PHOTO YODOBASHI
ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン
Nikon AF-S NIKKOR 180-400mm f/4E TC1.4 FL ED VR
[ズーム] 広角 | 標準 | 望遠 | 高倍率
[単焦点] 広角 | 標準 | 望遠 | マクロ
ニコンからフルサイズ用超望遠ズームレンズ「AF-S NIKKOR 180-400mm f/4E TC1.4 FL ED VR」が登場しました。前モデルのAF-S NIKKOR 200-400mm f/4G ED VR IIの発売からおよそ8年ぶりのモデルチェンジとなります。スペックを見ると前モデルよりもワイド側が広くなりかつ1.4倍のテレコンバーターが内蔵されているなど、もうそれだけで別物感が漂っています。一体どんな構造なんだろうと興味が広がります。レンズ構成にはボディの高画素化に対応し、高い解像度を発揮するEDレンズと蛍石レンズを採用。各種収差やフレアなどを低減させるナノクリスタルコートを採用するなどこのクラスのレンズでは当然と言えば当然の最新の光学設計となっています。つまりいくらかかってもいいからエエもんを作ってやろうという感がありありのレンズなわけであります。言うなれば超弩級の重量、サイズ、写り、そして価格であるのはここまででわかったのではないでしょうか。しかし、これほどの進化をしていながら前モデルよりわずか140g増の3,500gに抑えたのは開発者の意地と使用する人への愛情すら感じます。今回はそうそうなかなかお目にかかれない本レンズを、使ってみた気になれるように解説していきたいと思います。今回はFX(フルサイズ)とDX(APS-C)の2つのフォーマットで、鳥、飛行機、日常の光景を狙ってみました。各カットの撮影データにテレコンのon/off、焦点距離を記していますので、こちらもご参照ください。
Scene 1:野鳥
このレンズを担当することが決まって最初に浮かんだ被写体が野鳥でした。見たことも触ったこともない憧れのレンズ。テンションも上がります…が、持ってみると背が縮むような感覚が(笑)。軽くなったと言っても3.5kg。それにボディ、ビデオ雲台5型のジッツォ三脚が加わります。でも一度撮り出すと気分が軽いんですよ。まずAFの速いこと。特に最新ボディとのコンビでは距離を問わず瞬時に決まりますし、AF-C連写時での追従能力も極めて高いです。焦点距離的に比較対象となるのがAF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VRでしょうか。筆者も所有しているのですが、これも十分に速いんですよ(中身を考えるとバーゲンプライス!)。それでも本レンズは別格であります。そりゃ8倍以上の値段ですからそうじゃなくては困るのですけどね。このハイパフォーマンス、もちろんテレコンを効かせても全く影響ありません。しかもレンズを装着したまま、瞬時に切り替えることができる。その恩恵の大きさは言うまでもありません。鳥のように近づきにくい被写体は自ずとテレコンを使用することも多くなりますし、DXフォーマットでは更に35mm換算で最長840mmの焦点距離が手に入りますから、実にありがたいですね。ピントピークもこれがズームかと疑うほど、開放から全域で極めてシャープ。前後のボケもズシッと質量を感じさせるもので、絵にシリアスさを与えてくれます。4段分を謳う手ブレ補正の効きも抜群で、手持ち(1枚目と4枚目)でもスポーツモードで安心して狙えました。速いシャッター速度でもあるのとないのとでは違いますからね。いやはや、これはとんでもないズームレンズですよ。
なお、4枚目のトラツグミのカットは大きなミミズを食べた直後のものですが、食べる瞬間のカットも撮っております。こちらをクリックするとご覧いただけます。(TAK)
Scene 2: 飛行機
お次は飛行機です。実は望遠レンズで撮るのは初めてでした。向かったのは大阪国際空港(伊丹空港)。撮影ポイントは、その筋では「聖地」と呼ばれる「千里川土手」、そして「伊丹スカイパーク」です。千里川土手は滑走路のエンド部に位置しており、着陸する旅客機を頭上に見ることが出来る迫力満点のスポット。伊丹スカイパークは滑走路西側に沿って展開しており、離着陸の様子を真横から見ることができます。飛行機を撮るのってこんなに難しいとは…何千枚と消去する中、かろうじてまあまあのカットが見つかるといった次第です。当然レンズとカメラのお陰以外の何物でもありません。流し撮りなども、優秀なVR無しで果たして成功していたか甚だ疑問です。解像力はご覧の通り開放から極めて高く、機体の隅々はもとより客席の様子までも克明に描いてくれました。AFも高速で移動する機体にピタッと張り付いてくれます。そして何よりもポジションを変えずに画角を変えられることの恩恵。飛行機ほどの大きさとなると広角側にズームアウトしたい場面も多くありますし、逆にある部分にグッと迫りたくなることもありますからね。造りの良さも超一級。パーツというパーツが高い精度で動作する極上の安心があり、未経験の私でも「これなら撮れるかも?」と思わせてくれるものがありました。レンズサポートなどのアクセサリーも、今回の撮影においては必要性を感じませんでした。それほどソリッドな造りなのだと思います。ズーミング時も全長が不変のインナーズームもあるのとないのとでは大違いです。航空機撮影においても、本レンズの持つメリットは計り知れません。(TAK)
Scene 3: 日常の光景
あまりやらないと思いますが(笑)、この超弩級ズームで身のまわりの光景を撮ったらどうなるか。梅が満開の京都御苑、太陽、街の遠景など、動きの少ないものを狙ってみました。昔も同じように見えたであろう建築物や梅の木に、現代の光景がオーバーラップしていきます。そんな時代の層を望遠で重ね合せ、開放で御所をボカすことでその権勢を強調しました。梅のアップも開放、最短付近ですが(全域でたったの2メートル!)、そんなに離れていない桃色の梅が何とも良い塩梅にボケています。ドリーミーにボケるヨンニッパなどの単焦点と比べるのは野暮というもの。これはこれで正解なのです。強力な手ブレ補正にも助けられ、ピント部も見事に解像。発色もヌケも最高級ですね。 花札を意識した太陽のカットは輪郭にピントを合わせていますが、それ以外は全てボケています。ファインダー内で太陽が落ちてゆくスピードは意外に速いですから、シャッター速度を1/200秒に上げています。夜景は10秒の露光。最強クラスの三脚としっかりした雲台が必須です。本レンズの類稀なる力は日常の光景を収めるのにも極めて有効でした。条件を問わず鮮明なファインダー像を見ていると、引き寄せるというよりこちらが向こうの世界に心を寄せ「最近どう?」と訪ねているような、それぞれの世界が愛おしくなるような気持ちになりました。
とにかく、ものすごいレンズでした。ものすごすぎて呑まれてしまった感もあり、とても使いこなすまでには至りませんでしたが、少なくともこれだけは言えます。キレのある写り、俊敏なAF、頼れるVRはもちろんのこと、F4固定と画角の自由が手に入り、いつでも1.4倍の必殺技がワンタッチで繰り出せる。この類稀なる望遠ズームレンズは、撮影スタイルに大変革をもたらすでしょう。(TAK)
これが必殺技「1.4X」テレコンの切り替えスイッチです。それぞれのポジションでロックも可能。ファインダーを覗きながら1Xから1.4Xに倒すと、時計回りにテレコンが段々と重なってくるのが見えて面白いですよ。「MEMORY SET」はピント位置を記憶させる「メモリーリコール機能」用のボタンで、スポーツなど撮るものが決まっている場合に有効です。
「Bigger is better.」そんなアメリカンな価値観すら抱いてしまいそうな、威風堂々たる姿。シビレます。もちろんただ大きいだけじゃない。このレンズでしか撮れないものが確実にあります。付属のフードはカーボン製と思われますが、単品で買えばカテゴリーキラーの値段が(笑)。
まさしく最上級という名にふさわしい、惚れるレンズ。
皆さま、お腹いっぱいになりましたでしょうか。もうこれでもかというほど盛り込まれた機能と贅沢な仕様による圧巻の写り、このレンズでしか撮れない世界を感じていただけたのではないでしょうか。そうは言っても、おいそれとは買える価格では無いのも事実です。ただ、買う買わないは別にしてこのレンズの存在とその性能を知ることは、これからも長く続くであろう写真道を歩む上では間違いなく有益であるはずなので、ちょっと手の出ない価格帯だからといって全く知る価値がないわけではないのです。最上級の写りやそれをサポートする機能を知ることで、いろんな撮影シーンでこのレンズの事を思い出し、憧れの存在になることで毎日が楽しくなりますし、その憧れはいつかきっとこのレンズを手に入れたいという野望に変わり、心のうちでメラメラと燃えていくことでしょう。なんだか険しい恋のような話ですが。ええい!もう思い切っていますぐ買ってしまえ!毎月少しづつ返済してやるわ!というのもいいかと思います。このレンズならどこへ持って行っても周りから羨望の眼差しを受けることになりますし、間違いなく自分史に残る名作を生み出せるせることと思います。レンズに恋するなんて事を一度はしてみませんか?それくらいの価値はあるレンズです。
( 2018.03.27 )
ニコンFXフォーマットの超望遠ズームレンズは180mmから400mmと1.4倍内臓テレコンを使用することで560mmまで焦点域を広げることができます。超絶な写りをサポートする手ブレ補正機能やゴースト、フレアを抑える仕様や防塵・防滴にも配慮された最上級のレンズとなっています。
軽量化に配慮しているとはいえ、ボディと合わせれば約4.5kgですから、手持ちでの撮影には限界があります。一脚も一緒に購入するのが賢明ですよ。すでに一脚をお持ちの方も、安心を買うという名目でジッツオの一脚をどうぞ。