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Nikon Z特集 - Zの創造
開発者特別インタビュー

Vol. 3:川越散策後半、まとめ

うなぎ屋で精をつけたところで、再び川越散策へと繰り出す。自身を「ゆるい」と評した北岡氏であるが、ご謙遜、である。なにせ自分自身が手がけたカメラで撮っているのだ。どう考えてもカッコいいし、羨ましい。

話を聞いた人(敬称略):北岡直樹(株式会社ニコン映像事業部 マーケティング統括部 UX企画部長)
聞き手、文:TAK(PY編集部)
写真:北岡直樹、TA(PY編集部)

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北岡氏のカットを見ていると、被写体に対し愛情を持ちながら、真っ直ぐな気持ちで対峙している印象を受ける。そして、どこまで写るかを見極めているようでもある。途中「被写体を真ん中に置いて撮ることがほとんどです」というお話もされたのだが、やはりレンズの一番美味しいところを見たいのだそうだ。なるほど、作り手とはそういうものなのかもしれない。無論、NIKKOR Zはかなり端に被写体を置いてもキリッと写ってくれるのだが。

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一瞬の日差しがありがたいと思った時は既に6時間が経過、日も落ち始める。我々は再び喫茶店に入り、今日を締めくくることにした。

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カメラの進化が、写真を更に面白くする。

PY:結構歩きましたね。寒かったけど面白かったです、川越。

北岡:いいなあ川越。また来ます。飽きなかったですよね。何が出てくるかわからない街。

PY:グイグイ引き込む力を持った街でした。そろそろまとめに入りましょうか。こういった撮り歩きにもZはピッタリですね。ササッと撮っても高画質が得られて。

横浜:Zシリーズが出たばかりの時はスペックを中心に評価されていたと思いますが、それが実際に使ったお客様の声に変わってきているので、もっとそういったお客様の声が聞こえれば良いなと思いますね。

PY:色んな声が上がるということは、やっぱりそれだけ大きな期待をされているのだと思います。

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北岡:これ、うちの娘がZ 7で撮った姪っ子の息子です。

PY:あ〜いいなあこれ!

北岡:もちろんスマホでも撮れますが、うちの娘がオートで撮って、親戚一同「違う!」って。

PY:そりゃそうだ。

北岡:普通は子供の写真を見せれば「可愛い」から始まるじゃないですか。

PY:それが「違う!」ですものね。写真を本格的にやらない人も、その違いに気がつくのですよね。

北岡: 個人的にはD850とSnapbridgeを使うようになってから、急に写真が面白くなりました。Z 7で撮った写真も、宴会とか何かの機会に撮ったりしてSnapBridgeでタブレットに送った写真を見せると盛り上がりますね。「ああキレイ!」と言ってもらえるとすごく嬉しいです。昔は一枚撮るのもすごいプレッシャーだったのです。全部ちゃんとした写真を撮らないと申し訳ない気がして。

PY:例えば、フラッグシップのD5を握りしめると背筋がシャン!としますものね。そういえば、これはニコンさんに限った話ではないのですが、カメラの初期設定での記録形式はJPEGオンリーですよね。なにか理由はあるんですか?

北岡:最近、プロの方でもRAWは撮るけど、JPEG撮って出しでも十分いいという方もいらっしゃいますし、写真を始める方も本当に幅広くなってきていて、RAWを使う方もいれば使わない方もいます。RAWで撮ると写真の世界もすごく広がると思う一方で、RAWからちゃんと現像しなくてはいけないという風潮は大分なくなってきたのかなと思いますね。

PY:撮って出しのJPEGがこれだけ良くなっていますからね、特にZシリーズは。同じJPEGでも、カメラで直接生成した方がやはり良いんでしょうか?

北岡:ケースバイケースで一概には言えないのですが、カメラだと画像処理エンジンがハードウエア処理も利用して現像しますので早く正確に現像できます。パソコンでの現像は、カメラ内での現像を正確に再現するようにソフトウエアで処理していますが、カメラの画像処理エンジンの処理能力はとんでもなくて、パソコンで行うソフトウエアの画像処理よりも速さの面では優れていることもあるのですね。

PY:確かにその通りですね。

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横浜:これもかなり明暗差のある場面でしたけど、シャドーがよく出ていますね。

PY:すごいですよ、これ。RAW現像していませんよね?やりすぎのHDRっていう感じがしない。

北岡:これね、実はアクティブDライティングを強めにかけています。

PY:なるほど!これも今度やってみます。でも設定もやりだしたらきりがない部分もありますよね。

北岡:キリがないでしょ?だから、あくまでも僕の場合ですが、迷ったらとりあえずオートで・・・・。

一同笑

北岡:「僕の場合は」ですよ。設定で悩み始めるときりが無くなっちゃって、Zシリーズでは所謂シャープネスの設定として明瞭度と輪郭強調に加えて、ミドルレンジシャープネスというものも入れました。この3つを別々に考えるのはなかなか時間が必要で、設定は考え出すと奥が深くてきりがないのです。

PY:分かります。

北岡:人それぞれですけどね。シャープネスについては、全部一緒に動かせないと使いにくいと思い、3つのシャープネスを一発で変化させられる便利な機能も搭載しました。例えば、家族で出かけているときに、あまり設定がどうこうとやり始めると、なかなか肝心の写真が撮れない。そういった時のお助け機能として僕はアクティブDライティングが大好きです。

横浜:僕もこれは改めて使ってみようと思いました。アンダーがこれだけ持ち上がっているってすごく助かります。

確かにD850あたりから、カメラに任せられる部分もずいぶんと増えた。もう、カメラの設定よりも被写体や瞬間に集中する時代に、我々はいるのだ。Nikon D1の登場から20年足らずでここまで来ていることを、20年前の私は想像できていなかった。そろそろ、難しいことは忘れてもっと撮影を楽しまなければ。

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自分たちを信じて、報われる。

PY:これだけご自分が撮った写真を見ることも、久しぶりじゃないですか?

北岡:そうですね。今回来てよかったなあと思います。街を散策しながらみなさんと写真やカメラの話をできるって良いなと思います。先ほども申し上げたとおり、結果的に長く写真と関わってきましたが、個人的な撮影ではD850とSnapBridgeから写真の面白さが一層広がって、楽しさのステージが一段上がったと思うのです。あんまり難しいことを考えなくてもきれいに撮れて。スマートフォンも素晴らしいですけど、それと違った深みがある写真を、自信を持って撮っていただきたいと思いますね。

PY:今回、実は「Zの産みの苦しみ!」とかもお聞きしようかと思っていたんですが、こうしてお話を伺っていると、苦労した!というのも当然ありましたけど、何よりも良いものが出来てよかったな、楽しいなというお気持ちのほうが強いのかなと。

北岡:本当にそうですね。ニコンの関係者全員が苦労したとは思うのですけど、それだけの価値があったと思うのです。Zシリーズは買っていただいて決して後悔はしないカメラだと思います。自信を持っておすすめできますし、使ってみてぜひご感想を教えていただきたいですね。先程おっしゃったように、昨年、全力投球で2台のボディと3本のレンズを出しました。そしてこれから2月に発表されたNIKKOR Z 14-30mm f/4 SやNIKKOR Z 24-70mm f/2.8 Sという新たなレンズも発売されますし、Z 7、Z 6は瞳AFの搭載、AF・AE性能の向上、CFexpressへの対応、RAW動画出力などのファームウェアアップも予定しています。

PY:とても楽しみです。

北岡:これから先、お客様からは良い反応や悪い反応の双方があると思いますけど、それが一周りして次どうするかというのが肝になってくると思います。全員が同じ目標に向かって信じて進んでいるのですけど、目標を掲げた時点では、私たちのシナリオ上は全て成功のシナリオなのです。

PY:カッコいいなあ。

北岡:でも、シナリオに自信はあっても、結果は蓋を開けてみるまでわからない。その繰り返しです。

PY:やっぱりそういうものなんですね。

北岡:企画時点でMTFはこうだとか、高感度での画質がどの程度かとかいっていても本当にそれが出来るかどうか、それがお客様に伝わるレベルなのかというのは数字や書類の上では自信があっても、本当の意味での実感はできなくて。

PY:カメラというものは、感覚に訴える部分が大きいですものね。

北岡:数字上で「これくらい違う」というのは、頭では理解できても、それが果たして画の上でどうなって表れるのかというのは実際悶々としたというか。さっきの50mmの話じゃないですけど、いざその結果を見た時に、ああ、やっぱり進んでいた方向は間違っていなかったし、これが出来たという安心感とこれをどう伝えようか、早く感じてほしいなと思っていましたね。一旦出来てきてからは早く世に出したいなと。勝手なものですね 。

PY:いえいえ。なんだか僕の方も嬉しくなるお話です。 本当に、報われてよかったですよね。

ものづくりに不安はつきものであり、それが新しいものを作るとなれば不安はさらに増大する。マウント一つとっても既存のものを採用することも出来たし、そうなったとしても誰も文句を言わなかっただろう。だが、ニコンは敢えてその道を選ばなかった。原点である光学に立ち戻り、仲間を信じながら前に進んだ。そして、誰もが認める結果を叩き出したのである。

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昨今のカメラ業界について

PY:今のカメラ業界をどうご覧になりますか?

北岡:そうですね。あくまでも一人のカメラ好きとしての印象になりますが、各社の特徴がはっきりしてきているのではないかなと思いますね、特にミラーレスに関して。各メーカーがそのメーカーの文化というか、得意なところ、原点に立ち戻ったところを強く押し出している印象があります。

PY:確かに、各社の独自性が一層際立ってきていますね。

北岡:その中で、我々ニコンはというと、被写体からの直接光や反射光に一番最初に触れるのは撮影レンズだということに大きなこだわりを持っています。そこで、とにかく基本に立ち戻ろうと。約100年前に創業した時、光学機器の製造と販売から始めたのだから、そこに立ち戻ろうと。

PY:物事っていったん行き着くところまで行くと、原点に戻るんですね。

北岡:やっぱりスタートしたところに立ち戻るというのは、一つの重要な要素だと思います。業界としてもちろん競争はある中でも、各社が 特徴のある面白いものを出していけば、お客様ももっと興味を持っていただけるのではないかと思いますね。

PY:他社さんもライバルと言うよりはありがたい存在でもありますね。

北岡:少し前までは画素数、何倍ズームなどのうたい文句を我々メーカーも主張していましたし、お客様にもそういった点で評価いただくことが多かったと思います。でも今はもうそういった数字だけでは響かないことが増えていると思います。商品の持っている個性や製品そのものの持つストーリーを、以前よりも理解していただいているのでしょうね。

PY:全く同感です。

北岡:よくどこの会社がライバルですかとよく聞かれますが、実はあんまり気にしていなくて、我々は我々の一番出せる特徴を持った商品で、お客様と楽しみたいなと思います。

PY:ライバルでも、良きライバルなんですね。

北岡:実際にはどのメーカーも、もっと深く写真やカメラといったものを楽しんでもらおうとか、もっと多くの皆様に広げていきたいという想いを持っていると思っています。もちろんある意味でライバルではありますが、対立というのはあまり当てはまらないと思います。 展示会やイベントなどで、他のメーカーの方とも、お話しする機会はありますが、結局 カメラや写真の話で盛り上がって楽しく過ごしてしまいます 。

PY:いい時間ですね。これだけ光学メーカーがひしめく国なんて日本くらいですから、そういう意味では恵まれていますよね。

ユーザーへのメッセージ

PY:では最後になりました。ユーザーのみなさんに向けてメッセージをお願いいたします。

北岡:「最先端に一生懸命取り組むこと」と、「基本に立ち戻って光学にこだわること」が、ニコンがみなさんに提供できる一番のことであり、やらなければならないことだと思っています。その答えの一つがZシリーズで、今我々が持っているすべての技術を詰め込んだことと、光学メーカーとしての基本や信頼性という部分に立ち戻って、さらに将来も見据えたうえで今まで培ってきたものを投入しました。とにかく使ってみていただいて、写真を楽しんでください。後は色んなフィードバックを頂いて、みなさんがほしいと思うような商品をみんなで考えたいと思っているところです。

PY:僕達としては、おっしゃったようにニーズを反映させた製品も見つつも、ニコンさんの「直球」をこれからも見続けたいです。

北岡:お客様のサポートも、より力を入れて取り組みたいと思っていますので、もっとお客様とお話ししたいと思いますね。機材そのものが好きな方ももちろん増えてきてはいますが、スマートフォンで撮っていたけどやっぱり写真をちゃんとやってみたいなという人が、Zシリーズを買われたりするとも聞いています。

PY:へえ〜!でも世界が変わって楽しいだろうなあ。きっと感動されると思いますよ、そのお客さん。

北岡:新たに写真の世界に入ってきてくれたそういう方々のサポートもきちんとしていかなければと思いますね。カメラも決して安くはないですから、思う存分使い倒していただきたいです。

PY:使ってナンボですからね。Zシリーズは、使えば使うほど良さが滲み出てくるカメラですよね。

北岡:ニコンらしさだと思っています。じわーっと来る感じが(笑)。

PY:その「じわーっと」が良いんです(笑)。そういうスペックに出ない部分だって、ちゃんとユーザーは見てくれていますよ。しっかり構えて撮ろうという気になる、それこそ原点に戻れる稀有なミラーレスだと思います。

北岡:基本にはとことんこだわっていますし、信頼性などの点でも、ニコンクオリティを継承しています。そして、これからも取り入れられるものはどんどん進化させて投入していきます。技術の進歩の勢いはすごいですので、そこには全力で対応していきたいと思います。

PY:期待しています。

北岡:ありがとうございます。我々がミラーレスを出したことによって、ニコンの中でも一眼レフとも比べてほしいですね。どちらが優れているということではなく、むしろ両方使ってスタイルに合ったほうを選んでいただければと思います。もちろんFマウントも続けていきますし、Zはあくまで追加しただけですから。製品の立ち位置的にはZ 7がD850で、Z 6がD750あたりになりますけど、どちらを使っていただいてもご満足いただけると信じています。

PY:今後も我々を感動させてください。今日は寒い中、本当にありがとうございました。

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Zシリーズを産み出した、ニコンの「人となり」。

川越駅でお別れした時は既に日も落ちていた。寒い中、長時間、こちらのとりとめもない話に付き合っていただいた北岡氏には感謝の言葉もない。当初はキレッキレのZシリーズを産み出したシャープな方の苦労話を聞くつもりでいた我々だったが、ファンミーティングなどのプレゼンテーションから想像していたクールなイメージとも、また質実剛健という従来のニコンのイメージとも違う一面を北岡氏は見せてくれた。今回我々が見た「Zの元締め」は、柔和で、実直で、冷静で、気配りを怠らないチャーミングでダンディで親しみやすい紳士である(外見のダンディさはプレゼンでもわかっていたが)。そして「あまり写真は撮らない」と言いながらもとても良い写真を撮る方でもあるし、カメラ業界全体がそれぞれの個性を発揮しながら活気づくことで、写真を楽しむ人が更に増えることを心から願っておられる。

何でもできて当然、しかも性能的にも飽和状態に至りつつある昨今のカメラの中で新型を、更に新マウントで出すのは並大抵のことではない。ユーザーの声は当然としても、製造に関わる各部所の要望や事情に耳を傾け、それらを高次元でまとめ上げ、チームを導いてゆく。そして自分たちを信じ、難関を乗り越え、更には一枚も二枚も上のカードを出す。そうでなければ、Zシリーズのようなものが出来上がるはずがない。そして「設計から商品企画に移ってもやることは変わらない」という北岡氏の心の持ち方に触れて合点がいった。どちらの業務も「企てる」という点において変わりはないが、他社が先んじてフルサイズミラーレスを出した時でも「やっぱりフルサイズでミラーレスが出た。ああ、そういう時代なんだな〜」という感じ方の出来る人だ。非常に優秀であることはもちろんだが、何事にも動じず現状を冷静に受け入れる平常心、一歩引いたところから自分たちを眺めることが出来るメタ認知能力、そして心のニュートラリティを持った方なのだろう。

もちろんニコンには文字通り質実剛健の方やパワー全開の方もおられるが、一方で北岡氏のようなセンタープレーヤーもいることを今回知って、なんだか嬉しくなったし、少し気は早いが「次の100年も安心だな」と思った。多様な人材が同じゴールに向かって全力投球するからこそ、次のニコンが、ニッコールが生み出されていくのだ。カメラもレンズも人が作る以上、必ず「温度」がある。そして、今回北岡氏に会って感じた同じ暖かみと実直さを、Zシリーズからも感じることができる。他のニコン製品がそうであったように、Zシリーズにもそんなニコンの「人となり」が宿っていることを、ぜひ感じてほしい。そして写真を愉しんでいただきたい。

(終わり)

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( 2019.03.13 )