PHOTO YODOBASHI
ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン
Canon EF11-24mm F4L USM
[ズーム] 広角 | 標準 | 望遠 | 高倍率
[単焦点] 広角 | 標準 | 望遠 | マクロ
写真を撮りに出かけると「あともう少し広い範囲が写れば」と思うことがありませんか?でも焦点距離の短いレンズをもう一本持って行こうと考えると、15mm以下の超広角レンズは単焦点といえどもそこそこの大きさと重さがあり、はっきりとした目的がないと鞄に入れるには躊躇するものです。Canon EFマウントの新レンズ「EF11-24mm F4L USM」は、これまでのキヤノン純正ラインナップと比べてワイド端が5mmも短くなった世界最広角のズームレンズ。ご存知のように、広角は焦点距離が1mm違うだけでも描写が大きく変わります。ワイド端16mmに比べれば15mm/14mm/13mm/12mm/11mmと、5種類の新しい画角を手に入れたイメージではないでしょうか。このレンズ1本をボディーに付けて、見慣れた場所に出かけてみます。さてどんな新しい世界を見せてくれるでしょうか。
( Photography & Text : A.Inden )
まずは解像力を検証してみましょう。防波堤ギリギリに立ちカメラを水面に差し出すように構え、後はいい波を待つだけ。11mmという遠近感が波の幅を強調して、白いラインがどこまでも続いていくかのような写真に仕上がりました。でも本当の驚きは、波の泡が質感までしっかりと描写されていることでした。発売されたばかりの5Dsで撮ってみたくなる素晴らしい解像度。まずは、そんな緻密な描写からご覧になってください。
F8まで絞って最広角11mmで撮った写真です。隅々の解像度をチェックするのに竹林を撮影することが多いのですが、それは竹の葉が小さくはっきりした形をしているからです。写真を見れば一目瞭然ですね。まっすぐにしなやかに伸びている竹、隅々まで一枚一枚分離した葉、驚くべき解像度です。(画面左上、中央、右下部分を切り出してみます。クリックして拡大画像をご覧になれます。)
周辺においてピントが合っているところと合っていないところがどのように分離するのかテストしてみました。絞りはF5.6、先ほどより一絞り開けた作例です。ピントがあるところがシャープなのはもちろんですが、ピントが外れたところも被写体の形が崩れず、自然にボケています。周辺の像が流れないので、安心して隅々までを使った絵作りができます。余談ですが、光の当たり方による葉の表情の違いも見事です。ツヤっとした濃い緑、透明感のある黄緑、光と色を的確に表現できるレンズですね。(画面右上と左下を拡大してみます。)
次に開放でのボケ味を見てみましょう。超広角でボケ味を見るのは邪道だとは思うのですが、やっぱり気になりますよね。ズームの最短(11mm)、最長(24mm)で試してみましたが、まずは24mmの描写です。素直ですね。F4と言う開放値ですからボケによる空気感がうまく表現されないのではと懸念していましたが、小道に沿って咲く紫陽花が距離に従ってボケていき、奥の方まで形が崩れることなく描写されています。
昆虫が苦手な方はすみません。11mmですと、寄ってもじっとしている被写体でなければ撮れないものですから。前後にボケは感じられますが、さすがに開放でここまで寄ると周辺のボケにはにじみのようなものが感じられますね。
物がそこに存在していることを感じさせる、質感豊かな描写。
作例を見ながらレンズの特徴を整理していると、実は質感表現こそがこのレンズの一番の魅力ではないかと感じました。高解像度のレンズで撮った写真は、精密に描写される一方でどうしても被写体が硬く見えてしまう傾向があるように思います。特に広角レンズの場合にそれが顕著なのですが、このレンズはそんなところがありません。手が切れそうな葉っぱ、長年風雨に晒されてきた車の塗装、そして少し厚みを感じさせる赤錆。手で触った感覚そのままの描写に、率直に「いいな」と思わされました。
路地裏のスポットライトのような光、朱と水色で色のコントラストを見せるコンテナ。コンテナの使用頻度による質感の違い、光が当たっていない服、看板の手触り感。こんな描写を探していたのです。
微妙な曲線を描いている紫陽花を手のひらで覆ってみると、少しひんやりとして、軽く皮膚に反発してくる、そんな不思議な触感を感じませんか。
水面の映り込み、水滴が付いた紫陽花の立体感、水盆に沈んでいる葉っぱ、水の深さが感じられます。
今まで撮れなかったものが撮れる。
鎌倉にある建長寺の天井に描かれた龍、周りに下がっている色とりどりの布をやっと一緒に撮ることができました。この場所は大好きな場所なのですが、一枚の写真では布に囲まれている龍の絵を撮ることができず、いつもなんとなく心残りだったのです。魚眼ではない素直な描写の広角ズームレンズを手にしたことで、長年の願いがやっと叶いました。そして撮り慣れた東京・鎌倉・湘南の風景も、超広角のファインダー越しに見ることで新しい表情を見せてくれました。作例を撮り終えた今、11mmと言う想像を超えた画角をどう扱うかを難しく考える必要はなく、今まで撮れなかった場所に行ってファインダーを覗いてみる、それだけで新しいイメージが湧き上がってくることがわかりました。見渡さなければならない範囲が普通に見えてしまう、そんな不思議な感覚をぜひ味わってみてください。
最後にもう一つ、このレンズのすごさは「普通に写る」ところにあると思います。プロカメラマンは「広角写真を普通に見せる」「写っている被写体の質感を普通に見せる」ことに技術、時間、費用を使っていると聞いたことがあります。このレンズの歪曲収差の無さ、周辺光量のなだらかな落ち方、被写体の自然な質感描写は、そんな長年の苦労を解決してしまうかもしれませんね。
( 2015.07.03 )
新しい世界を見せてくれるのは、まさにこのようなレンズです。プロの方なら必携のレンズでしょうし、アマチュアの方だって見逃すわけにはいきませんね。