PHOTO YODOBASHI
ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン
SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art
[ズーム] 広角 | 標準 | 望遠 | 高倍率
[単焦点] 広角 | 標準 | 望遠 | マクロ
今回レビューをお届けするのは、ミラーレス専用設計のソニーEマウント向け大口径単焦点レンズ「SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art」です。サイズは最大径75.5mm、全長109.5mm、そして重さは645g。写りに一切妥協しないF1.4の広角レンズが、ぐんとコンパクトにまとめられての登場です。光学系は11群15枚構成で、SLDガラス2枚、ELDガラス1枚、FLDガラス1枚、非球面レンズ2枚をビルトイン。軸上色収差をメインに据えた補正に注力したとのこと。歪曲収差や周辺減光などの諸収差についてはカメラ側の補正機能にアウトソーシングすることで、スリムなシルエットに仕立て上げられました。シグマがArtラインレンズを初めて世に放った「SIGMA 35mm F1.4 DG HSM | Art」のボリュームからすると隔世の感は否めず、ミラーレスシステムの恩恵は計り知れません。本レンズがその恩恵を存分に活かしきり、使い手にどんなハッピーをもたらしてくれるのか確かめていきましょう。
( Photography : Z II / Text : KIMURAX )
身近なものにさっとフォーカスするだけで、品のある柔らかなボケ味と相まった情緒たっぷりの写真が紡ぎ出されます。これぞ大口径単焦点レンズの醍醐味と言えましょう。前夜に降りしきった雨の湿度をたっぷり含んだ、ひんやりとした空気感までもがしっかりと伝わってくる描写。心地よさすら感じます。
広角レンズでのポートレート撮影は背景に情報を多く入れられるだけに、それなりに気を遣う部分もあります。そこはF1.4のボケ量をもってすれば、さほど難しく考える必要はありません。主役をスッキリと浮かび上がらせる丸みのあるボケ味。そのさりげない溶け具合にも好感が持てますね。その一方、まつ毛や紙コップがちょうどピント面に収まっていますが、絞り開放から素晴らしいピントのキレを見せていることがわかります。スッとした毛先、はたまた紙コップの繊維の微妙な表情までつぶさに捉えきっているのには驚かされます。輝度差のあるシーンですがフリンジの発生もなく、シャドーエリアの粘りもいいですね。
35mmという画角は縦使いすると伸びやかさが増し増しに。これを使わない手はありませんね。それにしてもフォーカスした画面中央部の解像感たるや十二分です。
最短撮影距離は30cmとなります。いかがでしょう、被写体との距離を詰めていけばマクロレンズが如き世界観ではありませんか。絞り開放で最短ともなれば、多少の収差が見え隠れしてもおかしくはありませんが皆無と言っていでしょう。
広角レンズで気になるのがやはり歪曲収差ですが、本レンズはカメラ側の歪曲補正機能を活用することを前提に設計されています。ご覧のように補正機能ONで撮影すれば、何ら心配することはありません。
ボケやキレなど、さすがはArtレンズの安定感だなと感じ入るのですが、光の捉え方がこれまた絶妙。揺るぎないそういった確かな描写性能が備わっているからこそ、コントラスト高めのチューニングを施す必要はないわけで。落ち着いたその場の雰囲気を、そっくりそのまま持ち帰ることができます。漆塗りのお膳はアウトフォーカスエリアですが、朱色は濃すぎず、あっさりせず。落ち着きある発色は、見た時の印象をそのまま忠実に再現しています。
ボケの発生具合がわかりやすいカットも。ピント面は薄くとも急にボケるようなことはなく、実に自然です。AFの応答性も上々でした。
広角レンズですから、絞った画もご覧頂きましょう。Artラインのレンズとあって、絞って線が太ることはなさそうです。必要以上にカリカリしないところもいいですね。
絞り開放で発生しやすいとされるサジタルコマフレアですが、なかなかよく抑えられている印象です。F1.4というスペックを鑑みれば、目を見張るものがあります。
開放からよく写るレンズなだけに、もはや絞りは被写界深度の調整にのみ使えばよいという明快さ。お気軽スナップ撮影からガチな風景撮影まで、豊かな表現力で応えてくれる頼もしい存在です。
機動力を手に入れた、Artレンズの説得力。
ミラーレス専用設計となったことで同スペックの「SIGMA 35mm F1.4 DG HSM」から随分と軽量コンパクト化が進んだわけですが、絞り開放からのキレ味、ボケ味といった描写力はArtレンズそのもの。歪曲収差をはじめとする諸収差への対応をカメラ側に任せ、光学系では軸上色収差をメインにした補正に注力できたことがポイントであり、我々ユーザーにとっては、明るい大口径の広角レンズを随分と楽に持ち歩けるようになったことはこの上ない歓び。とりわけ風景写真を主戦場としている人にとってはなおさらでしょう。さらには道すがらのスナップ撮影においても、上質なボケ味を伴った情緒たっぷりの画がしたためられるF1.4の表現力があるのですから、なかなか芸達者な単焦点レンズです。手にしたときに真っ先に伝わってくるビルドクオリティに加え、スペックがフルに発揮されるゆるぎない性能クオリティ。そのすべては、我々撮り手を心底楽しませてくれるものでした。このサイズ感、そして値ごろ感。写りには妥協をしたくないという人にこそぜひ手に取って欲しい、しみじみとそう感じさせられた一本です。
( 2021.05.14 )
風景撮影に限らず、日頃のスナップやポートレートに。写りには妥協したくないという方の、肩の荷を少しでも軽くしてくれる嬉しい一本。
前玉をしっかり守りつつ、フィルター装着による写りへの影響を最小限に、レンズ性能を遺憾なく発揮させるなら。