カールツァイス ・ インタビュー

カールツァイスといえば、写真ファンにとって特別な響きを持つブランドだと思われますが、カメラそのものを作り、供給しているわけではないため、いまひとつ実像が見えづらい企業ではないかと思います。今回はじめてインタビューの機会をいただきましたので、少しそのあたりに迫ってみたいと思います。

( 聞き手:K )

カールツァイスとソニーの関係、そしてオリジナルレンズ供給の理由

実はカールツァイスさんにお話を伺うのは初めてなのですが、我々ユーザーには、カールツァイスというブランドは謎のベールに包まれている感じがします。

Christian Bannertさん:
ありがとうございます(笑)

はは(笑)それで、いくつか質問させて頂きたいのですが、色んなブランドからカールツァイスブランドのレンズはリリースされています。現在のソニーや、古くはコンタックス、そしてハッセルブランドなどですね。35mm用若しくはそれに類似するフォーマットのカメラで、様々なレンズをリリースされていますが、根本的にどのような戦略をお持ちなのでしょうか。

Christian Bannertさん:
はい。その通りです。ご存知の通り、我々はキャノンやニコンマウントのマニュアルフォーカスレンズを作っています。そしてソニーさんとは1996年からの長いおつきあいがあります。そしてカメラ市場の中でこの3社が最も大きな役割を果たしているので、我々もこの3社に向けたレンズを作っている訳です。

ソニーがカールツァイスのブランドでリリースしているものもあれば、かと思えばOtusとかTouitなどをカールツァイス本体がリリースしていたり。この辺がユーザーにとっては少し混乱しやすいと思うのです。

Christian Bannertさん:
ソニー&ツァイスという共同ブランドのレンズは、両社が共同で設計していますが、製造はソニーが担当しソニーのネットワークで販売しています。ツァイスレンズは純粋にツァイスによる設計で、ツァイス独自の基準で製造しています。ですので、ユーザーにとっては少し分かりにくいかもしれませんね。コンシューマー用として、今回ソニーのアルファ7のフルサイズボディ用にLoxiaレンズを発表しました。我々としては、カメラボディを作っている訳ではないので、時代の流れ、新しい流れを見ながら、どのボディに対してレンズを作れば良いのかを判断しています。そういう意味では、ミラーレンスカメラというのは我々にとってとても重要なボディです。また、Touitも同じ流れの中で生産しています。

Touit、Loxia、Otusなど、あの辺のレンズについては「オリジナルで出したい」という気持ちがあり、作られたものなのでしょうか。

Christian Bannertさん:
はい。もちろん、私どもは独自の販売チャンネルを持っていますし、そこから売ることのできる商品が必要です。ですので、共同ブランドだけではなく、我々だけのブランドのレンズを作ることにしたのです。

なるほど。それで、あのOtusのような雰囲気のデザインな訳ですね。いわゆるシネレンズをオマージュしたような感じのデザインですよね。

Christian Bannertさん:
確かにその通りです。と言いますのも、我々のシネレンズのハイエンドラインであるマスタープライムにも黄色い数字が刻まれています。それを写真用レンズであるOtusにも使いたかったのです。我々にとって、黄色はハイエンドを意味しています。


驚異の描写を誇るOtusシリーズ

Otus 55/1.4 実写レビュー

私たちはこのような仕事をしていますので、カールツァイスがシネの世界でご活躍なのは存じているのですが、ひょっとすると一般の写真ユーザの皆さんには少々異様に映ったデザインかもしれませんね。しかし、あのデザインを導入されたということは、並々ならぬものが製品にあったのではないかと想像しています。実際その写りで、特に私が驚いたのはOtusの55mmですね。このレンズについて、技術的なハイライトみたいなことがあれば少し教えていただきたいのですが。

Christian Bannertさん:
Otusはディスタゴン構成です。通常は、この焦点域であればプラナー構成を採用するところですが、ディスタゴンの方がより高い画質を得やすいのです。また非球面レンズなどの特殊ガラスもふんだんに使用しています。それからサイズですが、これは高性能を追求した結果で、実際、55mmという焦点域では最高の画質を実現しています。

マニュアルフォーカスである理由というのは、性能が追いやすいからですか。

Christian Bannertさん:
いいえ、マニュアルフォーカスの採用は我々の哲学なのです。プロやハイアマの方は、じっくりと時間をかけて写真を撮られると思います。その際、オートフォーカスというのはあまり関係がない技術だと思うのです。また、我々はスポーツ撮影をターゲットとしているわけでもありません。我々は、シーンを見て、マニュアルフォーカスを愉しみながら写真を撮る方々をターゲットとしているのです。もちろん、我々はオートフォーカスレンズも作っていますが、やはりマニュアルフォーカスが写真にとってとても重要であると信じています。まあ、ケースバイケースですけどね。マニュアルフォーカスが全員にとって良いわけではありませんし。ただ、私どものお客様はそういったものをお求めであると考えています。

Otusぐらいの焦点距離と開放F値で、開放があれだけ写ると、開放で撮りたくなる訳です。しかし、ばんばんピントを外すんですよ(笑)なので、Otusのようなレンズは、是非オートフォーカスで出てほしいという気持ちも・・・

Christian Bannertさん:
その通りです(笑)

(一同爆笑)

Christian Bannertさん:
確かにその通りですね。とてもシャープなレンズですが、欠点があるとすれば、おっしゃる通りピント合わせが非常に難しいということですね。

長手健さん:
日本のカメラマンさんからも聞いている話ですが、確かに簡単にピントが合うものではないので、撮る時は本当にしっかりした良い三脚で、本当に構えてフォーカスを合わせる、そのカメラマンさん曰く、4×5を撮るような感覚で撮らなければいけないレンズだとおっしゃっていました。昔は一枚一枚きっちり合わせて撮って、それが段々デジタルになって自分の撮り方もちょっと緩くなってたとということもおっしゃっていました。しかし、Otusは緩さを許してくれないレンズで・・・

確かにそうですね。私がテストさせて頂いたのですが、MFとは難しいなとあらためて感じさせられました。

長手健さん:
もう一回、構図を決める、ピントを合わせる、どこにピントを合わせる?ここなのか、いや、ここなのか。そんな風にもの凄くシビアに考えさせられて、それが先ほどお話ししたカメラマンさんにとって、再発見というか初心を思い出す感じであり、Otusの良いところだと言っていただいているんですよね(笑)

Christian Bannertさん:
Otusとα7RやニコンD800との組み合わせでは、ほぼ中判の画質が得られます。


Otus 1.4/85について
デジタルカメラに最適な設計について

今回の85mmですが、アポプラナーにという呼び名のレンズは新鮮です。記憶では今まで存在しない名称だったと思います。

長手健さん:
レンズ構成としてはプラナーですけど、素材的にはアポです。

Christian Bannertさん:
そうですね、おそらくは無かったと思います。プラナーというのは構成のことで、アポというのはアポクロマティック、つまり、色補正が非常に効いているということです。こちらの写真をご覧頂きたいのですが(サンプル写真を見せながら)、こちらが標準的な55mmレンズ、そしてこちらの方がOtus 55mmで撮った写真です。違いがお分かりいただけると思います。他にも比較写真がたくさんあります。

なるほど、、、これは、オールドレンズで撮影したものでしょうか?

Christian Bannertさん:
それはオールド、いや標準的な55mmレンズです。はっきりとは申し上げられませんが。

(一同爆笑)

Christian Bannertさん:
こちらの比較サンプルをご覧頂きたいのですが、違いが大きく出ています。光の形が全く違います。そして、こちらもOtusですが、中判との比較になります。

こちらは85mmですよね。非常にシャープですね。

Christian Bannertさん:
とてもシャープですね。中判に引けを取らない、画質もそうですし、ルックスも中判に匹敵するのがこのレンズですね。そして、色収差の違いが一目瞭然です。そしてLOXIAとBiogon ZMとの比較を行ってみると、Biogonはフィルム使用を前提に設計されていますので、デジタルで使うと少し乱れが出てしまいます。α7はフルサイズで、ガラスプレートがセンサーの前についています。光学デザインをする時には、このガラスプレートのことを考慮する必要がありますので、Loxiaの設計にあたっては、このガラスプレートを始め、センサー構造や振る舞い方を考慮しました。よくレンズの中身は同じなのではないかと言われるのですが、ご覧の通り、全く新規のレンズです。

なるほど。確かに、一部でレンズは一緒ではないかと話がありましたが、比較写真を見ればその違いは一目瞭然ですね。

長手健さん:
フィルム用に最適化していたので、センサーの前にガラスが入っているとかいうのを考慮してないのですね。

Christian Bannertさん:
同じレンズ(Biogon)をライカMで撮るとまあOKレベルなのですが、SONYα7RだとNGです。そういうことで、レンズ設計を見直したわけです。また、ソニーさんと密にコミュニケーションを取っていますので、このLoxiaレンズをボディに付けると、カメラにレンズを認識させることが出来るようになり、周辺の補正も行ってくれます。

そうなのですか。オフにも出来るんですか?

Christian Bannertさん:
はい、RAWでもJPEGでもオフにできます。

しかし、ソニーもカールツァイスのことをすごく大事に思っているんでしょうし、本当に良好な関係でいらっしゃるということなんですよね。

Christian Bannertさん:
その通りです。


LOXIA 35mm/50mmについて

Carl Zeiss Loxia 50/2 実写レビュー

こちらがLoxiaですね。テストするのが今から楽しみです。

長手健さん:
特徴としては、マニュアルフォーカスで、おそらく今までのソニーさんのEマウントだと、絞りリングがついているレンズは無いと思います。

そうですよね。

長手健さん:
初めて絞りリングを搭載したこと、あと、ご覧の通り距離指標と被写界深度計がついています。先ほど申し上げたように、ソニーさんに協力していただいてますので、マニュアルですが、※Exifデータは全て入ります。
(※NEX7/NEX5N等のAPS-Cサイズの古いモデルでは、記録されるExifデータに一部制限があります)

なるほど。開発時において連携されているなら、純正レンズと変わらない使い勝手なのでしょうね。しかしこのぐらいのサイズのレンズを見ると・・・懐かしいというか、コンタックスのGシリーズのプラナーあたりを思い出します。よいサイズですよね。

Christian Bannertさん:
なるほど。この絞りリングの良いところは、絞りリングのクリックをキャンセル出来るところです。このドライバーを使って、このネジを回すと、クリックをキャンセル出来るのです。

長手健さん:
銀色の小さなドライバーパーツを使っていただいて、180度回すとクリック有り・無しが切り替えられるのです。

なるほど。動画撮影にはよいですね。しかしこのドライバーパーツを無くしてしまいそうな・・・

Christian Bannertさん:
通常は、ここに収納します。(αのバッテリーとバッテリー蓋の間にドライバーパーツを仕舞う)

(一同爆笑)

ショートしないのですか?(笑)

Christian Bannertさん:
問題ありません(笑)

長手健さん:
これは、あの、あくまでお客様の責任の範囲で、、、(苦笑)
もうひとつポイントがありまして、先ほど申し上げた通り、ソニーさんと連携して開発していますので、フォーカスリングを回すと、自動的にフォーカス画面が拡大されるんですよ。

本当ですね。MFでも自動拡大があれば格段に便利です。前玉大きくて美しいですね。また、フードを外して、鏡銅の上から下までツライチというのが美しいです。

Christian Bannertさん:
ありがとうございます。では、ちょっと試してみてください。

お〜、これはファインダーをのぞいただけで、シャープなのがよく分かります。(撮影してみて)わりと最短に近くて、開放ですが、収差が驚くほど少ないですね。ファインダー像の時点で画がめちゃくちゃに美しいです。

Christian Bannertさん:
そうなのです!!(笑)

ありがとうございます。これは基本的には球面レンズですか?非球面の印象はまったく感じませんが。あまり非球面レンズをカールツァイスさんは使わないイメージがあります。

Christian Bannertさん:
Loxia50については非球面は使っていません。非球面レンズは、使うことに意味があると判断した時にのみ使っています。

(Loxia 50mmの資料を見ながら)典型的なプラナーですね、ダブルガウスです。変形も無いオーソドックスな構成ですが、ここまで光学性能を上げられるのですね。

Christian Bannertさん:
はい、その通りです。典型的なプラナーは球面収差の補正も良好で良いレンズです。ただ、性能に限界があることも事実です。ダブルガウスだと6枚から8枚のレンズが必要になって来ます。Otusはプラナーではありません。プラナーだとOtusの画質は実現出来ませんので、レトロフォーカスのディスタゴンに変更したというわけです。


あれこれ

時間も迫ってきたので、駆け足でいくつか質問させてください。同じドイツの雄、ライカ社のレンズをどう思われますか?

Christian Bannertさん:
ライカも素晴らしいブランドで、素晴らしいレンズを作っています。そして、同じドイツの会社ですから、ライカ社には敬意を表しています。

ライカさんにも同じような質問をしたことがあります(笑)ちなみに、アポズミクロン50mmあたりの描写をどう思われますか。

Christian Bannertさん:
素晴らしいレンズだと思います。とても高いレンズなんですよね。しかし、Otusの方が良いと思います(笑)

ははは(笑)ありがとうございます。ブランド名称が変更になった件ですが、Touitも途中で「カールツァイス」から「ツァイス」だけになりました。どんな理由だったのでしょうか。

Christian Bannertさん:
これは写真部門だけではなく、会社全体が変わったことが理由です。ツァイス社はブランディングを変えたのです。現在は全て大文字で「ZEISS」というのがブランド名で、「Carl Zeiss」は社名になります。この変更に合わせて、社の全カテゴリーの商品で全て「ZEISS」で統一しました。また、NOKIAさんの携帯電話のレンズにも当社のレンズを使う際にも、同様に「ZEISS」と記すようになっています。・・・申し訳ありませんが、私の方は次がありますので、ここで失礼させていただきます。

なるほど、本日はどうもありがとうございました。

Christian Bannertさん:
お会い出来て嬉しかったです。(日本語で)ありがとうございます!




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( 2014.11.26 )




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