PHOTO YODOBASHI

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合言葉は「先祖を敬え」。

そりゃもう、ものすごい「レンズ家系図」がそこに存在しているわけです。なんてったって100年分ですからね。Fマウント以降に限定したって、60年近くあります。これはその中に生まれた過去の名レンズと、その子孫である今のレンズを両方使って、あらためてニコンの歴史をしみじみ味わいつつ、レンズのことを語るという趣旨の企画です。

ひとくちに先祖だの子孫だの言っても、「直系の子孫」から「立ち位置がなんとなく似ている」ぐらいのものまで、その関係はいろいろありますが、ひとことお断りしておかなければならないのは、「これは製品レビューではない」ということ。50年前のレンズと現代レンズの写りを同じ切り口で論じたって、殆ど意味はありません。むしろこれは、「高級料亭の手の込んだ味噌汁と、おふくろが5分でぱぱっと作る味噌汁、どっちが美味しいか?」という問いに通じるものがあります。スペックが全てなら話は簡単。でもレンズって、自分の目の代わりだからでしょうかね、スペックだけでは割り切れない部分が大いにあります。その「割り切れない」あたりを語る。だから「エッセイ」。思いついたことを、思いつくままに。では、つれづれに参りましょう。

ニッコールレンズエッセイ  ニッコール温故知新

第1回
AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E ED (2016) × Ai Nikkor 105mm F1.8S (1981)

なぜ100じゃなくて105なのか。実際の画角についてはともかく、この「105」という数字のお尻がムズムズする感じについて、誰にもその悩みを打ち明けられないまま、ずっとニッコールの105mmを使ってきました。でもこれ、ニッコールだけじゃないんですね。ライカに10.5cmのエルマーがありますし、フォーマットの違うところでもペンタックスの6x7用に105mmというレンズがあったり、6x9のフォールディングカメラなどは105mmがほぼ標準になっていたりもして、果たしてこれは偶然なのか、必然なのか。ネットで検索すると、どうして100mmではなく105mmになったのか、その理由を解説していたりもするのですが…うーん、分かるような、分からないような。いずれにせよ言い伝えの域を出ない雰囲気ではあります。しかし、よくよく考えてみれば、85mmという焦点距離に違和感は無いし、135mmも同じ。たぶん、間に「0」が入っていることが、私をヘンな気持ちにさせるのでしょう。とまあ、そんな余談から入ります。ぜんぶ余談ですけどね。

( Photography & Text : NB )

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ニッコールの105mmはかなり古い歴史を持っていて、最初のSマウントのレンズは1949年(昭和24年)の設計です。これをほぼそのままFマウント化したのが、AutoやAIのニッコール105mm F2.5。これはよく使いましたねえ。むちゃくちゃ良かった。と言っても、名前は変えずにゾナー型3群5枚からクセノター型4群5枚に途中で変更されたりしているらしいので、自分が使っていたのはどっちなのか分からないのですが、まぁとにかく良かったと。個人的には「ニッコール」と聞いてまず思い出すのは、このレンズかも知れない。どこがいいかと言うと、大きな美しいボケが得られる一方で、インフォーカス部分の端正な写り。その対比ですね。ピントピークも見やすいし、適度に抑えられたコントラストとか、描写の線が細いのも、ワタシ好みではありました。特にモノクロフィルムで撮って自分で現像〜プリントまでしてみると、このレンズの右に出るものは無かったです。

あと、105mmという焦点距離が、実はすごく使いやすい。瞬発力が求められるスナップ撮影はもちろん、ポートレートのように予め計画を練るような撮影でさえ、「被写体との間合いの詰め方」って言ったらいいんでしょうか、まぁ簡単に言えば「相手との距離感」なんですけど、これには人それぞれクセがあると思うんです。逆にそれが各自の「らしさ」に繋がっているというか。ということはつまり、人それぞれに向いている焦点距離があるということ。で、ワタシの場合にはこの105mmがどんぴしゃ。85mmとか135mmという、他の中望遠レンズの中で言うと、ということですけどね。

今回、まったく久しぶりに105mmを使ってみたのですけど、そのへんの感覚は変わってなかったですね。ぱっとカメラを構えて、ファインダーを覗く。被写体が気持ちよく収まってくれるし、気持ちよくはみ出してくれる。

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さて。今回持ち出したのはF2.5ではなくて、F1.8(Ai NIKKOR 105mm F1.8S)とF1.4(AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E ED)。発売年で言うとF2.5が1959年、F1.8が1981年、F1.4が2016年ですから、F2.5が22歳の時にF1.8が生まれ、F1.8が35歳の時にF1.4が生まれたと、家系図的に言うとそういうことになるんですが、実はこの3本、レンズの構成的にいうと、あまり共通点はありません。よって、親子というよりは、「親戚のおばちゃん」とか「去年生まれた姪っ子」ぐらいの関係のように思われます。むしろ、例のボケコントロールを持ったDCニッコールの105mm F2(AI AF DC-Nikkor 105mm f/2D)がレンズ構成的にはF1.8の直系みたい。

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と、そんな書き方をするとニッコールの105mmには4種類しかないみたいに聞こえてしまいますが、もちろんそんなことはございません。というか、調べてみてびっくりしました。Fマウントの、国内で販売された単焦点105mm(10.5cm)のニッコールレンズはこれだけあります。

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  • NIKKOR-P Auto 10.5cm F2.5 / 105mm F2.5  (1959)
  • NIKKOR-T 10.5cm F4  (1960)
  • NIKKOR-P Auto 105mm F2.5  (1971)
  • NIKKOR-P C Auto 105mm F2.5  (1973)
  • New Nikkor 105mm F2.5  (1975)
  • New Micro-Nikkor 105mm F4  (1975)
  • Ai Nikkor 105mm F2.5  (1977)
  • Ai Micro-Nikkor 105mm F4  (1977)
  • Ai Nikkor 105mm F1.8S  (1981)
  • Ai Nikkor 105mm F2.5S  (1981)
  • Ai Micro-Nikkor 105mm F4S  (1981)
  • Ai Micro-NIKKOR 105mm F2.8S  (1984)
  • Ai UV Nikkor 105mm F4.5S  (1985)
  • NIKKOR-P 105mm F4  (1970)
  • Ai AF Micro-Nikkor 105mm F2.8S  (1989)
  • Ai AF DC Nikkor 105mm F2D  (1993)
  • Ai AF Micro-Nikkor 105mm F2.8D (1998)
  • AF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-ED  (2006)
  • AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E ED  (2016)

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違いの大小はあれど、とにかく名前が違うものをピックアップしてみたところ、ぜんぶで19種類。ちなみに、いちばん多いと勝手に想像している50mmを同じやり方で調べてみると、こちらは22種類。それに肉薄する数があるっていうこと。まぁ1959年のFマウント誕生の時にラインナップされていたレンズですから、ニコンも気合いの入れ方が違うのでしょう。

さて、そんな能書きはこのぐらいにして、105mmという、ある意味「雅な」焦点距離のレンズを持って、晴れた日に公園でもぶらぶらしてみましょうよ。決して写真を撮ることにガツガツしちゃいけません。「ああ、きれいだねえ」なんて言いながらゆっくりとレンズキャップを外し、水鳥とか紅葉をパチパチ撮る。それだけでオトナの休日、幸せの午後が完成するってものです。

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しかし、F1.8はふわーっとしたフレアが美しい。まさによく言われる、薄いベールを一枚かけたような。後ろのボケも、「とろけるような」とは言い難いものの、これはこれでよい。トゲトゲに見えるコマ収差も、目立ちはするけど、決して悪さはしていない感じ。いずれにせよ、この時代における105mm F1.8といったら、かなり無理しながら頑張ってるレンズです。開放にした時ぐらい、その「無理」が垣間見えて欲しい。「おまえ、よく頑張ったな!」って褒めてあげたい。

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一方、F1.4はさすがによくお出来になっていらっしゃる。絞り開放で撮っても、「それがどうかしましたか?」みたいな感じで、ニコリともせずに返してくる。非の打ちどころがない。もう完璧である。完璧ではあるのだけど、「んもぉ、だめですよぉ、そういうのは〜」みたいな反応を期待していたおじさんとしては、ちょっとやりづらい。なんの話だ。

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( 2017.12.22 )