PHOTO YODOBASHI
ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン
LAOWA 9mm F5.6 W-Dreamer
[ズーム] 広角 | 標準 | 望遠 | 高倍率
[単焦点] 広角 | 標準 | 望遠 | マクロ
中国・安徽長庚光学(Venus Optics)が送り出した35mmフルサイズ対応・非魚眼の単焦点レンズとしては世界最広角となる「Laowa 9mm F5.6 W-Dreamer」の実写レビューをお届けします。対角画角はなんと135度。簡単に例えると16mmレンズが写せる範囲の4枚分を写し込めてしまうという猛烈な広さ。感覚的には両目を開いて見えている範囲はおおよそ全部写るといった感じでしょうか。どんな写真が撮れるのか胸が膨らみます。先にスペックを見ておきましょう。レンズ構成は10群14枚、非球面レンズが2枚と特殊低分散ガラスが2枚により、諸収差も良好に補正されているとのこと。全長66mm、質量350g(どちらもライカMマウント版)とコンパクトながらも金属製の鏡胴により適度な重量を感じます。今回はライカLマウント版をパナソニックの高画素機であるLUMIX S1Rにマウントして撮影を行いました。本レンズはライカLマウントのほかに、ソニーEマウント、ニコンZマウント、ライカMマウント向けが用意され、多くのカメラボディでその写りをお楽しみいただけます。
( Photography & Text : Naz )
まずは見慣れた場所で撮影をしてみました。ごく普通の超広角レンズの作例で見るのは、真ん中格子状の部分だけでしょうか。本レンズではその範囲を大きく超え、左右の手摺りやその奥の通路、そして壁まで写り込んでいます。床や天井もご覧の通り広々と。広角レンズの撮影の心構えとしてよく使う「一歩踏み込んで」ぐらいではまったく足りず、様々なものが写り込む前提でどう撮るか、そして撮る対象や画になる対象を決めてから撮影に挑むのがよいように感じました。
続いてこちらは超広角レンズを手にすると試してみたくなる都庁前広場。多くの超広角レンズでは、広場を囲うように建てられた建築物のすべてを写し込むことはできませんが、本レンズではご覧の通りレンズを上方へ向けるだけで取り込めます。「この広場、そんなに広くなかった?」と思わせてしまうぐらいにフレームの中へぎゅっと写し込んでくれました。いやはや。
こういった特殊なレンズは、その尖ったキャラクターを際立たせた一点勝負で、写りに関してはそれなり…なんてこともよくありますが、本レンズは異なります。今回、47MPの高画素機で撮影を行いましたが、周辺まできっちり解像しています。四隅にも像の流れはみられません。また葉や枝の輪郭に色収差も出ていないようです。(原寸画像を用意しました。クリックしてご覧ください)
接写は苦手…ではなく、とても難しかったです(苦笑)。近接でも相当に広い範囲が写りますので、カメラや撮影者の影を含め余計なものが容赦なく入り込んできます。最短撮影距離は0.12m。最短撮影距離に固定し、レンズ先端から数センチ先の小さな葉に迫ってみましたが、中心部の描写はかなり良好です。シャープで立体感もありますね。
歪曲収差の補正も良好で、フレーミング時に水平垂直をきっちり出すことで歪みのない撮影が行えます。その場合に悩ましいのが、画面下のほぼ半分を占める地面や床の処理。画角が広いレンズほどその面積が大きくなるため、その処理をどうするか考えてあげる必要があります。レンズを上へ向ければ大きなパースがつき、時には背後まで写り込んでしまうなど自然な写りからかけ離れてしまいます。ひとつのアイデアとして、このカットのように床面のリフレクションを利用できると、退屈になりがちな下半分も作画に活かせるように思いました。
広い空間とはいえ、これ以上引けない場所で、周囲の建物をすべてを写し込めたのはこれまでにない経験でした。周辺減光については絞り値に関わらず大きく出るようで、空の深い青が印象的です。
床に置いたカメラの目前を横切った人物も、全身に加えて床面の写り込みまでフレームに入りました。
絞り羽根は5枚と現代のレンズとしては少なめ。玉ボケを活かすレンズではないためこれで十分でしょう。むしろ1段でも絞れば美しい光芒が出現します。奇数枚ですから、その数は絞り羽根の倍となる10本。点光源にもサジタルコマフレアは見られず、夜景撮影が楽しいレンズでした。
他のレンズに描けない強烈な世界を見せてくれる1本です。
本レンズを手にしてすぐは「これほどの画角でいったい何を撮る?」と考えてしまいましたが、カメラに本レンズをマウントしてEVFを覗いてみれば、見慣れた日常の光景すら見たこともない世界に変えてくれるレンズなのだと気がつきました。もちろんその対象は何でもいいわけではありません。写真として成立させるためには撮り手の工夫も求められますが、強烈なキャラクターのレンズから生み出される唯一無二の画はインパクト抜群。ほんのわずかな傾きさえ写りに大きな影響を与えるため、撮影はシビアになりますが、使いこなしがいのある楽しいレンズでした。その写りはご覧の通り。LAOWAが持つ技術の粋を集めて開発された「夢の1本」であることが頷けます。開放でも0.6mから無限遠までピントが合うほどに被写界深度は深く、上を向ければ猛烈なパースがつくなどクセの強さもピカイチですが、水平垂直をしっかりと出せばその写りは意外にも自然かつ素直に感じられました。
本レンズはマニュアルフォーカス専用となりますが、絞り値を問わず被写界深度は深く、目測かつパンフォーカスで十分。むしろ撮影時にピント合わせは不要となりますから、構図を決めるだけでシャッターが切れ、速写性は抜群だなと感じました。そのフォーカスリングは適度なトルク感で滑らかな感触があり、フォーカスレバーも備えられるなど操作性も良好。なお、本レンズにフィルターは装着できず、固定式の浅いフードは備わるものの、大きな前玉がむき出しとなるため、非撮影時は付属の被せ式のレンズキャップで常に保護した方がよいでしょう。そのレンズキャップの内側にはベルベットが貼られ、着け心地がとてもよかったことも付け加えておきたいと思います。
( 2024.09.05 )
数多ある超広角レンズでもズバ抜けたキャラクターを持つ本レンズ。どうせなら尖ったいちばん先を楽しみましょう。写りも期待を裏切りません。
フレームの水平垂直を出すのに重宝する水準器。カメラのホットシューに装着できます。
こちらはニコンZマウント向けです。
こちらはソニーEマウント向けです。
こちらはライカMマウント向けです。