PHOTO YODOBASHI

ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン

TAMRON SP 35mm F1.4 Di USD Model F045

[ズーム] 広角 | 標準 | 望遠 | 高倍率
[単焦点] 広角 | 標準 | 望遠 | マクロ

タムロンのハイクオリティレンズ「SPシリーズ」も今や40周年。これを記念して企画されたレンズがこの「TAMRON SP 35mm F1.4 Di USD Model F045」です。先発の35mm F1.8 / 45mm F1.8 につづく単焦点レンズであること、そしてF1.4という大口径。「タムロンの光学技術の全てを注ぎ込んだ」などと謳われてしまったら、気にならないはずはありません。もともとズームレンズや90mmマクロレンズが有名であり、シャープながら優しい描写に定評がありました。単焦点レンズに対する市場のニーズを敏感に感じ、タムロン流に作るならどうなるか、そんな世界を見せてくれるのだと思います。同社の思い描く理想の写りはどんなものなのか、さっそく確かめていきましょう。

( Photography : T.T / Text : Serow )


この柔らかさ。この些細なワンカットから、まさにタムロンレンズを感じてしまうから不思議です。しっとりと空気の質量まで写し込むような包容力があり、それでいてカリカリとエッジを立てない。現代のレンズはシャープネスを増していく印象がありますが、同社のレンズはズームレンズにおいても独特の柔らかさを感じるものでした。本レンズを手にこの写りに出会えば、メーカーの美意識を感じないはずはありません。これだけの大口径、ピント位置にある被写体が立体感を持って表現されていますが、なんとも品の良い雰囲気ですよね。

やわらかくボケるといっても、解像力は際立っています。土の表面、粒子ひとつひとつを感じさせる描写は見事。被写体との距離が近いので、前後のボケも大胆に感じられます。

少し距離を置いてピントを置く。F1.4という大口径であればこそ試してみたくなることがあるでしょう。自然な前ボケもあって草木のトンネルがうまく表現できました。


開放からシャープに解像してくれるレンズなのですが、絞ればさらにスッキリ、キレ味抜群の描写になります。画面の端まで隙のない描写が気持ちよく、街角スナップにも風景撮影にも安心して没頭できますね。こういったレンズのレビューは開放を基本としてしまうのですが、大口径だからと絞っていけないわけではありません。程よく絞ってパンフォーカス、キッチリ優秀な結果を出してくれると思います。

とはいえ個性や魅力を味わうなら開放が一番。こういったカットでは周辺減光がよくわかりますが、ドラマティックな効果を生んでくれるゆえに大好物という方も多いはず。透明感のあるもの、反射する被写体など、ヌケの良い本レンズの面目躍如と言えましょう。


すぐれた解像力や美しいボケといった言葉で片付けられないものが、何かあるような気がしています。本レンズで撮影された写真が持つ「雰囲気」のことです。技術的には諸収差の解消が貢献しているのでしょう、一皮剥けたようなクリアでシャープな描写が柔らかなボケと相まって、端正な一枚の写真を生み出してくれます。

この味わいです。鮮やかで、それでいて誇張せず、淡々と描いている。

リアリティ溢れる質感描写に唸ります。一枚の写真から、その手触りさえ想像させるというのは一体なんなのでしょう。

水がこのように止まる瞬間を、私たちは目で見ていても認識することができません。その一刹那を切り取って見せてくれるから、写真というのは面白いのでしょう。水を通した光の反射を、余分なノイズなくクリアに写し取ってくれました。


美しさとは何か。タムロンの答えがここにある。

現代のレンズはどれもよく写ります。だから似たようなものになってしまうのかといえば、決してそうはならない。技術を磨いた果てに生まれる個性があるのだということを、本レンズは改めて教えてくれました。作例だけでも伝わると思うのですが、このレンズらしさがハッキリしているのは魅力的ですよね。それだけで、このレンズを選ぶ積極的な理由になるからです。そうしてふと、至極シンプルな結論がアタマに浮かぶのでした。すなわち「レンズって、好みで選べばいいんだよね」というものです。

シェフが集まれば一人ひとり味付けが異なるように、レンズメーカーもそれぞれ設計思想が異なります。同じ「美しい写り」をめざしても、「美しい写りとは一体何か」などと掘り下げていけば、解釈や指標は変わらざるを得ません。これらの積み重ねが思想であり、メーカーのプロダクトの根底にあるものとなります。タムロンの答えは、本レンズで明確に示されました。

はじめて単焦点レンズを手にする方なら、あまり難しく考えずに手にしていいでしょう。「きれいによく写る」という喜びに浸れるはずですし、大口径レンズの描写によって世界が広がると思います。既にF1.4の世界を体験されている方なら、本レンズの描く世界に触れて「こういう解釈もあるのか」という新鮮な驚きがあるはずです。その先はもう「好き」かどうか、そういう基準でいいのではないでしょうか。性能をどうこう言うのではなく、タムロンの描く世界が好みだから選ぶ。レンズのスタンダードが上がっていくなか、フィロソフィーでプロダクトを選ぶという時代が、いよいよやってきたのかもしれません。

( 2019.06.28 )

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