PHOTO YODOBASHI
ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン
Tokina atx-m 33mm F1.4 X
[ズーム] 広角 | 標準 | 望遠 | 高倍率
[単焦点] 広角 | 標準 | 望遠 | マクロ
今回レビューをお届けするのは、トキナーのミラーレスカメラ専用レンズ群 atx-mシリーズに加わった富士フイルムXマウント向けの標準単焦点レンズ「Tokina atx-m 33mm F1.4 X」。先立って試写させていただいた「Tokina atx-m 23mm F1.4 X」と同時に発売されました。富士フイルム純正レンズには35mmレンズ(35mm判換算52.5mm相当)がラインアップしていますが、本レンズは49.5mm相当の画角になります。より標準レンズに近しい画角を提供してくれるとあって、長らく50mmレンズに慣れ親しんできたという方には、ある種の扱いやすさがあるのではないでしょうか。光学系は9群10枚構成で、超低分散ガラスを組み込みマルチコーティングが施されているとのこと。絞り羽根は9枚となっており、柔らかなボケがもたらされるとあってF1.4というスペックへの期待が高まります。またAFにはレスポンスがよく、静かでスムーズなステッピングモーターを搭載。となれば、後はどんな画を紡ぎ出してくれるのかが気になるところ。その使い心地を確かめつつ、汎用性の高い標準レンズにふさわしい作例カットを撮りためてきましたので、早速ご覧いただきましょう。
( Photography : Naz / Text : KIMURAX )
なるほどAFは静粛かつ高速。狙った所に一瞬でスッと合焦します。開放付近で明るめに撮ると、ハイライトにどことなく滲みを感じられる独特な描写がもたらされるではありませんか。収差は極力排除されるべきものでしょうが、こういった雰囲気を醸し出すには必要なファクターだったりします。そして“どことなく”という匙加減がさらに大事。なんだか上品さすら漂う感じがするから不思議です。
絞り開放F1.4ですが、APS-Cフォーマットなのでボケ量はフルサイズ換算F2相当になります。というわけで完全に溶かしてしまうという程ではありませんが、癖のない前ボケです。
近接で開放すれば背景は完全に溶けてしまいます。ところで、富士フイルムのカメラですから、もう少し派手な色が出るかと勝手に想像していたのですが、すっきりと落ち着いた色調です。日中とはいえ終始曇天でしたからね。状況からすればまさにそんな写りといえるでしょう。
F11まで絞ってみました。湿度をたっぷり含んだ夏の空、無機質なコンクリート製の橋梁も緻密に描き込んでいます。
こちらはF2.8。動画撮影にも対応したクリック感のない絞りリングとなっていますが、回転させると多少重みがあり、軽く触れたくらいで回ってしまわないようにチューニングされています。スチル撮影でも絞りリングを回すことで、ファインダー内のF値の表示もリニアに変化します。なお、F16とAのところにはクリック感があり、操作ミスが起こらないよう配慮されています。
最短撮影距離は0.4m。こういった被写体ではMFに切り替え、最短に固定してカメラを前後させる方が素早く撮れます。身近なものを撮るのが楽しくなるレンズです。
すっきりとしながらも、写し取った空間に密度を感じさせる描き込みです。背景との輝度差が大きかったこともあり、少々色収差も出てきてはいますが後処理で十分補正可能なレベルだと思います。
逆光には強い印象です。光源が入ってもゴーストが出ることはほとんどありませんでした。
とてもシャープな写りで、金属の質感の再現がいいですね。こういった被写体であっても硬くなりすぎないとでも言いますか、繊細さを残した描写に好感が持てます。歪曲収差は糸巻き型ですが、ほとんど気にならないレベルです。
ピーカンの強い陽射しよりも、曇りの日だったり、宵の時間だったりと、光の乏しい条件でもしっかりと画にまとめてくれる写りです。傾いた陽の光がタンクに映えて、その場の雰囲気をそのままに表現してくれました。
X-T4との組み合わせで、夜のスナップが捗りました。強力なボディ内手ブレ補正があるため、F2.8まで絞りましたが、不用意に感度を上げずに撮れるのがいいですね。
優しいスパイスの効いた写りを楽しむ、という選択肢。
AFがきちっとサクサク決まる。撮りたい気持ちに即座に応えてくれることは重要です。本レンズは、日頃のスナップ撮影に身軽に持ち出せて、テンポよく撮影できる標準レンズとしてしっかり仕上げられています。もちろん写りもいい塩梅にチューニングされており、総じてシャープで繊細な描写。それでいて硬くなりすぎずに柔らかさをたたえた写りは、上品さが漂います。あえてハイキー気味にすると僅かな滲みを感じることができ、カメラマンはかなり気に入ったようで、珍しくハイキーなカットをたっぷり撮ってきてくれました(笑)。確かにどのカットを見ても独特の雰囲気が出ていて、これまたフレアとも違う気がします。素直なボケ味はもちろんのこと、そういった優しいスパイスが効いた写りが本レンズの真骨頂なのではないでしょうか。バキバキに解像する隙のないレンズもいいけど、本レンズが紡ぎ出す画に「しみじみよいな」と感じる人は、かなりカメラをやり込んできた方々なのではないかと推察します。ビルドクオリティの高い金属製鏡胴で操作性も至って申し分なし。工夫次第では個性的な画までもが手に入ってしまう、表現力に富んだレンズはぜひ揃えておきたいですね。
( 2021.09.24 )
軽量かつスリムな鏡胴は金属製。Xボディに似合うシンプルデザインが映える。よく写り、表現の幅が広い標準単焦点レンズは、何かと重宝します。
蓮(Lotus)にちなんだネーミング。蓮の葉のように水滴を玉のように弾くそうです。キラッと光る個性を感じさせるプロテクターです。