PHOTO YODOBASHI
ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン
SONY α7S III / SHOOTING REPORT
2020年10月9日、ソニーから「α7S III」が発売になりました。α7シリーズは、2013年に世界初のフルサイズミラーレスカメラとして標準モデルの「α7(いわゆる無印)」、および高画素モデルの「α7R」が発売され、その翌年、高感度モデルの「α7S」が加わりました。現在α7は3代目、α7Rは4代目までそれぞれ進化していますが、α7Sも今回のモデルで3代目に突入・・・というのがα7シリーズの大まかな流れです。
上でα7Sシリーズを「高感度モデル」と書きましたが、今回のα7S IIIは完全に「動画撮影に注力したモデル」としての性格を強くしています。もちろん依然として高感度に強いカメラではあるものの、その振り切りっぷりは別表の通り。時代に合わせて各モデルの棲み分けがより明確になった、という言い方はできそうです。というわけで今回のレビューは動画撮影を中心とした内容でお届けいたします。
( Photography : A.Inden / Text : NB )
LOOK & FEEL
こちらは背面。α9 IIやα7R Ⅳと共通のボタン配置になりました。タッチセンサー式の3.0型約144万ドット液晶モニターは、チルト式からバリアングル式に。
αEマウントボディとして初となるバリアングル式液晶モニター。やはり動画撮影でポテンシャルを発揮します。
SDカードに加えCFexpress Type Aカードにも対応したデュアルスロット。
HDMIはType-CからType-Aに。USBはマイクロとType-Cです。Type-C端子は本体充電の他、ここから給電させての撮影も可能になりました。USB PD(パワーデリバリー)に対応したことで充電の速さは従来の3〜4倍。
OVERVIEW
α7S IIからの最大の進化ポイントは、動画への思い切ったシフトです。それは下の表をご覧いただければ一目瞭然。しかし、実はいちばん重要な変化は、そのボディサイズ(特に厚み)ではないかと思います。ほんの少しだけ、大きくなっているのです。1mmでもコンパクトに作ることが求められるミラーレス一眼で、逆に大きくするのはとても勇気が要ると思うのですが、この厚みのおかげで、高画質な動画を長時間撮れるようになりました。つまり放熱の問題です。ここにあるYouTube動画はうだるような炎天下で撮影されましたが、α7S IIIに不審な挙動は一切なく、まったくストレスフリーに動画を撮影し続けられたことを申し添えておきます。むしろこの動画を撮っていた機材の方が(ソニー製ではありません)先にダウンしてしまったほど。図らずもその効果を証明することができました。
α7S III | α7S II | |
---|---|---|
イメージセンサー | 裏面照射1210万画素 | 1220万画素 |
画像処理エンジン | BIONZ XR | BIONZ X |
動画性能 | 4K 60p 4K 120p/4:2:2 10bit |
4K 30p |
AF | コントラストAF/像面位相差AF 測距輝度範囲-6EV |
コントラストAF 測距輝度範囲-4EV |
連写 | 10コマ/秒(AF/AE追随) | 5コマ/秒(1コマ目にピント固定) |
手ブレ補正 | 5.5段分 | 4.5段分 |
背面液晶モニター | バリアングル144万ドット(タッチパネル対応) | チルト123万ドット |
EVF | 約943万ドット 0.9倍/0.64型 |
約236万ドット 0.78倍/0.5型 |
SDカードスロット | デュアル(CFexpress Type-A対応) | シングル |
USB | マイクロUSB/USB Type-C | マイクロUSB |
サイズ | W128.9 × H96.9 × D69.7 mm | W126.9 × H95.7 × D60.3 mm |
本体重量 | 614g | 584g |
MOVIES
XAVC HS方式で4K動画を60fps、ピクチャープロファイルなしの標準の動画の設定で撮影したものです。記録方式がH.265のXAVC HSのため、従来のH.264に比べて圧縮効率が約2倍になり64MBのSDカードでも十分収録できました。カメラ撮って出しの映像をご覧ください。
XAVC S HD方式でHD動画を120fpsで撮影したスローモーションの世界をご覧ください。本来4K120fpsで撮影可能なのですが、そのためにはCFexpress Type Aカード(VPG200以上)またはDXCカード(V60以上)が必要になります。
暗い状態から明るい状態へと、露出が急激に変わる状況で撮影してみました。瞬時に露出が対応している様子がよくわかると思います。
XAVC HS方式で4K動画を60fps、ピクチャープロファイル8(PP8) S-Log3で撮影。S-Log3は撮影後のカラーグレーディングを前提とした設定。静止画におけるRAWのようなイメージで、できるだけフラットな映像を記録するスタイルです。どんなことができるか初カラーグレーディングに挑戦してみました。
※HDMI経由で外部収録機器を使うことにより、16bitのRAW画像が収録可能になります。
Imaging Edge Mobile(スマートフォン用ソフト)を使いスマートフォンでカメラをコントロールすることができます。iPadの液晶画面にタッチするだけで撮影中にピントの位置がスムーズに変わる様子をご覧ください。もちろんこの機能は背面液晶でも使うこともできますが、正確性を期すならやはり大きめの画面で。
PHOTO GALLERY
α7S IIIの強みは、1210万画素だからこその余裕ある画素ピッチがもたらす、広いダイナミックレンジと低ノイズ。橋の下は暗く落ちるだろうというイメージで撮ったのに、橋の下も遠くのビルもこんなにバランスよく写っていたのは、正直驚きでした。さらに、一見すると当たり前のように見えますが、暗部(橋の下)がここまでしっかり見えるのに空が濃い青に写っていることが、今までの経験では考えられないことです。ダイナミックレンジが広いことは分かっていましたが、ここまでとは・・・!
反射するステンレスの手すりに露出を合わせ、思いっきりアンダーに。背景の陽があたっていないビルの壁面は当然潰れるものだと思っていましたが、ディテールを残して窓に映り込んでいる景色の様子まで描写されています。暗部を真っ暗に落とすにはどのぐらいアンダーにすればいいのか、もう想像すらできません。
ボディ内5軸手ぶれ補正は、4.5段分から5.5段分にアップ。焦点距離70mm、シャッタースピードは1/6秒です。流れる水を遅いシャッタースピードで白い線のように撮る技法は珍しくもありませんが、これを手持ちで撮っているとなれば話は別。つまり、アングルの自由度が格段にアップするということです。
画素ピッチが広いということは、低ノイズで高感度に強いということ。そこでISO感度を上げて撮影してみました。光源は蝋燭1本ぐらいの明るさの小さなランタンのみ。同じISO感度でも全体の露出が暗いほどノイズが乗りやすいのでかなり悪条件の筈ですが、結果はISO 12800ぐらいまでは解像感、色乗り、ノイズ、すべての点でまったくと言っていいほど問題ありませんでした。
どうせならということで、こちらは設定できる最高感度のISO 409600。「さすがにここまで来ると解像感が・・・」とか書くべきなのでしょうが、逆にこの感度でこれだけ写ってしまうことに驚きです。ISO 409600・・・もう意味が分からない。とにかくすごい、としか言いようがありません。
そこへ向かう力。
昔むかし(実際にはそんなに昔ではない)、スチルカメラに動画撮影機能が搭載され始めた頃、それは「動画 "も" 撮れる」という程度のオマケに過ぎませんでした。しかし、今ではどのメーカーのどのモデルも、この機能を重要視していないものは無いと言ってもいいでしょう。これも時代の移ろいです。α7Sも方向転換とまでは言えないものの、もともと持っていたポテンシャルを最大限に生かしつつ、新たな性格づけをされて進化を遂げました。つまりそれは、新しい目標設定を伴った製品作りだったわけですが、ひとたび到達点を定めた時の、ソニーの「そこへ向かう力」にはいつも感服させられます。やるなら徹底的に、世間をあっと言わせるものを。「ここまでで精一杯」みたいな妥協は微塵もありません。ユーザーを次のステージに引っ張り上げ、新しい景色を見せてやるのは自分たちだ、そんな自負が感じられます。まったくすごいメーカーです。この際われわれユーザーとしては、「すんませんソニーさん、じゃあちょっと宜しくたのんますわ」とソニーにすべて任せて次のステージへ引っ張り上げてもらい、新しい景色を見せてもらうのがいいと思うのです。そんな素晴らしい体験が今すぐ、本当に今すぐできるのです。どこかのカード会社のCMによれば、「体験はプライスレス」ということになっていますが、それは正確ではありません。正しくは449,900円(発売時点、ヨドバシカメラ税込み価格)です。
( 2020.10.11 )
どうぞどうぞ、これで新しい景色を見ちゃってください。
今回の作例撮影で使用したレンズ(その1)
今回の作例撮影で使用したレンズ(その2)
ありがとうございます〜。こんなんナンボあってもいいですからね。