PHOTO YODOBASHI

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Nikon Z 7II, NIKKOR Z 50mm f/1.2 S, Photo by K

Nikon NIKKOR Z 50mm f/1.2 S

[ズーム] 広角 | 標準 | 望遠 | 高倍率
[単焦点] 広角 | 標準 | 望遠 | マクロ

さて、話題のNikon NIKKOR Z 50mm f/1.2 Sについてお届けします。過日、設計者の原田さんにインタビューさせていただきましたが(インタビュー記事はこちら)その段階からテストが実に楽しみな1本でした。50mmレンズとしては威風堂々な出立ち、構成図を見ればいかにも硝材がビッチリと詰まっています。挙げ句、ツァイスのベルテレ博士が人類に遺した宿題に対して21世紀の現在に応えたとまで言われたら期待するなというのが無理というもの。50mmレンズといえばデジタル時代の到来までわりと枯れた交換レンズだったと思います。感材がフィルムからセンサーに変わり、そこで生じる問題に対応するべく刷新されてきたのが、わりとつい最近までの話。ここに来て広角側で有名なBiogonタイプ(対称型)を50mmという焦点距離で実現しようというアプローチがともかく嬉しいのです。対称型の持つ見た目に自然で量感のあるボケ味は他のタイプとは一線を画すものがありますから。その持ち味を活かしつつ、たとえば周辺光量が確保しづらいなどのネガも潰し、現在の水準もしくはそれ以上で新しい画を見せてくれるのでしょう。セールスも実に好調だそうで、50mmの単焦点レンズなんて古くから泥沼にハマっている人の感覚からすると5万円程度だと思うのです。その価格感からすればかなりの金額ですが、相思相愛的にこの単焦点レンズが受け止められている事実に嬉しくなります。とりあえず、ざっと作例を掲載してみます。参考になれば幸いです。

( Photography & Text : K )

Nikon Z 7II, NIKKOR Z 50mm f/1.2 S, Photo by K

「面」で語ってくる描写

このレンズのファーストインプレッションは広角のBiogonで心底に「いいなあ」と感じさせられた味わいが詰まっています。ボケ味は完全にフォーカスのピークから外れていても物の形がしっかりと感じられ、ピークからアウトフォーカスに至るまで量感を伴ってなだらかに背景に溶けていきます。この「量感を伴って」という部分がポイントです。肉眼で見たときにボケはありませんが、ボケに量感が伴うからこそ、それを自然な描写と感じるのかなと個人的に思います。Biogonとは「bio(生命)」と「gon(角度)」から名付けられたと記憶していますが、たしかに生っぽい画なんですよね。そんなBiogonタイプの特長を持ちながら、現代のレンズのレベルに次元が引き上げられている印象です。ピントのピークは現代のレンズらしく素晴らしくシャープなのですが、ギスギスとした写りではありません。ここでいう「ギスギスとした」という喩えは、画像処理ソフトで派手めにシャープネスを後処理でかけるようなイメージで捉えてもらって構いません。シャープだけど何処か丸さを感じさせる柔らかさがあるのです。また画面の隅々まで描写が均一で、結果としてどこにピントを置いても中心にまったくといっていいほど見劣りしません。

ピントピークがカミソリのようで、そこから連なるボケが一気に溶ける、そんなわかりやすい派手さはありません。一番上のバイクの写真のように被写体が浮き上がってくるような「面」で魅せてくれるレンズだと言えます。しかしこれって物凄く次元の高いことなんだろうなと思います。そもそもレンズ描写を支えるすべての要素はそれぞれ突き抜けたものがあるわけです。そのなかでどれか一つが突出して見えるような話ではない、ということなんですね。交換レンズに魅せられて、本人はともかく財布が「もう勘弁してくれ」と言ってるような方には厄介なレンズの登場ではないかなと思います。

Nikon Z 7II, NIKKOR Z 50mm f/1.2 S, Photo by K

とりあえず寄ってみます。このレンズはボケの輪郭に嫌なものを感じることが皆無だと言えます。被写体を問わず、シーンを問わず、オールマイティなレンズだと感じます。さすがにF1.2といった大口径ですからピントは薄いですね。もう一枚寄り気味での開放のカットを(クリックで拡大します)。ピントを置いた銅像と、背景の横断歩道のボケ具合、パーキングメーターの表示のボケ具合などをご覧ください。

Nikon Z 7II, NIKKOR Z 50mm f/1.2 S, Photo by K

ペグを回す手の生っぽさ、尖鋭度の高さにまず目を奪われます。かなり強い斜光で被写体のエッジに光がのるため立体感は出やすいシーンですが、それにしても素晴らしい。背景の車には描写を荒れさせる面倒なメッキパーツなどがたくさんあるのですが、ご覧の通りクリーンで実に丸く柔らかい。ホイールのボケ具合を見ると感じ入るものがあります。

Nikon Z 7II, NIKKOR Z 50mm f/1.2 S, Photo by K

点光源の描写、ピント面の前後それぞれの人達の描写、遠景の描写、いかがでしょうか。


Nikon Z 7II, NIKKOR Z 50mm f/1.2 S, Photo by K

気配が浮かび上がる

「ピント面の尖鋭度が高い」という表現は少し誤解を生むかもしれません。要はピント面に限らず画面全体どこであっても尖鋭度は高いのです。ただピークから外れていくだけ。何が申し上げたいかといえば、ボケにも芯があってエッジは綺麗に丸められているということです。結果として、画面内の遠近・配置がよく伝わる描写だと感じます。

Nikon Z 7II, NIKKOR Z 50mm f/1.2 S, Photo by K

鳥の細い足を開放で曖昧さなくキッチリ写し止めるのですから大したものです。一番右端の鳥にピントを置いても描写は変わりません。対称型のレンズでは開放で周辺がズドンと落ちてしまうものですが、驚くほど周辺が落ちない。まあ、いにしえの対称型レンズを使ってみてください。笑ってしまうほどの周辺落ちなのです。一際大きなマウント径にそれに合わせて鏡胴いっぱいにまで詰まった硝材、執念じみたものを感じます(笑)

Nikon Z 7II, NIKKOR Z 50mm f/1.2 S, Photo by K

ほぼ最短撮影距離でのカット。輝度が高く面倒なシーンです。ピント面前後の砂なんかはフリンジが盛大に出そうなものですが大したものです。

Nikon Z 7II, NIKKOR Z 50mm f/1.2 S, Photo by K

このレンズの描写にはなんというか「ライブ感」があるように思います。

Nikon Z 7II, NIKKOR Z 50mm f/1.2 S, Photo by K


Nikon Z 7II, NIKKOR Z 50mm f/1.2 S, Photo by K

シーンを問わない懐の深さ

レンズを毎日手に、本当に様々なものを撮ってみました。面白いように苦手なものがないレンズだと感じます。逆に取り立てて得意というものもないかもしれません。もちろん次元の低い話ではありません。最初のうちは自分の撮れなさ加減だけが写り込むという印象でした。しかし日に日にその描写に引き込まれるのです。この1本があればなんだって撮れるなと、絶大なる信頼関係が芽生えてくるのです。

Nikon Z 7II, NIKKOR Z 50mm f/1.2 S, Photo by K

歪曲は一切ないと言い切ってしまっていいような写りです。しかし開放というのに隅々まで本当に素晴らしいです。

日頃から全弾絞り開放でお届けするあり得ないインプレッション、それがフォトヨドバシなのですが絞ってみましょう。開放から絞りこんでいっても描写傾向はわかりやすくは変化がないのですが(深度が増す程度)、絞った画もいいんですよね。上の作例は玉ボケの具合などを見ていただきたくてF2.8まで絞って撮影してみました。車の写真はF8まで絞り込んでいますが(クリックで拡大)、誤解を恐れず記すなら、このレンズである種一番感動したのはこの絞り込んだ画でした。素晴らしい立体感に、絞り込んでもどこか柔らかさを感じさせる気品ある描写だと思います。

Nikon Z 7II, NIKKOR Z 50mm f/1.2 S, Photo by K

ピント部分を原寸大で用意しました。クリックで拡大しますのでご覧ください。絞り開放です。

Nikon Z 7II, NIKKOR Z 50mm f/1.2 S, Photo by K


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まさに温故知新な1本

交換レンズの楽しさを再確認させられた1本でした。世には数多とレンズが存在するわけです。最近のものはどれをとってもよく写ります。だからこそどれを選んでも大きな問題はありません。仔細に見ていけばそれぞれ長所もあれば短所もあります。短所であったとしても、それを分っていれば単に特性なわけで、結局のところ撮り手がどう使うかがすべてなのです。オールドレンズなどでは、中心は極めて素晴らしい写りなのに周辺がボロボロ、しかしそれが生み出すトンネル効果が面白かったり。基本性能が高ければよい、一概にそうも言い切れないわけです。しかしこのレンズはそんな話を凌駕するものが宿るように思います。「このレンズがいい」そう言わしめるものが。

インタビューで話を伺った際に開発陣のみなさんが実に嬉しそうに話されるのが印象的でした。様々な物事がシームレスに連なり、しかも積層する今の世の中で、マスプロダクトの世界は「思い」だけでは物を作れないのです。しかしそれを強く感じる1本で嬉しくなりました。インタビュー記事、そしてこのレポートをお読みになって、どこか懐古主義な印象を持たれるかもしれません。しかし使った印象は間違いなく私に新しい世界を見せてくれました。これだけ年中いろいろなレンズに触れていれば不感症にもなります。あらためて写真が面白くなる楽しい時間でした。この1本のためだけにNIKON Z 7IIが欲しくなりました。レンズと合わせれば・・・やれやれ。

( 2021.01.14 )

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レポートなんかやらなきゃ「少し大きいな」「高いし」と片付けられたのに。みなさんもぜひお買い求めを。私の心が楽になります(笑)

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ボディのレポートも近々お届けします。実は一緒にお届けする予定だったのですが、レンズでお腹いっぱい。相変わらず使いやすいボディですが、細々熟成が進んでいます!

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