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Nikon D4S, Carl Zeiss Otus 1.4/85, 1/1250, F1.4, ISO 100, Photo by K

Carl Zeiss Otus 1.4/85

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さて、Carl Zeiss Otus 1.4/85の実写レビューです。85mm F1.4というレンズに特別な思いを抱く人は多いと思います。その中でもカール・ツァイスの85mm F1.4は、まさにキングオブキングスと呼ぶに相応しいレンズだと個人的に思います。その理由は、いわゆる標準と呼ばれるものまたは中望遠に至るこれらのレンズは、ダブルガウスと呼ばれる構成のレンズが圧倒的に多いのです。しかもダブルガウスというよりは、実は皆さんもよくご存じの「Planar(プラナー)」が礎となり、その流れを汲んでいるといってよいでしょう。Planarは、カール・ツァイスがこれまで様々にリリースしてきたレンズの名前でもありますが、Planarタイプというレンズ構成のレンズにPlanarという名が与えられてきたのです。Planarタイプはダブルガウスタイプに何点かの工夫を施し生み出されたレンズ構成ですが、詳しいことは割愛するとして、次のような特長があげられます。(1) 対称性に優れたレンズ構成で大口径化に向いている (2) 色消し(色滲み)に優れる (3) 像面の平坦性に優れる (4) 一方、コマ収差が出やすい・・・といったあたりでしょうか。Planarと言えばもっともツァイスらしいレンズという印象ですが、光学的に見ると、球面収差補正のアプローチが完全補正型であり、絞りや像の位置に限らず高画質、つまり像面の平坦性が大変高いことがあげられるでしょう。これはどのマウントのPlanarでも同様で、カール・ツァイスの哲学の一つなのかもしれません。あくまで想像に過ぎず、この種の話は諸先輩方のほうが詳しいと思いますので、いろいろと調べてみてください。

さて、前置きが長くなりました。Carl Zeiss Otus 1.4/85は、なんとPlanarの名の前に「APO」が。アポクロマート仕様なのです。レンズ構成図を見ると、異常部分分散ガラスがふんだんに使われ、非球面レンズも使われています。大変贅沢な構成で、並々ならぬ意志を感じますね(笑)Planarと呼ばれるレンズの中でも、ヤシカコンタックスの時代に伝説的なレンズがリリースされています。いわゆるアニバーサリーレンズで、Planar 55mm F1.2とPlanar 85mm F1.2の2本にとどめを刺すでしょう。55mmは凄まじい解像力と発色の美しさに舌を巻き、85mmは全方位に渡って優等生なレンズでした。しかし、これは感材がフィルムの時代のレンズ。双方共にマウントアダプタを介してデジタルカメラで撮影したことがあります。未だに素晴らしい性能を誇るレンズではありますが、85mmは特にパープルフリンジなどで悩まされました。徹底的に平面なセンサーを相手にすれば、想定していない粗も出てくるのでしょう。そしてこの度のOtus 1.4/85のリリースです。高密度センサー搭載が当たり前の時代となった今、当時のアニバーサリーレンズのインパクトに比肩、またはそれを超越したレンズでなければ、リリースしてくるはずが無いと思うのです。ワクワクするなというほうが無理(笑)本来であればバストアップのポートレートなどで試すのが一番の焦点距離ですが、意地悪なシチュエーションばかりで試してきました。その実力のほどをご確認いただければ幸いです。

( Photography & Text : K )

Nikon D4S, Carl Zeiss Otus 1.4/85, 1/2500, F1.4, ISO 100, Photo by K

普段レンジファインダーカメラで50mmをマウントし、街でのスナップを楽しむ筆者にとって、85mmなんて正直どう使ってよいかわかりません。とりあえず思い付くのは、局所を切り抜く意地悪なシチュエーションの絞り開放カット(笑)このカットが一枚目の画でした。いやはや凄まじい。毎回毎回どんなレンズを使っても昨今のレンズはシャープだと感じますが、群を抜くシャープネス。あげくこのヌケの素晴らしさ。クラクラします。

Nikon D4S, Carl Zeiss Otus 1.4/85, 1/1250, F1.4, ISO 100, Photo by K

画面左側はベンチ、右下は石畳。木々を通した複雑な光で、ボケの汚いレンズであれば石畳がどう写るか…ちょっと面倒くさいシーンです。しかし85mm F1.4となると、そんなことは関係無いのですね。すべてをバーンと溶かしてくれます。開放で使いたい、開放でしか使ってはいけない(そんなことはありません。笑)。そんな風に思わされるピントのキレ、シャープさ。わりと端の方に被写体を置いてこの写りです。

Nikon D4S, Carl Zeiss Otus 1.4/85, 1/4000, F1.4, ISO 100, Photo by K

後ろボケがどうかなあと試してみたのですが、何の心配もありませんでした。Planarと名の付くレンズは、被写体から背景までの距離によって後ろボケがガサつくものが多いのです。しかしこの石像の質感描写は見事すぎて適当な言葉が見つかりません。

Nikon D4S, Carl Zeiss Otus 1.4/85, 1/2000, F1.4, ISO 100, Photo by K

被写体をそっくり持ち帰ってきたかのような描写です。D4Sより高画素機、たとえばD810あたりでぜひ試してみたいと思う写りです。おそらく全く問題が無いでしょう。レンズの性能が著しく高い場合、高画素機にマウントした途端、さらに次のステージの描写を見せてくれることがあります。特にローパスフィルタの有無は大きく、D810を購入しようかと一瞬頭に過ぎりました。ということは「レンズも手に入れるということ?」と即座に自己ツッコミ。現状、なんとか冷静を保っております。


Nikon D4S, Carl Zeiss Otus 1.4/85, 1/8000, F1.4, ISO 100, Photo by K

最近、日差しが暖かくなってきましたね。女性の髪の毛1本に至るまで、まったく混ざり気の感じられない解像。光を受けた前ボケの葉も美しいですね。

Nikon D4S, Carl Zeiss Otus 1.4/85, 1/200, F5.6, ISO 100, Photo by K

さて、F5.6まで絞って、ド・オーバーにしてみましょう。木々にはLEDの電飾がほどこされています。これ以上無い解像力。そして硬くない。緻密に解像していく印象です。そしてまったく色滲みも感じられません。実に美しい描写で、北海道辺りで見かける霧氷が光に照らし出される光景を見ているかのようです。

Nikon D4S, Carl Zeiss Otus 1.4/85, 1/8000, F1.4, ISO 100, Photo by K

画像を縮めているので分かりづらいのですが、実は男性にピントを置いています。しかし、外れています(笑)D4Sはもとより、ファインダーのデキは本当に素晴らしいニコンのカメラで、正直ピントが追えません。ライブビューのありがたさを感じました。そして、逆の見方をすれば、10Mや20Mの距離でピントを置いた場所が「ハッキリ分かる」。ヤワなレンズじゃ、距離のある被写体を捉えると少々のピンボケなんて視認できません。インタビューの際にも同じ事を言いましたが、AFバージョン出ませんか?(苦笑)

Nikon D4S, Carl Zeiss Otus 1.4/85, 1/1000, F1.4, ISO 100, Photo by K

女性の髪の毛にピントを置いたのですが、実際は肩先に。。。ちなみにあまりに外すので、自分の目を信用せずにフォーカスエイドを頼りにシャッターを切ったのですが、一般的に考えてみればこの明るさ・焦点距離ならAFですら怪しいですよね。ちなみに、レンズによってピントピークが掴みやすいレンズと、そうでないレンズがあります。本レンズは圧倒的に前者です。後者はたとえばヤシカコンタックス時代のPlanar 85mm F1.4ですね。「掴みやすいレンズで、掴めない」といったよりは、先に記したとおり、真実のピントが如実に見えてしまうということでしょう。しかし外すと本当に凹みます(苦笑)フォーカスエイドでも外して、なんだ自分だけでなく、AFだったとしてもこりゃ無理だ! という現場での妙な現実逃避に笑いました。しかし、ピントを合わせるというのは元来本当に難しいことで、今もって、カメラメーカーの皆さんは「できない」を「できる」に変えようと奮闘されているんですよね。

Nikon D4S, Carl Zeiss Otus 1.4/85, 1/160, F1.4, ISO 800, Photo by K

さっさと白旗降参、ライブビューで撮影いたしました。画面右はスプーンやフォーク、カップ、結構さまざまなものが並んでいたのですが、さすがにこのクラスのレンズはボケで画面整理ができてしまいます。あえて50mm的なフレームですが、F1.0クラスでもここまで整理ができるかどうか。今回使用してみて思ったのですが、ポートレートなどにもよいでしょうけれど、圧倒的な画面整理のしやすさから85mmをスナップに持ち込むのも面白いなあと。ただサイズが。。。


Nikon D4S, Carl Zeiss Otus 1.4/85, 1/500, F4, ISO 100, Photo by K

開放から実にシャープで、絞る必要はあまり感じません。しかしこの焦点距離ですから、深度を稼ぐ必要は出てきます。絞りはその時に使うといった印象。本当に淀みなく、誇張無く、リアルにひたすら写し込んでくる、そんな印象です。

Nikon D4S, Carl Zeiss Otus 1.4/85, 1/500, F1.4, ISO 100, Photo by K

前カットの段にて記したとおり、「リアルに写し込む」この雰囲気伝わりますか?

Nikon D4S, Carl Zeiss Otus 1.4/85, 1/640, F1.4, ISO 800, Photo by K

Nikon D4S, Carl Zeiss Otus 1.4/85, 1/2500, F1.4, ISO 100, Photo by K

Nikon D4S, Carl Zeiss Otus 1.4/85, 1/8000, F1.4, ISO 100, Photo by K

85mmを50mm的に使う。20m近くのディスタンスでしょうか。この距離でピンを置いた場所が立つことが、こんなアプローチの撮影を可能にします。


現代に求められる水準をオーバークオリティでまたも超越してきた、キングオブキングス。

思い返せばアニバーサリーレンズのPlanar 85mm F1.2も、フィルム時代において求められる水準を軽々と超越した性能でリリースされたレンズでした。少し脱線しますが、カール・ツァイスはハッセルブラッドにもレンズ供給を行っていましたが、その中で印象深い1本があります。最初期の頃のC Planar 80/2.8という、シルバー鏡胴(白レンズと呼ばれます)のレンズがあるのですが、まだT*コーティングも無い時代のレンズです。PHASE ONE P25という2500万画素のデジタルバックをハッセルブラッド503CWに取りつけて、このレンズを使ってみると素晴らしい写りを見せてくれたのです。もちろん逆光に弱かったりはするのですが、画面の隅々までびっしりとピントが来て、決して現代のレンズにひけを取らないのです。まさかデジタルバックに感材が置き換わるなんて当時の制作者達は想像もしなかったと思うのですが、カール・ツァイスが如何にして名声を勝ち得てきたか、その底力をまざまざと感じさせられました。筆者の印象では、カール・ツァイスといえば「オーバークオリティ」。今回のOtus 1.4/85も全く変わってないんだなと感じさせられた次第です。

Otus 1.4/55に比べると、さらに優等生といった印象です。解像力やシャープネスなど肩を並べるのですが、印象としては、Otus 1.4/85のほうが少し柔らかさを感じ、Otus 1.4/55のほうが半ばエッヂーに感じます。レンズの用途を考えれば好ましいと感じますね。 そしてかのアニバーサリーレンズ、Planar 55mm F1.2とPlanar 85mm F1.2の関係によく似てるなと、少しノスタルジーな気分になってしまいます。

過去のアニバーサリーレンズは数量限定のレンズでした。Otusは言ってみればカタログモデル。無慈悲に画質追求のためにはサイズをいとわず、価格も覚悟を強いるものです。55mmと85mm、双方の焦点距離で単玉を必要とするのなら、いつか挑戦して頂きたい1本です。


  • 嬉しくて、嬉しくて、バンバン浮かび上がらせます(笑)※クリックで拡大します。

  • 画面端でも被写体はきっちり浮かびます。お手持ちのレンズで同じ事を試してみてください。※クリックで拡大します。

  • 波が毛羽立つところに「紫あり」。とは、なりません。※クリックで拡大します。

  • 周辺光量は若干落ちます。絞ればすっきり解消。しかし像面の平坦性は流石ですね。※クリックで拡大します。

  • とても繊細に線を結ぶレンズ。※クリックで拡大します。

  • 点光源の描写をご覧ください。ちなみにリヤガラスを通しての撮影です。※クリックで拡大します。

( 2014.02.11 )

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プロテクター代わりにUVフィルターを。フィルターも最高のツァイスじゃなきゃいけない気がします。

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