PHOTO YODOBASHI

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Nikon Z 7, NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct, Photo by Naz

Nikon NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct

[ズーム] 広角 | 標準 | 望遠 | 高倍率
[単焦点] 広角 | 標準 | 望遠 | マクロ

ニコンが威信をかけて世に出したF0.95のスゴイやつ。ついに実写する機会をいただきました。総重量約2,000gでマニュアルフォーカス。この標準レンズはニッコールの設計者が抱いていた夢が、新生ミラーレスZシステムによって実現された・・・そんなスペシャルな1本です。Zの大口径マウントも見やすいEVFも、このレンズのために存在するとも言ってもよいでしょう。一眼レフでは実現できなかったF0.95を、ついに作ることができる。設計陣の興奮は想像に固くありません。なにせ「明るい方が王道」とサラリと言ってのける方々ですから(詳細はこちらのインタビューをご覧ください)。サイズ云々は一旦脇において、とにかく最高の写りを実現した。車で言えばコンセプトカーをそのまま市販車化した。そんなところではないでしょうか。ということで詳細のご紹介に移ろうと思ったのですが、ビデオをご覧いただいたほうが早いことが判明しました。開放でピントリングを回しながら録画しております。

( Photography : Naz / Text : TAK )


これを「カミソリ」と言わずして何と言うのか。

そう唸ってしまうほど、シャープで極薄のピントに度肝を抜かれました。ジリジリと動くさまはまるで燃え進む導火線のようであり、ピークを過ぎた途端に消え去ってしまうピント面を見ていると「諸行無常」の響きさえ聞こえてきそうです。最短撮影距離まで寄っていますが、画面の端にピントをおいてもなおしっかりと解像しています。ボケのサイズも異次元ですね。玉ボケが周辺でレモン型になるのはわかるとしても、それでもかなり丸みを帯びているので違和感がありません。この手のレンズにはつきもののグルグル感もほとんど無く、アウトフォーカスの色濁りもほぼ認められません。ここまでの写りを見せられると、レンズ設計もまだまだ色んな事ができるものだなと思います。Zの登場で設計上の制約というリミッターが解除され、その真価が示されたということでしょう。ちなみに、無限遠から最短までのピントリングの回転角はほぼ360度。0.5〜1mだけで約200度の回転角があります。もちろん厳密な追い込みを期してのことですが、操作には慣れが必要です。


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立派なトランクケースに入っています。58mmですが、超望遠単焦点レンズと同格の扱いです。もちろん付属品ですが、別に買えば高級バッグ並のお値段がします。開けた時の高揚感は所有者だけが味わえる特権です。レンズの前のセクションにはフードが格納されていますが、こちらも高価です。当然付属していますが、絶対に無くさないでください。

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フードの型番は「HN-38」。ねじ込み式ですが、外した時のレンズ先端の見栄えまで考えたのでしょう。左の写真は装着したところ。深さもちょうどよい感じですね。というよりこれ以上長かったら、、、(笑)。三脚座もしっかりと付いているので安心です。確かに巨大な鏡胴ですが、F0.95が捉える巨大な光束の収差を効果的に取り除くためには、レンズの数と距離をもたせた構成が必要になります。求められる精度も計り知れないものがあるでしょうね。構成は10群17枚。4枚がEDレンズ、3枚が非球面レンズです。ダブルガウスを中心として、その前後を補正光学系で囲むアプローチです。これだけの光学系でAF化は、、、実用上難しいでしょうね。

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パネルに「F0.95」の文字が。後光が差しております。ナノクリスタルコートやアルネオコートで逆光や汚れに対する備えも万全です。


Nikon Z 7, NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct, Photo by Naz

ではこれより作例をご覧いただきます。1枚を除きすべて開放です。まずは前景背景を入れてみましたが、全体として端正さの際立つ描写です。ピント部の解像力は極めて高いものがありますが、ぎすぎすした感じではなく、エレガンスとシャープネスが同居しています。矛盾する要素を両立させるのは、良いレンズの証拠です。これはボケに関しても同様で、前後ともに癖を感じさせず硬さもない。それでいてただ柔らかいわけでもないというような多面性もあります。また、二線ボケや「グルグル」も認められません(画像をクリックすると、等倍に拡大します)。

Nikon Z 7, NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct, Photo by Naz

しっとりとやわらかい描写が美しいですね。最短は0.5mと想像以上に寄れる印象ですが、F0.95の被写界深度の薄さは異次元です。見えのいいZ 7のEVFでピントはある程度は追い込めますが、厳密に追い込むとなると拡大表示は必須となります。実際、もっと拡大したくなります。もちろんフォーカスエイドが機能するのでMFとはいえ苦労はしませんが、自分自身のわずかな動きで、フォーカスポイントの表示が合焦と非合焦の間でチカチカ切り替わります。

Nikon Z 7, NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct, Photo by Naz

中距離を見てみましょう。ボケの量そのものは135mm F1.8/F2あたりと同等と思われますが、画角はほぼ標準域の58mm。いつもの立ち位置から、デジャヴとは無縁の新世界が広がります。ちなみにこちらのカット、絞りはF1ですが、これで「絞った」あるいは「絞ってしまった」と思ってしまうのがなんとも面白いところです。

Nikon Z 7, NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct, Photo by Naz

ほら、やっぱり面白い。並のレンズでは撮らない(撮れない)画ですが、深度が極端に浅いためシフトレンズで撮ったようにも見えますね。ピント部の解像力もすさまじく、絞る必要性を感じません。

Nikon Z 7, NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct, Photo by Naz

こういった条件では色収差は出ます(クリックで拡大します)。でもレンズとはそういうものですし、相当高いレベルで抑えられている印象です。F1.8くらいまで絞ると解消しましたし、ソフトでも簡単にケアできます。


Nikon Z 7, NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct, Photo by Naz

この飛行機との距離感。もはやシュールレアリズムです。ピントリングを回すだけで、日常の光景さえ一瞬で異空間に変えてしまう力を持ったレンズです。周辺光量の落ちはありますが、なにせF0.95ですから。個人的にはもっと派手に出てくれたほうが面白い、、、なんて言うとまた設計者の失笑を買うかもしれませんね。

Nikon Z 7, NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct, Photo by Naz

これから何かが起こりそうな予感が漂う一枚。おそらく前ボケの少しざわつく雰囲気がそう思わせたのでしょう。非球面レンズを採用した高解像タイプのレンズに共通する特徴でもありますが、嫌味は皆無です。この状況で奥行き感を出せる力技に平伏してしまいます。


Nikon Z 7, NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct, Photo by Naz

平面的な被写体も隅々まで平坦なままキリッと描いています。大きな前ボケが距離感の演出に一役も二役も買っています。ちなみにこちら、ISO感度を減感して撮影しています。Z 7のシャッターの最高速はメカシャッター/電子シャッターともに1/8000秒。日中野外でF0.95はオーバースペックです(笑)。

Nikon Z 7, NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct, Photo by Naz

「Noct」ですから、やはり夜も撮りたくなります。口径食は出ますが、F0.95であることを考えると信じられない結果です。ちなみにF1.4でほぼ解消します。美しくもミステリアスにも感じられるハスの生命感。僅かな光をも糧にするレンズでなければ写ってくれない世界です。

Nikon Z 7, NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct, Photo by Naz

「クイズ・ピントを探せ!」へようこそ。いや、このレンズだと難易度が低すぎますね。

Nikon Z 7, NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct, Photo by Naz

Nikon Z 7, NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct, Photo by Naz

逆光耐性も見てみましょう。太陽光に向けたかったのですが、やはり日中での開放撮影は難しいものがありましたので、強い光源に向けてみました。ご覧のとおりまったく暴れる気配がなく、逆光にはめっぽう強い印象です。看板の一番上の文字にピントを置いても結果は同じでした。

Nikon Z 7, NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct, Photo by Naz


Nikon Z 7, NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct, Photo by Naz

大きなボケにあるまじき広い画角。中望遠がひっくり返っても真似できない芸当です。

Nikon Z 7, NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct, Photo by Naz

サジタルコマフレアって何?と言わんばかりに、見事にコントロールされています。繰り返しますが、F0.95です。同じ「Noct」のAI Noct Nikkor 58mm F1.2も相当頑張っていましたが、隔世の感ありですね。

Nikon Z 7, NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct, Photo by Naz

Nikon Z 7, NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct, Photo by Naz


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すべての画に無類の個性を与えるF0.95。

焦点距離58mmにしてF0.95という破格のスピードを手に入れたことで、標準域でありながらも大口径中望遠のような大きく美しいボケを実現。収差という名の「クセ」を徹底的に抑え込んだ結果、多くの超大口径レンズに見受けられる「危うさ」をまったく感じさせない、唯一無二のレンズに仕上がっています。冒頭でコンセプトカーのお話をしましたが、ここまでくると民生用レベルを超えているのでは?とさえ感じます。これより小型で安価な超大口径レンズもありますが、本レンズのコンセプトはそこではありません。ニコンは「レンズ屋」でもあります。こちらの工場見学記もぜひ覧いただきたいのですが、半導体製造装置(ステッパー)用の光学ガラス製品を製造するために積み上げてきた高度なノウハウもあります。NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noctは、ニコンの光学技術の粋が、Zという新たな活躍の場を得て結晶となった成果なのです。

大きなボケからピントが鋭く立ち上がるさまを見ていると、眼前の光景から自由にレイヤーを抽出しているような感覚を覚えます。自分が創造主になったかのような錯覚さえ感じるかも、、、というのは大げさかもしれませんが、それほどの力を持ったレンズだということです。問題は撮り手がどうするのか、これに尽きます。何にフォーカスするのか、何をぼかすのか。今一度、自身に問い直してみるのも悪くないかもしれません。2kgのマニュアルフォーカスレンズを操る体力と修練も必要でしょう。厳しい先生ほど教わることも多いと申します。中途半端な気持ちでは振り回せないということは、より真摯に写真と向き合うようになるということでもあり、その時点で腕が上がることは確実。手に入れた方はどうぞ永く使い込んでください。

( 2020.08.05 )

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不純物やミネラルの少ない日本酒ほど、実はゴクゴク飲めてしまいます。クセは個性とも言えますが、これまでにない次元で取り除くとむしろ良い結果を生み、未体験の個性を放つ。このレンズが教えてくれた新事実です。

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当然、むき出しで使う勇気は不要です。最高級のARCRESTフィルターをどうぞ。

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レンズのポテンシャルを最大限に引き出すなら、やはり高画素で低感度に強いZ 7の出番です。

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カメラや三脚の重さも考えると、これくらいの筋力があったほうが安心です。

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