PHOTO YODOBASHI
ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン
TTArtisan 23mm f/1.4 C
[ズーム] 広角 | 標準 | 望遠 | 高倍率
[単焦点] 広角 | 標準 | 望遠 | マクロ
銘匠光学による「TTArtisan 23mm f/1.4 C」(ニコンZマウント用)のレビューをお届けします。光学系はLD異常低分散レンズ1枚、高屈折低分散レンズ3枚を含む6群8枚構成とし、全長:42mm、重量:約250gという軽量コンパクトサイズを実現。絞り羽根は10枚と手厚く、最短撮影距離は約20cmとかなり寄れます。名称の末尾にCとあるようにAPS-Cセンサー対応。フルサイズ換算で35mm相当の画角となるちょっと広めの視野は、様々なシチュエーションで重宝することでしょう。マニュアルフォーカス式ですから動き回るものは別として、風景撮影から日常スナップはもちろん、身近な人のポートレート撮影にと活躍してくれるはず。鏡胴はずっしりとした手応えのある金属製。今回使用したブラック×シルバーモデルのフォーカスリングには大胆なゼブラパターンが施され、往年のZeiss(ツァイス)のゼブラを思い出す方もおられるでしょうし、初めて見たデザインだという方にはその存在感が新鮮に映ることでしょう。コンパクトながら開放F値は1.4と明るく、じっくりとMFで撮れるとあって楽しめそうな予感しかありません。
( Photography & Text : KIMURAX )
今回の撮影はNikon Z 7を使用しクロップ撮影を行いました。約4500万画素からのクロップですから おおよそ2800万画素での撮像ということになります。太陽がぎりぎり屋根に隠れるアングルで、まずは絞りを開き聖堂の十字架にフォーカス。硬すぎず、かといって緩くもなく凛とした佇まいを描き出してくれました。壁面もぎりぎり被写界深度に収まっており、昭和初期から存する時の積み重ねを感じさせるその表情までも丁寧に捉えているのがわかります。手前の植木は程よくぼけ、空との境界に薄っすらと色付きがありますが画全体の雰囲気を壊すようなレベルではありません。もし気になるようなら後処理でも対応してもいいでしょう。ところで、こういったシーンでは周辺落ちがいい味付けをしてくれるので、ぜひ活かしてみてください。
冒頭でも記したようにポートレートにも使い出のあるレンズのように感じます。開放での硬くなり過ぎないピント面の描写がなかなかいい匙加減なのです。ゆったりと構え、フォーカスリングを操る。優しい眼差しで見つめるが如く、身近な人をフレームするにはもってこいだと思います。
定休日のレストランをガラス越しに。当然空調は効いていないでしょうから、熱気ムンムンのこちら側とさほど大差はないはずですが、妙に涼し気に見えます。リアリティがあるか否かといわれれば、温度的には否なのでしょうが、静寂とこのしっとりとした写りがそう感じさせるのかなと。いずれにせよ、雰囲気的には文句のない仕上がりです。
明るいレンズをわざわざ絞り込むというのも何ですが、試写ですからF8にて。周辺落ちは解消し、良くも悪くもごく普通の写りとなります。
シルバー系の車両なので反射光が強めということもあり、F5.6での撮影。輝度差の大きいシーンをあえて切り取りましたが、嫌な色滲みなどは見受けられず、逆光による色乗りの悪化やコントラストの低下も感じられません。
色乗りがいいですね、濃い。むしろ、こってりとしてると言った方がしっくりくるでしょうか。開放からボケ味も大変よろしく、フォーカスエリアからアウトフォーカスエリアへの連なりも急性にならずに自然です。
フォーカスリングを最短撮影距離にして近づきました。寄り切ってもピントピークでの解像感が鈍るようなことはなく、しっかりと花弁のフォルムを描き出しています。ボケも良好です。
至近距離で捉えたクルマのフォルム、艶、そして硬質感までもが伝わってきそうな描写です。背景をさらっと溶かすボケ味というよりは、少々重みのあるタッチとでも申しましょうか。どことなくクラシカルな趣があるのは確かです。
コクのある色、そしてボケ味を堪能。
絞り開放からなかなか趣のある描写が楽しめるレンズ、ということがお分かりいただけたのではないでしょうか。もちろん絞り込むに連れ、その趣はなりを潜めてしまうわけですが。撮り手が選択した絞り値によって、描写傾向の変化が楽しめるレンズは面白いと思うのですよ(絞りがボケ量の調整だけに止まらないという点で)。そういった楽しみ方は、マニュアルフォーカスとの親和性が高いように思います。ワンショットごとに確認しながらじっくりと吟味する。趣味のスナップ撮影においてまったく同じ条件で撮れることなんて皆無です。立ち位置を変えながら、フォーカス位置を変えながら、絞りで印象を整える。近頃は何かとタイパ(タイムパフォーマンス)という言葉を耳にする機会が増えましたが、趣味でやる写真はタイパが悪い方が楽しいように感じるのです個人的には。ああ、写真撮ってるな。久々のMFに煩わしさをちょっぴり感じつつも、そのお陰でいつも以上にちゃんと考えながらシャッターを切っている。基本に立ち返っている自分に、おお、ちゃんとできるじゃんと。まぁ、単なる自己満足なんですけどね。ところで大事なことを書き忘れていました。ヨドバシ.com(本稿執筆時点)での本レンズの価格は、なんと18,800円。コスパという一言だけで済ますのは少々気が引ける、かなり大真面目に楽しめるレンズです。
( 2024.08.20 )
この写りを見てしまったら、冗談みたいな値段に思えてきます。大真面目にお楽しみください。
フロントキャップなしで持ち歩きたいという時にも。