PHOTO YODOBASHI

ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン

PENTAX 17, Fujifilm 400, Photo by TAK

PENTAX 17 / SHOOTING REPORT vol.1 vol.2 vol.3

「この存在感は何だろう」「ISO 400ってこんなにざらっとしてたかな」 令和6年に新発売されたフィルムコンパクトカメラ、「PENTAX 17」で撮影したカラーネガフィルムは鮮烈です。フィルムから離れて長い月日が経ちましたが、スムーズなデジタル画像に慣れきった目で見ると、一つ一つの粒子の存在を強く感じます。粒子とは感光物質である銀塩の結晶。顕微鏡写真などを見るとその形状やサイズは均一ではなく、規則的に並んでいるわけでもありません。銀塩デジタルの優劣比較には興味が湧きませんが、仕組みも目的も違う両者は間違いなく異質です。銀塩においてはこの粒子のランダム性が大きく関わっていて、今見ている描写もこの特性で説明できるかもしれません。あくまで門外漢による「かもしれない」レベルの話ですが。ただ、久しぶりに見るとあまりの違いにちょっと驚いた次第で、理由を考えてみた次第です。そして、ネガの雰囲気はあの頃もこんなものだったなと段々と思い出してきました。デジタルでさえ、数年も前のモデルの画を見ると古さを感じますよね。そしてこれはフィルムなのです。むしろ今見ると面白いと感じますし、画というよりもはや絵に近い感覚です。フィルムを散々撮ってきて知っているはずなのに、令和の今見ると新鮮そのもの。こんな個性、デジタルではまず出せません。中毒性は高そうです。

( Photography & Text : TAK )

  • PHOTO YODOBASHI
  • PHOTO YODOBASHI

今回ご紹介するカットは、フィルムをライトボックスに置き、マクロレンズをつけたK-1 Mark IIで撮影したRAWデータを、Photoshopで現像したデジタイズ画像です。コストはフィルムと現像代だけという、今の自分が実現できるローコストな方法で試してみました。具体的にはネガ反転処理をした後、コントラストを落とし、トーンや色被り等を調整、明瞭度やかすみの除去のパラメータを若干下げています。ISO 400ということもあってか、粒子の存在が出過ぎていたので半分はその対策です。このあたりはまだまだ研究中ですけどね。ISO 100あたりだともっとスムーズになると思いますが、ISO 400の雰囲気も味わいがあります。

PHOTO YODOBASHI

同じ方法でネガのスリーブを順番に並べてベタ焼き(コンタクトプリント)風に仕上げています。お店の「インデックスプリント」のようなもので、今回使ったフィルムはFujifilm 400というカラーネガフィルム1本のみ。ご覧のように全て縦位置で記録されています。PENTAX 17はいわゆる「ハーフサイズフォーマット」を採用し、「フルサイズ」、35mm判フィルム(36×24mm)の1コマを左右半分に分けることで、縦位置写真(17×24mm)を2コマ露光することができます。36枚撮りなら72枚、24枚撮りなら48枚と倍の枚数を撮影できるので、コストを抑えられます。そして縦位置1コマの横幅が17mmを取って「17」という名称になっています。同じフォーマットを持つカメラは過去にも多く存在しましたが、現代の撮影スタイルも鑑みた結果、フィルム時代の縦位置規格に回帰したのが興味深いですね。そしてそれは、多彩なフォーマットを扱ってきたペンタックスならではの自由な発想です。面積的にはAPS-Cより少しだけ広いのですが、比率は3:2より5:7の方が近く、今回のデータ化に際しても5:7で割とコマ枠ギリギリまで切り抜いています。店頭でデータ化したりプリントすると専用のマスクをかけて焼くのですが、完全な直線ではないコマ枠まで写らないようにマージンを取るので、範囲はもう少し狭くなります。

PHOTO YODOBASHI

ではカメラとご対面。縦位置のファインダー窓が印象的ですね。カメラを横位置に構えた状態で、縦位置の写真が撮れます。出立ちからして只者ではありませんが、モデル名もカッコいいと思いませんか。フォントも含め、PENTAX 67や645といったフォーマット由来のパターンを引き継いでいるのは承知していますが、「外車」がもっと遠い存在だった頃のようにシンプルです。

PHOTO YODOBASHI

各部の働きについては、今はフィルムで撮る方もじわじわ増えているとのことで、初めての方でも何となくお分かりかもしれません。割とユニバーサルなデザインに近い、直感的に見てわかる設計になっています。パーツ、形状、塗装と、どこから見ても同社が築き上げてきたヘリテージの集大成といった様相です。往年の「AOCO」ロゴやauto 110からの巻き上げレバーにもしびれましたが、個人的なツボは「FILM CAMERA」と断りを入れているところ。デジタルネイティブへの配慮でしょうか。秀逸な名乗りでありまして、「わかっとるがな!」とツッコミを入れてあげるのが礼儀です。デジタル黎明期にも、誇らしげに「digital」と書いてありましたっけ。

特徴的なのは「モードダイヤル」と、ピントを合わせるための「ゾーンフォーカスリング」です。オートフォーカスではありません。モードダイヤルの白枠の部分はフラッシュなし、黄枠はフラッシュを併用する時に使用します。いずれの場合もピントはフォーカスリングを使って自分で合わせます。「AUTO」はピントがパンフォーカス(最もピント範囲が広くなりピンボケしにくい)となり初心者におすすめですが、フラッシュ発光の判断もカメラ任せなので、絶対に光らせたくない場合は選ばない方が良いでしょう。白枠内ではなんといっても「BOKEH」が目立ちます。今やワールドワイドになったこの日本語が踊るカメラは、ひょっとしたらこのカメラが初めてかもしれません。このモードではレンズの絞りをF3.5の開放にし被写界深度を最も浅くして、ピントの合った部分以外がボケやすくなります。お月様のマークにするとシャッター速度が低速になり、夜間の撮影などに適していますが、カメラをしっかりと構えるか固定する必要があります(手ぶれ補正は非搭載)。フォーカスリングには「kawaii」文化を物語るような、複数のマークが。「花」から「山」に向かって順にピント位置が遠くなります。これはゾーンフォーカス方式といって、このカメラの場合それぞれが0.25m、0.5m、1.2m、1.7m、3m、無限遠に対応しています。絵柄から何となく距離が理解できるので実用的ですね。ちなみにストラップを通す穴の長辺ですが左右とも約5mmでした。

PHOTO YODOBASHI

裏蓋には嬉しい「メモホルダー」も。フィルムの箱の正方形の面を切り取って入れると何のフィルムが入っているのかわかる仕組みで、デジタルでいうカスタムイメージが常時表示されているようなものです。裏蓋を開け、フィルムを装填し、カウンターが「0」になるまで巻き上げて、巻き戻しクランクを回してフィルムのたわみを取ったら準備完了。「今日はこの銘柄、感度で行くんだ。」 一連の動作が、撮るぞという気分にさせてくれます。今の感覚では随分と不便な儀式ですが、儀式とは何も考えなくても人間を次のステージに上げてくれる便利な発明なのです。フィルム装填や巻き上げを電動にしなかったのはペンタックスの親心。手を動かす儀式によって気持ちが高揚する経験を、改めて伝えたいのです。

一応申し上げておくと、ファインダーはEVFではありません。これも笑えない話でして、フィルムネイティブの私ですら、二眼レフで撮影中に一瞬だけ「あ、電源切らなきゃ」と思ったことがあります。この何ともリアルなメモ表示もね、OLEDモニターでしょうか。ボケが過ぎました。

もう一つ。これはボケではありません。老婆心ながら申し上げますが、全コマ撮影終了後は必ずフィルムを最後まで巻き戻してから、裏蓋を開けて取り出してください。また途中で感度を変えたいからといって裏蓋を開けたら、その時点でフィルムが感光してしまいその1本は「the end」です。どうしても途中で交換する必要がある時は、やはりフィルムを最後まで巻き戻してから交換してください。そうです、残り枚数を泣く泣く捨てて交換するのです。裏技もあるのですがそれはまた後日。

PHOTO YODOBASHI

フィルム減産に伴い、価格はあの頃の感覚では信じられないほどに上昇。そんな中での新型フィルムカメラの意義について賛否両論聞こえてきますが、どちらも正論なのでしょう。人間は常に不安になったり心配する生き物で、それは正常なことです。心配しなければ問題を認識できず状況は悪化しますから、自分がすぐに理解できないこと、自分にとっての「非常識」をすんなりと受け入れられないのは、当然のことなのです。それがデフォルトの人間界で、揺るがぬ信念を貫き通すのがペンタックスというメーカーです。できる言い訳、できない言い訳、どちらを考える人生を歩みたいか。その答えが、PENTAX 17なのです。このカメラを持ってどこに行こうかな。どのフィルムにしようかな。こんなワクワク、いつ以来でしょうか。

懐古主義や嗜好といった理由だけでは、このようなプロダクトを商業ベースにのせるには至らないでしょう。ペンタックスが挙げた重要な理由の一つに、フィルムカメラに関わる技術の継承があります。フィルムカメラを知る技術者から今ノウハウを引き継がなければ、フィルムカメラを作った経験を持つ人がいなくなり、誰も作れなくなる。しかしこの一台のカメラによって、1839年のダゲレオタイプに始まったフィルムカメラの歴史と技術は、これからも引き継がれてゆきます。PENTAX 17を手にするということは、写真文化継承運動に参加するようなものです。


PENTAX 17, Fujifilm 400, Photo by TAK

では作例を。フィルム写真の画質はフィルム自体の特性に大きく依存します。そしてフィルムを変えることで、画質をドラスティックに変えられる面白さがあります。今回はネガフィルムですがこれは紙にプリントすることを前提に作られています。白が最も明るい紙と透過光を使ったディスプレイとでは、紙の方がはるかにダイナミックレンジは狭くなります。しかしそれを考慮しても、ハイライトに心地よさを感じます。デジタルだと限界を超えると途端にドカンと白飛びして破綻するのですが、フィルムだとハイエストに向かって緩やかに変化し、越えてもまだ何となく続きがあるように見えます。デジタルのようなクリアさはありませんが、見ていて何となく心地が良いのです。

PENTAX 17, Fujifilm 400, Photo by TAK

この25mm F3.5の単焦点レンズ、本当に薄くて威圧感がありません。35ミリ判換算で37㎜相当となりますが、予想以上にシャープで、ハーフサイズの画質上の懸念を吹き飛ばしてくれそうです(もちろんフルサイズと全く同等とまでは行きませんが)。カメラがデジタルになって、レンズ性能が飛躍的に向上しました。その大きな恩恵が今度はフィルムカメラ用に生かされています。しかも3枚という非常に少ない枚数による、お好きな方にはたまらないトリプレット構成。解像性能もヌケも素晴らしく、デジタルでも使ってみたいと思うほどによく写る印象です。ヌケについてはポジフィルムの方がよりわかりやすいでしょうから、後日また確かめてみようと思います。実はあちこちにホコリが写っているのですが、あえて見せています。これがデジタルだと「ギャー!」ですが、フィルムなら「あらホコリが」で済みます。人生には余裕が必要です。ともかく、フィルムにはデジタルでは想像もつかないほどの量のホコリが付きます。除去作業も久しぶりでしたが、物理的にもソフト的にも大変。マウスを持つ手がつりそうになり、全てを取り除くのは断念しました。ただ、デジタルだとスッキリしている分ホコリが目立ちやすいのですが、フィルムは元からこんな感じですから目立ちにくいのです。このようなごちゃごちゃした写真は、特にそうですね。

PENTAX 17, Fujifilm 400, Photo by TAK

露出に関してはプログラムオート露出なので、カメラ任せでほぼ問題ありません。露出補正は±2段の範囲で行えますが、プリント時に露出を変えられるネガフィルムでは基本的に不要です。シャッター速度は、カメラが1/350秒~4秒の間で判断します(モードダイヤル「B」でバルブ撮影も可能)。感度は一度ISO 400のフィルムを入れたらその1本を撮り終えるまで400固定です(現像時の増減感処理は別の話)。ISO感度設定ダイヤルは途中で感度を変更するためではなく、入れたフィルムの感度をカメラ側に伝え、カメラのプログラム露出が適正に働くようにするためのものです。色もやっぱりネガらしい。肌のシャドウも店頭でデータ化すればもっと自然に出るとは思いますが、やはりデジタルのような滑らかさとは違ったものになります。これが好みに合えば、フィルムはきっと楽しいと思います。以前は全てをこれくらいの画質で撮っていたのです。単純に解像感不足などと片付けたら、歴史に残る数々の名作は全て否定されなければなりません。


PENTAX 17, Fujifilm 400, Photo by TAK

現像後のカラーネガフィルムは見た目も茶色で仕上がりが全くわからない分、プリント時やデジタル現像時に自分の感性で画処理をしていく楽しみがあります。このカットは黒を締め、ハイライトを上げる処理をしています。決して広くはない階調幅の特性を生かすには、無理に全てのトーンを残すより思い切って捨てる判断も必要です。ポジフィルムで現場で全てを決める緊張感もまた良いものですが、こういう後処理の自由度が割と高いのがネガフィルムの利点なので、まずはネガフィルムで肩の力を抜いて撮影そのものを楽しんでいただきたいですね。

PENTAX 17, Fujifilm 400, Photo by TAK

モードダイヤルでは黄色枠の「P」、フラッシュ強制発光(日中シンクロ)で撮影してみました。前を歩く人々に光を当てたことで、逆光でも明るく写り右側男性の靴の反射材も光っています。現場は相当に蒸し暑かったのですが、デジタルとはまた違った物質感を伴った空気感があります。デジタルだとヌメっとなるところです。

PENTAX 17, Fujifilm 400, Photo by TAK

モードダイヤルを「BOKEH」に、フォーカスリングをお花マークの位置にして寄ってみました。お恥ずかしながら、横位置で撮るためにカメラを縦位置に構えた瞬間、ファインダー内の内側の近距離視野補正枠を使うことをスパッと忘れてしまいました。構図がちょっとアバンギャルドになっておりますことを心よりお詫び申し上げます。接写時はこの内側の枠を使うようご留意ください。ただ、ピント以外は確かにぼけていますね。ハーフサイズでのF3.5なのでそれほど期待していませんでしたが、意外や意外、十分なボケの量です。ちなみにPENTAX 17のファインダーは、ピントがどこに合っているかが確認できません。被写体までの距離を目測で判断して、それに応じたポジションにフォーカスリングを合わせて撮ります。少し慣れが必要ですが慣れてしまえば簡単、いや、このように気を抜くと間違うことも(笑)。ただ、先にピントを決めてから撮影に入ると、撮影テンポがよくなるメリットがあります。レンジファインダーなどでも多用する「置きピン」ですね。

PENTAX 17, Fujifilm 400, Photo by TAK

背後の山の様子まで、十二分にシャープです。ハーフサイズのフィルムでこれですから、やはりレンズが相当切れるのだと思います。歪みもありませんしね。信号の赤の発色に「らしさ」を感じます。左下の赤い消火器箱の質感にも惚れました。リアルかといったら、リアルとは言えません。まずもって、目ではこんなふうには見えません。しかし粒子が一生懸命編み出す織物のような描写は、強力な表現ツールとなります。質感というより質そのもの、フィルム風ではなくフィルムそのものの力です。


PENTAX 17, Fujifilm 400, Photo by TAK

縦位置で眺めていると、Y字路にも反応しがちです。左手の案内板に「明智光秀の塚」とありますが、ギリギリ読めますかね。今は塞がれていますが、その奥にも昔は道が続いていたのでしょう。PENTAX 17のシャッターはレンズシャッターなので、音がめちゃくちゃ静かです。時を刻むのが楽しくなる、実に愛らしい音を奏でます。ボタンを押した後、ほんの少し遅れて切れる感覚なので慣れる必要はあります。また、どれくらいの速度のシャッターが切れるのかも確認できないので、遅い場合にも備えてしっかり構えて撮ると良いでしょう。

PENTAX 17, Fujifilm 400, Photo by TAK

日も暮れ始め、ISO 400も限界を迎えてまいりました。これは即ち撮了を意味し、心おきなく飲食できるということになります。これ、とても大切なことです。現像するまで結果がわからないので、目の前のお酒も美味しくなるのですね。私先日財布を忘れて外食をしてしまい、レジでそれが判明したことがありました。バーコード決済も使えなかったのですが、幸いタッチ決済が出来たのでホッとしました。もし食べている間に気づいていたら、その韓国料理のおいしさを感じることはできなかったでしょう。「知らぬが仏」なのです。撮ってその場で確認、そして撮り直すを繰り返すのが当たり前になり、ともすればエンドレスに撮り続けてしまう今だからこそ、強制的に終われる有り難みを感じます。限りあることはマイナス要素ではありません。物事には終わりも必要なのです。

PENTAX 17, Fujifilm 400, Photo by TAK

もうそろそろ撮了か~と開放感に浸りながらパチリとやったわけですが、豪快に外しました。フォーカスリングをお花マークにしてのマクロ撮影。脇を固めるもずくと牛すじ煮込みの姿が見え・・・ませんかね。この印象派風の仕上がりが、久々のフィルム撮影を終えた後の期待と不安が入り混じった撮り手のざわざわした気持ちを表現・・・(なわけない!)お花マークさんごめんなさい、私の不手際です。ちゃんと写って当然と思うなよ、とカメラに言われた気がしました。

PENTAX 17, Fujifilm 400, Photo by TAK

やはり縦位置写真が増えます。今回のレポート記事が長く見える一因でもありますが、意外とすぐに慣れますし、覗いてワクワクするフォーマットです。人によってはむしろこっちの方が自然かもしれませんね。


PHOTO YODOBASHI

フィルムカメラ再出発に相応しい、想いの詰まったハーフサイズ。

ヘリテージの継承にギリギリセーフだったとは言え、機械的要素の多いフィルムカメラを新規で立ち上げるには相当な苦労があったはずです。技術者の言うことを実際に設計製造(特に手作業レベル)に反映させることはどれほど難しいものか、フィルムカメラに活かせる部品や素材は今どれほどあるものかと想像すると、これはもう途方も無いことで、PENTAX 17は文字通り「有り難い」カメラなのです。メインターゲットはこれからフィルムカメラを始める人々であり、ある程度のマニュアル操作を楽しめること、そして撮りやすさを主眼に置いて設計されています。あとは価格をどう見るかですが、ペンタックスのような老舗の大手メーカーが厳しい品質管理のもとに量産してくれることに、大きな意義があります。もし小さな工房が少量生産していたら、ビンテージカメラ、あるいはハイエンドオーディオやクラシックカーのような事態になっていたかもしれません。この時代に、よくぞここまで作ってくれました。それが率直な実感です。

このカメラは、自由を当然の是とする今だからこそ、制約というものがプラスに作用することを再確認させてくれました。72枚という枚数制限は実にちょうど良い、心地良い区切りをもたらします。慎重に撮る必要性を感じながらも、撮り直しは十分にできる数でもあります。しかも今回はコスト面も鑑みて1本のみのロケとしたのですが、この制約がかえって良かったように思います。何もかも自由にやって良いよと言われて逆に困る状況は、誰しも経験しているでしょう。いくらでも撮れるデジタルで、自分がいかに未練がましくなっていたかを痛感しました。現場で確認しながら何枚も撮った割には、結局採用しなかったカットは今まで無数にあります。理由は単純で、撮るべきシーンではなかったから。枚数制限があれば、本当に撮るべきか否かを自ずと考えるようになります。あれもこれもと撮った複数枚より、撮るべき場面でのたった1枚の方がはるかに強いのです。フィルム全盛期はフィルムも安かったので、結構際限なくバシャバシャ撮っていました。それが1カットあたりのコストが劇的に増大した今、その価値をかつてないほどに感じます。銀塩写真がまだ一部の愛好家の嗜みだった頃のようにと言うと大袈裟かもしれませんが、とにかく丁寧に丁寧に撮るようになります。現状を嘆く代わりに、今は撮るべきシーンを見極められるようになれるチャンスだと理解することにしました。理想は一撃離脱。1枚撮ったらすぐ他のシーンを探し回るスタイルに憧れます。

2022年冬のあの「Film Camera Project」の発表、「It's Time for Film!」宣言、そこからわずか約1年半後の「できたよ」との知らせにハートも財布も仰天しました。でもこれは、理屈抜きに「買い」ですよ。今時こんなカメラ、二つとありませんから。デジタルから写真を始めた方は、この新型フィルムカメラが生み出すアナログ写真の世界に心踊らせているのではないでしょうか。フィルムからデジタルに移行された方。フィルムには結構痛い目にもあってきて、今はデジタルの万能性に浸りきっておられるかもしれません。私もそうでした。しかしこのカメラに触れて色んな思い出が去来し、成功失敗含めてフィルムもいいものだなあと、今ならまた新しい楽しみ方ができると思っています。手間はかかりますが、じっくりと丁寧に作り込んでいく時間は贅沢で楽しいのです。本当に心苦しいのは既に予約数過多となり、2024年7月12日の発売日の時点でカートに入れていただくことすらできないことです。世界中の熱いフィルムファンのニーズをほぼ一手に引き受ける格好になっているのかなとも思いますが、このカメラの心意気に惚れた方に一刻も早く、「timely」に行き渡ってほしいと心から願っております。

PHOTO YODOBASHI

撮影後のフィルムはできるだけ早く現像に出しましょう。お店でフィルムを現像する際は、「ハーフサイズで撮影しました」と必ず伝えてください。店員さんがネガをスリーブに切り分ける時、心の準備ができます。人様から預かったフィルムのコマ間でキレイに切るのは中々緊張します。私、大昔に写真屋さんでアルバイトをしていた時、コマ自体を切ってしまったことがあり、そりゃあもう平謝りでした。

予想通り長大化した本レポートも、終盤に差し掛かってまいりました。ここで、今フィルムをデジタルデータ化するにあたっての、コスト面のお話をします(PENTAX 17発売日時点のヨドバシ価格)。カラーネガフィルム1本で撮影する場合、まずフィルム代1,860円、現像料1,000円程度、計3,000円ほどが必要です。デジタイズに関しては機材への初期投資が生じます。すでにカメラもレンズもお持ちであれば、アクセサリー類として、ライトボックス(A3サイズで11,000円ほど)、そしてカメラ自体を上下させられるデータスタンド/コピースタンド(26,460円)があると捗ります。ここまで締めて37,460円ですが、コピースタンドの代わりにお持ちの三脚に固定するなどすれば、その分のコストが抑えられます。

仮に店頭でデータCD保存をすると、1本につき大体700円ほどと悪くないお値段ですが、データCDの1コマの画素数は200万画素程度。お持ちのカメラであればはるかに高画素でデータ化できます。600万画素以上でDVDに焼くサービスもありますが、基本料金に加えて1コマ当たりの料金がかかり、納期も延びます。デジタイズなら自分でササッとできます。中判など様々なフォーマットも処理可能ですし、パーフォレーションだって写せます。もし仮に、いや万が一、カメラとレンズをお持ちでない場合は、更なる投資が必要となります。ペンタックスならKFとHD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limitedあたりがおすすめです。合計143,330円。さすがにいきなりは、、、という方はまずは店頭でデータ化して楽しんでみて、後々色々やりたくなったら是非検討してみてください。カメラ好きの方、レンズ交換式カメラのレンズキットくらいの予算とお気づきですよね。後はお任せします。

もちろんお店ではプロの方が専用のラボ機械で作業するので、自分で何もしなくても安心のクオリティーが得られる利点があります。セルフデジタイズを基本としつつ、忙しい時などにはお店でデータ化といった具合に、状況によって使い分けるのも手ですね。

( 2024.07.12 )

Loading..
Loading..

撮影中すれ違った歩行者が、何かを指して同伴者に「コレ、アレや!」と言っていました。この時代にあえてフィルムカメラ、アレですよね。

価格:Loading..(税込) Loading..Loading..)
定価:Loading.. | 販売開始日:Loading..
Loading..
Loading..
Loading..

40.5mmというフィルター径は、あのレンズやあのレンズと同じ。あのレンズをお持ちの方も、もう1つどうぞ。

価格:Loading..(税込) Loading..Loading..)
定価:Loading.. | 販売開始日:Loading..
Loading..
Loading..
Loading..

このカメラは、3Vリチウム電池(CR2)1個を使用します。もちろん1個装着された状態で付属していますが、予備もどうぞ。充電池ではありませんのでご注意ください。

価格:Loading..(税込) Loading..Loading..)
定価:Loading.. | 販売開始日:Loading..
Loading..
Loading..
Loading..

接続すればカメラに触れることなくシャッターが切れます。低速シャッター使用時やバルブ撮影時にも便利です。

価格:Loading..(税込) Loading..Loading..)
定価:Loading.. | 販売開始日:Loading..
Loading..
Loading..
Loading..

今回使用したISO 400のカラーネガフィルム。発色は割と派手目です。

価格:Loading..(税込) Loading..Loading..)
定価:Loading.. | 販売開始日:Loading..
Loading..
Loading..
Loading..

ISO 200のカラーネガフィルム。粒状性と感度のバランスが絶妙です。

価格:Loading..(税込) Loading..Loading..)
定価:Loading.. | 販売開始日:Loading..
Loading..
Loading..
Loading..

一通りのことはしっかりできるデジタル一眼レフ。ライブビューはデジタイズにも便利です。

価格:Loading..(税込) Loading..Loading..)
定価:Loading.. | 販売開始日:Loading..
Loading..
Loading..
Loading..

寄りが求められるデジタイズには必須のマクロレンズ。標準域なので、日常スナップにも使えます。

価格:Loading..(税込) Loading..Loading..)
定価:Loading.. | 販売開始日:Loading..
Loading..
Loading..
Loading..

サイズは少しでも大きい方が作業が捗ります。特にベタ焼きの際に全コマが入るスペースが必要です。

価格:Loading..(税込) Loading..Loading..)
定価:Loading.. | 販売開始日:Loading..
Loading..
Loading..
Loading..

カメラ自体を上下させられるので、デジタイズする範囲を決める時に便利です。

価格:Loading..(税込) Loading..Loading..)
定価:Loading.. | 販売開始日:Loading..
Loading..