PHOTO YODOBASHI

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3日目
静岡県静岡市から東京都中央区日本橋までの、約190km。

最終日となる3日目。大阪〜東京550kmも残すところ約190kmです。本来であれば、20km近く上りが続く箱根エリアと連日の疲労蓄積を考えて、最終日のライドを150km程度に留める予定でした。しかし前日の50km近くショートしたため致し方ありません。スケジュールの都合上なんとしても走り切るしかありませんが、ゴールの際にいったいどんなことを感じ、思うのでしょうか。楽しみです。

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ルートの概要

基本的に国道1号線を使うルートとなります。24時間で走り切る「キャノンボール」では、昨今御殿場を経由する国道246号で都内まで入るルートがポピュラーで、箱根を越える急峻な国道1号ルートは昨今あまり使われないようです。ルートはこのあたりを走ることがない友人が引いているため「やはり行くの??」といった感じではありますが、私にとっても二度目があるかわからない記念的ライド。頑張ってみましょう。しかし20kmの上り・・・走る前からウンザリ。


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出発準備

日和った前日と違い、朝6時頃には出発。初日にパンクした関係で、通勤用ホイールで走っていた友人に私が履いていたホイールを。私はエースホイールに履き替えて出発準備完了。朝6時前に日の出を迎えていないことが、季節の移り変わりを感じさせます。


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身が引き締まる気温の中、最終日スタート。

車を止めた駐車場から走行車線に。最終日スタートです。駿河湾の向こうに日が昇る最高のシチュエーション。しかし日は山の上から昇る。そうです、その山を我々は今日上らなければならないのです・・・。フィジカルのコンディションは若干足に重さを感じる程度で、200km近くのライドができないなんて程度ではありません。もう少し疲労しているように想像していましたが、意外でした。

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天候に恵まれた3日間

今回のライドは、ともかく天候に恵まれました。雨粒を感じたのが一度だけありましたが、本当にポツポツといったもの。気温は少し暑さを感じるほどで、実に快適なライドです。日本は偏西風の影響を受けるため、基本的には西風となりやすい。大阪を出発して東京に向かうなら追い風となります。実際に行程の大半が追い風でした。向かい風になれば簡単に平均時速が5km/hは落ちます。天候+気温+風向きと、本当にベストな時期にベストなコンディションで走ることができました。

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見える景色の違い

私にとっては普段暮らしているところへ帰る最中に見える景色ですが、大阪住まいの友人にとって富士山の見える景色は、やはり特別なようです。スマホで国中どころか世界中の道を写真で瞬時に見ることができる今の世の中ですが、自分の足で走って帰ってくれば、世界地図で見れば小さな島国の日本もまあ広いものです。自転車で走ってそれを実感するというのは少々極端な話かもしれませんが、手元の操作でわかることには五感のすべてが伴うわけではない。そんなことを感じながら、まだ少し遠い富士山を眺めつつ、進んで行きます。

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ついに「東京」の文字が標識に現れる

ちょっと感慨深いものがあります。東京まであと175km・・・誰か代わりに走ってくれないかなと思いますが、連日のライドから「1日走りゃいいんでしょ」とも思うのです。慣れとは凄いものです。

1年前に友人とこのライドをやることを決めて、長いブランクがあったにも関わらず、復帰後すぐに100kmライドに出かけました。体がナマっていることにもちろん自覚はありましたが、年齢のことを忘れて昔のままの感覚で飛び出してしまったわけです。どうにかなるでしょうと。結果は80kmあたりでどうにも辛くなり途中リタイヤ。たった20km、あと1時間が走れずに、その現地で泊まることに。悔しいというよりは「情けない」の一言。ただ、不思議なもので「嗚呼、自分はダメなんだ」と受け入れてしまいました。投げやりではないのですが、単にそう感じました。

それ以来、結構な頻度で1日20kmをルーティンとして走ってきました。20kmであれば走行時間は約1時間。この程度の時間であれば毎日はムリだとしても、なんとか都合をつけて走ることができます。つまり特に頑張ってきたつもりはないのです。そして徐々に距離を伸ばしたライドを挟んで行きます。不思議なものでそれまでに走ることのできた距離の倍は、次はこなせる気がしてくるのです。50km、100km、200kmといったように。また実際にこなすことができました。また、ルーティンとして走っていた20kmという距離が自分の中で一つのモノサシとして確立します。たとえば残り40kmであれば「あと2時間走ればいいのね」とのように。どの程度疲れ、時間が必要となるのか。その時点の自分の状況からそれが可能か否かをモノサシで測るのです。そして次のライド、残り60kmで同じように。「やれるかな?」と測り続けていくと、モノサシそのものが育っていくものだなと、そんなこんなを思い返しつつ・・・淡々と走る友人の背中を追ってペダルを漕いでいきます。

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アングルが変わることで景色も新鮮に

新東名の開通後も、好んで東名を走ります。理由は単調な景色の新東名では眠くなることもありますが、桜えびで有名な由比のあたりを走りたいからです。駿河湾の海沿いに走る道が実に気持ちよく、ほとんど高速のバス停程度にしかスペースのない小さな由比PAに、必ずと言ってよいほど寄ります。日頃車で走る高架の下を自転車で走ったわけですが、アングルが変わるだけで真新しく感じるものです。写真を撮るみなさんならおわかりいただけると思います。アングルが変わるというのは、もうそれだけで一つの旅みたいなものです。高速道路と並行して旧東海道が走りますが、由比の古き良き町並みを自転車で抜けるのも実に心地よい。そして、いつもボーっと海を眺める由比PAを高台から見るのは新鮮でした。自転車でなければ、見る機会がなかったかもしれません。

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ついに箱根、ああ箱根。

今回の大阪〜東京ライドでは、最難関エリアとなる箱根峠越え。その入口である三島市に到達しました。なにせ合算すると20km程度上り区間が続きます。平坦路を普通に走っても1時間はかかる距離を延々上るわけで、正直自転車をバラし輪行袋に入れて電車に逃げ込みたい。日頃関東平野で暮らしていれば、少々走ったところで箱根のような上りに遭遇することはありません。大昔から難所であった箱根、仕方なしに行ってみましょう。

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いわゆる「激坂」のような斜度ではないが、長い!

10%を越えるような斜度の箇所はさほどありませんが、国道1号で上っていくのはとにかく長いのです。もう延々終わらない気がしてきます。時速はせいぜい10km/h程度しか出ませんし、時に歩くような速度まで落ちます。またこの日は10月中旬としてはかなりの暑さも手伝って、山を上るどころか宙まで上って帰ってこれなくなりそうでした。私はロングライドをやりたいわけであって、坂を上りたいのではない。ただロングライドには坂が付きもの。ヒルクライムも慣れやで〜と友人は言います。もう少し上り慣れておくべきだったと思いますが、そもそも慣れたいとも思わない!

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瞳孔が散大しつつある私。カメラ目線に首傾けて媚売り笑顔が見事な友人。慣れるんですかねえ、坂道も。この後彼は遠く先まで行ってしまわれるのであります。

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何度か自転車を倒して休憩。そこまでせずとも、縁石に足を置いて小休止を繰り返す「頻繁に足着く走法」を編み出す私。いや、誰と何を争ってるんだという話です。ゴールすればいいのです、ゴールすれば。

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そして、ようやく、本当にようやく箱根峠を越えます。箱根は車やオートバイでワインディングを楽しみ、花鳥風月を愛で、温泉で心身の疲れを芯から癒やし、心づくしの膳に舌鼓を打ち、舞を舞う場所。用法用量を守って正しくお使いください。

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箱根峠を越えていったん芦ノ湖湖岸あたりまで下りますが、今度は短いのですが国道1号最高地点まで再び上り。一回上ったのに貶めて、さらに上がれと? 誰も貶めてはいませんがそんな気分です。ここまでくると、あとは東京まで延々下り坂と思ってしまうぐらいの達成感。いやあ、長かった。そしてこんな私でもなんとか上ることができました。

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下りもそれなりな距離です。足が止まる下りでは体が冷えることが多いのですが、気温が高さから一枚羽織るだけで問題ありませんでした。上りきった後、つかの間のご褒美タイム。箱根湯本まで一気に下るダウンヒルは、まるでジェットコースター。

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あれだけ苦労して上っても、下るのは本当に一瞬。箱根湯本駅へ到達。ここから東京まで約90km、怯えていた箱根越えを終えた時点で私の中ではもう着いたようなものですが、90kmとはなかなかな距離です。頑張って帰りましょう。

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さて、ペースアップ! 横浜まで快調に進むも・・・

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すんなりいかないのが、大したものだなと思います。ゴールまで残り30km程度で、なんと今度は私がパンク。チューブレスタイヤのため応急処置はしましたが、ここまで快調に飛ばしていただけに、エア漏れの不安を抱えながら30kmを走るのも・・・と、すでにゴール地点で撮影待機してもらっていたサポートカーに、積み込んでいたスペアホイールを運んでもらうことに。なんて贅沢な話でしょう。チューブ入りなら、チューブ自体を入れ替えれば何の不安もないのですが、シーラントと穴埋めだけでは、完全に修理できた確証がその場で得られないのです。友人が初日にパンクした際、応急処置でその日は走りきれましたが、翌日やはりエアは漏れていました。ロングライドの際の運用については、まだまだクリンチャー(チューブ入り)に一日の長があり、これから500km超のロングライドではクリンチャーのホイールで出かけようと強く思う次第でした。スペアのホイールに履き替え、再スタート。かなり時間をロスして、到着はテッペンあたりになりそうです。

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ついに、東京へ。

多摩川大橋を渡り、そのまま国道1号線を走行して日本橋の道路元標を目指します。3日間に区分け走行しているため、遠かったとは不思議にあまり感じませんが「着くもんなんだなあ」と言ったところ。むしろ、多摩川を渡ってから日本橋までのほうが遠く感じたぐらいです。わずか18km程度なのですが。多摩川を渡った瞬間に、友人がスマホから「蛍の光」を流し始めます。聞けば出発前に念入りにプレイリストを組んでいたらしくコケました。まあ連日夕方になると飽きるのか90年代あたりの懐メロを大音量で鳴らし始め、その音がドップラー効果よろしく近づいたり離れたり。恥ずかしいので距離を取ろうと私のペダルを踏み降ろす力も増します。相棒である私の走力コントロールを密かに行っていたのではないかと勘ぐってしまいます。関西を離れて久しいのですが、このあたりの「なんかネタ(やらなきゃ)」根性が懐かしくも鬱陶しくもあり・・・しかし、なんの義務感だ?(笑)

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目黒近辺の坂道で地味に足を削られ、途中で友人が行方不明になったと思いきや、東京タワーと一緒に記念撮影に及んでいたり、最後のライドを楽しみながら走ります。そういえば大磯あたりで「湘南通ったら教えてな」と言ってました。広義には大磯も湘南ですが・・・まあそうですよね、彼にとっては「東京」ですから。今回のライドでたくさんの地方の街を通過してきましたが、語弊あるかもしれませんが日本は「東京」と「その他」なのです。ド田舎で生まれ育った私は東京とNYはあまり区別がありませんでしたから。つまり、ひとつの別の国みたいな感覚です。

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最後の交差点を曲がり、いよいよ日本橋です。1年前には550kmといえば果てしない距離に感じましたが、面白いものでゴール間近となれば、今のこの時間が愛おしく思えるものです。

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全行程終了、安堵のゴール。

出発前から走りきれるのか、走りきったらどんな気分になるのだろうか、いろいろと想像していました。感覚としては「今日もひと仕事終わった」そんな心境に近いものでした。なんとも言い表しがたい心境ですが、一言で表すなら見出しの通り「安堵」です。ゴール地点にはフォトヨドバシ編集部のボスをはじめ、スタッフが出迎えてくれました。皆さんの顔を見た瞬間にテッペン過ぎてるのにも関わらず「呑みに行こうよ」とゴネてしまいました。私達はゴール近くに宿を取っていたのですが、皆さんは迷惑な話です(笑)いやあ、本当に楽しかった。その一言です。

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無事におっさん達の大運動会終了です。今回のライドを一言で取りまとめるのは難しく、単に「やってみました」というだけの話なのですが・・・。何かこう大きな目標があったとします。私の場合は今回のライドですが、いきなりはたどり着かないと痛感して1年後にトライしてみようと、まあ無理せず嫌にならない範囲でともかく日々走ってみました。前に向かってペダルを漕ぎ出せば、ゴールより決して遠ざかることはないわけで、少しずつだけど前に進むわけです。そう大げさな話ではありませんが、今のタイミングでこんなことを分かることができたのは、ちょっとよかったなと思います。ともかく、付き合ってくれた友人、サポートカーをつとめてくれたスタッフ、待ち構えてくれていた皆さんに感謝です。

もうひとつ、自分なりに感じる自転車の楽しさについて。私は乗り物が好きで、乗ることそのものが大好きです。極論すればタイヤがついていれば何でもよいと言えます。その乗り物好きの私が自転車に魅せられるのは、乗り物として最もダイレクトなフィールが得られるからです。自分の体の延長線上に自転車があり、そこにラグがない。まずそこが面白さの一つです。そしてロングライドの魅力ですが、皆さん「イージーライダー」という映画をご存知でしょうか。いわゆるロードムービーのジャンルに属する映画だと思いますが、ストーリーは2人の男がアメリカをバイクで横断するだけのシンプルなもので、まあ出来事がいろいろと起きるのですが、わりとすぐ忘れるような内容。とてつもなく制作費が安上がりなような、ストーリーがあるのかないのかよくわからない映画です(笑)ゆえに、見る人はよくわからないなりに色々と解釈せざるを得ない。印象的なのが、バイクで走行しているシーンばかりではないにも関わらず、景色がずっと流れていく映像が印象として色濃く残るのです。今回のライドを通じて、なぜかこの映画のことを思い出しました。ロングライドとは、リアルに見る自分だけのロードムービー、そんなものかもしれません。思い返せば、ペダルを漕ぎながら過ぎ去っていった景色が脳裏に映し出されます。またあの景色を見たいな、そんな風に思います。

2023.10.19
静岡県静岡市〜東京都中央区
走行距離 197km (累計 552.6km) / 獲得標高 1,694m / 走行時間 10時間10分 / 経過時間 17時間45分 / 消費カロリー 3,884Kcal

( 2023.12.22 )