PHOTO YODOBASHI
ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン
Canon EF35mm F1.4L II USM
[ズーム] 広角 | 標準 | 望遠 | 高倍率
[単焦点] 広角 | 標準 | 望遠 | マクロ
EF35mm F1.4Lが「II型」に。初代が1998年にリリースされ、17年ぶりに「II型」へとフルモデルチェンジ。フォトヨドバシから発売されたムック本へ掲載するために短い間でテストしましたが、その写りにともかく驚いたのを鮮明に覚えています。今回あらためて機会を得たため、再度テスト。旧モデルも大変魅力のある写りをするレンズでしたが、II型はさすがにデジタル高解像度時代を見据えた構成になっています。レンズ構成もテンコ盛りで、UDレンズ、非球面レンズ、研削非球面レンズ、ガラスモールド非球面レンズに加えて、新開発となるBRレンズを搭載。青色の波長を大きく屈折させる異常分散特性を持つBR光学素子を凸レンズ凹レンズの間に挟み込み(これで「BRレンズ」と呼ぶそうです)、大口径レンズで難しかった色収差の補正具合を劇的に向上させることが可能になったようです。確かに開放時の写りに目を見張るものがあり、極めてクリアな像を結ぶように感じます。今回2人のレビューワに託して、本レンズの魅力に迫りたいと思います。
視覚
単焦点の代表格として名を連ねられる豊饒な写り
憧れのフルサイズボディーを手にし、初めて買ったレンズは単焦点の35mm F1.4。カメラ一台とその一本だけで約一年撮り続けました。修行か、とも言えなくないですが、単純に新しいレンズが購入できなかったためです。その後、単焦点ばかり増えて行くのですが、MFレンズが多く、一風変わっていたレンズラインアッップだったかもしれません。単焦点のその画角で撮れるものを撮るという潔さと、単焦点ならではの写りが好きなのだと思います。 このような経緯もあって自分にとって35mmや50mmという画角は馴染みのあるものです。また「標準」と呼ばれるジャンルのレンズですから、同じように感じる方も多いのではないかと思います。だからこそ逆に難しいと思う一面も。 ですが、「難しい」は「楽しい」なのですね。
とりあえず、本レンズで何枚か試しに撮影したところ、その描写は凄みを感じさせるものでした。 ピントを置いた部分は極めて線が細くシャープ。量感豊かで美しいボケとの対比で、35mmという焦点距離をもう一度見返してしまうほどに深度の浅さを感じます。 またボケ味は被写体の輪郭が感じ取れないようなものではなく、そこにある物の形が見てとれるものです。 単焦点でこの価格。本レンズが存在する意味をしみじみと感じさせられました。 ウエットな描写から、被写体と撮り手の間にある何か、被写体の纏う空気やリアルを写し込んでくれるような期待をしてしまいます。「これぞ単焦点」と思わず呟いてしまったほど。
35mmという画角は、フレームの中の主な被写体の周囲まで映り込みます。このあたりは50mmにはない面白さだと思います。引けば引くで、開放時におけるピントのシャープさを活かして、いつも目にしている景色も浮遊感のあるちょっと不思議な画が撮れそうです。そこで主だったテーマを、理屈抜きにぱっと目を引くものが撮れないかとトライしてみました。とはいうものの、とても難しいアプローチでしたが。撮り進めてゆく中でなにより面白いなと感じたことは、使い方によって写りの表情は一変する気がするのです。つまり、いろんな表情を見せてくれるレンズで、これをどこまで深掘りできるのか、なにか自分を試されている気がするのです。本レンズを使いたいがためにボディを購入するということもあるのではないかとすら感じました。それほどに魔力を感じるレンズです。(TA)
気配
35mm再認識
35mmという焦点距離がまだ「広角レンズの代表格」だった頃から、多くのスナップシューティングの名手たちが35mmレンズを使ってきました。20mm台の広角レンズはまだまだ選択肢が少なく、高価なわりには性能的に十分ではない中で、「標準50mmよりも広く写るのに50mmと同じ明るさ」というのは魅力的だったんですね。
しかし、そんなのは大昔の話。今、スナップと言えば20mm台前半や10mm台が普通に使われるでしょう。あるいは逆に135mmあたりまでの中望遠とか。そう考えると、35mmというのはちょっと中途半端な感じが拭えない気もします。その中途半端感はどこから来るのでしょう。私が思うに、明るくてディストーションの少ない超広角レンズや、手ブレをものともしない望遠レンズのおかげで「よりインパクトのある」画が簡単に撮れるようになった結果、「わりと普通な35mmという広角レンズ」のことが一時的に意識の外に追いやられているだけなんじゃないかと。
どんなレンズを使おうと、カメラをちゃんと手に持ち、ファインダーを覗いて、そこに撮影者の意図を反映させようと構図を考える限り、写真撮影というのは身体的な行為です。でも超広角は画面整理に苦労し、望遠で人を狙うのはなんだか心が痛む。そんな中で自分が被写体にどれだけ意図をもって肉薄したか(あるいは遠ざかったか)、そこにどう被写体を配置したかををありのままに写してくれる、つまり、より身体的なレンズが35mmなんだと思います。それが写真のリアリティに繋がるのでしょう。
なんて難しいことを私が普段から考えている筈もなく、この35mm F1.4というキヤノンのレンズを使いながら、改めて考えさせられたわけです。焦点距離と開放値のスペックだけ見たら、他のレンズと比べてもそれなりのお値段しますし、大きくて重い。でもこの写りなんですから、そんなの当たり前です。どこに価値を見出すかは人それぞれ。しかし写真撮影というものに真面目に取り組んでいて、その手応えをシャッターを切るごとに得ようとしたら、選択肢はそんなに多くないと思います。(NB)
- 浮遊感を漂わせられないかとピントを大木でなく手前に持ってきました。ぼかした背景の木の輪郭が見て取れます。ピントピークは極めて線が細くシャープでありつつ、恐らく意図的にコントロールされている僅かで上品な滲みを伴い美しくボケて行きます。故に背景がうるさくなってしまいがちな少し意地悪なフレーミングでも、きちんと画を成立させてくれます。(TA)
- ピントを置く位置で、ガラッと画が変わる面白さがこのレンズにはあるように思います。たとえばこのカットの撮影時に他の人が居たとして、あとで写りを見せると「へぇー!」と驚くような。それはモデルの人の新たな一面を捉えるような描写に感じて、といったところです。伝わりますか?この面白さ。撮り手が向かい合った際のスタンスが写り込むものが写真というものの一面だとすると、このレンズはその描写特性で、撮り手に新たな武器となり、新たな引き出しを備えてくれるのではないかなと思います。(TA)
- 当然、と言っていいと思いますが、今回の作例はすべて絞り開放で撮っています。F1.4ですから、被写界深度は近いものを撮れば非常に薄い。しかし紙のように薄いというと、そこはあくまでもコントローラブル。どこまでインフォーカスにして、どこからをアウトフォーカスにするか。さらに、それがF2ではどう変わるか。F2.8なら?それが感覚的に掴みやすいのが35mm。(NB)
- スナップでは、何を被写体とするかは当然として、その被写体との「もっとも気持ちいい」距離感のようなものも、撮影者それぞれにあると思います。それはつまり、どのぐらいの画角が自分に向いているのか?という問題でもあるのですが、私の場合、35mmは合ってると思いました。今までは21〜24mmあたりだと思っていたのですが、それが今回の発見ではあります。(NB)
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「35mm F1.4」という憧れの響き
各メーカーに魅力(魔力?)たっぷりなレンズが新旧問わず存在する、銘玉揃いと言えるスペックのレンズ。キヤノンが送り出したII型も強烈な1本と言えるでしょう。旧いレンズは現代のレンズのように性能は決して高くありません。それでもその“粗”が「味」として捉えられている面もあり、魅せられる何かに感じたり、厄介極まりない。さて、このII型はどうなのでしょう。開放から全く文句の付けようのない描写で、いわば現代のレンズそのものであり、それも特上の部類です。では、味わいらしきものを感じないかといえば、そんなことはありません。今も昔もメーカーは「より易しく、より写る」ことを念頭に開発を行っています。光学的な欠点がおおよそ感じられない領域にあるレンズで捉えた映像は、静かにそして湛えるかのように凄みを伝えてきます。素直に「すごい…」そう呟いてしまう描写です。
ズームレンズの写りが本当に素晴らしいものになっている現在、単焦点レンズにこれだけ高価なレンズを投入するのは躊躇します。ちょっと脇道を…と手にするなら、予算の関係上(?)50mm F1.4あたりでしょうか(笑)その次は、やはり85mm F1.4あたりを覗いてみたい。その先は、さらに望遠なのか超望遠なのか、いやさらに広角なのか。いずれに行くにしても最初は大口径でした、編集部の面々は。35mm F1.4は、だからこそ憧れといっていいかもしれません。気になって仕方ない、けれど使ってみたい大口径レンズはたくさんある。35mmを標準レンズとする人は最初からコレなのかもしれませんが。
さて、35mmという画角にF1.4という開放値が必然の方、間違いないチョイスです。そして、憧れだと思っている方、すぐさま叶えましょう。ともかく魅力のある写りをするレンズ、このことに間違いはありませんから。ちょっとこれ1本で撮り込んでみよう、そんな気にさせてくれますよ。
( 2017.11.22 )
価格なりですよ、この写り。その一言。
これまた銘玉と呼んでよい1本。防振入って鬼に金棒。暗い玉が写りは一番なんだよ、なんて渋い一言をどうぞ。
写りも鏡銅デザインも素晴らしい。EOSにもよく似合う1本。
さらにMFへ、さらにZEISSへ船出ですか! 丘に帰ってきたときの貴方はきっと逞しい。
忘れてました、EF35mm F1.4 L II用にどうぞ!