PHOTO YODOBASHI

ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン

“スロウ レンズ”
暗いレンズ特集 Vol.5 : オールドレンズ編

暗いレンズ特集、最終回となる第五回はオールドレンズ編をお届けします。「オールドレンズ」といってもどこまでを含めるかという話もあるかと思いますが、少々乱暴にいってしまえば「現行品以外の過去に誕生したすべてのレンズ」となるわけで、もうその数は星の数に匹敵するほどとなります。今回はその範囲を少々限定して、ライカのスクリューマウント(互換マウントのレンズを含む)とMマウントのオールドレンズについてご紹介します。多くの人が「最初の1本」として選んだであろうサンハンズマロンから、つい最近になってリバイバルバージョンが登場した赤ズマロンのオリジナル、希少なトポゴン型のレンズ構成をベースとするキヤノン25mm、そして数十年に渡り生産されいくつものバリエーションを持つエルマー5cmは3バージョンから、これまで以上に枚数多めとなります。それでは行ってみましょう。


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Leitz Summaron 3.5cm F3.5

ズマロン。「ちゃん」付けしたくなるほど可愛らしい名前です。傷に効きそうです。「ゴン」は強そうですが「ロン」は優しそうです。「r」の発音って官能的ですよね。話を戻します。本レンズが生まれたのは1946年。日本もドイツもそれはもう厳しい時代だったことでしょう。戦後初のレンズとして相当の意気込みでリリースしたのではないでしょうか。そんなレンズが今は中古で比較的リーズナブルなお値段で手に入れることができるのです。レンズ本体の造りは酒が飲めるほど素晴らしいですよ。今同じものを作ったらおいくらになるのか、想像もできません。今回はFujifilm X-Pro2(アダプター経由)で撮影。APS-Cセンサーですので、35mm判換算で53mm相当の画角となります。(TAK)

光学性能については、最新レンズのような性能を求めず、個体差を認める寛容な心を持てば、人生が豊かになるでしょう。今回使用した少しクモリの見られる個体に限って言えば、四隅は絞っても甘く、APS-Cセンサーにおいても変わりません。逆光にも弱く、角度によっては円形のフレアが盛大に出ますし、ボケも、、、なんて細かいことは言わない。木陰でウトウトして目が覚めた時の景色、夢うつつで眺めた世界ってこんな感じかもと思わせてくれます。最新レンズだとこうは写りませんよ。

昔からやっていそうなバーを見つけましたので、フィルムシミュレーションをACROSモードに切り替えます。良い感じです。室内光でもハレーションを起こしているようですが、このスモークがかかったような雰囲気がこれまた佳いんですよね。

ズマロンがいたからズミクロンがいる。ズミクロンがいたからズミルックスがいる。先達が乗り越えた艱難辛苦見つめて来た時代に思いを馳せながら、今のレンズには真似できない慈愛に満ちた写りを愉しもうではありませんか。

とはいえ、曇っていない個体も試してみたいのも本音です。お手頃なものがなかなか見つからないのですが、それは縁次第。いつかの楽しみとしておきましょう。

PHOTO YODOBASHIEVFでのMFがしんどくなってきた身には、X-Pro2のハイブリッドファインダーは何よりもありがたい。レンジファインダー用のレンズですから光学ファインダーに切り替えた方が気分も盛り上がります。しかし何十年も前のレンズが最新のカメラに着くという感覚は、何度経験しても面白いものですね。最新からオールドまで、写真の愉しみかたは限りなく自由なのだと改めて思いました。


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Leitz Elmar 5cm

学生時代、部活の先輩に祖父の形見のLeica M3で撮ったリバーサルフィルムを見せてもらった。初めて見たライカの写りは、なんとも言えない深みのある赤が印象的で、ドキッとしたのを今でも覚えている。「これはエルマー独特の赤なんだよ」という先輩の一言が、今思えばライカ沼にはまる一歩だったのかもしれない。

ライカに惹かれどうしても欲しくなり、なんとか手に入れたのがスローシャッターもなく一番安かったLeica IIF。それでも当時の身分ではやっと手に入れれたのはボディーのみ。街に連れ出しては、小さなファインダーを覗き、レンズがついていたらこう写るなと想像しながらシャッターを切っていました。それから半年、やっと念願のElmar 5cm F3.5を手に入れ撮ったのは真っ赤なバラの花ビラ。先輩と同じコダクロームを使い撮った赤は、紛れもなく想像した通りのエルマーの赤でした。(A.Inden)

PHOTO YODOBASHI Elmar 5cm F3.5
Leica M3と同時に発売になったMマウントのElmar 5cm F3.5。マウントが変わっただけでぐっと現代的な佇まいになります。Mマウントは初めて使ったのですが、柔らかい調子はそのままで、抜けが良くなったのかスッキリとした印象を受けました。F3.5はショート、ノーマル、Leica Aと3本持っているのですが、コラムを書くのに調べていくうちに3本しか持っていないことに気付き「まだまだひよっこだな」と反省。軽く蒐集癖が疼き危険な状態になってきています。沈胴すればコンパクトなので、少々数が増えても収納スペースには困らないな…と思い始めている自分が怖いです。

LEICA M (Typ240), Elmar 5cm F3.5, 1/1500, F3.5, ISO 400, Photo by A.Inden

LEICA M (Typ240), Elmar 5cm F3.5, 1/2000, F3.5, ISO 200, Photo by A.Inden

LEICA M (Typ240), Elmar 5cm F3.5, 1/60, F3.5, ISO 200, Photo by A.Inden


PHOTO YODOBASHI Elmar 5cm F3.5 (Short)
通称「ショートエルマー」は、Leica Aに付いていたレンズをくり抜き、ライカスクリューマウントに改造したものです。硝材の違いにより1926〜1928年製造のものを「旧エルマー」、それ以降のものが「新エルマー」と呼ばれています。「旧エルマーだよ」と言われて手に入れた本レンズを今回改めて調べてみると、ショートエルマーであることは間違いないようですが、絶対に「旧」であるという証拠は…(苦笑)。ピントノブの裏に数字はないし、ストッパーの形状も違うし…ですが、ニッケルの色合いが美しくM Monochromに着けた姿も決まっているので、「よし」と思ってしまうのがライカホリックの証ですね。

LEICA M Monochrom, Elmar 5cm F3.5, 1/3000, F3.5, ISO 320, Photo by A.Inden

LEICA M Monochrom, Elmar 5cm F3.5, 1/250, F3.5, ISO 1250, Photo by A.Inden

LEICA M Monochrom, Elmar 5cm F3.5, 1/15, F3.5, ISO 1250, Photo by A.Inden


PHOTO YODOBASHI Elmar 5cm F2.8
MマウントのElmar 5cm F2.8。口径を大きくし硝材を変えることで、構成を変えずに開放値を半段明るく仕上げています。ライカは開放値によってレンズ名を決めています。わかりやすいところで言えば、F1.4はズミルックス、F2はズミクロン、F2.8はエルマリートです。このあたりは厳密に命名されているようですが、エルマーに関してはF2.8、F3.5、F4、F4.5、F6.3と開放値が幅広く存在します。多くが3群4枚のレンズ構成なので、ツァイスのようにレンズの光学構造が関係してるのかと思ってみたり、沈胴式やコンパクトなレンズをエルマーと呼んでいるのかと考えてみたり…。どちらでもいいにせよ、早起きした休日に、ライカについて書かれた書籍を眺めながらゆったりとした時間を過ごせるのは、ライカ使いの幸せの一つではないでしょうか。

LEICA M (Typ240), Elmar 5cm F3.5, 1/350, F2.8, ISO 200, Photo by A.Inden

LEICA M (Typ240), Elmar 5cm F3.5, 1/250, F2.8, ISO 200, Photo by A.Inden

LEICA M (Typ240), Elmar 5cm F3.5, 1/125, F3.5, ISO 200, Photo by A.Inden

ここまでElmarの話題に付き合っていただき「Elmarって面白そうだ」と思った方、古いレンズを探す環境が整っていないのであれば1994年に復活したElmar-M 50mm F2.8なんてのはいかがでしょうか。


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Leitz Summaron 2.8cm F5.6

いわゆる「赤ズマロン」。ライカのレンズには崇め奉られているものが幾つかあります。このレンズもその1本にカウントされるものなのでしょう。オールドレンズは、1本1本のコンディションも違えば、そもそも公差も大変おおらかな時代で、おおまかな描写傾向として括れるものの「モノ次第」なところがあります。私が所有している本レンズはまさにその噂通りの1本で、数あるライカレンズの中でも特に描写に驚いた1本です。解像力が大変高いレンズで、クッキリハッキリ!・・だけど角は丸い、そんな写り。この時代のレンズなので逆光等には大変弱く、太陽に直接向けようものなら、その昔サーキットのポディウムで入賞者の首に掛けられた月桂樹のような環が描かれます。これはこれで面白いのですが。28mmで、開放F5.6。当然ボケ表現などで画を構成することは難しく、その画角からも極めてフツ〜な写真が量産されやすいレンズですが、モノクロームのネガを見ただけで「おお!」。そんな凄みのある描写を見せてくれるものだから、ともかくなんとか使いこなしたい、そんな風に駆り立てられるレンズで、ずいぶん撮影を楽しくしてくれたレンズでもあります。また薄くて小さくて、フードも含めて意匠は最高でしょう!所有感駆り立てられるレンズでもあります。先に記したとおり玉が大変小さく、すごく曇りやすいレンズで、オールドを探すのもわりと迷宮入りしそう。当時の構成をトレースして現行レンズとしてラインアップされているため、そちらを手にする方が近道です。ですが、趣味に近道も遠回りもないわけで、オールドを3本程度、新品も買って撮り比べてみるという、そんなムダに遠回りもオススメ。まあ手元に残るのは、比べてみたというホントどうでもよい経験と、カードの請求書ぐらいなのですが(笑)いずれにせよ、入れ込み甲斐のあるレンズではあります。(K)

Leica M4, Summaron 2.8cm F5.6, Tri-X 400, Photo by K

Leica M4, Summaron 2.8cm F5.6, Tri-X 400, Photo by K

Leica M4, Summaron 2.8cm F5.6, Tri-X 400, Photo by K

Leica M4, Summaron 2.8cm F5.6, Tri-X 400, Photo by K


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Canon 25mm F3.5

この世の写真用レンズの中で一番好き。これとライカM5の組み合わせ。わりと最近まで、フィルムの自家現像やら印画紙プリントしてましてん。で、フォマパンとか詰めて撮ると、シャドウがストン!と落ちる感じの、ワタシの好きなトーンが出てですね。「これでもか!」ってぐらいの周辺落ちもステキ。そんなわけでボディがデジタルになっても、ほぼツケッパ。

きっかけは北井一夫さん。あの頃の(と言っても、私もその時代を知りませんが)写真家さんは、問題意識を持って社会を眺め、カメラという武器を手にその問題に鋭く切り込んで行く人がたくさんいらっしゃった。ルポルタージュってやつですね。もちろん今だって世の中は問題だらけで、そういう写真家さんはいらっしゃる。でもたくさんとは言えない。多くの写真家さんは「そこに写っているものは一体何か」という写真の本質を追求することよりも、「ぱっと見、インパクトのある写真」を撮ることに腐心されているように思う。

まぁとにかく北井一夫さんなわけです。北井さんの「三里塚」とか「村へ」とか、その他たくさんの写真を見て、その力強さ、写真に対する姿勢に圧倒されたんですよ、若かりし頃ね。しかし、「よし、俺もこういう写真を撮るぞ!」じゃなくて、「レンズはキヤノンの25mmか・・・よし、俺も買うぞ!」になってしまったところが、即ち今のワタシなわけです。ヘタレです。ダメダメです。「今の写真家は〜」なんてエラそうなことを言う権利はまったくありませんでした。ホントすいません。(NB)


ルーツを知り、写らないも楽しむ。

いつの時代もレンズ設計者たちは、その時使える最良の硝材といくつもの新しいアイデアを組み合わせ、光学性能をひたすらに追い求めたレンズを生み出してきました。現代としては「暗いレンズ」と称されるこれらのレンズも、生まれた当時は全然暗いものではなく、それぞれが高性能なレンズだったわけです。この十数年でカメラはデジタルとなり、レンズ構成はより複雑なものとなり、これまでにない高性能で大口径レンズも数多く生み出されてきました。一方で少し後ろを振り返ってみると、今の技術からすればシンプルかつ最小の構成で生み出されたこれらのオールドレンズたちも、写真を楽しむ我々の選択肢の中にちゃんと存在します。長い年月を経たものはコンディションも違えば個体差もあるわけで、同じ名前のレンズでも写りが異なることもありますし、今こうして手元にやってくるまでにどんな地を経て、何を写してきたかもそれぞれ異なるわけです。

今回紹介したレンズたちの写真はいかがでしたでしょうか。今のレンズと比べてしまえばどれも「写らない」レンズたちです。でも、今のレンズにはない個性をそれぞれが持っています。そしてまたいずれのレンズたちも、現代に至るまで生み出されてきた様々なレンズのルーツとなる構成や性格を持っているのです。そんなことを頭の隅に入れながら、それぞれのレンズが持つ描写について思いを巡らせつつ、ピントを合わせシャッターを落としてみるのも悪くはありません。写真の楽しみは広く、自由なのですから。

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( 2019.01.25 )

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現行ライカで最もオールドレンズが似合うのはこのボディではないでしょうか。ボディの厚みもフィルム時代のM型ライカと同じになり、軍艦部にはエングレーブも施されています。

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数多くあるデジタルカメラの中で唯一となるモノクロオンリーの写真機です。値は張りますが、その価値はあると思います。

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クモリの出やすい赤ズマロンを新品のコンディションで手に入れることができます。現行で手に入る、最も暗いライカレンズ。

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