナログでは到底不可能ですよね。納得です。

山﨑: ZはMF感覚も大事にしているシステムなのです。電子MFを入れたのもMFの感触をもう一度楽しんでいただきたかったというのもありますし、油の選定も全部やり直しています。

PY:最新のものだからこそ、基本に立ち返ったのですね。電子MF用の油はやはりメカニカルとは違うものを使うのですか。

山﨑:そうです。電子だとギアなどの負荷が何もなくなるので、デフォルトではスカスカなのです。

毛利:ですから、油を使ってそのねっとり感を出しています。うちの得意技です。

山﨑:どの方向に回してもトルクが変わらないのです。何か重いものを動かしているわけではないので。

PY:焦点距離ごとにねっとり感も変えたりするのですか?

山﨑:変えています。

PY:確かに今触ってみると、例えばズームと単焦点では抵抗が違いますね。確かに油自体も相当進化したのでしょうね。

山﨑:昔は鉱物系だったのですが、今は化学合成なので全然劣化しないのです。あと、今は動画への対応もしていかなければならないので、電子フォーカスにしています。

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レンズ設計者という生き物

PY:お二人はどのようなきっかけで入社されたのですか。

毛利:私は父方が写真関係の仕事で食べていたのです。僕は写真で生計を立てようとは思ってはいなかったのですが、たまたま写真大学(現:東京工芸大学)が面白そうだったのでそこに入りました。それでこのまま行ったらカメラマンかなと思っていたのですが、メーカーに作り手として入社しました。

PY:撮る側から作る側に。

毛利:カメラも元々は他社さん派でした。父に初心者向けのMF一眼レフを買ってもらって、すごく喜んで使っていました。でも父は隠れてNikonのF3を買っていたのです。

一同笑

毛利:もちろん、すぐに貸してくれと頼んでF3を使いました。そうしたら度肝を抜かれまして。ニッコールレンズの写りは桁違いによく感じられました。その時は、まさか将来自分がニコンでニッコールレンズを作るようになるとは夢にも思っていませんでした。

PY:学生時代は写真学科にいらっしゃったのですか?

毛利:そうです。

PY:そこから光学の方へ?

毛利:たまたま研究室の中に、光学設計をやるセクションがあったのです。そこで設計をやっていたら面白くなってきて、たまたま先生の紹介でニコンを受けてみないかという話になったのがきっかけです。

PY:光学というと物理などを専攻されていたのかなとイメージするのですが、そうではなくて、写真学科からというのが面白いです。

毛利:写真学科では当然カメラ、レンズで撮影だけではなく、現像やプリントも含めてトータルでやるので、それが良い経験になったと思います。プリント時に使うレンズも相当なこだわりで作られていますけど、そういう特殊で、「これじゃなきゃ焼きたくない」と思わせてくれるレンズを作ったりするのも面白いなと思っていました。

山﨑:社内では、機械工学出で、鏡筒設計者から光学設計者になった人もいますし、光学設計者からデザイナーになった人もいます。光学設計というのは外で学んでくる機会が少ないので、社内の教育で物理以外の色んなことをかなり深く学んでもらっています。

PY:学際的なアプローチは大切ですよね。専門が一つというだけでは太刀打ちできない時代でしょうから。

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PY:山﨑さんはどういったきっかけで入社されましたか。

山﨑:私は設計士になりたかったのです。幼稚園の頃から、何でもいいのでとにかく設計士になりたかった。基本は建築だったのですけど、大学では機械専攻に行きまして、機械設計士になるということでニコンの面接を受けました。言いにくいですけど、設計士じゃなかったら採らないでくださいと言うほど設計士にこだわっていました(笑)。

PY:そこまで設計士にこだわったのは?

山﨑:父と母が設計の仕事をしていたのです。プラントの設計をしていました。それがまさか精密機械をやるようになるとは私も思っていなかったです(笑)。家にいつも「青図」という建築図面の失敗したものがいっぱいあって、それの裏に絵を書いていたのです。設計図面というものが身近にある環境にいて、それが現実になっていく過程も見ていました。

PY:2Dが3Dになるところを、毎日のように見てこられたわけですね。

山﨑:それが楽しくて、自分も設計士になろうと思いました。カメラももちろん好きだったのですけど、設計する物にこだわりはなかったですね。

PY:幼い頃に触れたものが、今に繋がっているって良いですね。お二人のバックグラウンドを伺って、納得しました。

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レンズ設計者の「王道」

PY:さきほど「看板」と仰っていました。看板レンズをやる時は気持ちが違いますか?

毛利:設計者って、みんな看板レンズをやりたいのですよ。でも喧嘩になるとまずいので、最初は全部束ねてとりあえず一ヶ月間チームでやるようにしています。

山﨑:設計者は「ニハチの大三元」をやりたがりますから。

PY:大三元は作り手にとってもやっぱり花形なんですね。

毛利:一人前の証なのです。

山﨑:自分もニハチをやっていて、超音波モーターを初めて搭載した超望遠レンズや、その後のAF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VRもやりました。あと、AF-S Zoom-Nikkor 17-35mm f/2.8D IF-EDも設計しました。でも、大三元のうちの2本をやって、この24-70mmだけやっていないのです。

PY:麻雀もレンズも、揃わないと悔しいですね。

山﨑:やりたかったです!3本全てを自分が設計したと言ってみたいですね。メカの設計でもそうですから、光学だったらなおさらだろうなと。

毛利:大三元を設計した人の意見は、なぜか社内でも通るのですよね。

一同笑

PY:ツモった者は強い(笑)。単焦点でも、やっぱり明るい方をやりたいのですか?

毛利:そうですね。明るい方が王道ですね。

PY:分かりやすいですね(笑)。

毛利:やっぱり、自分がほしい、皆さんが憧れるレンズをやりたいですよね。

PY:至極真っ当なお考えだと思います。自分が作ったものを使っている人を見るとやっぱり嬉しいですか?

山﨑:グッときます!休みの日にカメラ好きの方が2台持っていらっしゃるのを見て、両方とも自分が設計したレンズだった時とか、もう口から出そうになりますもの。

PY:「僕が作ったんです!」って(笑)。

山﨑:本当に有り難いですね。以前、ある女性の方に「ニコンの方ですか?ちょっと待っていてもらっていいですか?」と言われまして、なんだろうと思っていると、お父さんが17-35mmと70-200mmをつけていらっしゃって、「山﨑さん!僕、ニコンのファンです!」と仰っていただけて。

PY:努力の結果がそういう形で現れるって、本当に報われますよね。

山﨑:そうですね。褒められるだけではなくて、色々とお叱りも受けるのですが、やっぱり自分よりも使い込んでいらっしゃるからこそのご意見なのですよね。なので、それも本当に有り難いのです。色々言っていただいて本当に助かっていますし、次に反映させていこうという気持ちになります。休みの日にヨドバシさんにもちょくちょく見に行きますけど、目の前でお客さんが買っている時なんか、もうたまりません(笑)。

毛利:僕は一眼レフの接眼部を全部やっていたので、Nikonのボディーを持っている人を見るだけで幸せになれます(笑)。

PY:それはまたスケールが凄いですね。ご自身が接眼部を作った時のさじ加減の中で、目の前にいる人が一生懸命写真を撮っているのですよね。

毛利:本当に嬉しいですよ。写真を楽しんでね!と心から思います。

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PY:(時計を見て) え?もうこんな時間になってしまいました。

山﨑:そうなんですか!

PY:すみません。あまりにも楽しくてつい話しすぎてしまいまして(笑)。そろそろ締めに入らせていただきます。これから出してみたいレンズはありますか?

毛利:マルチフォーカスやコントロールリングなど新しい技術と組み合わせて、Zマウントシステムならではの光学系を創造したいです。それと、例えば「解像番長」的な一芸に秀でた個性的な光学系を採用したレンズを提供したいですね。まとめると、新マウントならではの一芸レンズが造りたいのです。使って楽しいレンズやワクワクするレンズ、お客様がここぞという瞬間に使ってくれるようなお気に入りの一本を提供したいです。

PY:通知表的にはオール5のようなレンズが勢揃いしている中に、一芸入試で面白い「異端児」が割って入ってきたりすると層も厚くなりますし、Zシステムもさらに盛り上がってくるでしょうね。色気があってドキドキさせてくれるものを望んでいるユーザー、大勢いると思いますよ。しかもZマウントなので、これまで見たこともないような色気が期待できそうです。

山﨑:もっと小型化された皆さんが手に取りやすいレンズも作ってみたいと、個人的には思います。薄型で作りにもこだわって。

PY:いいですね。フードも金属製でお願いします(笑)。これからFマウントも続くわけですが、Zで培われた新しいノウハウを、Fにもフィードバックすることもありますか?

山﨑:ありますね。特にマルチフォーカスはFでもやりたいですね。Zよりもレンズ後部のスペースが大きく取れますから。70-200mmあたりでモーターを2つ載っけると、変わってくるかなと個人的には思います。

PY:やはりZとFは両輪で磨き合っていくのでしょうね。これからのニッコールを楽しみにしています。本日はありがとうございました。


時間にして2時間20分。予定を大きくオーバーしてしまったが、本当にあっという間であった。それほどに内容が濃密で、何よりも楽しかったのである。ここで公開している内容はその半分ほどだが、ニコンのレンズ作りの原動力と熱量を間近に感じて頂ければ幸いである。既にお分かりかと思うが、山﨑氏は一聞けば十返ってくるようなエンスージアストで、毛利氏は要所で矢のような鋭い名言を放ってくる。インタビューとは「inter-view」、「互いに考え方を交換する」場であり、その相手として両氏は最高のコンビであったし、だからこそ現場も回り、優秀なプロダクトを産み出せているのだろうと感じた。お二人とも、抱いていた夢をそのまま叶えた生粋の設計者であり、頭の中は「ニコンが持てるものを最大限に発揮しながら、どうやったら良いレンズが作れるか」で一杯で、寝ても覚めてもレンズやカメラのことを考えている。そして、山﨑氏と毛利氏を始めとするチームを抱えるニコンという会社は、やはり人を見る目がある。自分が作りたいものを作りたいという言葉も印象的だったが、今の時代、パッションだけで物を作ることは決して簡単ではない。しかしNIKKOR Zを見ていると、最後に残る本質は「これじゃなきゃだめなんだ」という熱意なのだと思い知らされる。ユーザーは性能や価格や競争相手に目が行きがちだが、それだけがレンズではない。目に見えるものの「行間」にある様々な思いや技術も、1本のレンズを作るために不可欠な「エレメント」なのだ。繰り返すが、「安くじゃない。負けるな。」には心が溶けた。これこそが、ニコンが背負い続ける看板なのだと確信した。

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( 2019.05.21 )

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