PHOTO YODOBASHI

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Nikon PC NIKKOR 19mm f/4E ED

[ズーム] 広角 | 標準 | 望遠 | 高倍率
[単焦点] 広角 | 標準 | 望遠 | マクロ

PCとは「Perspective Control」を略したもので、本レンズは、センサーに対して光軸を平行移動したり(シフト)、傾けたり(ティルト)出来る、特殊な機構を備えています。いわゆる「アオリレンズ」ですが、ニコンでは「PC Nikkor」と呼んでいます。建築や商品撮影などプロの現場で使用されることが多く、中々見る機会がないかもしれませんね。現在、PC NIKKORは他にも「PC-E NIKKOR 24mm f/3.5D ED」、「PC-E Micro NIKKOR 45mm f/2.8D ED」、「PC-E Micro NIKKOR 85mm f/2.8D」がラインナップされていますが、今回ご紹介するものは最も広角の「PC NIKKOR 19mm f/4E ED」。標準、中望遠の「PC-E Micro」が商品撮影に多用されるのに対して、19mmや24mmは建築物、インテリア、都市景観などの撮影に適しています。ともかく、何がどうなっていて、どのように使うのかをご説明しながらご案内いたしましょう。

( Photography & Text : TAK )

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1. シフト(光軸の上下移動)

まずは「シフト」です。レンズがどういう状態になるか、ご覧ください。左写真は通常の状態ですが、真ん中の写真ではレンズ部のほとんどが丸ごと上方へ平行移動(シフト)していますが(白い指標が見えるパーツは、マウントアダプターFTZです)、この操作を「ライズ/Rise」といいます。「ライズ」があれば「フォール/Fall」=下方への平行移動もありまして、それが右写真の状態です。

Nikon Z 6, PC NIKKOR 19mm f/4E ED, Mount Adapter FTZ, Photo by TAK

こちらは全くシフトさせずに撮影したものです。当然、通常の19mm F4の単焦点レンズで撮ったものと全く同じ結果が得られます。ご覧のとおり、極めて高性能な超広角レンズだということがおわかりかと思いますが、建物の形が上すぼまりになっていますね。超広角を使い始めた頃はこれを「ダイナミック!」と喜ぶのですが、しばらく経つとすぼまりが気になり始めます。垂直に立っている柱が写真では斜めになっているのはおかしいじゃないか、何でヒップホップのPVみたいなことになってるんだと(笑)。写真をやる人間ですらそうなのですから、建物を設計した本人がどれほど気持ち悪がるか、容易に想像できます。そこで、本レンズの出番となるわけです。

Nikon Z 6, PC NIKKOR 19mm f/4E ED, Mount Adapter FTZ, Photo by TAK

こちらが本レンズを「シフト」させて撮り直したものです。垂直であるべきものが垂直に写っていて気持ちが良いですよね。ソフトウェアによる変形処理をせずに、通常のレンズでこのように写そうとするならば、カメラをまっすぐ構えた状態で下がってから撮影し、下をトリミングするでしょうか。もしくは、離れたところから望遠レンズで撮影するでしょう。本レンズの最大の肝は、その場から動くことなく、フレームを最大限に使って、画質を損ねずにアオリ撮影ができることにあります。

Nikon Z 6, PC NIKKOR 19mm f/4E ED, Mount Adapter FTZ, Photo by TAK

Nikon Z 6, PC NIKKOR 19mm f/4E ED, Mount Adapter FTZ, Photo by TAK

どちらがライズでどちらがフォールか、もうおわかりですね。本レンズがシフトできる量は「±12mm」。「え?それだけ?」と思われるかもしれませんが、京都平安神宮の鳥居の高さ(24m)、キリンの背丈を考えると、十二分であることがわかります。この鳥居を同じ画角のレンズでこのように撮ろうとするならば、空を飛ぶしかありません(その意味ではドローンなのでしょうが、それはまた別の話)。

Nikon Z 6, PC NIKKOR 19mm f/4E ED, Mount Adapter FTZ, Photo by TAK

本レンズは、レボルビング機構(レンズ全体/ティルト機構部を回転させる)も備えており、これを併用することにより、上下だけでなく左右の平行移動も可能です。こちらは右シフトしてカメラを縦位置に構えて撮ったものです。JR京都駅に初めて降り立った人がきっと撮るであろう写真。上すぼまりにならないように写せるかな〜?と挑んだのですが、周りの電線などを入れずにとなるとこのあたりがベストでしょうか。それでも、普通のレンズとはまったく次元の違う世界ですよね。そしてシフトしてもこの高い画質を保っていることにも驚かされます。

以上、シフトについてご説明いたしました。一言でいえば、先すぼまり/歪みを補正する操作となります。


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2. ティルト(光軸を傾けること)

では次に「ティルト」についてご紹介します。ご覧のとおり、今度はレンズの前3分の2が上の方、下の方へと傾いていますが、それぞれ「上ティルト」「下ティルト」といいます。これはカメラを傾けなくても、あるいはレンズを絞らなくても、被写界深度を確保してより広範囲にピントを合わせるための操作なのです。

Nikon Z 6, PC NIKKOR 19mm f/4E ED, Mount Adapter FTZ, Photo by TAK

Nikon Z 6, PC NIKKOR 19mm f/4E ED, Mount Adapter FTZ, Photo by TAK

上が「ティルトなし」で、下が「下ティルト」操作をして撮影したもので、どちらも絞りは開放です。少しわかりにくいのですが、上部と下部の解像具合をよく比べてみると、下の写真のほうが上から下までシャープに写っています。通常のレンズであれば絞り込む以外にないのですが、本レンズでは開放でこの結果が得られるのです。本レンズがティルトできる角度は「±7.5度」ですが、上のショットでは「-2度」のティルト操作をしています。「思ったよりも少ないティルト角で済むんだな」と思われるかもしれませんが、これで十分なんです(これを超えると逆に被写界深度が浅くなってしまいます)。

Nikon Z 6, PC NIKKOR 19mm f/4E ED, Mount Adapter FTZ, Photo by TAK

Nikon Z 6, PC NIKKOR 19mm f/4E ED, Mount Adapter FTZ, Photo by TAK

こちらの方がわかりやすいかもしれません。上はティルトなし、下は「右ティルト」して撮影したものです(ティルト角度は3度、レボルビング機構併用)。絞りはどちらも開放ですが、下の方が手前から奥までピントが行き渡っていることがおわかりかと思います。絞り込まずにここまで出来る。これが役立つ場面が確実にあるのです(厳密に言えば、写り込む範囲が少し違ってきます)。

Nikon Z 6, PC NIKKOR 19mm f/4E ED, Mount Adapter FTZ, Photo by TAK

Nikon Z 6, PC NIKKOR 19mm f/4E ED, Mount Adapter FTZ, Photo by TAK

ちょっとヘンテコリンなのを持ってきました。画面の上下は完全にアウトフォーカスですが、これは必要以上にティルトを効かせて、逆に被写界深度を浅くしています。いわゆる「ミニチュア風写真」「ジオラマ風写真」を意識したものですが、あれもこのティルトを使っているのですね。ドラッグストアをジオラマ化した理由は自分でもわかりませんが(笑)。

Nikon Z 6, PC NIKKOR 19mm f/4E ED, Mount Adapter FTZ, Photo by TAK

Nikon Z 6, PC NIKKOR 19mm f/4E ED, Mount Adapter FTZ, Photo by TAK

こちらはレボルビング機構を併用して、左右にティルトしています(左右に関しては「スイング」とも呼ばれています)。ご覧のとおり、F4でも逆ティルトではかなりボケます。やりすぎると飽きるかもしれませんが(笑)、肉眼では絶対に見えない世界ですから楽しいですよ。「レンズは世界を変えてくれる」とよく言われますが、それをもっとも痛感させてくれるレンズだと思います。

以上、ティルトについてご説明いたしました。一言でいえば、撮像面とピント面とを平行状態に近づける操作、あるいは逆利用してピント部とボケとの大きなギャップを作る操作ということになるでしょうか。ちなみに列車のショットは少しフォールもさせて撮影しています。つまり、シフト、ティルトは同時に使うことも可能なのです。


Nikon Z 6, PC NIKKOR 19mm f/4E ED, Mount Adapter FTZ, Photo by TAK

Nikon Z 6, PC NIKKOR 19mm f/4E ED, Mount Adapter FTZ, Photo by TAK

Nikon Z 6, PC NIKKOR 19mm f/4E ED, Mount Adapter FTZ, Photo by TAK

Nikon Z 6, PC NIKKOR 19mm f/4E ED, Mount Adapter FTZ, Photo by TAK

Nikon Z 6, PC NIKKOR 19mm f/4E ED, Mount Adapter FTZ, Photo by TAK


Nikon Z 6, PC NIKKOR 19mm f/4E ED, Mount Adapter FTZ, Photo by TAK

視点、自由自在。高画質、そのままに。

「アオリ撮影」は、写真の歴史の中で実はかなり初期から存在したプリミティヴな撮影方法です。そもそもレンズが蛇腹の先についており、レンズ板ごと自由自在に動かすことが出来たので、「アオリレンズ」という呼び方そのものも無かったでしょう。それが次第に固定鏡胴が主流になる中で(大判カメラなどを除く)、一般的というよりも特殊性を帯びたものへと変わっていったのです。その後、1961年に一眼レフ用のレンズとして世界で初めてシフト機構を備えたレンズが登場します。「PC-NIKKOR 35mm F3.5」です。本レンズの大先輩にあたりますが、それは大判カメラに独占されていたアオリ撮影を、携帯性と拡張性に優れた35mm一眼レフでも実現してやろうというニコンの気概の表れでもありました。その後改良を重ねる中でティルト機構も加わり、最新のデジタルカメラにも対応しながら新たにレボルビング機構も備えた超広角バージョンが、「PC NIKKOR 19mm f/4E ED」なのです。特殊なレンズといってもレンズとして最も大切な描写力に手抜きは一切見られず、隅々まで実にシャープです。また、トーンは緻密に表現され、コントラストもリアルで、ヌケの良さも際立っています。ナノクリスタルコートの採用で、逆光性能も極めて高いものを持っています。あ、言い忘れました。意外とボケも良い味なのですよね。

建築物やインテリアはもちろん、風景にもミニチュア風撮影にも最適です。また、パノラマ撮影用のスライダーがあれば本格的なパノラマ撮影も可能です。カメラを平行に移動しながら複数枚を撮影し繋げるのです(レンズを固定し、カメラ側をシフトさせるのが理想的)。とはいえ、なにせ焦点距離19mm、画角97度です。その世界が既に「大パノラマ」ではあります。

ご覧のとおり、ひょいと持ち出せるサイズ、ウェイトではありませんが、ここぞという時に使うものですから問題ありません。アオリ操作は言うに及ばずピント合わせもマニュアルですから、ミラーレスのZシリーズやライブビューが出来る一眼レフのDシリーズが相性が良いでしょう。ちなみにZシリーズはボディ内手ブレ補正が搭載されているので、三脚が使えない室内などでは特に重宝すると思います。与えられた仕事を確実にこなし、効率よく目的を達成させてくれる、まさにプロフェッショナルのための道具。造りも非常に頑丈ですし、確実な操作感で、決して期待を裏切ることはありません。剥き出しのギョロ目ではありますが、汚れにも強いフッ素コートを採用していますので、少々の雨滴でもブロアーでシュッ!でございます。最後に一つだけ。その性質上、フードというものが存在せずフィルターも装着不可能です(かぶせ式レンズキャップが付属)。お取り扱いには細心の注意を払われますようお願いいたします。

( 2019.02.15 )

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超広角のPC Nikkorが必要な方はこれ一択ですね。どなたにでも「おひとついかがでしょうか」とは申しませんが、「プロ御用達」ほど趣味人を刺激する言葉はないでしょう。欲しいと思った時が買い時です。

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