PHOTO YODOBASHI
ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン
Nikon Z特集 - Zの創造
開発者特別インタビュー
Vol.2:Zで川越散歩、「Z 7」と「Z 6」のこと
駅前のカフェを出ていざ川越の街へ。いわゆる「小江戸」エリアに向かうには、まず真っ直ぐに伸びるショッピングストリートを経由するのだが、これが既にとっても長い。そしてようやく小江戸に着いたと思ったら、これがまたかなり広大で地産品やお土産や小物屋など、新旧多種多様の店が立ち並んでいる。すると北岡氏、各所で立ち止まり、シャッターを切り始める。「最近はあまり写真を撮らない」というようなことを仰っていた気もしたが、おそらく気のせいだろう。そしてこれが後で見たら素晴らしい写真ばかりなのだ。
話を聞いた人(敬称略):北岡直樹(株式会社ニコン映像事業部 マーケティング統括部 UX企画部長)
聞き手、文:TAK(PY編集部)
写真:北岡直樹、TA(PY編集部)
写真は体を表す。
北岡:川越楽しいなあ。
PY:北岡さん、大変失礼かもしれませんが、割と可愛らしいお写真も撮られるんですね?(笑)
北岡:こういうゆるい写真が好きなのです(笑)。
PY:これまた失礼ですが、そのギャップが素晴らしいです。これだけキレキレのシステムを企画した方が、意外にほんわかとされていて(笑)。
PY: 今日はじめてお会いしましたけど、Zのイメージからは想像もつかないお人柄だということが、段々とわかってきました(笑)。
北岡:怒られそう(笑)。
横浜:質実剛健、キリッとパリッと・・・
北岡:してないですよね・・・
一同笑
「ゆるい」とは仰ったものの、このスポットで広角を使いこなすのはなかなか難しい。機材の特性を熟知した方ならではの撮り方だと感じる。「ゆるい」というよりも、隙が無いながらも、被写体への愛情を感じる写真たちだ。と、気がつけば昼時。川越はうなぎが有名とのことで、全会一致で足早にうなぎ屋へ駆け込む。
ユーザーの動向、「Z 7」と「Z 6」のこと
北岡:ああ、おいしい!
PY:うまいですね。焼き具合も絶妙だ。
北岡:(撮影後、タブレットにニコンのSnapBridgeで自動転送した画像を見せながら)こういう写真が簡単に撮れるのですよ。おいしいうなぎが、よりおいしく見えるもの(笑)。
PY:ほんとだ!よく写りますよね〜。ところで、Zシリーズの評判はどうですか?
北岡:Z 7は発売時からバックオーダーを抱えるという状態でした。おかげさまで皆様に評価いただいており、既にボディーとレンズでいくつか賞も頂いております。今はZ 6も発売されて、Z 7とZ 6どちらにするか悩むお客様が出てきているのではないかと思います。
PY:そういった展開はある程度予想されていましたか?
北岡:価格もですが新しいシステムを導入いただくという大きな買い物なので、値段の差は大きなファクターではありますが、お客様が何を求めているかが大切な時代だと思うのですよ。
PY:仰るとおりです。
北岡:長く使うことを考えるとある程度「両睨み」になってしまうでしょうね。Z 7ももちろんですけど、Z 6もちゃんと見て「自分に合うかどうか確認してから決める。」ということなのでしょうね。売る側がこんな事を言うのもあれですけど、高いものが買えないからという理由で、安いものを買うというお客様は最近あんまりいないのではないでしょうか。
PY:それはどういった事ですか?
北岡:そうですね。私の若いころ、もう20年くらい前ですが、FやD一桁がお客様のゴールで、「それは手が出ないから」「あれが本当は欲しいのだけど」いろいろな理由があって「他のモデルにする」という傾向があったような気がします。最近は例えば単にフラッグシップだからという理由でD5に強いあこがれを持つというお客様は昔ほどいないと思います。お客様がご自身で本当に必要とするものを徹底的に考えていらっしゃる。
PY:私はずっと欲しいんですけどね、一桁(笑)。
北岡:こちらが目をキラキラさせながら「何が欲しいですか?」「D5どうですか?」と聞いても、「良いカメラですよね」と流されることもあって(笑)。もちろん「D5最高!」と仰っていただけるお客様もいらっしゃいますが、一方で「D850が最高傑作だ」と仰るお客様がいたり、「D500のAF性能やDXフォーマットの組み合わせが凄いので、あれが絶対一番です」と言うお客様もいて。「価格が高いから良い」とか「FXでないと」という感覚は大分なくなっていると感じますね。やっぱり「自分のスタイルに合っているものはなにか」という確たるものがあって、もちろんお金のことも合わせて選択はしていますけど、ご自身が必要とするものをすごく研究されているなと思いますね。
PY:情報、増えましたものね。
北岡:デジタルになってから特に変化してきていると思います。お客様が何を撮るかどう使うかが選択の最大のポイントになっていると思います。画素数も感度もある意味日常レベルでは行き着く所まで来ていますよね。なので、画素数がほしいのか、感度やダイナミックレンジが欲しいのかということになりますね。
PY:そういった意味で、Z 7とZ 6をラインナップしていると。
北岡:そうですね。本当に見た目は一緒ですけど、突き詰めていくとキャラクターは全く違うので、お客様も悩まれると思います。Z 6を持っているお客様も、Z 7を持っているお客様も、値段の差はあってもお互い、あーでもない、こーでもないと楽しくお話ができると思うのです。
PY:よくわかります。アーキテクチャがZ 7もZ 6も同じというのはすごいですよね。価格を考えるとZ 6の贅沢感がすごい。
北岡:Z 7とZ 6、個性は異なりますが共通のプラットフォームなのです。
PY:生産ラインもほとんど共有出来るわけですよね。
北岡:はい、最近は昔からの手作業と共に自動化も進めています。
PY:どちらとも日本製でしたよね?
北岡:両方とも仙台ニコンで生産しています。仙台ニコンではD5やDfといった製品も量産しています。
PY:Zシリーズのファインダー、ものすごくよく見えますけど、これを作り上げるのは大変だったんじゃないですか?
北岡:電子ビューファインダーの性能は、画像を表示する液晶パネルで決まると思われがちですが、覗いた時の見えや官能的な良さを実現するには、画像処理と接眼レンズの光学系が非常に大切なのです。今回は新次元の光学性能を目指しましたので、ファインダーにも徹底的にこだわりました。また、性能を出すための組立精度もかなり厳しく管理しています。
PY:本当にデジタル臭さがなくて、本当に見やすいです。でもこれを作るとなると、やっぱりかなり手間がかかるのでしょうね、こういうのは。
北岡:はい。自動化をすすめていますが、昔ながらの手作業も入っています。
PY:手作業ですか!すごいなあ。そういう変わらない部分と、革新的な部分とが見事に融合しているのは、使っていてひしひしと感じます。他にどんな点で苦労されましたか?
北岡:今回はボディーもレンズも新システム、更にマウントアダプターまで新規の開発でした。ボディーの開発には新しいレンズが必要ですし、レンズの開発には新しいボディーが必要、更にマウントアダプターの開発にはFマウントとの組み合わせも考えなくてはならない。全てが新規だったので、各所で鶏と卵状態。試作のタイミングや進捗管理は非常に神経質になっていました。
PY:まさに拠り所が無かったわけですね。各方面の進捗管理も相当ややこしそうで、もはや人間の処理能力でできる気がしません。
北岡:最近興味深いのは、あくまで自社に関して感じることではありますが、日本のお客様の「日本製」へのこだわりが減っていると思います。そもそもどこで作っているのと聞いてくる人が少なくなってきていると感じます。「Made in どこ」というよりは、本質的な部分にフォーカスがいっているのだと思います。もちろん、ニコンの品質はどこで作ろうが変わらない「Made by Nikon」という信頼に基づいているものだと思いますが。
PY:私自身もどことか考えたこともあまりないですし、その必要性も感じません。センサーを小さくしたモデルを出すことも考えておられるのでしょうか 。といってもあのマウントですから、どうなるのだという話ですが。
北岡:そうなのです。今どうしようかと、本当に悩んでいるところです。お客様あっての商品ですから、皆さんからのご要望などを伺いながら検討したいと思います。
PY:XQDカードスロットがシングルというのは、小型化を優先したということでしょうか?
北岡:そうですね。今回は小型化を優先したのですが、将来的に2スロットにすることも視野にいれています。
Z愛に溢れる北岡氏、自慢の「我が子」を抱く。
これからの「Zシリーズ」のこと
PY:一眼レフで言うD5にあたるものは、オリンピックあたりに合わせて出してくる予定はあるのですか?
北岡:どうでしょうね。D5とミラーレスカメラで、例えばスポーツを撮る方が使った時にどっちが使いやすいか。もちろん好みもありますからはっきりとはわからない部分もありますが、我々としてはD5の様なフラッグシップの一眼レフカメラでも新しいミラーレスカメラでも、プロフェッショナルの方が満足して写真を撮れるような製品も作らなければと思っています。
PY:なるほど。
北岡:もちろん我々が出すとなるとそれなりに期待いただいていると思っていますから、中途半端なものは出せません。あとは、フォトグラファーの方の慣れという側面もあります。D5の様なカメラをお使いのフォトグラファーの方が、急にニコンが「ミラーレスカメラのフラッグシップモデルを出しました」となった時、お使いいただけるだろうかと。我々としてもやはり失敗は許されませんし、お客様に対してもすごく丁寧に、いろんなことを解決していかなければならないと思います。
PY:D5自体、全く問題を感じませんからね。
北岡:そうなのです。おかげさまでD5は非常に高い評価をいただいています。もちろん改善すべき点もありますけど、根本的になにか問題があるという声は少ないと思います。一眼レフのD一桁もミラーレスカメラもどちらも検討はしていかなければならないのは間違いないですね。またその時に一眼レフと置き換えになるのか、それとも両方要るのか、そこも考えどころです。
横浜:一眼レフとミラーレスカメラの関係というのは人それぞれで、お客様が決めてくださることなのかなと思います。お客様の中には、ニコンというブランドの中でいろいろと揃えてくださる方も多いのです。そこは、ニコンの面白いポイントなのかなと思いますね。
PY:そうですね。今回 Zシリーズの特集をやっていて思うんですけど、ニコンさんはいきなりど真ん中の豪速球を2球続けて出してきたなと。とにかく一番いい球投げてくる(笑)。
北岡:いきなりプレッシャーですねぇ。3球目もど真ん中のストライクを狙わないと。
一同笑
モックアップを一部見せていただいたが、各部の作り込みをミリ単位で追い込んでいった様子が分かる。見た目や使い心地。そういった感覚的な部分は最終的には手作業の世界なのだなと改めて思えてくるし、精密を超え丹精が込められている。我々が常々感じる「ニコンらしさ」とはこういうことを言うのではないだろうか。
Zのデザイン
PY:ボディーの外観デザインはゼロから始めたんですか?
北岡:完全にゼロからです。何種類も試作してやっとこれに落ち着きました。マウントを強調するために、前から見ると全部マウントに沿ったデザインになっています。後、マウントをできるだけ前面に出したかったので、ファインダーの前方への出っ張りを極力抑えています。
PY:なるほど。
北岡:ファインダー部分は一眼レフだと前に出っ張っていますが、ミラーレスカメラなのでそうしなくてもよくなりました。デザイン的には色んなこだわりがありますけど、ファインダーのNikonのロゴが入る面の角度を決めるのにも相当こだわったというか。我々はマウントをきれいに見せて、光学性能だ!というのを見せたかった。でも、普通なかなか気が付かないですよね?
PY:いや、僕には伝わってきましたよ。
北岡:あ、そうですか!嬉しいなあ。
PY:それ、暑苦しく書いています。
一同笑
PY:コンパクトでも、グリップの良さとかユーザビリティーを担保していますよね。
北岡:そうですね。ボディーの高さはD850よりも2cm以上低いですが、グリップ部がありますので奥行きはほとんど変わらないのですよ。やろうと思えば小さくもできますが、Zマウントシステムの約束であるニコンクオリティの継承として、ホールディング性能に影響がでてしまいます。なのでグリップ部はD850に対して2.5㎜だけの小型化で抑えました。
PY:Dシリーズとまったくグリップ感は変わらない、それが嬉しかったですね。「取っ掛かり」が大切ですから。
北岡:ありがとうございます。
PY:このZマウントが主役だと言いたいのだろうなと。それも含めて、後継機をどうするかというよりは、とにかく第一球、第二球と全力投球してきたというのが、まっすぐと言うか、「らしい」です。
北岡:基本的に出し惜しみできないです、ニコンという会社は。
PY:でしょうね。出される製品を見ていると、実直なメーカーなんだろうなと。ではもう少し観光します?
北岡:行きましょう。
Zシリーズの開発は何もかもが新規であった。その意味では「難産」であったかもしれないが、我々が知るZシリーズはニコンが持てる全てを投入した、直球ど真ん中、渾身の製品と思わせるクオリティを誇る。そしてキャラクターの異なる2台を用意したことには、「高価格=高品質」という従来の価値観からは距離を置き、あくまで自分にとって何が必要かを見極める昨今のユーザー動向も大きく反映されているのではないだろうか。そしてZシリーズの場合は「高い方」も「安い方」も全く同じ、素晴らしい使い心地であり、画素数以外の大きな違いが感じられない。こういうケースは珍しいと思うが、どちらを選んだユーザーにも同じ敬意を払う、ニコンの誠意を感じるのだ。
気がつけば1時間以上話し込んでしまった我々。再び小江戸観光へと繰り出すことにした。
(次回に続く)
( 2019.03.07 )