PHOTO YODOBASHI
ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン
Behind the scene of GAPPURI ZEISS
Vol.01
トップのGAPPURI ZEISS “The Planar”
往年のプラナーと、いま、あらためて戯れる。
今回出版した「GAPPURI ZEISS」で、Planarセクションを担当しました。CONTAX一眼レフ用、CONTAX645用で主に撮影を行いましたが、このご時世に一部フィルムで撮影を行うというなんとも贅沢な企画でした。撮影当時の話と機材に関する話を少し綴ってみたいと思います。
プラナーと名のつくものは、おおよそ使ってきました。この他にも「ほんとにバカだねぇ」と笑えるほど持ち合わせていますが、まあよくも買ってきたものです。本当につける薬がない。巻頭企画を任されたのはよいものの、はて、なんのレンズにしようかと悩みました。上の写真のようなセレクトとなったのですが、やはりうなされていた当時に憧れたレンズがよいかなと。つまりクラスのアイドル的存在。どのレンズも個人的に思い入れのあるレンズですが、以下のような組み合わせで撮影してみることにしました。
(1) 往年の描写を楽しむ
CONTAX RTSII / S2 、プロビア100F、Planar 50mm F1.4, Planar 85mm F1.4
(2) 当時の最高峰レンズを今の超高画素機と組み合わせてみる
SONY α7R III 、Planar 55mm F1.2, Planar 85mm F1.2
(3) 実はCONTAX用Planarの中でも一番写る気がしていたレンズを超高画素機で試してみる
SONY α7R III、Planar 50mm F1.7
(4) 645用Planar 80mm F2、大口径ならではの妖艶な写りを、広大な画素ピッチのセンサーで楽しむ
CONTAX 645 , PHASE ONE P25 , Planar 80mm F2
F1.4, Planar 50mm/85mm, PROVIA 100F
派手で濃厚で硬い。そんなポジの画を柔らかに受けとめる。
長年のタッグがもたらす説得力に感じ入る。
プラナーといえば、まずこの2本が思い浮かびます。昨今はマウントアダプター経由で楽しんでいる方も多いでしょう。久しぶりにポジフィルムを通して撮影すると、背面液晶を確認しないで撮影するリズムが実に心地よい。多少なりとも露出については不安があったのですが、そこは昔取った杵柄。厄介なシチュエーションでは単体露出計で確かめますが、殆どは脳内露出計。昔取り組んだことは錆びつくことはあったとしても、まるっきりゼロにはならないもんです。
パリで2本のF1.4のみで撮影を行ったのですが、あらためてロケで出かけたわけではなく他の行事の合間に撮影したものです。編集部の撮影はどんな撮影でも殆どこんな調子で、日常の傍らに撮影を行っています。ツァイスの本を作ろうということで、予定していたパリへの旅行に持ち込みました。そもそもが企画の走り始め段階だったこともあり、撮影も肩肘抜けまくり。そんな調子なものだから、帰国後フィルム現像に出すまで3、4ヶ月放置してしまいました。おかげさまで、撮った画も完全に忘却の彼方。
スキャニングは、PENTAXのフィルムデュプリケーターとCanon EOS 5DsRの組み合わせ。通常、印刷所にてドラムスキャニングを行ってもらうものだと思うのですが、私はPY編集部員ですから。そこはやはり、こんな組み合わせでスキャンでしょう。一事が万事、機械をこねくり回して遊ばないと! しかしこの組み合わせは最高です。「ウィーーーーーーーーーーーーーン」棒線をページ下まで書きたくなるような、あのスキャン時間はいったいなんだったんだ。パシャ!ですよ、パシャ! 60本近くのスキャニングが一晩かからず終わってしまいました。フィルムのラチチュードに収まっていないものは、当たり前にどうにもなりませんが、RAW+JPEGでスキャンしておけば、セレクトはJPEGで、トーンコントロールはRAWファイルを触ればOK。しかもフィルムスキャナに比べれば格段にコントロールが効く印象です。入稿したデータも大半スキャン時のJPEGファイルそのまんま。フィルムスキャナでどうしても一枚スカッと抜けない感じが払拭されて、機嫌よくスキャニングが進んだのでした。これまた懐かしい「イルミックス」(ライトボックスです)の上にスリーブを並べてルーペを覗き、スキャンするカットをセレクトするのですが、撮ったその場で画を見ていないからこそ、もう一度ファインダーを覗いた時の景色に包まれます。まるで脳裏に銀幕が広がるように。ほんと、二度美味しい。
2本のF1.4は、当時わりと苦手としていたレンズです。個体差なのかもしれませんが、ファインダー上でピントピークが掴みづらいのです。現場では相変わらずな印象でしたが、モニターを眺めるとそんなことは霧散。ああ、プラナーだ。この当時のプラナー以外にカチッとキリッと写るレンズはたくさんあります。しかしプラナーの作る画は“美味しい”。そしてつくづく感じるのは、当時のバランスの元に作り上げられたものは、やはりそのパッケージで使うのが一番“美味しい”。プラナーの入門編というべきこの2本。タマ数も豊富で選びやすいため、未経験の方はぜひとも一度手にしてみて欲しいなと思います。
CONTAX一眼レフのなかでは、珍しい機械式のシャッターが搭載された「S2」。回転角の大きなフォーカスリングを回し、ピントを送る。そして巻き上げる。フィルム代そして現像代のレシートを見て「たかっ!」、スリーブをかざして覗き込む。酒の肴には最高でしょう?
F1.2, Planar 55mm/85mm, SONY α7R III
時を超えることは、かくも容易いことか。
ZEISSの名に恥じぬ、F1.2の2本。
仔細に見れば色収差の類は見え隠れします。もちろん。しかしF1.2クラスのレンズを超高画素機にマウントし、等倍鑑賞しても画が破綻することはありません。当時の技術の粋を集めた限定レンズということもあって、やはり別格というべきでしょう。プラナーらしい描写でありながらも、現代のZEISSに連なるものを感じます。Planar 85mm F1.2の方が、わかりやすくプラナーらしい描写を楽しめると思います。中古市場での相場も、50周年/60周年の二つのバージョンがあるため比較的見つけやすく、まだ85mmの方が手に入れやすいと思います。対してPlanar 55mm F1.2の方は、昔から高止まりな上に、近年更に高騰しているようです。最早、見つけたら即座に保護するのがおすすめ。しかし苦労して手に入れたわりには、最も稼働率の低いプラナーでもありました。描写にはいつも驚かされるのですが、どうも御すのが難しいレンズです。2本ともに魔力のあるレンズで、意気揚々とマウントして撮影に出かけるのですが、どうもレンズに負けているような……。
CONTAX一眼レフの中でも、RTSIIとAriaがファインダー倍率が高めでおすすめ。
F1.7, Planar 50mm, SONY α7R III
やはりというべきか、個人的にベストなプラナー。
フィルム時代から、よく写るなあと感心していました。超高画素機と組み合わせても当時の印象のままです。設計自体がデジタル以前でありフリンジ等々は見受けられるものの、むしろ当時の印象よりも写る気がしました。惚れ直しました。プラナーらしい特長はそのままに実に力強い描写であり、こんもりと盛られる色が印象的。ともかく気持ち悪いほどに写ります。お値段・サイズともに大変コンパクト。入門編にもベストなプラナーでしょう。
F2, Planar 80mm, CONTAX645 with PHASE ONE P25
645判用としては大口径のF2。開放のとろけるようなボケ味が、なかなかの魔力を持つ1本。二段程度絞ったあたりのボケ味も大変美しい。ハッセルブラッドのフォーカル用Planar 110mm F2と同じく、大変趣味性の高いレンズです。ポジフィルムと組み合わせても当然よいのですが、レシオ1.1の広大なセンサーを持つPHASE ONE P25と組み合わせると、現在の水準としてはかなり大きな画素ピッチ(9μ!)も手伝って、なんともいえぬ艶めかしいトーンを作ってくれます。近年、中古相場でかなり高騰しているようですが、ぜひとも体験しておきたい1本。
まるで中古レンズのバイヤーズブックのような内容となってしまいましたが、GAPPURI ZEISSでは写真を中心に、プラナーについてまとめています。長年プラナーを使ってきましたが、これほどわかりやすい描写特性を持つレンズも特殊な用途のレンズを除けば珍しい気がします。だからこそプラナーの何が好きかと問われても答えようがないのが正直なところ。今回の撮影を通してあらためて実感させられたことでもあります。プラナーは、プラナー。ご興味のある方は、ぜひ本を手にして頂ければと思います。(K)
( 2019.03.29 )
ある意味では、ツァイスレンズを使った写真集ともいえる側面を持つ一冊。とことんこだわった印刷ですから、ぜひ紙で見ていただきたい! ページをめくる喜び、モノとしての本の魅力を感じていただける書籍版。大変お待たせいたしました。再入荷の書籍版をこの機会にぜひどうぞ。
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