PY撮影ノート Vol.09 運動会撮影にチャレンジ

10月の第二月曜日は体育の日。お子さまをお持ちの方なら、運動会が楽しみな時期ではないでしょうか。筆者も運動会に参加して10年になりますが、良い写真を撮ろうとあれこれ考えても、なかなか簡単には行きません。今回はちょっと実践的に、筆者が経験してきたアイデアやテクニックを紹介したいと思います。少しでも参考になればいいのですが。

( 写真/文 : A.Inden )

先に注意点をひとつ。今はインターネットで写真をシェアする時代になりましたが、これらのデータはずっと残り続けてしまうこともありますし、拡散してしまうこともあります。公開に際しては特段の注意と配慮が必要であることを忘れないでください。プライバシーの問題はもちろんですが、「ご家族で今日運動会に参加している」という情報は「家が留守である」可能性も示してしまいます。楽しい時間は色々な人とシェアしたいものですが、すべてがリアルタイムでなくても良いですよね。当日は運動会に集中して、後日「写真」を見ながらもう一度楽しむ。そんな形がいいのではないでしょうか。(今回のサンプルも、必ずしも運動会ではないシーンを使って解説したいと思います。)

 

事前準備は入念に

さて撮影テクニックではないアイデアから。運動会で良い写真を撮るコツは"事前の準備"です。最近の学校はスケジュールだけでなく、団体競技での子どもの位置までわかる詳しいプリントを事前に配布してくれます。これに目を通す事は大切なのですが、お子さんと一緒に細かな点を確認しておきましょう。例えば「前後の子どもの大きさ」「団体競技での動き」「徒競走は何コースか、何番で走れそうか」等・・・親子の会話もできますし、当日の心の準備もできる。一石二鳥ですよね。

次に、お子さんの服装です。場所が分かっていてもみんな同じ体操服と帽子、必死に探しているうちに競技が始まってしまうなんて事が起こります。それを防ぐ簡単な方法は、識別しやすいワンポイントを服装に入れること。筆者がおすすめするのは、目立つ靴下をはかせることです。少し長めの靴下であれば、かなり遠くからでも分かりますから。「こんな靴下いや」と言われた場合には、女の子なら髪留め、男の子ならリストバンドなどが良いと思います。

カメラ選びも難しい問題です。フイルム時代のハイエンド一眼レフ、マイクロフォーサーズ、コンパクト、ライカ(レンジファインダー)、レンズは35mm換算で15mmから400mmまで、運動会では気合いを入れて色々な機材を使ってきました。その経験から言える事は、望遠200mmぐらいまでの大きすぎないズームレンズが付いたカメラ(一眼でもコンパクトでもOK)、できれば背面液晶が自由に動いてハイアングル、ローアングルが撮りやすい物がよいと思います。運動会当日は良いアングルを探してかなり移動しますし、人並みをかき分けることもありますから、大きなカメラだと周りに威圧感を与えてしまいますね。そうすると「この後子どもが走るので少しだけ前に行かせてくれませんか」とお願いしにくくなるのです。身軽に写真を撮りたい方であればハイズームコンパクトでしょうか。少し本格的に写真を楽しみたいなら、上の写真のようなAPS-C機が良いと思います。フルサイズモデルに比べてボディもレンズもコンパクトですし、実は初心者にも上手く撮れると思います。バッテリーやSDカードも予備を用意しておくと良いですね。さあ、準備はOKですか?

 

あとでトリミングすればいい

「トリミング」とは要するに「切り抜き」です。画面をいっぱいに使えなくて嫌がる方も多いのですが、レンズ性能の良い中心部分が多く使える・ピントが深くなる・ぶれにくくなるなど運動会撮影にはメリットも多いのです。上の写真は、右側が実際に撮影した写真で、左側がトリミングした結果。1800万画素のカメラで撮影して約1/4にトリミングしていますが、十分鑑賞に堪える描写ですね。「もう少しアップで撮影できたら・・・」なんてあきらめないで、とにかくシャッターを切って積極的にトリミングしてみてください。運動会という難しいシチュエーション、すべて現場で詰め切れなくてもいいのです。こう考えるだけでぐっと撮影が楽になると思います。

 

ピントを固定して被写体を待つ

小学校低学年のメインイベント徒競走。直線をゴールに向かって走ってくる子どもを顔が見えるように前から撮ると、少しだけピンぼけになってしまうことが多いと思います。前後方向に動く被写体はAFのカメラがどうしても苦手とするものですね。最近のカメラは性能が良くなってきましたが、ピッとAFが決まってからシャッターを落とすまでのコンマ数秒の間にも、速い被写体は動いてしまうものです。そんな時に使えるテクニックが「置きピン」。「置きピン」とはマニュアルフォーカス時代から使われていたテクニックで、事前にピントを合わせておき、被写体がそこを通過する瞬間にシャッターを切るという方法です。上の作例では電信柱の影(手前の横棒)にピントを合わせておき、子どもが影を通過する時にシャッターを切りました。運動会では少しかすれたラインなど目立つ場所に事前にピントを合わせておくと良いですね。ピントは面で合う事を考え、中腰でカメラを構えると更に精度が上がると思います。

 

流し撮りで躍動感を演出する

少し面白いテクニックに挑戦してみましょう。モータースポーツやオリンピック等でよく見かける、背景が流れている撮影方法「流し撮り」です。トリミングのところでお見せした写真と比べてみれば一目瞭然ですが、背景が流れていることで被写体の動き=スピード感を感じさせる写真になります。やり方は簡単で、動いている被写体と同じ速さ・同じ方向にカメラを動かしながらシャッターを切れば、被写体が止まって背景がブレるわけです。うまく撮影するための理屈は色々とあるのですが、簡単にポイントをまとめてみます。

  1. シャッタースピード優先モードで、1/125〜1/60あたりに設定。(速すぎると動きが出ないため)
  2. ターゲットとなる被写体をファインダーに捉え、フォーカスを合わせる。
  3. 被写体の動きに合わせて、カメラを動かしながらシャッターを切る。

まずは走者が目の前を駆け抜けていくような場所で、カメラは地面と平行に、腰を回転させるイメージで動かすと良いでしょう。AFポイントは真ん中、そして撮りたい走者を常に画面の真ん中になるようにしてカメラを動かせばいいわけです。実践してみないとわからないものですから、お子さんの出ないタイミングなどで練習をしてみてください。うまく決まると、素晴らしく格好良い写真が撮れると思います。慣れてきたら、カーブを駆け抜けるような場面でも流し撮りができるようになるでしょう。

 

なにげない風景にもシャッターを

今回は運動会でスポーツを撮るという視点で、使えそうなテクニックを考えてみました。これまで紹介してきた「頭で考える」テクニックと違って、ある程度反射神経や練習が必要になるものです。すぐにはうまく撮れないかもしれませんが、失敗も糧だと思ってチャレンジしてみてください。ただ運動会というものはそもそも大事なイベントですから、記憶に留める意味でも色々なシーンにシャッターを切っておくと良いと思います。例えばお弁当、クラスみんなの敷物、旗、帽子、国旗の飾りや先生たち。競技だけに集中せず、ふとした瞬間に目を向けてみましょう。

 

運動会の作例をと思って過去のデータを探していると、思いがけず息子達の成長の記録をゆっくりと見る事になりました。いつもそばにカメラを置いてスナップをしているのですが、運動会という毎年あるイベントでのスナップは、家族の節目節目を感じられるという別の良さがありました。今回紹介したテクニックを運動会で試してみるのもよし、家族でおいしい弁当を食べるのもよし。秋晴れのもと、それぞれの運動会を楽しんでください。

( 2014.10.09 )

<おすすめ機材>
Canon EOS 70D / EF-S18-135mm F3.5-5.6 IS STM
ハイズームコンパクトカメラ

<バックナンバー>
Vol.01: PHOTO YOKOHAMA 2014 -「写り込み」
Vol.02: 河津桜 -「順光、逆光」
Vol.03: 「ピント」のお話
Vol.04: 街角スナップでおさらい
Vol.05: コンパクトデジタルカメラ
Vol.06: 露出の基本
Vol.07: ホワイトバランスと色の話
Vol.08: リュックにカメラを詰め込んで