SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art

シグマからライカLマウント向けフルサイズ対応の大口径35mmレンズが登場しました。「SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art」はArtラインに属するレンズです。シグマのLマウントの35mmレンズとしては、先に35mm最大口径となる弩級レンズの「35mm F1.2 DG DN | Art」とスタイリッシュで軽快に扱える「35mm F2 DG DN | Contemporary」の2本がありました。加えて今回ご紹介するのと同スペックの「35mm F1.4 DG HSM | Art」もありましたが、これは一眼レフ向けに設計されたものをLマウントに転用したもの。本レンズはミラーレス専用設計として初の35mm F1.4となります。

レンズ構成はArtラインらしく、FLDガラス1枚、ELDガラス1枚、SLDガラス2枚、非球面レンズ2枚と高価なレンズを贅沢に使用した11群15枚。11枚の絞り羽根により円形絞りを採用しています。フィルター径は67mm、同スペックのライバルと比べても軽量・コンパクトな全長109.5×最大径75.5mm、質量645gという取り回しのいい大きさ・重さにまとめられ、F1.2と比べて全長は約80%、質量は約60%と大幅な小型軽量化を達成しています。シグマによれば、カメラ側の補正が難しい軸上色収差をしっかりと補正し、大口径レンズながらもサジタルコマフレアを効果的に抑制しているとのこと。期待が高まりますね。結論を先に申しあげてしまえば、本レンズは抜群の安定感を高い次元で実現させた素晴らしいレンズでした。では、実写レビューにてその実力をお確かめください。

( Photography : TA / Text : Naz )

朝陽が上り、光が回り出しはじめた時間。その時の情景そのままに写し込んでくれました。水面の小さな波から遠景のビルまで余すことなく写し込もうとF8まで絞り込んでみました。絞り込んでも線が太くならず、細い線を幾重にも重ねたような綿密で繊細な描写です。

近接撮影でもピント面は滲むことなく美しい線を描いてくれます。このあたり「さすがArtラインの単焦点レンズだな」と納得させられる描写でした。やわらかな花弁と、つるんとした葉を質感でもしっかりと描き分けています。ヌケのよさやコントラストを含めバランスよくまとまっていると思います。

騒がしくなりがちな前ボケもご覧の通り。これだけ盛大に入れてみても、ピントがしっかりと立っているのがおわかりいただけるでしょうか。

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ウエットな空気も実にいい塩梅で写し込んでくれています。前後のボケから浮かび上がる人物の立体感が素晴らしく、サーフボードやウエットスーツなどの質感の違いも丹念に描き分けています。

かなり飛ばし気味に撮影した砂浜。スコーンと抜けてしまうことがなく、微妙なトーンの変化をどこまでも拾ってくれました。ハイライトだけで画が成り立つ。これはカメラの性能も相まってのことですが、よいレンズの証であることも間違いないでしょう。

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SIGMA fpから LEICA SL (Typ601)に持ち替えてみました。F1.4ですから近接撮影ではかなり深度が浅くなります。前後のアウトフォーカスも丁寧に描き込まれ、被写体がどんな造形であるのかがよくわかりますね。

少々騒がしい被写体ですが、ピントがどこにあるのかがしっかりとわかります。また、前後のボケも良くまとまっています。ボケ味の質の高さに全振りしたかと感じるほど撮影シーンを問わず美しいボケ味を見せてくれますが、Artラインらしい抜群の解像力ももちろん健在です。

花にかなり強い光が射し込んでいました。花弁の質感が損なわれてしまいそうな条件でしたが、ご覧の通り。とろけるような後ボケがよい演出をしてくれています。

浮き立つようなボケ、いいですね。

日常的なシーンの使用では、AFの速度・精度共にストレスを感じることはありませんでした。咄嗟にシャッターを落とした一枚。開放のまま撮影するつもりが、絞り環に触れてしまいF1.6に…。それにしてもよく写りますね。

庭によくあるような物置と、普段屋内でしか見かけることのない長椅子。不調和な組み合わせでしたが、それぞれが経た長い年月がそうさせるのでしょうか。落ち着いた佇まいは見事に調和し、そこが周囲から区切られたスペースのようにも感じられました。

絞り開放で、ほぼ真っ直ぐに太陽へレンズを向けています。風が強く、潮が舞う、夕景が美しい一日でした。水面、砂利、白い波、霞む空…いやはや大したものです。こんなときに、このレンズを手にしていたのは本当にラッキーでした。

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• 最短撮影距離30cmでの撮影。マクロ撮影とまではいきませんが、ピンポン球大の花に十分寄りきることができますので、日常レベルなら用途に富むレンズだと思います。このような近接の条件でも諸収差がしっかりと抑制されているため、ピント部に曖昧さはありません。
• 高層階から夜景を撮影してみました。サジタルコマフレアも良好に補正されているようです。開放値がF1.4であることを考えると、かなり優秀です。

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Artラインの新しい基準となる一本。

シグマのArtラインが誕生したのは2012年11月、冒頭でも触れました「SIGMA 35mm F1.4 DG HSM | Art」（※キヤノンEFマウント版）からでした。あれから8年が経過し、Sportsラインも含めれば超広角レンズから超望遠レンズまで、フルラインアップといえるところまで充実してきました。そのどれもが高い光学性能を有し、ユーザーから高い評価や厚い信頼を得てきたのはご存知のことでしょう。特に本レンズは、近接から遠景までのピントのキレや解像力が高いレベルで安定し、しかもピント前後にあるボケは条件を問わず美しい。「どんなシチュエーションでも微塵も裏切らない抜群の安定感が印象的だった」という撮り手からの感想も頷けるもの。派手さを抑え落ち着いた色乗り、ピントは開放からすこぶるシャープ。ヌケがよくクリアでありながら、ボケに量感を感じる…等々。シーンを問わず扱いやすく纏められた本レンズは、Artラインの名の通り、表現をするフォトグラファー達の頼れる絵筆となってくれることでしょう。

本レンズには、近年リリースされたArtラインのレンズ同様、鏡胴に操作性のよい幅広の絞り環が配され、（Aマークで）ボディ側からコントロールするだけでなく、レンズ側でも絞り値のコントロールが積極的に行えるようになっています。また、その絞り環にはデクリック機構も備えられ、操作時のクリック音が発生しないよう配慮されています。お馴染みの、割り当てる機能をカスタマイズ可能なフォーカスロックボタンもAF/MF切り替えスイッチと合わせて鏡胴に配されています。もちろん防塵防滴機構に加え、レンズ最前面には撥水・防汚コートも施されるなど、ハイエンドなレンズとして不足するものはひとつもありません。

今回ご紹介しました「SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art」の登場により、筆者としてはArtラインのレンズラインアップが一巡したように思いました。その意味でも本レンズはArtラインのマイルストーンになるであろう一本。今後も生まれてくるシグマレンズの新たな基準となる重要な役割を担うことでしょう。

( 2021.05.14 )