PHOTO YODOBASHI
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Voigtlander NOKTON 21mm F1.4 Aspherical VM
2020年2月27日に発売されたばかりのMマウント用レンズ Voigtlander NOKTON 21mm F1.4 Aspherical のレビューをお届けいたします。注目は開放F1.4という明るさ。十分な光がないシチュエーションでもISO感度に頼らずに撮れるのはもちろんですが、やはりこのレンズのいちばんの魅力は、21mmという超広角であっても大きなボケを活かした画作りができることでしょう。大きさは最大径と全長がほぼ一緒(φ69.5×69.7mm)で、重さも480gと、スペックを考えたら非常にコンパクト。もちろんM型ライカに装着してもバランスはバッチリです。高い性能とクラシカルな魅力を併せ持ったレンズを数多く世に出してきたフォクトレンダーブランド、このレンズも大いに期待してよいと思います。
( Photography : Z II / Text : NB )
フォクトレンダーブランドの、21mmレンズにかける意気込みが伝わる。
現行品の(現時点でヨドバシカメラで買える)フォクトレンダーブランドに限定すると、今回のレンズ以前に出たMマウントの21mmは、
- COLOR-SKOPAR 21mm F3.5 Aspherical (2019)
- ULTRON 21mm F1.8 Aspherical (2012)
- COLOR-SKOPAR 21mm F4 P (2010)
があります。つまり、この10年の間に4本のMマウント21mmレンズをフォクトレンダーブランドで出していることになります。それぞれ性格が違うとは言え、数だけ見れば結構なハイペース。それだけこの焦点距離に力を入れている、ということは言えそうです(ちなみに50mmは2本、35mmはMCとSCを分けてカウントしても5本)。それでも2012年にF1.8が出て、同じ11群13枚ながら、そこからF1.4まで縮めるのに8年を要したというのは(正確には昨年の6月に発売されたEマウントの方、というべきですが)、やはり相当高いハードルがそこにあったのでしょう。これはまったくの推測ですが、難しかったのはF1.4という明るさを実現させることよりも、それをこの大きさに収めることだったと思います。しかしそれは見事に功を奏し、小ぶりなM型ライカに装着してもまったく違和感のないものに仕上がっています。マウントが違うので単純な比較にそれほど意味はないかもしれませんが、既出のEマウントと比べても、大きさ、重さとも大幅にシェイプアップされたのが、このMマウント。素早く構えて、スッと指先でピントを合わせるのがM型ライカの使い方。それが深海魚みたいなレンズじゃあ、興醒めですからね。
ややクセはあるものの、前・後とも大きなボケが楽しめます。21mmと言えども開放F1.4ともなると被写界深度は浅く、ピント合わせは慎重に。
最短は0.5mまで寄れます。ただしレンジファインダーが効くのは0.7mまでなので、そこから先はライブビューの出番。
レンジファインダーでピントを合わせたのち、外付けファインダーに覗き変えて構図を決めるというやり方は、被写界深度が浅い時には当然ピントを外す確率も高くなるわけですが、それもまた楽し、です。その余裕がない時には、迷わずライブビューを起動しましょう。それにしても点光源がとても綺麗です。コマ収差も見当たりません。
やや絞って手持ちで1/4秒。さすが21mm、手ブレに対する許容量はかなりあります。もちろんボディとレンズのバランスの良さもそこに一役買っている筈。それとカメラマンの日頃の鍛錬も。
クラシカルな雰囲気のレンズとは言え、超広角レンズにありがちな写りの欠点までクラシックを引きずってはおりません。直線は歪みなく気持ち良く伸びていますし、ハイライト部分を注意深く見ても、色収差はしっかり抑えられています。紛うことなき現代のレンズです。
モノクロで撮ってみても、潰れずに粘るシャドウから白飛び寸前で踏みとどまるハイライトまで、ひと繋がりのグラデーションの中に過不足なくきっちり収まっています。つまり夜のカットなのに画が抜ける。立体感がある。これはいいレンズです。
撮り手をヤル気にさせてくれる。
ミラーレス一眼の登場とマウントアダプターの充実によって、「Mマウントレンズ=ライカで使う」という図式はもはや当てはまらなくなっています。言うまでもありませんが、ちゃんと装着できるならボディは何を使ったっていいですし、その自由度こそが、写真を撮るという楽しみをさらに広げてくれたのは間違いありません。それでも三角測量の原理と、レンズの繰り出し量をカムによって連動させるという、今となってはロマン以外の何ものでもない測距方式、すなわち「レンジファインダー」でピントを合わせるというのは、M型ライカ使いとしての最後の矜持でしょう。そのあたり、やっぱりコシナさんはよーく分かっていらっしゃる。
さて、M型ライカに装着するレンズとして「いちばんしっくり来る」焦点距離は何ミリでしょうか。もちろん人それぞれですが、まずはトラディショナルな50mmがありますね。35mm、あるいは28mmという人も多いでしょう。測距の仕組みからして、望遠を挙げる人は少数派かもしれません。そんな中で確実に一角を占めるのが21mmだと思います。ボディの構造上、ずっと昔からM型ライカと超広角レンズは親和性が高いですが、一方で21mmのブライトフレームを内蔵したM型ライカは未だかつて無いわけで、肉眼で構図を考えようとしたら外付けファインダーが必要になります。この「ボディの制約を超えた先にある」という存在感。そして外付けファインダーをつけたルックス。このへんも魅力なのでありましょう。
もちろんこれは単に「気持ちよさ」の話であって、いい写真が撮れるかどうかとはまったく別問題なのは、なによりM型ライカ使いのみなさんがいちばんよくご存知のはず。ただ、撮れる気はしますよね、確実に。そこが大事なのかと。その意味で、このレンズは撮り手をヤル気にさせてくれるレンズであると、これは間違いなく言えると思います。性能ももちろんそうですが、買い求めやすさという点においても。そして、付属のフードがこれまたカッコよく、フードをつけた状態も載せてみました。
今回の作例は、撮影を担当したカメラマンが初めて買った、そして今のところ唯一のM型ライカである、私物のLEICA M-Eを使って撮影してもらいました。自分の手に馴染んだ、愛してやまないボディに、ヤル気にさせてくれるレンズ。はい、一丁あがりです。
( 2020.03.05 )
このスペックでこの価格。ボディだけは死ぬ思いで買ったけど・・・という人に。
これこれ。これが超大事。肉眼で見るより綺麗に見える、というのは嘘じゃありません。