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SIGMA 新製品発表会 レポート

去る2019年7月11日(木)、東京・表参道スパイラルホールにおいて、SIGMA新製品発表会が開催されたので行ってまいりました。「どうやらシグマからレンズの新製品が出るらしい」という噂はすでに巷に流れており、その発表だろうと予想していたのですが・・・結論から言うと、ある意味それは正解であり、またある意味不正解でもありました。

定刻通りに山木社長が登壇。やはり、まずは3本のレンズ新製品の発表。これが記念すべきシグマのLマウントレンズ第一弾です。続いてフレアーが美しく入るように設計された「ビンテージルックシネレンズ」の話。所用時間としてはここまでで30分。時間的には短いながらもじゅうぶんに濃い話で「相変わらずシグマは面白いなー」と思っていたら、前方のスクリーンに「One More Thing…」の文字が。ここから起きたことはちょっと後回しにして、まずは3本のLマウントレンズと、シネレンズからご紹介します。

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35mm F1.2 DG DN (Art) / 45mm F2.8 DG DN (Contemporary) / 14-24mm F2.8 DG DN (Art)の発表

まずはLマウントレンズから。この3本、シグマ初となる共通点があります。それは製品名にある「DG DN」の部分。「DG」はフルフレーム、「DN」はミラーレス専用設計をそれぞれ意味する略号ですが、この組み合わせはシグマ初。PYがかつて行った山木社長へのインタビューで、「レンズ設計の優位性という意味で、ショートフランジバック化は避けて通れない」とおっしゃっており、そしてLマウントへと繋がって行ったわけですが、それがいよいよここに結実したわけです。いずれのレンズも、できるだけ早くPYでレビューしたいと思いますので、ちょっとお待ちください。

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45mm F2.8 DG DNのピントピークに近い小ボケ部分もコントロールしたボケ味の良さを具体的に紹介。

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LEICA SLに装着された45mm F2.8 DG DN。

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Lレンズのロードマップの紹介。シグマ得意の大口径レンズがずらっと並びます。

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ビンテージルックシネレンズ

昨今、映画づくりのトレンドとして古いレンズの描写が好まれるらしく、市場でも70年代以前のレンズが人気を博しているようです。ただ、本当に古いレンズで広角から望遠まで同じトーンのレンズを揃えるのは大変。そこで最新設計のレンズにノンコートガラスを多用して、シャープさを残しながらもフレアーが出やすいビンテージルックシネレンズが考え出されたというわけです。このシリーズは現行FF High Speed Prime Lineにある10本と同じラインナップを発売予定とのこと。最後に「このレンズで写真で撮りたい方もいらっしゃるかもしれないと妄想しています」と意味ありげに締めくくられましたが、まじか。これはもう、妄想で終わらせないで欲しいです!

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光の条件では古いレンズを使ったようなフレアーが発生します。ただ、現代の技術を使って設計されたレンズのため、髪の毛は一本一本シャープに描写されています。

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鏡胴には美しくClassicの文字が入ります。レンズがノンコートになるため透過する光量が落ち、例えば現行のFF High Speed PrimeでT1.5のものはT2.5になるとのこと。ただF値は変わらないため、ボケ量は同じだそうです。

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ビンテージルックシネレンズの紹介。

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世界最小・最軽量、フルフレームイメージセンサー搭載の「SIGMA fp」

さて、ここからがいよいよ想像もしていなかった部分。スクリーンに大きく「One More Thing…」の文字が映し出されたところまで冒頭でお話ししましたが、次に映し出されたのは、日本国のパスポートと並べられた、見たこともないボディ。その瞬間、静かに座っていた記者のみなさんが一斉にスマホを構えました。何を隠そう、これが本日のメインディッシュだったのです。いやーびっくり。当然Lマウントのボディですが、センサーはFoveonではなく、何とベイヤー。パスポートの大きさと比較した写真を見れば分かるように、これが超々コンパクト。35mmフルフレームミラーレスがここまでコンパクトになるだけでも驚きですが、それがシグマのLマウント初号機とは、シグマったら。。「カメラはどうあるべきか」 カメラというものをもう一度考え直すことによって出した答えが、この「SIGMA fp」。一気に跳ね上がった心拍数を深呼吸で整え、山木社長の言葉に再び耳を傾けますが、聞けば聞くほど、そうだよなと納得できるコンセプトに仕上がっていました。

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「カメラの脱構築(Deconstruction of digital camera)」から導き出されたfpのコンセプト。「ポケッタブル・フルフレーム」とは限りなく小さなボディーと、妥協せず本格撮影ができるフルフレームセンサーの搭載。「シームレス」は本格的なスチル撮影と映像撮影の機能を指一本で切り替えられる、スタイルやジャンルに縛られない道具。「スケーラブル」とは自社他者を問わずに多彩なアタッチメントを自由に組み合わせられる変幻時代の拡張性。言葉だけ見れば、すでに手垢にまみれたものかもしれません。でも、シグマは本当の意味でカメラというものをいったんバラバラにして、その概念を再構築してしまったのです。

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写真じゃ分かりませんが、この手は山木社長です。スペックは35mmフルフレーム、2,460万画素、ISO100-25600(拡張感度:6、12、25、50、51200、102400)、防塵防滴機能。カメラ上部に並んでいる穴のようなものはビデオ撮影の熱を逃がすためのものです。

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背面のトーンコントロールボタンで自由にトーンカーブを調整できます。実際に操作してみましたが、サクサクとトーンが変えられ、液晶画面で効果がすぐに確認できました。

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ボタン一つでCINEとSTILLの切り替えが「シームレス」におこなえます。

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CINEとSTILLの切り替えで背面の液晶表示も変化します。CINEモードの液晶表示は本格的な動画撮影に対応できるように考えられています。またCINEモードでは外部のSSDに記録することができます。

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「スケーラブル」の一例です。SIGMA fpは拡張がしやすいようにストラップの留め金を外すと三脚と同じネジ穴が出てきて、カメラ左右下部と三箇所にアダプターが装着できるように考えられています。また、カメラの3Dデータを公開することで、他社との連携を深めていくそうです。こういう自由な発想は、シネレンズの市場に参入してまだ間もないシグマだからこそかもしれませんね。

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改めて感じた、シグマの「自由な発想」と「ユーザーを引っ張る力」

SIGMA fpはまさかのベイヤー配列のセンサーを搭載して登場しましたが、もちろんFoveonセンサーをやめたわけじゃありません。依然としてシグマとFoveonは切っても切り離せない関係にあります。ではなぜこれを出したか?穿った見方をすれば、Foveonのフルフレームボディが出るまでの「繋ぎ」としてこのボディを出したのでは?という推測もあるかもしれません。でも、実際に話を聞き、モノを見てきた私はそれを全力で否定します。「ただの繋ぎ」でこんなカメラが出来るはずがないじゃないか!と。

前出の山木社長へのインタビューの中で思い出す言葉があります。

「選択の振れ幅の大きなカメラシステム」と言えばいいでしょうか。違うメーカーのボディとレンズを、マウントアダプターではなく、互換性を100%担保しながら自由に組み合わせられる。使う人が望むものができ上がる。しかもそれが、ライカ、パナソニック、シグマという、それぞれ持ち味の違うメーカーであれば、本当に面白いことになると思いました。

そうです、この「選択の振れ幅」を他社のみならず、自社製品の中においても最大限に発揮させたい。だからこれを作ったのだと私は確信しています。「カメラの脱構築」によって、このカメラが生まれたと山木社長は力説していましたが、あの現場で私が見聞きした限り、それは「ほんもの」でした。「ほんもの」を感じるって、これだけモノが溢れる時代になってもなお、というか、そういう時代だからこそ、なかなか得られる機会ではありません。シグマのすごいところは、この発表会でわれわれが想像もしていなかったものをバーン!と見せただけでなく、私に(そして、おそらくあの場にいた全員にも)それを「ほんもの」と瞬時に確信させたことです。

商品の企画をする際に、よく「ユーザーのニーズを取り込む」という言葉が使われます。でも、私には分かりました。そんなのシグマはとっくに超越して、ユーザーが想像もしていなかったものを「こんなの出来たけど、どう?」とさらっと言うメーカーなんだと。ユーザーの志向に追いつくのではなく、ユーザーが進むべき道を先導する。シグマって、そういうメーカーなんです。頼もしいじゃないですか。SIGMA fpは秋頃に発売とのこと。そんなに遠い未来じゃありません。おとなしく正座して待ちましょう。

最後に一つ。山木社長のプレゼンテーションが終わった瞬間、会場からはアンコールの要求とも取れるような、大きな拍手喝采が沸き起こり、いつまでも止みませんでした。こんな新製品発表会、経験がありません。あの拍手が、すべてを物語っていると思いますよ。

( 2019.07.17 )