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FUJIFILM X-S10, FUJINON XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ, Photo by KIMURAX

FUJIFILM X-S10 / SHOOTING REPORT

2020年11月に発売された富士フイルムの「X-S10」、ようやくのPYレビューです。まず実機を見て思ったのは、「ちっさ!」ということ。小さなカメラならいくらでもありますが、X-S10に特に強くそれを感じる理由は、全体的なフォルムや各部の造形がコンパクト機のそれではなく、もうちょっと大きなカメラをイメージさせるからでしょうか。全体的に相似形を保ったまま小さくなったというか。ミニチュア感? そんなふうに眺めてみると、「リトルX-H1」というあだ名がつくのも頷けてしまうのです。ただし、グリップだけは別。むしろ大きめの、しっかり握り込めるグリップが装備され、ボディデザインの中で存在感を放っています。性能面を見ると、センサーは最新世代の有効約2,610万画素のX-Trans CMOS 4(裏面照射型)、画像処理エンジンはX-Processor 4という組み合わせ。さらにはAFやAEもかなり自信のある出来栄えとのこと。動画もオーバーサンプリング4K、Full HD240Pハイスピード撮影、F-log撮影、当然富士フイルムのお家芸である各フィルムシミュレーションでの動画撮影もOKという、わずか465gのボディから溢れ出さんばかりの高性能・高機能ぶり。

ではさっそくレビューをご覧いただきますが、富士フイルムと言えばやはりフィルムシミュレーション! 当然ですがこの偉大なる機能を軸としてお届けしたいと思います。ではどうぞ。

( Photography & Videography : KIMURAX / Text : NB )

FUJIFILM X-S10, FUJINON XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ, Photo by KIMURAX

フィルムシミュレーション:(トップの画像)ETERNA、(すぐ上の画像)PROVIA
のっけからETERNAというのが何ともシブいPYです。ETERNAはシネマ用のフィルムでした。青空の落ち着いた発色が「のほほん」とした空気に合っています。竹林のカットはPROVIA。ハイライトからシャドウまで、くっきり鮮やか、かつ自然に。

FUJIFILM X-S10, FUJINON XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ, Photo by KIMURAX

フィルムシミュレーション:PROVIA
PROVIAは全方位に優れた描写で、フィルムシミュレーションの中では「標準」に位置付けられています。

FUJIFILM X-S10, FUJINON XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ, Photo by KIMURAX

フィルムシミュレーション:ACROS
ヤツデの葉の表面の艶かしい描写。「艶かしさ」はモノクロ写真の生命線です。ゾクゾクします。


富士フイルムのメーカーサイトにもありますが、PYでも各フィルムシミュレーションの比較をしてみました。細部では空の青や木々の緑の発色、シャドウ部分の浮き/沈みの具合、ハイライト部分の描写、あたりが注目ポイントですが、「パッと見た時のイメージ」がここではもっとも大事だと思います。

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(画像のクリックで大きな画像を表示します)


動画性能も高いX-S10。Full HD240Pというハイスピードを生かしてスローモーションの動画を撮ってみました。


FUJIFILM X-S10, FUJINON XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ, Photo by KIMURAX

フィルムシミュレーション:PROVIA
鮮やかなものは鮮やかに。落ち着いたものは落ち着いて。さすが、「標準」の大役を任されるだけのことはあります。

FUJIFILM X-S10, FUJINON XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ, Photo by KIMURAX

フィルムシミュレーション:ASTIA
人肌や雨、霧などの「しっとりとした」描写に優れているASTIAは、つまり落ち着いたコントラストとなだらかなグラデーションが得意ということ。一見、正反対に見えるこんな景色ですが、特性を生かした表現を見せています。

FUJIFILM X-S10, FUJINON XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ, Photo by KIMURAX

フィルムシミュレーション:PROVIA
やはりPROVIAの出番がどうしても多くなります。

FUJIFILM X-S10, FUJINON XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ, Photo by KIMURAX

フィルムシミュレーション:Classic Neg.
高いコントラストが特徴のClassic Neg.。レンズを向ける先も、コントラストが高いシーンを選ぶと本領発揮です。

FUJIFILM X-S10, FUJINON XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ, Photo by KIMURAX

フィルムシミュレーション:ACROS+グレインエフェクト(強)
ACROSはそもそも粒状感をあまり感じさせない(粒が細かい)フィルムですが、敢えてそこにグレインエフェクトを強めにかけてみました。ガソリンタンクの表面やメーターのガラス部分、ざらっとした感じになっているのが分かりますかね?この「粒状感」はフィルムっぽさ(特にモノクロの)を象徴するひとつです。

FUJIFILM X-S10, FUJINON XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ, Photo by KIMURAX

フィルムシミュレーション:PROVIA
適切なコントラストは、このような構図で最大限に発揮されます。


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富士フイルムにしかできない

富士フイルムという社名の通り、写真用のフィルム作りから始まったメーカーです。創立は1934年。さすがに現在のフィルム生産の規模はかつてと比べるべくもありませんが、現代のデジタルカメラにおいて、色味を変化させることによって写真の雰囲気作りを積極的に行う機能に「フィルムシミュレーション」という名前をつけるのは、これはまさに富士フイルムにしかできない芸当なわけです。フィルムとカメラの両方を作っていたメーカーは他に幾つもありますが、これが富士フイルムにしかできない、もっと言ってしまえば富士フイルムにしか許されない理由は簡単。多くの個性的なフィルムを世に出し、それが長い期間にわたってたくさんの人に使われ続けてきたからです。「写真の色味を変える」というフィルター機能は、メーカーを問わず殆どのカメラに標準装備されていますが、これにフィルムの名前をつけようと思いついた人はつくづく天才だと思います。と同時に、きわめて自然な成り行きでもあったのでしょう。富士フイルムという会社の財産ですから。使う人が「ああ、ベルビアの色だ。懐かしいなあ」という世代だろうが、「ベルビアって何?」という世代だろうが、そんなことお構いなしに、まだここでフィルムが息をしているということです。

フィルムシミュレーションの歴史は決して浅くはありませんが、ボディサイズと性能が高い次元でバランスし、その上で誰にとっても買いやすく、誰にとっても使いやすいカメラとして生まれたX-S10は、本当の意味でフィルムシミュレーションを武器にしたカメラだと思います。肩肘張らず、「わあ、フィルムっぽい!」「この色合い好き!」と無邪気に楽しめばいいのです。今、一周回ってフィルムカメラが若い人たちの間で人気らしいですが、さらにもう一周回って、その人たちがこのフィルムシミュレーションの「妙」に気づく日が来るかと思うと、なんだか楽しいですね。

( 2021.02.25 )

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