PHOTO YODOBASHI
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OLYMPUS OM-D E-M1 Mark III / SHOOTING REPORT
世の中がセンサーの大型化、高画素化に向かう中にあっても、マイクロフォーサーズという規格の利点を追求し、その存在価値を高めることに全力を注ぐオリンパスのひたむきな姿勢には、大いに共感するものがあります。「Mark II」から3年2ヶ月、待望の「OM-D E-M1 Mark III」が発表になりました。すでに高い完成度を誇るMark IIですが、そこからのさらなる進化とは一体どういうものなのでしょう。細かく確認してまいりましょう。
( Photography : Z II / Text : NB )
LOOK & FEEL
まず大きさ、カタチはMark IIとまったく変わらず。重さは6グラムだけ重くなっていますが、要するにほぼ同じです。右手で握った時、そして両手で構えた時、すでに完璧なバランスを備えているボディですから、大きくなったり、重くなることはもちろん、もはや軽くなること、小さくなることすら望まない。そのままでいて欲しい。それがユーザーの正直な気持ちなのではないでしょうか。この「変化なし」は大歓迎でしょう。
背面ボタンの配置。ここも一見同じように見えますが、実は大きな変化があります。Mark IIと並べてみました。左がMark III、右がMark IIです。MENUボタンとINFOボタンの位置が変わり、INFOボタンがあったところには新たにマルチセレクター(いわゆるジョイスティック)が新設されています。もちろんメインの十字ボタンと併せていろいろに使えるマルチセレクターですが、例えばAFターゲットを最小限の指の動きで、素早く確実に移動させることができる上、ここをひと押しするだけでターゲットをセンターに戻す、なんてこともできるようになりました。ファインダーを覗きながらの操作を考えると、これは大きな威力を発揮すると思います。また右肩には測光エリアの設定ボタンがありましたが、ISO設定のボタンに変わっています。ボディを上から見た時のボタン配置にも多少の変化が見られます。「もう体が覚えてしまっている」という人も多いでしょう。最初は戸惑うかもしれませんが、このカメラが使われるシーンを徹底的に研究した上で、「現場でどうあるべきか」を追求した結果の変更であるならば、その恩恵は決して小さく無い筈。ナニ、すぐに慣れますよ。
各設定メニューの構成にも改良が加えられています。いちばん顕著な例を挙げると、このMark IIIでは「ハイレゾショット」が大きな進化点の一つですが、このモードに切り替えるためのアクセスが格段にシンプルになっています。解像力という点ではどうしたってヒケを取ってしまうマイクロフォーサーズですが、その解決策がハイレゾショット。即座に切り替えられないと意味がありませんし、この技術に対するオリンパスの自信が伺えます。ハイレゾショットについては、あとで詳しく触れます。
OVERVIEW
Mark IIとの違いを、一覧で比較してみましょう。ベーシックな項目以外は、Mark IIIの進化点を抜粋したものです。
製品名 | OM-D E-M1 Mark III | OM-D E-M1 Mark II |
---|---|---|
発売日 | 2020年02月28日 | 2016年12月22日 |
センサー | 4/3型Live MOS センサー | 4/3型Live MOS センサー |
画像処理エンジン | TruePic IX | TruePic VIII |
ISO感度 |
ISO 64〜6400(常用) ISO 64〜25600(拡張) |
ISO 200〜6400(常用) ISO 64〜25600(拡張) |
測距輝度範囲 | EV -3.5〜20 | EV -2〜20 |
ハイレゾショット |
三脚ハイレゾショット 手持ちハイレゾショット |
三脚ハイレゾショット |
動画Log収録 |
動画専用ピクチャーモード「Flat」 OM-Log400 |
動画専用ピクチャーモード「Flat」 |
ハイスピード動画 | 120fps(1920x1080 MOV) | なし |
手ぶれ補正 | 7段分(レンズと組み合わせたシンクロ手ぶれ補正で最大7.5段分) | 5.5段分 |
Bluetooth | 4.2 | なし |
USB充電/給電 | 可能(USB PD規格) | なし |
その他の機能 | ライブND、カスタムAFターゲットモード | なし |
PHOTO GALLERY
OM-D E-M1がもっとも真価を発揮するのは、やはりネイチャー系のフィールドでしょう。特に簡単には行けない領域に踏み込んでいくシチュエーションでは、大は小を兼ねません。そんな風にしてやっと捉えることができる、最高の一瞬。その役を担うのに、これ以上のカメラは無いと思います。
AF、およびAFで追いかけながらの連写性能にはもともと定評がありますが、瞳AFもかなり優秀で、すばしっこく動き回る少年の瞳にも余裕でロックオンし続けていたとは撮影したカメラマンの弁。
Mark IIから大幅にパワーアップした手ぶれ補正機能とバランスの良いボディのおかげで、流し撮りもこの通り。面白いように止まります。ISO 64という低感度の設定ができるようになって、スローシャッターにも余裕が生まれました。
思わず息を呑み、「おぉ」という小さな声とともにゆっくり吐き出す、そんなカット。非常に高精細な写りを見せてくれます。もちろん細部の描写だけじゃありません。ちょっと引いて全体を見回してみると、広いダイナミックレンジと、それを馭する適切なコントラストのおかげで極めてナチュラルな画作りがなされているのが分かります。このカットの観賞ポイントは、画面を横切る木の枝の影でしょう。
ではここで「ハイレゾショット」について詳しく見てみます。ハイレゾショットの仕組みについては、こちらをご覧ください。先代からあった「三脚ハイレゾショット」は作品作り、それも大きく伸ばしてのプリントでもっとも効果を発揮する機能でしょう。とは言え、作品が常に三脚の上から生まれるわけではありません。そこで今回のMark IIIでは「通常」と「三脚ハイレゾ」の間に位置する「手持ちハイレゾショット」が追加されました。手持ちという前提条件に特化したモードがあるのは助かる場面が多いでしょうし、とても理に適っていると思います。
下の3点のカットは、上のカットの赤枠部分を切り出したもの。上から順に三脚ハイレゾショット、今回新しく加わった手持ちハイレゾショット、最後に通常モードでの撮影です。三脚ハイレゾショットを基準として、同じ大きさになるように手持ちハイレゾショットは1.27倍、通常モードは2倍に拡大しています。
どうでしょう? 三脚ハイレゾショットと手持ちハイレゾショットはパッと見た時の印象が変わりません。竹の表面の質感や発色、コントラスト、さらには背景のボケ具合など細かい部分を見比べても、違いというほどのものは感じられません。いずれの場合も、通常モードの描写と見比べてみれば、この機能の効果は一目瞭然。ISO 200という好条件であってもこの違いです。データの書き込みに少々時間がかかるので手持ちハイレゾショットを常にONにしておくのは難しいですが、このカメラの価値や使う理由をきちんと自覚している人たちは、別にそれを望んではいないでしょう。「いざという時に、取るべき手段がちゃんと用意されている」。そこが大事なのだと思います。
Mark IIIでは設定可能なISO感度が低感度側に広がりましたが、高感度側は変更ありません。薄暗いバーのカウンターで撮ってみましたが常用モードいっぱいのISO 6400でこのぐらいの写り。作品作りじゃなければ十分でしょう。
画像処理エンジンは1世代のバージョンアップです。強めの太陽光。白い壁をバックに白っぽい木の枝。色彩的なコントラストが乏しいのに輝度差は激しいという難しい被写体ですが、輝度差は輝度差としてしっかり表現しつつも白飛びギリギリのところで踏ん張っています。実に端正で、瑞々しい写りだと思います。
光が強く反射している部分から完全に日陰の部分まで、グラデーションは豊かで、かつ自然です。
このカメラの本質をさらに浮き彫りにした進化。
センサーの大型化、高画素化へと向かう流れの中、どうしてプロフェッショナルのカメラマンがOM-D E-M1を使うのかと言えば、「小さくて写りがいいから」に他なりません。そのバランスの良さがOM-D E-M1の真骨頂であり、本質です。今回のMark IIIではその「本質」がさらに浮き彫りになったように感じます。このカメラじゃなければ行けないところ、このカメラじゃなければ撮れないもの、それを知っている人たちがこのカメラを手に取るのでしょう。もちろん、そんな難しいシチュエーションだけの話ではありません。スタジオワークが中心でも「小さくて写りがいいから」という理由でこのカメラを使うプロカメラマンを何人も知っています。重い機材による疲労やストレスが結果に与える影響について、過小評価していないのですね。もちろんこれ、カメラ初心者にだってまったく同じことが起きます。このバランスの良さはあらゆる場面で、想像以上の恩恵を生んでくれると思います。
1953年にヒラリーとテンジンがエベレストに初登頂した時、最終アタックで携えていたカメラはレチナI型でした。もっと小さなカメラなら他にいくらでもありました。写りがいいカメラも同じです。でもレチナを選んだのは、小さくて、軽くて、タフで、そして写りがいいからです。つまりバランスと信頼性です。それがもし現代だったら、選ばれるのはおそらくこのカメラなんじゃないか。ふとそんなことを思いました。これをお読みいただいている方は、たぶんエベレストには行かないでしょう。アマゾンの密林にも、アフリカの砂漠にも行かないと思います。でもいいんです。自らの被写体に立ち向かう時に、手には最高のバランスを持ったカメラがある。それだけでもう気持ちが高揚して、冒険心も満たされるというものです。
( 2020.02.21 )
このカメラの素晴らしさは、実際に使ってみると本当によく分かります。
とても奥の深いカメラだと思います。
今回の作例、前半はこのズームレンズで撮りました。
作例の後半は主にこちらで。上にあるボディレンズキットのレンズもこれです。